表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/94

第43話 「大好き!!」と幼馴染は幸せを露にした

2021年、最初の投稿です。

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

「梨生奈~! 学校、遅れないの? 大丈夫~?」

「大丈夫! 大丈夫! ありがと、お母さん!」


 この朝、梨生奈は珍しく寝坊をした。寝坊と言っても登校に差し支えるほどのものではなく、たかが十分程度のものだ。日頃から余裕をもって行動をする習慣があるおかげで母親が心配するほどの大事には至らない。彼女が寝坊をした理由は極めてシンプルだ。


(えへへ、怜士と、怜士と! 怜士と恋人同士になっちゃった!!)


 昨日の公園での告白劇から梨生奈はずっと怜士のことを考えていた。長年に渡って抱き続けていた彼への想いが遂に通じたのだ。何よりも、彼も自分を好いていてくれたことが嬉しく、彼の方から告白をしてくれたことも嬉しくて仕方がないらしい。


(あ~、どうしよう!? ヤバイヤバイヤバイ! 今からどんな顔して怜士に会えばいいの!? ぜ、絶対にやけににやけきっただらしない顔してるよ、私ぃ!!)


 両頬を手で押さえながら頭を振る梨生奈だが、その姿は両親にしかと目撃されていた。


「な、なあ。梨生奈、どうしたんだ? 何だか妙に浮かれているような……。そんなに今日のテスト、自信あるのか?」

「テストは関係ないと思う。う~ん、これはもしかして……いや、間違いないでしょうね」


 梨生奈のおかしな様子を見てその原因が分からず、どう接すればいいのか計りかねる父親とは対照的に、母親の方は確信を持ったようだ。


「お前、何か分かるのか!?」

「ええ、当然よ」


 女性の方がこういった色恋沙汰に敏感なようで、梨生奈の母親はクスッと笑いながら言った。一方の父親は、娘を溺愛するばかりに梨生奈と怜士の関係が大きく前進したことなど考えられないらしい。正確には、娘に恋人ができるなどという選択肢すら初めから無いと表現した方が良いだろう。


「おい、教えてくれ! 梨生奈に何かあったら俺は、俺はぁ……!!」

「嫌よ。とりあえず、大丈夫だから。あの子から言い出すのを待って」

「そ、そんなぁ!? 俺、可愛い梨生奈のことが気になって会社なんかに行けんぞぉ!?」

「……うん、我が家の生活のためにちゃんと会社には行って働いてね」


 梨生奈の母親は、相も変わらず親馬鹿を発揮し、馬鹿げたことを喚いている夫を冷め切った目で見つめた。


(ホントのことなんか言ったらあなた、それこそ発狂するだろうから言えるはずないじゃないの。まあ何にしても——)


 梨生奈の母親は、娘の異変の原因を訊き出そうと「ウ~、ウ~」とゾンビのように唸りながら自分にしがみついて来る夫に全力のデコピンを放った。


「ぽぴゅん!?」

「良かったね、梨生奈」


 額を真っ赤に腫らす夫の奇声を無視しつつ呟く彼女の声は、扉を開け、学校へ向かわんとする梨生奈の背に向けられていた。







 梨生奈は気合を入れ直して自宅を発ったが、どうしても怜士のことが頭から離れない。それに加えて昨日の出来事、特にシルヴィアとの会話が自然と思い出された。


『……ようやく、正直になっていただけましたね。それでは、ここからが本題です』


 あの時、シルヴィアが放った言葉を梨生奈は鮮明に覚えている。シルヴィアの言う“本題”は、梨生奈を驚かせるには充分過ぎるほどに衝撃的な内容だった。


『梨生奈様の想いの強さ、理解しました。思わず私も怯んでしまうくらい、それくらいに強い気持ちであるということ、それくらいレイジ様を想っているということが分かります。しかし、梨生奈様がレイジ様を譲りたくないと思うように、私だって譲りたくないと思うのです』


 この時、シルヴィアは梨生奈の大きな想いを受けて、彼女もまた自分と同じであることを察したのだろう。それは何者にも阻むことができないほどに、強く、熱い想いであり、決して譲ることなどできない。


『ですが、このままでは、レイジ様はきっと困ってしまうでしょう。どのような選択をするにしても、あの方は優しい人ですから。それは梨生奈様もよくご存じのはずです』


 一緒にいたからこそ、一緒にいるからこそ理解できる怜士の性格。変に気を遣い過ぎて優柔不断ともとられる言動が散見される怜士だが、それも彼の良さの一つかもしれない。


『私も、梨生奈様も決して諦めたくない。でも、レイジ様を困らせるようなこともしたくない。選ぶということは残酷です。選択の結果、いつだって悲しみに暮れてしまう誰かがいて、苦しむ誰かもいて。その一方でこの上ない幸福を手にする誰かだっています。それはどんな世界であっても、変わらないのでしょうね』


 片方を選べば、もう片方は切り捨てられる。それが選択というもので、それは怜士と梨生奈たちの世界でも、シルヴィアの世界でも共通の、不変の事実だ。王女として、聖女として精神を削るほどに重要な決断を迫られたこともあるシルヴィアだ。彼女は「選ぶ」ということがどれだけ難しいことなのか、誰よりも深く理解している。


『折角ここまで来たんです。悲しい未来が選択されることは絶対に嫌です! これが私の我儘だというのは分かっています。でも、そんな我儘をどうしても押し通したい。私はレイジ様が大好きだから』

『私だってそうだよ。悲しい未来より、幸せな未来を選びたい。……でも、どうやって?』

『簡単です。二人とも選んでもらうんですよ!』

『えっ? 二人とも!?』


 シルヴィアの突拍子の無い提案に梨生奈は声を裏返し、シルヴィアの意見に反論した。『そんなことは有り得ない。絶対に周りが認めない、許さない』と。しかし、シルヴィアも一歩も引かない。


『関係ありません! 何を言われようと、周りの人間の眼など気にしなければいいんです。いいえ。むしろ、見せつけてやりましょう!! 世界がそれを認めないというのであれば、いっその事、そんな世界は変えてしまいましょう! 誰にも負けない、私達の意思の力で、想いの力で!』

『意思と想い……本当にいいのかな?』


 シルヴィアの言葉は本気だ。決して悪ふざけや冗談ではない。梨生奈はシルヴィアの声に含まれる揺るぎない決意を感じ取り、それを理解した。独占欲や嫉妬に駆られ、ついつい張り合いはしたものの、シルヴィアの中ではそれが一つの、新たな選択だった。しかし、それでも常識という観念に囚われた梨生奈の理性がストップをかけてしまう。


『ふふっ。いいんですよ。あの方なら、あの方とならきっと大丈夫です。きっと優しく自然に、何があっても守ってくれますよ。というよりも、そうしてもらえなければ困ります』


 そう言うとシルヴィアは苦笑した。それもそうだろう。自分の故郷を捨てて怜士を追って来たのだ。ここで手を取ってもらえなければ、全てが無駄になってしまう。


『私と梨生奈様。二人の全てをレイジ様に受け止めてもらいましょう! 私達二人を存分に愛してもらいましょう! 三人で、どの世界の誰よりも幸せになりませんか?』


 「三人で誰よりも幸せになる」という、シルヴィアの言葉は口で言うのは簡単だ。しかし、果たして本当にそれを叶えるができるのだろうか。梨生奈には不安や疑念、恐怖のような感情までもが押し寄せた。しかし、たかだかその程度の感情の鎖では、長年に渡って積もらせた彼への想いを縛り付けることなど、できなかったらしい。


『私、諦めたくない! 幸せになりたい!! ずっと、ずっと思い描いていた未来を掴むことができるのなら、何だってやってやる! 世間が、周りの人間がどうしたっていうの? そう、シルヴィアさんの言う通り、私達で私達のために幸せになればいい!!』


 お互いに引けない。それならばお互いが幸せになるための選択肢を作ればいい。梨生奈もシルヴィアも同じ相手に想いを寄せるからこそ、互いに思いやることができる。漸く、彼女たちは一つの大きな想いの下に重なることができた。

 二人の少女たちの決心がついたところで、十数メートル離れた公園の入り口に、彼女たちが心から大切想う少年の姿が見えたのだった。







 怜士と共に学校へ向かうための待ち合わせ場所に少しだけ早く着いた梨生奈は、今か今かと、彼の到着を待っていた。すると、通りの向こうから、想いが通じて晴れて恋人になった愛しい少年がその姿を現した。


「怜士!」

「おおっふ!? ……ど、どうした?」


 梨生奈は、怜士を見つけると思わず彼の名前を叫び、その胸に勢いよく飛び込んでしまった。いつもならば肩に掛けた通学鞄を挨拶代わりに怜士にぶつけたりするところだが、そんな挨拶は、そんな照れ隠しなどは今の梨生奈にとってはもう必要のないことだ。

突然のことで驚いてはいるようだが、慣れたものである。怜士はしっかりと梨生奈を受け止めた。


「……おかしいな。普通にお互いに家に帰って、いつものようにご飯を食べて、お風呂に入って、テストの勉強をして、眠って、起きて。いつもと何にも変わらないのに、私の心臓はずっとドキドキしてる」

「うん」


 梨生奈は怜士の胸に顔を埋めながら、彼の制服をその手で強く握っている。


「それもこれも全部、怜士に私の気持ちを受け止めてもらえたから! 私のこと、女の子として見てくれたから! 恋人にしてくれたから! だからこんなに嬉しくて、だからドキドキが止まらないの!!」

「ああ、俺もだよ」


 まるで花を咲かせたような表情を浮かべた梨生奈を見て、怜士は梨生奈を抱きしめ、同じく笑顔を見せた。


「シルヴィアさんと一緒っていう、とってもヘンテコな関係だけど、それでも私は後悔しないし、幸せだよ?」

「俺だって嬉しいよ、梨生奈。これからまたいろんなことがあると思うけど、梨生奈とシルヴィアがいてくれれば、何でも乗り越えられる気がする。これからもずっと傍にいて欲しい。大好きだよ、梨生奈」

「私も、大好き!!」


 お互いの想いを改めて確認し合い、抱きしめ合う二人の姿を何人かの同級生が見ていたが、幸福のオーラに包まれ、二人だけの世界に没入している怜士と梨生奈にとっては些細なことだった。


 生まれた世界や身分、暮らしは違えど、その寄せた想いは紛れもなく本物だった二人の少女。その大きな愛を受け止め、新たな一歩を少年は踏み出した。その一歩が、この瞬間が志藤怜士の新たな始まりだった。




 最後に、二年間に及ぶ異世界生活による学習の遅れが心配された怜士の定期試験について、付け焼き刃でありながらも何とか全ての教科で赤点を回避したことを付け加えておく。


前回の更新から評価ポイントを入れてくださった方、ブックマークをしていただいた方、ありがとうございました。とても嬉しいです。

そして、いつものように言い訳は活動報告にて。


今話は、この場でちょっとだけ補足を。

怜士と梨生奈は可能な限り待ち合わせをして登校しますが、待ち合わせ場所は両家の近所のタバコ屋さんの前という設定です。お互いの家まで迎えに行くことはしません。怜士母の執拗なからかいや梨生奈父の激烈な嫉妬と殺意を回避するためです。決して、「幼馴染で家が近いっていう設定なのに、迎えに行く描写がないぞ?」という点に気付いたから後付けした設定ではありません(棒)

それから、二人のテスト結果をおまけとして載せておきます。


梨生奈

現文:88 古文:86 数学:78 生物:86 化学:76 

日本史:89 世界史:92 英語:96 保健体育:80


怜士

現文:72 古文:33 数学:61 生物:54 化学:53 

日本史:41 世界史:49 英語:56 保健体育:91


梨生奈は文系科目が得意で、理系科目はやや苦手です。とくに数学の応用問題は苦手意識を持っており、毎回、テキストの解き方を丸暗記して挑むので、少しでも形態が変わると解けなくなる弱点があります(部分点を何とかもらっている)。

一方の怜士は文系科目が苦手です。特に古文はチンプンカンプンで、文法が天敵です。日本史や世界史は、興味がある時代だと点数が良くなる傾向にありますが、今回は全体的に学習時間が足りなかった。普段はもう少し得点できます。


※二人の学校は、学年の平均得点の半分以下で赤点判定です。怜士の場合、古文は1点、日本史は6点足りなければ赤点だった!



こういうのって、後書きでやらない方がいいかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 後書きもそうですが、登場人物の名前、殆どの読者は覚えていないかと思います。 私の周りの友人も同じことを言っております。 更新が遅い為です。 ところで、怜士と梨生奈ってどなたでしょうか? …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ