表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/94

第39話 「この気持ちは絶対に譲らない!!」と少女は想いを吐き出した

~前回までのあらすじ~

元聖女、おつかいへ行く。

元聖女、ライバルに遭遇。

元聖女、ライバルに自分の想いを伝える。

「……私は、あの方のことが、レイジ様のことが誰よりも好きです。愛しています。この気持ちに嘘偽りはありません」


 シルヴィアから告げられた言葉。その想い。これがホンモノであることを、梨生奈は瞬時に理解した。それができた理由は簡単だった。


――自分も同じ想いなのだから。


「そ、そう……なんだ……」


 シルヴィアの言葉に対する梨生奈のその声はとてもか細く、弱々しいものだった。


「……まあ、見てれば何となく分かったわ。そういう、女の子の雰囲気が出てたから」


 途切れそうになった自分の言葉を取り繕うように、梨生奈はすぐに言葉を続けた。


 梨生奈がシルヴィアと接した中で感じたものすべてが、綺麗に枠に収まった。疑念が解消されたのに、梨生奈の心は晴れない。それどころか、灰色の分厚い雲で覆われていくように感じている。また、シルヴィアの告白に対しても、目を伏せながら言葉を返すことしかできない。


「それでは、梨生奈様はどうでしょうか? あなたの言う、女の子の雰囲気というものを私も感じましたよ。私だって一人の女の子なのですから」

「…………」


 シルヴィアは優しく微笑むようにして言った。そして、「梨生奈自身はどうなのか」という、彼女からの問い掛けに梨生奈は閉口する。


「……これでもまだ答えてくれませんか。それでは、質問の仕方を変えます。あなたは本当に幼馴染という言葉で、その立場で済ませるのですか?」


 一呼吸置いたシルヴィアは、まるで尋問を始めるかのように梨生奈を鋭い視線で見つめ直した。


「それはっ!! えと、その……」


 梨生奈は痛いところを突かれた気分だった。激しく動揺し、言葉に詰まる。


 幼馴染への恋心を自覚して以降、なかなか想いを告げられず、収まりの良い、都合の良い幼馴染としての関係でいることを選んでしまった自分と決着をつける時が来たのかもしれないと、梨生奈は感じた。


「……数日前のことです。ふとしたことから私はあなたのことを、梨生奈様のことをレイジ様から聞きました」


 それまでの凛とした雰囲気がシルヴィアから見られなくなった。よく見ると、その肩を小さく震わせている。


「レイジ様に十年来の幼馴染がいるということだけは、以前に向こうで何度か聞いたことがあります」

「向こう?」


 梨生奈は“向こう”という言い方に引っ掛かりを感じたが、シルヴィアは話すことを止めようとしない。


「こちらに来てから改めてその話を、貴方についての詳しい話を聞いた時、私は確信しました。レイジ様は、きっと梨生奈様のことが好きなのだろうと」

「そんな! 何を言って――」


 梨生奈からすれば、嬉しいことこの上ない話だ。また、そうであって欲しいことにも違いない。しかし、それを他人である、碌な信頼関係も無いシルヴィアに決めつけられることは納得がいかない。


「知っていますか? 貴方の話をする時のレイジ様の顔は優しくて柔らかくて、とても楽しそうでした。私はこの二年でレイジ様のあのような顔を見たことはほとんどありませんでした……」


 シルヴィアは唇を噛み、自分の両手をじっと見下ろしたままだ。


「大好きな人が、初めて好きになった人が、楽しそうに私以外の女性の話をすることがどれだけの苦痛だったでしょうか? 本当に辛くて、悔しくて仕方ありませんでした! 私は思いました。『どうして、その表情を向ける相手が私ではないのか?』と。レイジ様の気持ちや想いの全てを私だけのものにしたい、独占したいと心底思いました!」


 シルヴィアは伏せていた顔を上げ、その大きな瞳を力強く見開き、叫ぶように言い放った。


「そして、初めて貴方にお会いして、レイジ様と接する梨生奈様を見て、私の想いは抑えきれない程に大きくなってしまいました。あんなに自然にあの方の隣にいられて、あんなに自然に会話ができて、心の底から羨ましいと思いました。こんな感情を抱くのは初めてです。私、嫉妬しています……」


 シルヴィアについて、お淑やかでお嬢様然とした印象を受けていた梨生奈は、この場での彼女の感情の起伏に驚愕してしまい、返事すらもできない。


「……こんな感情を抱く自分が、私は嫌いです。言い掛かりに近い、ただの八つ当たりだということだって理解しています。それでも、それでも……」


 シルヴィアは今にも泣き出してしまいそうだが、それを必死にこらえて梨生奈の目を見た。


「私は自分の気持ちから目を背けることはできません。私のことを身分や立場に関係なく、一人の同世代の女の子として接してくれるレイジ様のことが、優しくて強くて温かい気持ちにさせてくれるレイジ様のことがどうしようもなく好きで、愛しているのですから! だから、私はこの気持ちを必ずあの方に伝え、一生を共に生きていきます!!」


 シルヴィアは自身の果てしない想いを確かな覚悟の元に示した。王女や聖女としてのお淑やかな振舞いを幼少の頃から強いられたシルヴィアがこれだけ感情を吐露するような機会が彼女の人生で果たしてどれだけあっただろうか。だからこそ、梨生奈にもその想いは届き、それと同時に彼女の心は強く締め付けられた。


 迫力に気圧されて黙り込んでしまう梨生奈に向かって、少しずつ落ち着きを取り戻して来たシルヴィアは言葉を続ける。


「……すみませんでした、少し冷静さを失いました。初めに質問を投げ掛けたのは私であるというのに、一方的でしたね。改めて伺います。梨生奈様は、レイジ様のことをどのように想っておられますか? そして、このままでいいのですか?」


 先程とは打って変わって、至って平静な面持ちで問い掛けるシルヴィア。その表情は、向こうの世界での彼女と近しい者からすれば、王女らしい気品に満ちた顔に見えるかもしれない。しかし、眼前の梨生奈にとってはまるで挑発でもしているかのような表情に映った。


「……なの……から……らない」


 梨生奈が何かを小さく呟いたが、面と向かったこの近い距離でも、シルヴィアは聞き取ることが叶わなかった。そのため、少しだけ目を見開き、首を傾げた。すると、それに応えるかのように、梨生奈は改めて大きな声を出した。


「怜士のことをどう想ってるかなんて、そんなの、ずっと前から変わらない! 私だって怜士が好き! 大好きよ!! 小さい頃からずっと一緒で、一緒に居ると楽しくて、優しくて、いつも私を守って、助けてくれる! これからもずっと、ずっと、ずっと一緒にいたいっ!!」


 シルヴィアは、梨生奈の威勢の変化に面を喰らったようで、ただ黙って彼女の言葉に聞き入っている。


「自分でも臆病になってるのは分かってる。怜士に想いを伝えることで今の関係が、これまで作って来た関係が崩れちゃうことを考えると怖くて仕方ない……。でも、でも、初めてシルヴィアさんに会って、怜士とあなたが仲良くしているところをまじまじと見て、怜士が私から離れていくことを考えると、胸が苦しくて、悲しくてっ!!」


 梨生奈は肩で息をしている。これまで心のうちに留めていた想いを、シルヴィアという少女が一つの切欠となり、一気に吐き出したのだ。大きく膨らんだ風船に針を刺すかのように、梨生奈の感情が激しく流れ出すことは必然だった。




 幼い頃から少女は少年と常に共にあった。


 親友のような、兄妹のような関係。腐れ縁という言葉でも片付くかもしれない。


 思春期を迎えた頃、少女は少年への恋心を自覚した。自覚に至る切欠は勿論あったが、それは最早どうでもいいことだ。その想いはきっと、少女が自覚する遥か以前から確かに彼女の胸の内に在ったのだから。


――このままでいい。いや、このままがいい。


 少女は少年との関係や絆というものが壊れることを恐れた。だから、その想いを心の奥底にしまい込むようにした。十数年に渡って続いたこの日常がこの先も続くものだと考えたからだ。


 ところがある日、見知らぬ少女が目の前に現れた。それだけならまだいい。その見知らぬ少女は愛しい少年の隣にいた。


――ああ、この子も同じだ。


 直感した。彼女と接したのは短い時間であったが間違いない。強く、深い確信がある。自分と向き合い、決着をつけなければならないことを。


 予感はすぐに的中した。今、目の前でこの少女は、自分の大好きな少年を愛していると言うのだ。驚きもあったが納得もした。同時に、自分の心臓に鋭いナイフでも突き付けられているようにも感じた。


――ここで引くことはできない。


 もしも、引いてしまえば取り返しのつかないことになることを少女は理解していた。決着をつけるなら、自分の手でつけるべきだ。決してそれを他人に委ねる訳にはいかない。だからこそ彼女は、一歩を踏み出した。




「誰が何を言おうと……私は、心の底から怜士を愛してるっ! この気持ちは絶対に譲らない!!」




 西條梨生奈の言葉からは、志藤怜士への想いと強い決意が溢れ出ていた。


 梨生奈の瞳に宿る光を見たシルヴィアは笑みをこぼした。


「……ようやく、正直になっていただけましたね。それでは、ここからが本題です」


前回の更新から感想や評価、ブックマークを頂いた方々に深くお礼を申し上げます!


誤字脱字がありそうで心配ですが、取り敢えず言い訳は活動報告にて(汗)


※2022/1/13 部分的に修正をしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ