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第25話 「僕も神秘的な巫女服姿には感動しました!!」と後輩は昂った

~前回までのあらすじ~

退魔師、登場!

退魔師、追い込まれる?

元勇者、特に活躍なし。

 週が明けた月曜日。

 

 来週からは中間考査がいよいよ始まる。試験範囲が明確になり、要点を絞った勉強を進める者が大半だろうか。日頃からコツコツ積み重ねて来た者、直前になって慌てて知識を詰め込む者、或いは、開き直って一切を諦めた者など、様々だろう。


(ヤバいヤバいヤバいヤバい! テスト、本当にヤバいぞ!? 赤点と補習の回避が最低ラインの目標だけど、それすらも危ういぞ……)


 異世界帰りの元勇者である志藤怜士は、単純に忘れてしまった学習内容を取り戻すために必死だった。


 気が付けば、この日の授業も終わり、下校の時刻となっている。考査前は、部活動は全面休止になるため、いつものように怜士は梨生奈と下校することにした。


「ね、ねえ、怜士。テストさ、その……ヤバいの?」

「……ああ、文系科目が、暗記系科目がヤバい。ヤバさを販売できれば、サラリーマンの生涯収入と同等の金銭が得られるくらいだ」

「何、その例え!?」


 普段はツッコミ気質の怜士だが、こういう場面では梨生奈と役割が変わるようだ。


「ししし、仕方ないわね。土日、一緒に勉強しよ? 私が教えられる部分はフォローしてあげるからさ」

「本当に!? 助かるよ! 流石は梨生奈! いえ、梨生奈様!! ありがとうごぜえますだぁ!!」


 先日、シルヴィアと一緒にテレビで観た時代劇の影響か、奉行に泣きつく農民の口調が怜士に発現してる。


「べべべ、別に怜士が赤点取ろうが私には関係ないけど、おばさんに頼まれてるからね! しょうがないから手伝ってあげる」

「えっ? それなら無理なんかしなくても――」

「う、うるさい!! 別に無理してないわよ!! つべこべ言わずに、私と一緒に勉強しなさい!!」

「俺、どうして怒られてるの!? それより、梨生奈。今日は梨生奈の話し方が変だぞ。何かあった?」


 何処かぎこちない言動の幼馴染の様子に、違和感を抱いた怜士だが、その原因が自分でプレゼントしたネックレスにあることは知らない。


「だだだ、大丈夫よ。何とも、ないからっ!!」


 顔を真っ赤にしてスタスタと歩いていく梨生奈を怜士は追いかけた。


 廊下を歩き、土間へ向かう途中、前方に人だかりができ、何かの騒ぎが起きていることに気付いた。これには梨生奈も怜士も思わず立ち止まり、様子を窺っている。


「何の騒ぎだろうか」

「人が集まり過ぎて分からないわね」


 二人がそうやって話をしていると、背後から声がした。


「志藤先輩、西條先輩」

「あら、相原君だっけ」


 梨生奈は愛想よく返事をするが、怜士は何故か無表情だ。知り合ってからというものの、何処にでも現れて話し掛けてくる優斗に、怜士は内心で恐怖心を抱いているのだ。


(この子はどうして、いつも……。それより――)


 怜士の顔つきが変わり、口を開いた。


「相原君……」

「はい、志藤先輩」

「君が昨日、君が昨日、余計なことを言ったから俺は……!!」

「へ? 僕、何か言いましたっけ?」


 目を血走らせて訴えかける怜士に対し、優斗は「心当たりは無いです」と言わんばかりの惚け顔だ。


「君が去り際に行った一言で俺は、俺は梨生奈にぃ!!」

「……私が何よ」

「いえ、何でもございません!!」




 昨日、優斗によって、怜士が金髪の美少女と一緒に買い物をしていたという情報が明かされたため、大いなる怒りに支配された梨生奈にシルヴィアの話をしなければならなくなった怜士は、懇切丁寧に時間を掛け、大きな焦りに駆られながらも説明をした。


 勿論、怜士が異世界帰りであることとシルヴィアが元聖女兼元王女であることは伏せ、シルヴィアは「志藤家で預かっている海外留学生である」ということにした。怜士の家にホームステイをしているという設定なら、様々な場面で融通が利くだろうという、真奈美の発案だ。


「ホームステイ? ふうん、成程ね。で、その女の子とは何もないの?」

「何もって、何が」


「いつからの怜士の家にいるのよ」

「この一週間ぐらい……」


「そ、その子は怜士のことをどう思ってるの?」

「う~ん、俺のことを信頼してくれてるとは思う」


 梨生奈は延々とショッピングモールで怜士とシルヴィアとの関係を何度も尋ねたが、その理由を怜士には理解できなかった。いずれにしても、説明を受け入れて納得したため、怜士にとっては一安心したことに違いは無かった。


 怜士は、話題がシルヴィアに及んだ時、どうして梨生奈に話すことに後ろめたさを感じたのかも、理解できていなかった。




「あの、先輩?」

「ああ、ごめん、相原君。うん、もう大丈夫。さっきのことは忘れて。俺が悪かった」

「ええと、よく分かりませんが、ありがとうございます?」


 優斗に悪気があった訳ではない。彼に文句を言うことは筋違いだと感じた怜士はこの一件についての話題を早々に打ち切った。


「そうだ、相原君。あの騒ぎって、何だか分かる?」


 空気を変えるべく、梨生奈は優斗に件の騒ぎについての話題を振った。


「ああ、あれは三年の和泉先輩の件ですね」

「ああ、成程ね! 和泉先輩の……って誰?」


 騒ぎの中心に三年生の先輩がいることを理解しても、怜士はその先輩に付いては知らないらしい。


「怜士、知らないの!? せめて学校の有名人くらい、知っておきなさいよ」


 怜士とは反対に、梨生奈はその人物を知っているようだ。梨生奈の口ぶりから、学校内の有名人であることが窺える。


「いやあ、そんなこと言ったって知らないものは知らないよ。仕方ないだろ。あっ、でも、梨生奈が部活の功績とかで知名度も人気もあるってことはちゃんと知ってるぞ!」

「そ、そう!? 怜士、私のことをちゃんと……」


 急に頬を染めて照れ始めた梨生奈を見て優斗は何が何だか分からなくなったが、“和泉先輩”を知らない怜士のために、親切に説明を始めた。


「和泉先輩は三年生で、フルネームは和泉琴音さんです。全国的に有名で、この辺りでは最大最古の由緒ある神社、『和泉神社』の人間です。とても綺麗な人だから、いろんな人に人気がありますよ。初詣とか参拝に行った時に和泉先輩の存在を知って、この学校の入学を考えた人間も多いみたいです! 僕もあの時に見た先輩の神秘的な巫女服姿には感動しました!!」


 鼻息を荒くし、興奮して説明をする優斗。怜士にとっては有難い説明だったが、彼とは心理的な距離が少し遠退いたようだ。


「ああ、あの和泉神社か。いつも初詣は家から一番近い神社に行くからなぁ。知らなかったよ。梨生奈は知ってた?」

「うん、当然。綺麗な人ってことで有名だもん。それに、和泉先輩は同性の私から見ても綺麗だって思えるし……」

「梨生奈だって綺麗だけどなぁ」

「キ、キキレッ!?」


 怜士は何気なく、本当に小さな声で呟いたつもりだったが、梨生奈の耳はそれをキャッチしたらしい。一瞬でゆでだこだ。


「西條先輩っ!!」

「ああ、多分大丈夫だよ。なんか最近、よくあるんだ。それより、その和泉先輩がどうしたの?」


 怜士が琴音のことを知らなかったばかりに話が逸れたが、本題は、人だかりの中心に彼女がいたことだ。あの大騒ぎの原因を優斗に訊こうとしていたのだ。


「ええ。何でも、今日、和泉先輩は午前の授業は欠席して、午後から遅刻という形で登校したんです」

「別にそれくらいのこと、誰でもあるんじゃないかな」

「私もそう思う」

(いつの間にか梨生奈が元に戻ってる……)

「確かにそうですね。ただ、登校してきた和泉先輩は、身体中が絆創膏や包帯だらけで、左腕にはギプスまで着くほどの大怪我をしていたんです。学校中にファンの多い和泉先輩のことですから、みんな心配して、ああやって押し寄せてるんです」

「うへえ、事故にでも遭ったのかな?」


 さらに優斗が言うには、琴音本人は決して怪我の理由を明らかにしようとせず、「不注意」の一言で済ませているようだ。怪我だらけで如何にも満身創痍の彼女に、ファンの生徒だけでなく、教師たちにも動揺が広がっているらしい。


「面識は無いけど、それを聞くと心配ね」

「うん、でも、こればかりはなあ……。まあ、怪我の回復をみんなで祈ってあげよう」

「そうですね」


 結局は琴音と繋がりの無い怜士、梨生奈、優斗の三人だ。彼女の回復祈願こそできても、それ以上のことは何もできない。


 優斗も帰宅して試験勉強に臨みたいらしく、雑談もそのままに、怜士たちは彼と別れて帰途に就いた。


「そうだった、梨生奈。土日に勉強を教えてくれるって話だけど、時間と場所はどうする? 母さんが久し振りに梨生奈の顔を見たいって言ってるからさ、勉強を教えてもらう俺が言える立場じゃないけど、良ければ俺の家に――」

「行くわ!!」

「おおふ、あ、ありがとう」


 食い気味に返答をする梨生奈の目つきが一瞬だけ鋭くなったことに怜士は気付かなかった。


「じゃあ、時間はさ、梨生奈の好きなタイミングでいいよ。まだ五日も先の話だからな。メールでも何でも、知らせてくれると助かるよ」

「ん、了解」


そう言って簡単に打ち合わせをすると、二人は別れ、それぞれの自宅へと向かった。




(怜士の家でホームステイ中の留学生。一度、この目で確かめないと。同居なんて、うらやま……いかがわしい! せ、節度ある生活ができているかどうか、私が確かめるんだから。待ってなさい、シルヴィアとかいう人!)


 帰宅し、自室でくつろぐ梨生奈は、噂の金髪美少女留学生もとい、シルヴィアの存在が気掛かりなようだ。試験勉強という立派な口実を盾にして、様子を見ることに全ての意識を向けていた。




(……何やら、不思議というか、不穏な気配を感じました。そして、何だか、女として負けられない戦いが迫っているように感じます!!)


 家事を手伝うシルヴィアは、数日後に訪れる、大いなる戦いの足音を察知していた。


※2021/8/3 部分的に修正をしました。

※2022/10/13 部分的に修正をしました。

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