第11話 「いいから撮れ」と幼馴染は凄んだ
~前回までのあらすじ~
元勇者、絡まれてる男子高校生を助けに参上。
元勇者、ヤンキーどもをデコピンでドーン!
男子高校生、元勇者に強い憧れを持つ。(決してBでLにはならない。)
「怜士!!」
優斗を救い、難無くヤンキー大学生たちを蹴散らした怜士は梨生奈の元へ戻った。すると、予想通り、梨生奈は心配した表情で怜士へと駆け寄って来た。
「馬鹿! 何やってるのよ!! 本当に心配したんだからっ!!」
「ごめん、あれくらいなら大丈夫だと思って……。ほら、実際、俺も彼も何とも無かったし……」
「そういう問題じゃない! 今は何とかなったから良かったけど、次があったらどうするの? あの子だって、きっと嫌な思いをするかもしれないんだよ?」
梨生奈の迫力に、怜士は何も言えず、じっとを彼女の言葉を聴くしかなかった。
「それに、本当に、本当に心配したんだから! 馬鹿怜士!!」
梨生奈を少しでも安心させようと少しだけおどけて見せた怜士の行動は失敗だった。梨生奈が怜士を心配する気持ちは、怜士のその安直な考えを遥かに上回っていた。
「……ごめん、梨生奈。無神経だった」
「もう、いいよ……」
涙ぐむ梨生奈を見て怜士は素直に頭を下げた。彼女の気持ちを察し、自らの行いの浅はかさを後悔した。
「四対一だよ? 相手は武器まで使ったんだよ? 怪我じゃ済まないかもしれないんだよ? 次にあんな無茶したら、許さないから! その時は髪の毛を全部むしり取って地面に埋めてやる!!」
「……本当にすみませんでした。あと、そういう具体的で独特な罰を提案するのはやめてくれる?」
「うるさい! 馬鹿怜士!! それよりも、怜士ってあんなに強かったの?」
梨生奈は、無謀にも男子高校生を助けに入った怜士への怒りや心配は収まったようだが、それとは別にどうしても訊き出すべきことがあった。怜士が見せた、信じられないような力についてだ。梨生奈の知る限り、怜士の運動能力は並みより少し上程度で、碌に喧嘩をしたこともない普通の人間だ。自分の目で見た光景はやはり、信じられない。
「あ~、まあ、色々と鍛えて経験も積んだからな。それなりには……」
「それなりで、デコピン一発で人間を吹っ飛ばせるわけ?」
「う、うん? あ、当たり所が良かったんだよ。それに、俺のデコピンは強力なんだよ?」
「ふうん……」
怜士の苦しさ満点の言い訳は梨生奈に通用しない。今朝の出来事を含め、どうしても彼女に不信感が募る。
「……まあ、今は気にしないであげる。さっきも言った通り、話せないなら、それでいいから。話したくなったら聞かせてくれればいいから」
「梨生奈……」
「ほら、行くよ! 今から久し振りにゲーセン、付き合ってもらうからね!!」
「ああ、分かったよ」
幼馴染には到底敵いそうにないと感じた怜士。彼女の方が怜士の何倍も大人として成熟しているのではないかと思える。
スタスタと歩いていく梨生奈を追いかけるように歩き出した怜士はあることを思い出した。
「梨生奈」
「何?」
怜士に呼び止められた梨生奈は彼の方へ振り向いた。
「そう言えば、俺が預けたクレープは?」
「だから、ゲーセンに行くよ」
「まるで会話が噛み合ってない! ねえ、俺のクレープは?」
「……」
「何、どうしたの?」
黙ってしまった梨生奈を見て、怜士は首を傾げた。
「食べちゃった」
「はい?」
「気付いたら食べちゃってた、えへっ」
「『えへっ』じゃないよ! 何で? 持っててって言ったよね!?」
信じられないという表情で梨生奈に詰め寄る怜士に対し、梨生奈は彼と目を合わせようとしない。
「怜士があの男の子を庇って囲まれた時にパニックになって、それはもう夢中で食べちゃって……」
「それ、俺のこと心配してる人の行動!? どれだけ食い意地張ってんだ!? ていうか、よくそれで俺のこと馬鹿とか許さないとか言えたなあ!!」
「うるさい! 男が済んだことをグチグチ言うな!! それに、クレープをずっと持ってたら、クリームが溶けてなくなるでしょう!!」
「うわぁ、開き直ったよ!? そもそも、そう簡単に溶けるか!!」
梨生奈の屁理屈に辟易しながらも、済んだことは仕方ないとして諦めた怜士は、彼女の言う通り、ゲームセンターへ向かうことにした。
「おお、ゲームセンターだ」
「何、その反応?」
怜士にとっては二年振りのゲームセンターだ。その独特の賑やかさや雰囲気は懐かしく感じるようだ。
「まあ、いいじゃないか。そんなことより、何やって遊ぶ?」
「一通り回りましょ!」
「合点だっ!!」
特に優先して遊びたい器具がない二人は、メジャーなものを順番にプレイしておくことにした。
「まずは、『もぐらたたき』ねっ! 私の腕前を見せてあげる!」
「お手並み拝見っていうヤツだな。え~と、ここの過去最高得点は五十六点だってさ」
「今日から私がタイトルホルダーよ!!」
梨生奈は身体を動かすことが得意だ。始まる前から自信に満ちている。
硬貨を機械に投入してゲームが始まると、早速ハンマーで穴から出て来るもぐらを叩き始める梨生奈。因みに、料金は怜士持ちだ。
「ふう。こんなもんか」
一分間のプレイ時間を終え、液晶画面に梨生奈の得点が表示されている。
『五十八点』
梨生奈は宣言通り、記録を更新し、店のタイトルホルダーになった。
「どう、怜士? 有言実行よ!! 次は怜士がやってみてよ。まあ、私には敵わないと思うけどね!」
「いいだろう。その記録、すぐに俺が塗り替えてやる……!!」
ニヤニヤしながら挑発するように話し掛ける梨生奈の態度に触発された怜士は、その挑発に乗ることにした。
(力加減はセーブしないとな……)
勇者特典が有効になっていることが、先のトラブルで再確認できた怜士は慎重だった。本気になれば、もぐらどころか店そのものを吹き飛ばすこともできる。この先の生活で、現代日本で生きていくための加減を調整するには丁度良い機会だった。
「さあ、行くぞ!!」
怜士は意気揚々とハンマーを握った。
「……ねえ、怜士。本当にどうしたの?」
「いや、俺もまさかここまでやれるとは思わなかったわ。アッハッハ」
「アッハッハじゃない!!」
液晶画面に表示された怜士の得点は「百八十点」だ。このもぐらたたきは、八個の穴から一分間で合計百八十体のもぐらが出現する。つまり、怜士はすべてのもぐらを叩き尽くしたのだ。
(機械を壊さない程度に加減できたけど、“反射”までずば抜けているとは気付かなかったな。まさか、全部に反応できるとは……)
怜士の規格外の力は筋力だけではない。それを活用するための反射の力も異常なほどに高まっているのだ。所詮、遊戯では相手にならない。
「うぅ~、もういい! 次に行くわよ!!」
驚きを通り越して怒りの感情を抱いている梨生奈に腕を引っ張られ、怜士は次なる器具に連れて行かれた。
「ハッ、ハッ、ハッ……。何で一つも入らないのよ!?」
「……」
エアホッケーをプレイすれば、怜士は鉄壁の守備で得点を許さず、逆に、正確無比なパワーショットで梨生奈から一方的に得点を奪い……。
「どうして、エラーしか出ないの!?」
「……」
怜士がパンチングマシーンを使えば、カウンターが振り切れ、エラーメッセージが表示され……。
「何で、そんなに早撃ちが得意なのよ!?」
「……」
シューティングゲームでは、怜士の異常な反射が遺憾なく発揮され……。
「……これは、その、下手というか、残念ね……」
「…………ちくしょう」
クレーンゲームでは勇者特典は一切役に立たず、気付けば五千円という大金を浪費し、梨生奈から不器用さを同情されることになった。
(やっぱり、ゲーム的な技量が試されるものは、流石の勇者特典も適応範囲外か。何で、ムキになってクレーンゲームにあんなに費やしたのか……)
「時間的にも、そろそろお開きかな?」
「うん、でも、最後にアレやろっ?」
そうして梨生奈が指さしたのは「プリントシール機」だった。
いつの時代であっても、女子中高生はこうした機械や、己を可愛く見せるためのものが好きなことに変わりはないようである。
「ええ~、男の俺は恥ずかしいよ。梨生奈一人でやってくれよ」
「いや、一人でプリントシール撮っても空しいでしょ……」
「だって、他に遊んでるのは女の子しかいないよ。やっぱり抵抗が……」
「私と一緒なら、入っても大丈夫!」
こうした機械を使い、写真を撮ることは女子だけのものだと考えている怜士には多少の抵抗が生まれるのだった。いくら梨生奈と一緒でも、羞恥心が拭えそうにない。
「でもなあ……」
「いいから撮れ」
「はい」
多少の抵抗は、睨みを利かせた大迫力の幼馴染の一喝によって脆くも崩れ去った。
「へえ、こんな風になってるんだ。科学の進歩って凄いな」
「言ってることが年寄臭い……」
「いいだろ、別に! あ~緊張する。俺、初めてなんだよ」
怜士は慣れない機械に緊張を隠しきれないようだ。どこか挙動が忙しない。機械の中の空間が別世界のように思えてしまう。
(そっか、私とが、初めてなんだ……)
「……何、どうしたの?」
「な、何でもない! いいから、ハイ、撮るよ!!」
甘ったるく、甲高い女性の音声案内の指示に従い、いよいよ撮影となった。
サン、ニイ、イチ、パシャッ!
音声とシャッター音の合図に伴い、怜士は右手でピースサインを作った。半ば強要された撮影だが、折角の機会だ。幼馴染のためにポーズくらいとるべきだという考えに至ったのだ。
気が付くと、プリントされた写真は既に出来上がっているようで、梨生奈が取り出していた。
「どれどれ、ちゃんと撮れた?」
「キャッ!! 何!? 急に顔近づけないでよ!!」
怜士は梨生奈の背後から近づいて覗き込んだため、驚かせてしまったらしい。梨生奈の顔が赤らんでいる。
(そ、そんなに急に顔を近づけるなんて……。う、嬉しくなんか……!! 怜士と一緒にプリ撮るなんて。エヘヘ)
ツーショット写真を撮影することは二人にとって久しぶりだ。思春期以降、なかなか機会に恵まれずにいたのだ。梨生奈にとって、この時間とこのプリント写真はかけがえのない、大切な思い出になった。
(梨生奈って、こんな風にコロコロ表情変える人だったけ? いや、まさか。そんなことはない。自惚れもいいとこだ……)
今まで特段、意識をしたことが無かったが、ある考えが一度でもよぎってしまうと、それが頭から離れなくなる。
「早く俺にもプリ、分けてくれよ。ていうか、もう帰ろうよ」
自分の考えや思いを整理したい怜士は半ば強引に、それでいて悪手に出た。それが自分勝手だと知りながらも。
「何よ、馬鹿! 余韻に浸らせてよ!!」
「ぐへらっ!? 鳩尾狙いはずるいって!!」
女心が理解できない怜士は無神経な発言で鳩尾への強烈な一撃を喰らうこととなった。
※2019/11/4 部分的に修正をしました。




