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第一章9 貴族院の生徒

「おい、昨日はよくも俺の可愛い弟達を可愛いがってくれたなぁ?」


 デートの終わり際に、そう言って現れたのは昨日の3人にガラの悪そうな金髪の男を加えた4人組のチンピラ達だった。そして、新しく増えた男は貴族院の制服を着ていた。


 成る程、自分が貴族院の学生などとうそぶいていたけれど、知り合いの人間が貴族院の学生だったのか。


 まあ貴族院の学生だろうが何だろうが、小物臭しかしないのだが。類は友を呼ぶ、という奴だろうか?


「……またですか。折角いい気分だったのですが。」


「同意だな。雰囲気ぶち壊しやがって。」


「朝っぱらからいいご身分だなぁ? 平民の猿どもが朝っぱらから盛り合いやがってよぉ?」


 ……こいつら、どうすればいいんだ? どうせ喧嘩売りに来ているだけだよな? もう今すぐにでも適当に殴って黙らせてしまってもいいか? いや、でもこっちが先に手を出すというのは流石に不味いか。


「おい、何黙ってんだよ? 俺の制服を見て怖気づいたのか? そうだ、俺は貴族院二年、迅雷のゼッペル様だぜ?」


 迅雷のゼッペル……誰だ? 多分そんなに有名でも無いんじゃないか? 少なくとも聞いたことは無い。それに二つ名持ちは基本的に最高学年の3年になってからじゃなかったか?


「エレノア、知ってる?」


「ちょっとよく分からないです……」


 エレノアは小声で俺に囁いた。


 だよな、やっぱり無名の一学生じゃあないか。


「それで、迅雷のゼッペルさんは何しに来たんですか? 俺達はそろそろ解散しようと思っていたんですけど?」


 俺が質問すると、下衆な笑みを浮かべながら不快な口調で語り始めた。


「そんなの決まっているじゃあねえか。俺の弟達を痛めつけてくれたんだから、そのお返しに来たんだよ。なぁ?」

「そうなんだよ、こいつは俺達がちょっと可愛い子と話していたら突然襲いかかって来てよぉ?」

「慰謝料も当然払ってくれるんだよなぁ? 俺達は貴族だぜ? 魔術師団を呼んでもいいんだがなぁ?」


 ……本当に何なんだ、こいつら。もう話をするのも面倒くさくなってきたぞ。


「エレノア、これってどうしたらいいんだ? 一緒に逃げる?」


「出来る事なら逃げる事が出来るのなら逃げる方がいいと思いますけど、ちょっとこういう人達の対処方法は分からないです……どうしましょうか……?」


 震えた声でそう言いながら、エレノアは俺の腕をギュッと掴んだ。少し怯えている様子だった。確かに普通の感覚なら、貴族院の学生が襲ってくるというのは恐ろしいだろう――


 エレノアを怖がらせるというのは許せない。


「大丈夫だよ、負ける心配はしなくてもいいから、俺に任せて。」


「何が大丈夫なんだ? 今のお前の立場理解してねえのか? 土下座して許しを請う立場なんだぜぇ? ほら、早くしろよ。」


「ゼル君……」


「大丈夫だから、ちょっと下がってくれるかな?」


「わ、分かりました。」


 俺がそう言うとエレノアは俺の後ろへ下がっていく。


「お、何だ? 俺とやる気って事でいいのか? 命を保証はしないぜ?」


「別に俺からお前達に危害を加えるつもりはない。お前達が何もしなければな。」


「おお、やる気ってことかよ。まあどうせ謝ったところでボコボコにするのは確定していたんだがな! ギャハハハハハ!」

「じゃあ集団リンチの時間だぜ!」

「覚悟してろよ! お前のツレの女も俺達が遊んでやるからよ!」

「最初は俺にヤらせろよ!」


 どうしてこいつらはこんなにも頭が悪そうなんだろう……? どうしてこいつらはこんなにも下品なんだろう? 


 そんな風に冷めた目でコイツラを見下している俺がいた。


「おい、早くしろ。」

「《筋力強化》」

「《思考力強化》」

「《感覚強化》」


 スキルを発動して、能力を向上させているようだった。そんな事をしても、結果は変わらないだろうに。


「じゃあ行くぜ。《ライトニングボルト》!!!」


 金髪の男がそう言うと、バリバリと音を立てながら電撃が俺の方へと伸びてきた。


 ……これくらいなら砂でも作れば防げるだろう。《鉱物生成》で空中に砂を生成すると、思ったとおりそれだけで電撃を防ぐ事が出来た。


 うん、やっぱり貴族院の学生なんてこんなレベルなんだな。まあ確かに、電撃を放てる人間というだけで多少は凄いよ。多少はね。


「なんだと!? ふざけやがって! 《ライトニングボルト》!! 《ライトニングボルト》!!」


 焦りだした男は何度もスキルを使用するが、俺が生成する砂の前に為す術も無いようで、俺に向かってくる雷撃は一発も俺に届くことは無かった。


「そうか、そういう事か、自動で防ぐスキルを持っているんだな? だからお前は攻撃手段は無く、耐えるしかない。そうだろう?」


 いや、俺が一発一発手動で《鉱物生成》を発動して防いでいるんだが……まあ確かに、雷撃の感知なんて普通は出来ないだろうし、そう思うのも無理は無いのかもしれないが。


「これで終わりか? そろそろ俺の番でいいか?」


「ああ、次で終わりにしてやるよ。《雷鳴》!!」


 そう言うと金髪の男の髪の毛は逆立ち、体の表面には電流が走り出したようだった。ただただ、帯電をするという効果だろうか?


「これはよぉ、俺の反射速度が劇的に上昇するんだ。そして俺がお前に触れるたびに、電流による激痛が走る。この意味が分かるか? お前は今から死ぬ。感電して動けないままな。」


 そう宣言してから、金髪の男は俺に向かって突進を始めた。そんなに正直に突進されたら、こうするしかないじゃないか……


 俺は男の前方に巨大な鉄塊を生成した。そしてそれに対して回避動作すら取らず、男はそのまま倒れていった。


 筋力強化の効果からか、ある程度の速度はあったが、それが仇となったな。


 それよりも、エレノアと買いに行った服が汚れなくて良かった。


「お前達はどうするんだ?」


 俺が脅す様に残りの3人組に問いかけると、金髪の男を背負って一目散に逃げていった。



「エレノア、終わったよ。」


「うう、怖かったですー! ゼル君も戦闘向きのスキルを持っているんじゃないんですから、あんまり調子に乗らないで下さいよー! こっちが心配になっちゃいますよー!!」


 エレノアはそれだけ言うと俺の胸に飛び込んできて泣き出した。えっと、こう言うときは――


 俺はエレノアを抱き締めておいた。泣き止むまで。でも少し照れ臭かった。

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