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第一章4 追放

 落第した俺は、失意の中帰路に就いていた。貴族院に入学出来ない事が確定した今、俺はこれからどの様にして生きていけばいいのだろう? 何の為に俺は生きているのだろうか?


 このまま俺はリヒター家への貢献を何もする事が出来ずに――


 今は考えるのを辞めておこう、一度、父上と母上に報告をして、それから意見を伺えば、きっと何かしら、道は残されている筈だ。


 それに、兄様達もいつも俺を可愛がっていてくれていたし、必ず相談に乗ってくれる筈だ。困ったときこそ、家族を頼りにすればいいんだ。


 ただ、落第してしまった事をどんな雰囲気で話せばいいのだろう。あまり心配を掛けたくないし、落ち込んでない振りをすれば良いのだろうか。


「ただいま帰りました。」


「ああ、お帰り、少し早いな。試験の手応えはどうだった?」


 ああ、やっぱり最初に聞いてくるか。


 大丈夫、ちゃんと報告をするって決意はしているのだから。それでもやはり、心臓が脈打ち始める。


「俺は、ゼルディン・リヒターは、貴族院の入学試験でその場で不合格になりました。」


「ふむ、そうか……まあ元々予想はしていた事だ。」


 父上は俺が落ちると思っていたのか……確かに結果的にはそうなったが、期待はしていて欲しかった。


「父上、俺はこれからどうすれば良いのでしょうか?」


 俺が落第したというのに、何故か笑顔になっている父上の顔を直視しているのが怖かった。だから、思わず、俺は父上に訪ねてしまった。


 勿論、どうせ直ぐにこの質問をするのと同じ答えが返ってきたのであろうが。


「決まっているではないか。破門だ。準備はしてある。今すぐにでも我が家から出ていきなさい。」


 そして、父上は笑顔のまま、そう言い放った。


「ま、待ってください! まだ、俺は出来ます!」


「主席を取ることならいざ知らず、貴族院に入学する事自体はそんなに難しい事でもない。それすら果たせぬお前に何が出来るというのだ。我が家に居てもただの恥晒しになるだけだ。」


 確かに入学試験はリヒター家にとっては大して難しいことでは無い。だけど、俺が落ちたのは俺の責任じゃない!


「で、ですが、俺が落第したのは、試験官のせいなんです! 俺は、ちゃんと実技試験も出来たんです! 努力もしてきました! だから!」


「お前が幼い時から教えていた筈だ。幾ら努力をしていようが、どれだけ誠実であろうが、貴族の世界では結果だけが全てだ。そしてお前は結果を残せなかった。違うか?」


 ……返す言葉が思い浮かばない。それでも、いきなり破門というのは流石に重過ぎるのではないか。


 そんな大事な事を、父上の一存だけで決めてられて良い物なのだろうか? 確かに家長ではあるけれど、母上だって、兄様達だって、俺が破門になるという事は承知しない筈だ。


「は、母上は、兄様達は、きっと反対なさると思います。それでも、今すぐにでも俺を破門にすると言うのでしょうか?」


 俺は、今思いつく限りの最大限の反論をした。つもりだった。母上も兄様達も、俺の事を道具ではなく、一人の家族として見てくれていると、確信していたから――


「大丈夫だよゼル、僕もバルも母さんも、君の破門には賛成をしているんだからね。」


 そう言うと、メルビン兄さんは階段の上から降りてきた。俺の事をまるで家畜を見る様に見下しながら。


「……兄様?」


 頭が上手く働かなくなっていた。熱くて重くて、ボーッとして、魔力を使い過ぎた時の何十倍も、世界がグルグルと周りだして――


 信じられなかった。信じたくなかった。母上も、兄様達も、こんなに一瞬で今までの態度を一変させて、俺の事を見捨てようとするなんて。


 俺が落ちこぼれたから? 俺が、《鉱物生成》なんていう、何の価値もないスキルを授かってしまったから? それともそもそも、俺の事が嫌いだった?


 俺はどこで道を踏み外したのだろうか? 努力も人一倍してきた。勉強も、体作りも、敢えて言うならば、母上が決めた教育方針でスキルの修練をして来なかった、ただそれだけじゃあないのか?


 それなのに、俺はどうして……


 訳が分からない、ドス黒い感情が俺の中で溢れ出してくる。それでも、これ以上リヒター家の名を汚す訳にはいかない。


 その日、俺は初めて家族に対する強い憎しみを覚え、長らく消える事の無いそれと共に、宛もなく家を出た。

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