第一章3 落第
「父上、俺のスキルは戦闘には向いていないそうです。」
「……そうか。」
父上はただ一言、それだけ呟き、どこかへ消えていった。
きっと、失望しているんだ……それでも、努力さえすればきっと――
その日から、俺はロークレイン先生に言われた通り、毎日自室に籠もってスキルの練習を始めた。来月に迫っている貴族院への入学試験に向けて。
全身の魔力を集中させ、気分が悪くなりながらも、何の役にも立たない石ころを生成する。
それを何度も何度も、気を失うまでひたすら繰り返す。
残されるのは俺の手のひらからこぼれ落ちる瓦礫の山だけ。
それでもスキルを使用して意識が朦朧とする中、俺の目に浮かぶのは父上の後ろ姿だった。
あんな姿を見せられては俺が落ちこぼれになる訳には行かない。貴族とて戦時下において役立たずであれば、軽んぜられる。だから――
そして1ヵ月が経過した。
俺の手のひらからこぼれ落ちる石ころの大きさは次第にその大きさを増して行き、遂には拳大程までになっていた。
硬さも最初は地面に落とすだけで割れたが、今ではかなりの硬度にはなっていた。
それでも俺が生成出来るのは、相も変わらず何の価値も無い硬くて大きいだけのただの石ころだった。
ロークレイン先生の様に全身へ魔力を巡らして身体能力の強化というのも試してはみたが、今の俺では生成した石を普段の20メートルから50メートル程の距離まで投げられる様になるという変化しか無かった。
結局の所、1ヶ月の努力では大して変化が得られなかったという事だ。兄上達は12歳になった時から訓練を受けていたというのだから、無理も無い。
勿論兄上達なら俺と同じ状況でも優に貴族院への入学試験は通過出来ただろうが……
それでも一応の策として、生成した石ころを全力で投球する事で、ある程度の破壊力を生み出す事が出来るようになった。
これだけで、貴族院の入学試験に合格出来るかどうかは正直怪しい所ではあるが、受けないという選択肢は俺には無かった。
貴族院の入学試験では、筆記試験と実技試験の2つから構成されている。
筆記試験では基礎知識の確認といった本当に基本的な事を調べる程度で、要は知能に障害が無いかを調べるだけの、実質的には無いに等しい内容だ。
田舎からの出身者は殆どが文字の読み書きは出来ないが、それでも才能があって推薦状を持っていれば受験資格を有し、推薦された者の多くは合格して行く。
理由は実技試験のウェイトが8割程を占めているからだ。
実技試験の内容は至って単純で、少し離れた場所から30秒という時間制限の中で、スキルを使用して目標物となる土人形を破壊する試験だ。
跡形も無く、完全に破壊することが出来たら主席合格も狙えるのだそうだ。
だが、今の俺が土人形を完全に破壊するというのは厳しいと思う。あまりにも鍛錬出来る時間が少なすぎた。
そもそも貴族院の入学テストは才能のある者だけを入学させようという主旨なのだから、練習する時間が少ないというのは仕方がない事なのかもしれない。
だがしかし、合格者最低点の土人形の破壊率は8割程でいい。
俺が合格者最低点を気にしながら貴族院の入学試験へ臨むことになるとは露程も考えてはいなかったが、それでも土人形の破壊率がたったの8割でいいなら可能ではあると思う。
だから、今日は落ち着いて実力通りの力を発揮するだけだ。
筆記試験を終えた俺は、実技試験会場へと向かいすぐに俺の順番がやってきた。
ふー、息を吐き出して、深呼吸をする。落ち着け、ただの土くれ、硬かろうが脆い。俺が生成する石ころの強度も最近ではかなり上がっているんだ。
「始めなさい。」
試験官が開始を宣言すると、周りの人達も一斉にスキルを使用し始める。
だが、心を無にして、《鉱物生成》を使用する。流す魔力を調整して、硬さだけを向上させた小粒程度の石を複数個生成する。
名付けて、《多重鉱物生成》
そして身体能力の強化を加えた肩の力を加え、石ころを散弾の様に土人形に投げる。
よし、7割程は破壊出来た。もう一回やれれば――
「待ちなさい。それは何のつもりだね? この実技試験はスキルを使用して土人形を破壊するという物だ。」
……大丈夫だ、説明すれば何も問題はない。この石ころは俺のスキルで生成した物なんだ。
「俺のスキルで生成した石を投げたんです。こんな風に、《鉱物生成》」
俺は生成した石を試験官に向けて見せた。
「それはスキルで破壊したのでは無く、石で破壊しているに過ぎない。失格だ、出ていきなさい。」
「なっ、俺のスキルで生成したんですから――」
「どうせお前の様なスキルでは、大したことは出来まい。落としてやるって言っているんだ。感謝しろ。」
「そ、そんな不当な理由で俺を不合格にすると言うんですか!?」
「ここでは試験官が絶対だ、消え失せろ。」
俺はそんな訳の分からない理由で落第させられた。