第一章2 スキルの使用
家へ帰った俺は、一直線に俺を待っていたであろう父上と母上へ報告しに向かった。
「父上、母上! ただいま帰りました。」
「お帰りゼル、話を聞かせてくれるかい?」
「どんなスキルだったのか気になるわ。」
「はい、俺のスキルは《鉱物生成》というスキルでした。」
それを聞いた二人の反応は、いまいちだった。いまいち、というよりはピンと来ないという方が正確なのかもしれない。
それもそうだろう、俺だって今までに《鉱物生成》なんてスキル名は聞いた事が無かったのだから。
だから俺はすぐにスキルの詳細を説明し始めた。
「《鉱物生成》は土属性のユニークスキルなのです!」
「ほう、良かったな。ユニークスキルか、で、使用してみたのか?」
「いえ、まだです……」
「ゼルにはまだスキルの使い方を教えていませんよ。メルもバルも習得した日に騒ぎを起こしてしまいましたからね。」
「そんなので大丈夫なのか? スキルを持っていなくても、スキルの鍛錬は出来ただろう? メルもバルもそうしていたから上手くいったんじゃないのか?」
「もう家庭教師は呼んでありますから、心配はいりませんよ。ゼル、外で先生が待っています。行ってきなさい。私達は上から見ていますから。」
「分かりました!」
《鉱物生成》のスキル名を聞いたときの事を説明してから、父上は甚く俺の事を心配している様だったが、そんな心配は御無用です。必ずや父上の期待に応えてみせます。
スキルの鍛錬の先生が居るという、庭へ出て見ると、紳士服を着た長身の男が立っていた。
「やあやあ、始めましてゼルディン・リヒター君。私はロークレイン、君の先生だ。」
帽子を外しながら行われた挨拶から、見た目通り彼は紳士であるようだった。
個人的には荒々しいタイプの方が師匠って感じがするから良かったけれど、こういうタイプも悪くはないのかもしれない。
「今日はよろしくおねがいします!」
「スキルの発動の仕方も知らないと聞いているから、初歩的な事から教えるという事になるが、それでいいかい?」
「兄様達が言っていました。基本を大事に出来なければ大成し得ないと。」
「そうか、いいお兄さんだね。両手を前に出してみなさい。」
スキルの使い方にこんなポーズってあったっけ? 兄上達は右手を前に突き出してから発動していた気がするけれど……
勿論先生が言う通りにはしてみるけど。
「じゃあ今から、君に魔力を流すから、魔力の流れを感じてみてほしい。」
そう言うと、ロークレイン先生は俺の両手を握った。
そして次の瞬間、両手から全身へと、温かい何かが巡るのを感じた。
……これが魔力なのか。心地が良い。
「スキルを使う上で大切なのは、魔力を保有している量と、それを放出する力なんだ。」
それは兄上から聞いた事がある。基本的には魔力を出す勢いがその人の実力とも言われているそうだ。
「じゃあ早速で悪いけれど、今度は君自身で魔力を放出して、スキルを発動してみて欲しい。」
「分かりました。」
今なら分かる、この全身を巡る物こそが、魔力なんだと。そしてそれを一点に集める。
きっと、先生の教え方が良かったのだろう、何の支障もなくスキルを発動する事が出来た。
無意識に握りこぶしにしていた手の平には、小さな石ころが生成されていた。これが、《鉱物生成》……
思っていたよりは、随分と地味だと思ってけれど、それは恐らく魔力の存在の認識やスキルの発動が初めてだからだろう。
「うん、ちゃんと発動出来たみたいだね。これは……何というスキル名なんだい?」
「あ、はい、《鉱物生成》です。」
「なるほど、生成系統のスキルか……貴族院で主席を狙うというのであれば、少し難しいかもしれないね。」
俺はその一言で、絶望した。
「ど、どうして、ですか?」
「そうだね。単純に、生成系統のスキルは戦闘に向いていないんだ。そして、貴族院での成績の多くは模擬戦により決められる。だから少し難しいかもしれない、という事だね。」
確かに、戦闘中にこんなスキルを使用したって、何の役に立つと言うのだろうか? 敵の前で、石ころを作るだけなんて、何の役にも立たないじゃないか。
「まあまあ、そう気に病む必要は無いよ。戦闘に向いていないスキルだって、多くはないが主席で卒業する生徒はいる。」
戦闘向きじゃなくて主席? 本当にそんな事が可能なのか? 俺が《鉱物生成》なんてスキルを授かった時点で――
「基礎戦闘に重きを置けば、スキルが無くても不可能じゃないんだよ。だからまだ諦めなくったっていいじゃないか。」
そんな風に慰められたって……
「それは……本当なんですか? 信じていいんですか?」
「何事においても絶対なんて無いんだ。だからそうだね、君の努力次第、と言った所だよ。」
俺の努力次第……努力するだけで主席を取れるなら、何だってやってやる。
「まあ結局やる事は毎日魔力を使用するというだけだよ。毎日気絶するまで、何度も何度も極限まで振り絞るようにね。」
「それだけの事で、努力をしていると言えるのでしょうか?」
「努力って言うのは苦しむってことじゃあ無い。目標に向かって筋道を立てて実行していくという事だ。」
「ですが、本当にそんな事で?」
「まあ、私が簡単に言ってしまったから勘違いしてしまったようだけれど、自分の魔力を極限まで絞り出すというのは、常人じゃあまず続けられないよ。激しい目眩と頭痛に襲われながら、意識が朦朧としていても、起き上がる度に魔力を全身から掻き集めないといけないんだからね。」
そうか、それなら安心だ。他人が簡単に続けられる様な事をしているだけでは、他人に勝てないというのは当然の事だ。
そして俺は、リヒター家の栄光の為なら、いくらだって頑張れるはずなのだから。
「うん、いい目をしているね。これはおまけだけど、魔力を全身に巡らせれば、こんな風に飛躍的に身体能力が上がるんだよ。」
そう言うと、ロークレイン先生は拳を地面に向かって垂直に振り下ろし、地割れを走らせた。
「ね、戦闘向けのスキルが無くたって、これくらい出来れば優勝する事は出来るさ。」
そうなんだ、凄い、凄過ぎる……
ただの先生だと思っていたけれど、気が付くと物凄く尊敬していた。
「まあ、そうだね、生成系のスキルとなると私も詳しくは教えられないから、多分今日でお終いになるだろうけれどね。」
……そうか、確かにそれなら仕方が無い。
「一日だけの間でしたけど、ありがとうございました。」
「うん、頑張ってね。」