第二章1 結婚するにはまだ早い
俺とエレノア、そしてフローレスさんが、一つの机を前に、向かい合っていた。俗に言う家族会議という奴だろう。その議題は、もちろん俺とエレノアの婚姻に関する話であった。
正直俺としてはすんなり俺とエレノアは結婚する事になると思っていたのだが、その予想と今の現状は大きく異なっていた。
「ゼルディン君、君はまだ若い。」
フローレスさんは方肘を机に置いて、少しだけ不機嫌そうにそう言った。
「そうは言っても俺はもう18歳ですよ? もう結婚していてもおかしくはない年齢だと思いますよ。」
一般的な婚姻年齢は25歳くらいなのだろうが、それでも俺は十分に結婚する事が出来る筈だ。宮廷魔術師になった事で地位的にも問題無いし、銀を作れば金だって稼げる。
「そもそも君とエレノアは出会ってからまだ一ヶ月程だろう? まだお互いの良い所も、悪い所も知らないだろう。そんな状態の君達が結婚するのはまだ早すぎる。」
「でもお父さん、善は急げともいいますよ?」
「じゃあ、そうだね、課題でも出そうじゃないか。二人で1000万ゴールドを貯蓄する、とかはどうかな?
「あの、1000万ゴールドなんて俺のスキルを使えば直ぐに溜め終わってしまいますよ?」
「当然、鉱物を販売目的に作るのは禁止で。商売人らしく物の売り買いとかで目指してみてくれ。」
「はあ……」
「そういえばゼル君って貨幣は作れるんですか?」
「人として駄目そうだからやろうとした事は無いかなー。だからまあ無理ってことで。」
そうは言っってみたものの、本当はやろうとした事はある。ある程度の精密さで物作りは出来るのだが、俺が作った貨幣は何だか綺麗すぎて、偽物だという事は一目瞭然だった。多分不純物が混ざっている影響なのだろうから、調整を頑張れば出来ないことも無さそうではあるけれど、普通に鉱物を売ったほうが楽そうだと思った記憶がある。
「出来たとしてもそれは禁止だ。」
「あ、はい。」
「冒険者として稼ぐというのも許可しよう。……そうだな、条件にAランク冒険者を目指すという事も追加で。極限状態に追い込まれた時に見える側面とかもあるものだよ。それに二人はまだ見識も浅いだろう? 少しは世間という物も知った方がいい。どうせ夫婦になったら共通の目標へ向かって協力する事にもなるだろうし、その予行演習にもなる。」
Sランク冒険者は宮廷魔術師に匹敵するくらいの身体能力があるって噂を聞いたことがあるけれど、Aランク冒険者はどれくらい凄いのかは正直良くわからないな。有用なスキル持ちが冒険者をやっている事なんてまず無いだろうし……まあ、俺は基本的に暇だし、確かにエレノアの事をもう少し知るいい機会なのかもしれない。
フローレスさんが言う通り、確かに二人で共通の目標へと向かっていくというのは夫婦になっても必要な事だろうから。フローレスさんに俺達の結婚を認めてもらう為にAランク冒険者を目指すか。
でも正直そんな事をしているよりも、エレノアのスキルの修練に付き合いたい。宮廷魔術師の耐久力を省みるに、魔力量が多いというのはそれだけで耐久力が増える様だったから、エレノアにも宮廷魔術師とまではいかなくても、普通の人よりは多めの魔力量になってもらいたい。エレノアがある日突然事故で死ぬなんて事があったら耐えられない気がするし。
……ミスリルを作ってエレノアが魔法を付与したものを作るとかなら良いのだろうか? 金稼ぎの為に作るという側面もあるのだから無しか。
まあ1000万ゴールドへの金稼ぎの事は別として、エレノアの健康の為にはやっておくべきだと思われた。
「で、どうする?」
「まあお父さんが言うなら仕方ありませんね。半年後くらいを目標にして、支度金に1000万ゴールドを貯めましょう。そしてAランク冒険者を目指しましょう。ゼル君と一緒にいられるのなら、きっとそれだけで幸せそうです! そして両方共達成したら、結婚しましょう。昨日のでデキてしまっていたとしてもそれなら大丈夫ですしね。」
エレノアさん、サラッとフローレスさんの前で俺が気まずくなる様な事を言わないでください……
「……ゼルディン君!?」
「な、俺は何の話だかよく分かりません! エレノアがいつもみたいに俺をからかおうとしているだけです!」
「私の顔を見て断言できるかい?」
フローレスさんがそう言う前に、既に俺はフローレスさんの顔から視線を逸していた。
でも、言わなければ確定はしないのだ。だから俺は無言を貫いて、エレノアと共に鍛冶屋へと逃げていった。エレノアのスキルの修練も兼ねて。
冒険者編スタートです。




