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第一章16 引退

「《ブラッドレイン》」


 次の瞬間、俺達、兄弟の全身に、血の雨が降り注ぐ。俺の体に血が染み込んでいく。兄さん達の切断された胴体部分に血の塊が集まって、蠢いている。


 ……これは、一体何なんだ? 俺の体の方も、バルディン兄さんから受けた全身の火傷の様な傷が癒やされていっているのを感じる。


 そして少しすると、切断された兄さん達の体が引き合って行き、血の塊はプツンと姿を消して、胴体がくっついた。


「あの、これは一体?」


「僕のスキルは戦闘向けというよりは、治療向けのスキルなんだよ。血液を生成するスキルなのさ。カザン君も僕が治療してあげたんだよ。」


 ……何そのチートスキル? 治せることは当たり前、そんな雰囲気を醸し出しているけれど、凄い異常な事ですよね? それが序列一位の実力なんでしょうか?


「万能過ぎませんか、ロークレイン先生!?」


「あはは、そうかもしれないね。こんな僕でも数十年は最強をやっちゃってるし、仕事も禄にしないから一部からの嫌われようが凄いんだけどね。間違えた、一部から以外の嫌われようが凄いんだった。あはははは。」


 そう言いながえら、先生はゆったりと地面へ降り立った。


 ええ……そんな人を序列一位にしておいていいの? この国の王様初めて見たとき凄い無能臭が漂っていたし、序列二位のカザンさんも戦闘狂だし、もしかして、碌な人間いないんじゃないか?


 あ、いや、勿論ロークレイン先生は尊敬しているんだけどね。


「あの、それで、ロークレイン先生は何をしにここへ来たのでしょうか? ……俺と戦いに来たのですか?」


 先程ロークレイン先生は宮廷魔術師だと言っていた。それなら――


「僕は君の味方だよ。ついでに今はカザンくんもね。あ、お兄さん達ももう、そうなんじゃないかな? 後は雷光のレンヤ君くらいかな? レンヤ君、どうする?」


 レンヤと言うのはカザンの隣にいた男らしく、ロークレイン先生が何かを問い掛ける。


「いや、カザンさんが負けた時点で僕は完全に戦意喪失してますよ!? 何で突然呼び出されて兄弟喧嘩に付き合わなきゃならないんですか!? まずグランロイスさんが推薦する様な人を試そうなんて微塵も思いませんよ!! それに、多分そのゼルディンって人、絶対転生者か何かでしょ!? 命が幾つあっても足りませんよ!! っていうか俺は寧ろ全力でその人から逃げ出したいですよ!!」


 レンヤとか言う宮廷魔術師は何に対してなのかは分からないが、キレ気味に喚いていた。……身長も相まって、小動物みたいだった。でも一番まともそうに思えた。特に強さがあるのに、戦いから逃げるって言う所が。


「ありがとうレンヤ君、君にはいつも感謝しているよ。じゃあゼルディン君、同僚達からの許可も取れたことだし、君を宮廷魔術師として推薦させて貰うよ。僕が宮廷魔術師をやっていると、生成スキルへのヘイトが高まっていくみたいだしね。僕はそろそろ引退して貴族院の責任者にでもなるからさ。」


 は? 何を言っているんだろうこの人は? 俺が宮廷魔術師? 一応俺は大罪人扱いなのでは無いのか?


「えっと、俺は大罪人なんですよね?」


「君の前ではそう言う事にしておいたけど、お触れだと宮廷魔術師としての資格を測るための模擬戦って知らせてあるよ。あれは元々カザン君が手を出したことだしね。」


 は? は? は? ちょっとこの人、まじで何を言っているのか分からなくなってきた。じゃあ俺って戦う意味無かったんじゃないの……?


「えっと、じゃあどうして俺は兄さん達と戦わさせられたんですか?」


「君のお兄さんのメルビン君が実力を見極めれなければ賛成する事は出来ないとか我儘言うものだから。」


「僕としてはゼルが貴族社会でも問題無くやっていけそうだし、一緒に暮らせれば何でもいいんだけどねー。」


 バルディン兄さんの声がした。


「その、今まではすまなかった、ゼル。才能が無いならいっそのこと普通の暮らしでもした方がいいんじゃないかと思っていたんだが……お前の方がよっぽど天才だったようだな。今のお前なら、実力も、人気も問題無い。」


 確かに気付けば俺に対しての声援が上がっていた。でも――はあ、メルビン兄さんは一応俺の事も考えてくれていたのか。


 ……確かに普通の暮らしという物は良いものだ。だからこれからも普通の暮らしをしていきたいと思っているのだけれど……


 どうしてか周りの人達全員俺を宮廷魔術師に認める流れになってきてない!? そんな強いってだけで決めちゃだめでしょ!?


「あの、そんな序列一位だからって勝手に決めてしまってもいいんですか?」


「あ、大丈夫、大臣と宮廷魔術師5人の了承で交代出来るから。だから安心してゼルディン君がやってくれていいよ。」


「僕もゼルディン君が宮廷魔術師になる事に異論は無いよっ! 強い者はそれに然るべき地位にあるべきなんだよっ!!」


 ちょっと待って、ここには俺の意思を無視する人しか居ないのか?


「あの、俺は別に宮廷魔術師なんかになるつもりは無いんですけど。それに俺なんかじゃ務まらないです。」


「じゃあカザン君がこれから序列一位かー。」


 それは確かに不味いかもしれない。不味いかもしれないけど……それって俺の責任でも何でも無いのでは? いや、この国が崩壊してしまったらエレノアとの生活が壊れてしまうから、関係はあるけれど。


「フローレス商会を守ることも出来るだろうけどなー。」


 ……よし、宮廷魔術師になろう。俺はその一言で宮廷魔術師になる事を決意した。


「じゃあ、よろしくおねがいします。」



 俺はこの日、ロークレイン先生への羨望を失った。そして後日、王宮へ行って、俺は宮廷魔術師に任命された。



 俺は魔術師団の第一師団の師団長になっているらしいが、戦争などで出動しない限りはそこまで集まる機会が無いそうだ。戦時になればロークレイン先生の右腕的な人が支えてくれると言っていたし、うん、俺って本当に宮廷魔術師になる必要あった?


 基本的に治安維持や魔物討伐などは第三師団とその師団長のレンヤさんがを全て処理しているらしい。領地を持つ事を拒否してあえてそういう役割に付いているんだと言っていた。変な人だなと思った。


 そう言いながらも俺も領地を持つ事を拒否しているのだが。


 貴族階級なだけあって内政の仕事もあるそうだが、それもまあ十分な人数がいるらしい。そんなんだから仕事をしない人間が出てくるのだろう、と思ったが俺にとっても仕事をしなくて良いのなら願ったり叶ったりだった。


「だから、君はそんなに仕事しなくていいと思うよ。上に居る人間が動かなければならないのはその時点で不味いからね。上に立つ人間は決定だけ下して、後はのんびりしていればいいのさ。もしも戦争をする機会があったら、まあその時は多少、働かなければならないだろうけどね。」


 自分の事を棚に上げて、そんな事を言っていた。でも、まあそういうものなのかもしれない。王様がせっせと働かなければいけない事態は確かに望ましくないのだろうから。


 レンヤさんの周りの人間は働かないロークレイン先生、戦闘狂のカザン、今まで苦労が絶えなかったんじゃないかと、心から同情した。まあ、俺もこれから手伝う気は全然無いんだけどね。


 その代わりと言ってはなんだけど、その仕事を上司権限を使って、レンヤさんへの労いと、今までの腹いせとして、兄さん達に頑張ってもらう事になった。


 まあ……今までの状態でも国が保っていたんだし、大丈夫でしょ。


 別れ際のロークレイン先生を見下すような目で見ていたが、ロークレイン先生は慣れているようで、それを歯牙にも掛けていなかった。

一章終了時点で???ってなる事が多そうです。でも主人公視点じゃ全部は無理そうだから諦めました、それに無理に情報を入れ込むと冗長にもなりますので。特に兄弟視点と先生視点成分が足りてない気がする……もし時間が出来たら書こうかな?

余談ですが、主人公を落とした試験官は真相を知ったブラコンにの手により永遠に遠くの所へ行きました。

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