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第一章15 豪雪と閃光

 メルビン兄さんのスキルも、バルディン兄さんのスキルもある程度の事は知っている。俺が小さい頃に教えてくれていたから。


 メルビン兄さんは豪雪という二つ名に恥じず、一人で辺り一面に雪を降り積もらせる事が出来る。雪というよりは氷という方が正しいかもしれないが。

 使えるのは氷属性と風属性の二種類。ユニークスキルと言っても二人分の事が出来るだけ。特に風属性のスキルは基本的には地面に支柱を立てれば、壁を作るだけで防げるだろう。つまり、警戒する必要があるのは氷属性のスキルくらいだ。それすらも今の俺なら砂を生成するくらいで正直防げる気もする。


 そしてバルディン兄さんの二つ名は閃光、理由は光属性という珍しいユニークスキルを使用するからだ。光属性スキルの特性は直線状にしか進まない代わりに、速度が最も速いのだと、俺が小さい頃自慢していた。確かに速いというのはそれだけで脅威になり得る。しかし、攻撃出来る範囲は非常に狭いと言っていた。それならば、バルディン兄さんの目線を見る事で避けられるだろうと思われた。それに、鉱物生成で反射しても良い。


 つまり、今の俺には二人共、大した敵ではない、と思う。ただ、二対一ではあるから、こちらが攻撃する機会が多少減りそうではあるが、それでも殺す気さえあれば、カザンと戦った時の様に、瞬殺する事は可能だろう。


 そう、殺す気さえあれば……。


 俺は、実の兄を殺すことが出来るのだろうか? そもそも俺を追放するという判断を下したのは父であろう。そしてそれにどうして反対する事が出来ただろうか?


 今日のバルディン兄さんが俺に対して喋りかける様子は、冷静に考えてみれば、本当に俺の事を弟だと思っている様にも感じさせられた。あんなにも俺に優しかったバルディン兄さんが俺が追放する事に賛成するなんて、信じられない。


 それに帰ってこいって、そう言っていた。それは、どういう意味で言っていたのか、問いただしたい。何を考えていたのか、何を考えているのか、それを知って、納得してからじゃないと、俺はこのまま一生後悔し続けるかもしれないと思う。


 メルビン兄さんだってそうだ。俺に対しては厳しかったが、それでも理不尽な事は無かった。努力を認めてくれる性格だった。俺の勉学の成績が落ち込んだ時には励ましてくれたし、わざわざ自分の時間を費やしてまで教師役を買って出る様な人だった。

 そんなメルビン兄さんは……それでも確かに俺をリヒター家から追放する事に賛成だと言っていた。


 だから、もう良く分からなくなる。何を信じるべきなのか、俺には全く分からない。だから、考えるのは止めよう。考えたら、死ぬかもしれない。だから今は、生きる為に考えるのをやめて、殺そう。殺さなければ殺される、それなら俺は実の兄を殺すしかないじゃないか。説明が足りなさすぎたんだ。


「《ブリザード》、《ダイヤモンドダスト》」


 メルビン兄さんを中心に、凍てつく風が吹き荒れる。空気が凍てつき、煌めき始める。だが、それだけだ。今の俺の体は魔力量の増加も相まって、こんな寒さでは凍えるなどという事は無い。少し手がかじかむ程度だった。


 最初から殺しにいこう。カザンさんが生きていた事からして、もしかしたら死なないかもしれない。そんな可能性が脳裏をかすめる。だけど……今は、あんまり考えたくない。


「《鉱物生成》」


 カザンを引き裂いた時の用に、オリハルコンの糸を形成しその糸を引くだけで、二人の体を真っ二つに切断出来る――筈だった。


 カザンが浮遊していた様に、二人は同時に宙へと浮き始めた。


「甘いな。何の為にこのスキルを使用したと思っているんだ? 一つはお前の攻撃を視認出来る様にする為だ。」


 そう言われてみると、確かにオリハルコンが風を切った空気の跡を視認出来るようになっていた。

 ……俺の攻撃手段が、一つだけ減った。


「ゼル、ごめんね。悪いけど僕の攻撃は絶対に躱すことが出来ないんだ。メルビン兄さんがいる限りはね。」


 バルディン兄さんは何を言っているんだ? まさかこの低温状態にしただけで、俺が身動きを取れなくなるとでも思っているのか?


 一応確認をしてみる、手のひらも、足も、いつもと遜色なく動かすことは出来る。これなら――


「《コンバージング》、《サンライトレイ》」


 がぁっ!? 何をされた!? 全身が焼け焦げる様に暑い!!


 俺は失いかけた意識を舌を噛むことで、無理やり引き戻した。


 最初、何が起きたのか分からなかった、そして気付いた。メルビン兄さんの使用したダイヤモンドダストが俺の周囲にだけ展開されている事を。つまり、


「気付いたかい? ゼルはダイヤモンドダストの中に閉じ込められているのさ、だから、そこから出ない限り、絶対に命中するんだよ。散乱した光が、君に当たるまで反射し続ける。もちろん出させるつもりもないけどね!」


 ……なるほど、強い。さすが宮廷魔術師の兄弟だ。もし俺のスキルが鉱物生成でなかったのなら、負けていただろう。だけど、流石に相性が悪過ぎた。


「《コンバージング》」


「《鉱物生成》」


 俺は自分の全身を覆うように、金を生成した。


「《サンライトレイ》」


 バルディン兄さんから放たれた光なら、全てがバルディン兄さんの元へと戻る。反射された光は、バルディン兄さんの指へと戻って行き、そのまま肩ごと貫いた。


「なっ!?」


 バルディン兄さんは、貫かれた右腕を見た。愕然としていて、何が起きたのか飲み込めていない様子だった。今の状態なら!


「バルっ! 避けるぞっ!!」


「《鉱物生成》」


 バルディン兄さんの背後に糸を生成し、今度こそ、バルディン兄さんの胴体を切断した。


「ははっ、本当に良く成長したんだね……」


 それだけ言うと、バルディン兄さんは意識を手放した様だった。


「……残すはメルビン兄さんだけだね、終わらせるよ。」


 バルディン兄さんを戦闘不能にした今、メルビン兄さんと一対一で戦える今なら、いくらでも攻撃する事は出来る。


「《鉱物生成》」


 俺は、メルビン兄さんの全身を飲み込んでも余りある砂を生成し、生き埋めにした。そして、この状態で切断してしまえば……いや、まだ避けられる可能性はあるな……その前にもう一手。


「《鉱物生成》」


 巨大な鉄塊を、砂の上に生成する。そして予想通り上へと飛び出したメルビン兄さんは、鉄の塊によって抑えつけられる。


 そして俺は、砂の魔力を全て抜き去り、消す。メルビン兄さんは、それでも空中で体制を立て直し、鉄塊を持ち上げようとする。つまり、メルビン兄さんの体は、地面に固定されているのだ。


 これで、チェックメイトだよ。


「兄さんは、結果が全てだって、そう俺に教えてくれたよね……《鉱物生成》」


「ああ……良く成長したな。強くなり過ぎだ……。お前を認めよう――」


 俺は、メルビン兄さんの胴体も、切断した。鉄塊は兄さんの体を押し潰す前に、消し去る。


 少し、疲れたよ……。


「ゼルディン君、お疲れ様。」


 上から声がして、振り向いてみると、そこには俺のよく知っている人間がいた。ロークレイン先生だ。


 薄々とそんな予感はしていた。だって、カザンさんよりも、魔力量が多かったのだから……

 これから忙しくなるって知っているって事は、関係者だったって事なのだから……

 でも、ロークレイン先生はどうして今現れたのだろうか? 


「魔術師団第一師団、師団長、宮廷魔術師序列1位、鮮血のグランロイス・ロークレインだよ。」


「先生、どうして?」


「《ブラッドレイン》」


 次の瞬間、俺達、兄弟の全身に、血の雨が降り注ぐ。

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