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第一章13 終わらない騒動

 初めて人を殺した感触は、不快な物だった。止むに止まれぬ事情だったとは言え、罪悪感はある。しかし正直カザンの様子を見た限り、もしかして死なないのではないだろうか、そうした仄かな期待もしていた。所謂、現実逃避である。


 それでもその不快な感触を紛らわせる様に、俺は砂と爆風によって半壊状態にあった貴族の館へと向かっていった。


 最初に見た光景とは打って変わって変わり果てたその貴族の館へ入っていくと、見知った顔の奴がいた。どこぞのチンピラの中の二人だった。そして、その顔ぶれが今の俺には少しの安らぎをもたらした。


 ……エレノアに絡んでいただけあって、それなりの近所に住んでいたんだなー、とそんな日常的な感想を抱けたのだから。


「お、お前ら、何しに来やっがった!?」


 そしてそのチンピラ二人組は爆発音や館が損壊している事もあって、酷く怯えた様子だった。うん、今回はあのカザンって奴がやった事らしいし、少しだけ不憫だ。夜に爆発が起きて館が損壊し、そして最近返り討ちに遭わされた奴が乗り込んでくる。控えめに言って、絶望だな。


 だが俺にしてみれば知り合いなのだから都合がいい。直ぐに腹を割って話してくれるだろう。


「エレノアの父親がこの館に監禁されているんだが、地下室の場所を知らないか?」


「そ、そんな事はどうだっていいだろっ! 何でこんなに館が滅茶苦茶になってるんだよ!?」


 うむ、一理ある。だがそれよりも今は一刻も早くエレノアにフローレスさんの安全を確認させてやりたい。だから話を濁す。


「カザンって奴のせいだ。俺は全く関係無い。」


 嘘だけど、話を円滑に進めたかったし多少は、ね?


「そんな訳無いだろ! カザン義兄さんはとっても、とっても……やりそうだけどよぉ!?」


 あ、普段からそう言う人なんだ。ならあの人の責任にしてしまおう。死人に口なしだ。


「館なら俺が簡易的に修復してやってもいい。だから場所を教えてくれ。」


「や、約束だぞ!? 絶対に修理しろよ!?」


「分かったって。今回はお前達に何もする気は無いからさ。それよりも地下室に案内してくれよ。」


「付いて来い。」


 チンピラを説得してからの事は本当に簡単な事だった。最初に予想した通り傭兵も居たがチンピラはその事を知らなかったらしい。チンピラまで襲われていて更に不憫になった。


 それでも傭兵達には俺が殴って気絶させて進んで行くとカザンの言ったとおり、地下へと続く階段に到着した。そしてそこから下っていくと、拘束されたフローレスさんを発見する事が出来た。


 フローレスさんは見たところ怪我をした様子も無いようだった。


「お父さん!!」


「エレノアか? どうやってここまで……?」


「ゼル君が空まで連れて行ってくれて、それでここに馬車が駆け込んでいくのを見つけたんですよ! お父さんが無事で本当に良かった……」


「えっと、俺も助けに来ました。」


「……そうか。すまなかったね、ゼルディン君。」


「あ、いえ、俺を狙っての事だったそうです。巻き込んでしまってすいません。」


「別に君が謝る必要は無いだろう。君もまた、事件に巻き込まれた被害者なんだから。」


「それでも……すいません。俺は……何かに巻き込まれたとしても、自分なら何とか出来るんじゃないかと思い込んでいたんです。」


 そんな慢心がこんな事態を引き起こしてしまったんだから……やっぱりこれは俺の責任だよ。


 それに、カザンは言っていた。銀の供給量が個人に依るものだから、強者がいると、そしてそれが宮廷魔術師内で知られているのかは定かではないが、少なくともカザンの関係者には知っている者がいるだろう。だから、まだこの騒動は終わらない。それこそ、カザンを殺し、貴族の館に乗り込んでしまったのだから、向こうもこのままでは引くに引けないだろうし。


 だから、フローレス商会を何かしらの手段で守らなければならないが……


「エレノア、ネックレスに《伝言》を付与した様に、他のスキルも付与することって出来るのか?」


「今の私だと攻撃系統のスキルくらいしか付与出来ないですね……それも燃費が少し悪くなるらしいのであんまりメリットは無いですし……熟練度次第で他の魔法も付与出来る様にはなるとは思いますけど。」


 付与魔法の修練にミスリルが必要だった関係上、そこまで熟練した付与スキルの使用者も居ないだろうし、やはりあんまり多くの魔法は付与出来ないか……ともすれば、やはり俺がフローレス商会の護衛をするしかないか。


 正直、エレノアの事を意識する様になってから、一緒の所に住ませてくれと言うのは言いにくいが……それでも襲ってくるのが何時なのか分からない限り、やはり俺が付きっきりで護衛するのが最善だと思えた。


 そして俺が護衛している間にでもエレノアに付与スキルの修練でもして貰えれば、いずれは俺が護衛する必要も無くなるだろう。


「あの、こういう事は言い難いんですけど、俺もフローレス商会で働かせてくれませんか? あと夜も出来たらフローレスさんの家で……またこういう事があるかもしれませんし、暫く事が落ち着くまでは俺に護衛させてください。」


「え!? あ、えっと、ゼル君は私と一つ屋根の下を共に過ごしたいって言ってるんですよね? えっと、えっと、お父さん!! どうしよう!! プロポーズされちゃいました!!!」


 両手を頬に当てて、エレノアは赤面し始めた。

 確かに一つ屋根の下だけど、一つ屋根の下ではあるけれど! そう言う意味じゃないよ!!


「いやいや、してないよ!? 落ち着いて!? 俺まだエレノアに告白すらしてないじゃん!!」


「確かに、そうですねー! じゃあやっぱりゼル君はいつかは告白してくれるって事ですよね!?」


 あ……思いっきり失言した。というか、エレノアに誘導されて言わされたというのが正しいかもしれない。恐るべしエレノア……このまま行くと俺って尻に引かれるってタイプの夫になるのかな……


 って、何だか気が付くと結婚前提に話しているけど、女心と秋の空って言うし、断られないとも限らない訳なんだから、油断はよくない。全力で落としに行かなければ。


「あの、二人の仲が良いのは微笑ましい事だけれど、取り敢えずフローレス商会まで帰ろうか。それなりの距離があるんだから、帰りながらにでもそう言う話は詳しく聞かせて貰えればそれでいいしね。 ねえ、ゼルディン君?」


 あれ? そういえば、俺がエレノアと懇意にしている事って、フローレスさんは知らなかったんだっけ!?


 そう思っても時すでに遅しで、フローレスさんが俺の肩を軽めに掴んでいた。……少しだけだけど、今は普段優しそうなフローレスさんの顔を見るのが怖かった。


 そうして、エレノアとフローレスさんの二人にからかわれながら、帰路に着いた。やっぱりフローレスさんもエレノアの父親なんだな、と思ってしまった。


 余談だが、カザンの死体がどこかへと消えていた。やはりどうにか生きていたのかもしれない。宮廷魔術師って言うだけあって、人並み外れた耐久力があってもおかしくはない。


 止む得ない事情があったとは言え、貴族の館に乗り込んで、宮廷魔術師と敵対して、何のお咎めも無い訳が無い。分かってはいたが……次の日の朝、俺が外の喧騒を気付いて様子を見てみると、魔術師団が集結していた。

あと少しで2章になるかと思います。

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