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第一章12 序列2位 爆炎のカザン

 エレノアを抱えたまま、貴族の館に侵入すると、そこには空になった馬車だけが取り残されていた。


 くそっ、間に合わなかったか!


「ゼル君、これからどうしますか? やはり突入ですか?」


「そうだな……突入するよ、傭兵がいるかもしれないが、邪魔をする奴は全員俺が片付ける。」


 前に貴族院の生徒と戦った感じから考えても、多分どうにかなる。


「私も一緒に行きますよ、関係者じゃないゼル君だけを行かせる訳にはいきませんからね。」


「俺も関係者だよ。俺にとってもフローレスさんは大切な人だから。」


 それに、俺が原因で疎まれるようになったのだから、寧ろ俺が一人で解決しなければならない案件とも言える。


「ゼル君……」


 そう言ってエレノアは俺の服を少しだけ引っ張った。エレノア可愛い……


 違う違う、今はこんな事を言っている場合では無い。


「ねえ、二人でいちゃついている所悪いけれど、話をしてもいいかな? ここはヘンドンマイアー伯爵の領地だよ? 君達は何をしに来たのかな? 放火かな? 強盗かな? 戦闘かな? 戦争かな?」


 ……館から変な奴が出てきた。変人の様に見える派手な制服を着ているが、それでも強者特有の余裕さがオーラを感じさせ、魔力量の多さが滲み出る魔力からはっきりと感じさせられた。


 しかも、どうやっているのかは知らないが、空中に浮遊している。


「なあ、さっきこの館に俺の知り合いが連れ去られていく所を見たんだが、心当たりは無いか?」


「あるよっ! ありありだよっ! だって君をここに呼ぶ為にわざわざ誘拐して貰ったんだからねっ!」


 俺を呼ぶ為に誘拐した……?


「どういう事だ? 説明しろ。」


「だって、フローレス商会がダンジョンを隠していないならさー、誰かが大量の銀を売却しているってことじゃないかい? で、それ程の大量の銀を売却しているというのにさ、組織的な痕跡は見当たらなかったんだよ? じゃあ、いるってことになるよね? 個人でそんな事が出来る強者が! 僕を楽しませてくれるような強者が!」


 ……戦闘狂、という類いの人間なのだろうか? どういう理由でそんなに好戦的になったのかは知らないが、頭のネジが外れているのか? 俺には全くもって理解が出来ない。


 だが、フローレスさんを攫った元凶はこいつってことか。なら話は早いな。


「じゃあお前を倒したらフローレスさんは解放してくれるってことでいいのか?」


「早速戦ってくれる気になったんだね! 僕は嬉しいよ! 別に倒さなくても戦ってさえくれれば解放してあげるから安心してね! 楽しめなかったら八つ当たりで殺しちゃうかもしれないけどねっ! あ、そうそう、名乗り忘れていたけれど、今から言うから許してね! 僕は魔術師団第二師団、師団長、宮廷魔術師序列2位 爆炎のカザンって言うんだよっ! よろしくね!」


 ……カザン? こいつが噂の村人出身の宮廷魔術師なのか?


「エレノア、少し下がっててくれるか?」


「……そうですね。今回も結局私は何も――」


 それでも、宮廷魔術師というのなら、エレノアに任せる訳にはいかない。俺がこいつを始末する。


「その、あんまり気にするな。俺としては大切な人を守れる事は、寧ろ誇らしいくらいに思ってるからさ。」


「ん、どうしたんだい? 掛かって来ないのかい? 後3秒まっても攻撃してこないなら僕から攻撃しちゃうからね、いーち――」


 こいつがそんな事を呑気に数えている前から、俺はこいつの頭上に鉄の塊を生成しておいた。恐らく即死してしまう事になるだろうが、それくらいの覚悟はしているだろう、強者と戦おうと思っているのなら。


「おっと、危ないじゃないか、《ファイアーボール》」


 頭上の鉄に気付いたカザンは片手から炎の塊を放ち、巨大な鉄の塊が一発で蒸発させた。 は? まじで!? どういう火力してんの?


「ん? どうしたんだい? もしかしてこれだけで終わると思っていたのかい?」


「んな訳無いだろ。人殺しをするには抵抗があるんだ。だから少し手加減をしているだけだ。」


 これは本当だ。本気を出したら、一刀両断になってしまう。そうなれば、確実に助からないだろう。だから、出来る限りは無力化して終わらせたい。殺すにしても、自分の手じゃなく、金属の落下で殺すようにしておきたい。


「もうそろそろ待ちきれないから、いくよ? えっと、《エクスプロージョン》」


 ただの小さな火の玉。だが、やばそうだ、火の玉の周囲が歪んで見える。恐らく物凄い熱を凝縮させているんだ。


「《鉱物生成》」


 俺は大量の砂で鎮火しようと思ったが、作り出した大量の砂の一粒が火の玉に触れた瞬間、轟音を立てながら大爆発を引き起こした。


 砂がこっちに飛び散ってくる! くそっ! 判断ミスだ。


「エレノア、動くなよ!! 《鉱物生成》!!」


 即座に爆風と砂塵から身を守る為に、壁を生成する。俺とエレノアは無傷でやり過ごせた。


 しかし、砂が爆発によって吹き飛ばされて、後ろの館がボロボロに破壊される。


「あれは、大丈夫か……?」


「大丈夫だよ! 地下室に監禁している筈だからねっ! ほら、掛かってきなよ。」


 そうか、だがこいつとの戦いが長引くとどうなるか分かったもんじゃないな……


 俺がエレノアの近くに居ると不味いし、素手で顔を殴り飛ばすか。


 全身に魔力を再度供給する。これなら、多分あいつが知覚する間もなく、殴り飛ばせる。


 両足で、カザンの右側の空間へと跳ねる。そして、空中に鉄の壁を地面まで挿し込んで、そこを起点にもう一度跳ねて、後ろに回る。こいつが俺を見失うまで、これを続けて、そしてから殴れば、こいつは魔術師だ。恐らく一撃で片が付く。


「……もしかして、それだけで勝てると思ってるの? 早いだけじゃあ何にもならないよ? 《炎の壁(ファイアーウォール)》、ほらね。」


 そう言うと、カザンの周りを火の壁が覆った。


 はい、俺の作戦は失敗に終わりましたー。もう嫌だ。もういいや。面倒くさいわ! もう殺そう。出来る限り殺したくないと思っていたけど、一方的に襲ってこなかったからもしかしたら良い奴なのかもしれないと思っていたけど、しょうがない。


「悪いがお前が降参しないなら、お前を殺すしかない。降参してくれないか?」


「まさかっ! 出来るなら殺してみてよ! 君の本気を見せてくれよっ!! ほらっ! ほらっ! やらないのかい? それなら、僕の本気も見せてあげるからさっ!! いくよっ!! 《ファイナルエクス――


「《鉱物生成》」


 戦闘中に検証した限り、こいつの炎ではオリハルコンを燃やすことは出来ないようだった。

 だから、いつでも殺す事は出来た。


 カザンの後方に、糸よりも細い金属を回すように生成し、手に持ったオリハルコンの糸を、ただ普通の力で炎の壁ごと引き裂く。


 ただそれだけの動作で、カザンはスキルが発動する前に、胴体から下が切断され、地面に落ちていった。


「まじで!? いやー、これは凄いね! 参ったなぁ。降参だなぁ……あはははは!!」


 上半身だけの体で、死ぬ時になってまでもその雰囲気は壊さない所に、こいつなりのプライドを感じた。


 でももうこれで終わりだ。強かったよ、爆炎のカザンさん、殺さなければならないほど。


 ……今から助けに行きます。フローレスさん。

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