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第一章11 誘拐?

 夜、俺がありあわせの晩飯を作り終えて、食べようとしていた頃、


『ゼル君っ! お父さんが誘拐されたみたいなの! 助けに来て!!』


 随分と緊迫した様な声色でエレノアから救援要請《伝言(メッセージ)》が届いた。


 ……フローレスさんが他の商会に疎まれているって言われていたし、どこかの商会が輩に金でも渡して誘拐させたに違いない!!


 俺はネックレスに手を触れて、魔力を流し込み、《伝言(メッセージ)》を発動した。


『エレノアは大丈夫だったのか?』


『私は大丈夫だけど、私が帰った時に家にお父さんが居なくて、店員さんに聞いたら少し前に家に帰ったって言ってて。それで私……』


 帰宅途中に誘拐でもされたってことか? どうやって探せばいいのかは直ぐには分からないが、少し前ならまだ探し出す事も出来るはずだ。


『分かった、俺が出来る限り協力はするよ。取り敢えず今すぐそっちに向かう。場所を教えてくれ。』


『えっと、フローレス商会の裏手の所です……』


 それなら直ぐにでも行ける。随分と久し振りだが、体に魔力を流し込んだ。


 この状態になると頭まで活性化して、興奮状態になってしまうが、今はそんな事を気にしている余裕は無い。屋根の上へと跳躍してから、夕日に照らされている街並みを疾走する。


 どこか遠い所にでも連れて行かれてしまえば、きっとフローレスさんを探し出す事が出来なくなってしまう。


 そして直ぐにエレノアが立っている姿を視認出来た。


「ゼル君、えっと、私……」


 エレノアは胸を押さえて不安を押し殺している様子だった。無理もない、男としては慰めておくべきなのかもしれないが、今はそんな事をしている時間は無い。


「絶対に大丈夫だとは言えないが、それでも落ち着け。取り敢えず魔術師団を呼ぼう。」


「そんな事してたらお父さんを助けるのに間に合わないと思います!」


 そうか……確かにここに来るまでの時間に遠くまで逃げられる可能性の方が高いかのかもしれない。


「少し前ってどのくらい前なんだ? その時間でどれくらいの距離を移動出来ると思う?」


「多分10分くらいしか経ってないって言っていました。誘拐するには周りに気付かれないように馬車を使用する筈ですから、連れ込む時間を考慮すれば1kmくらいだと思います。」


 ここから半径1km以内の範囲に誘拐した奴は居るってことか……


 それなら、目立つ事を省みなければ、簡単に逃げ出せなくする方法はある。俺と気付かれる事は無くても、物凄く目立つことにはなるのは避けられないが。


 単純な事だ。誘拐に使う馬車を使って逃げるには道を使う。つまり、逃げられないようにここから半径1kmの距離まで俺が囲い込めばいい。それだけで、もうここから逃げ出す事は出来なくなる筈だ。


 大勢の人間に迷惑を掛ける事になるのは分かっているが、今はそれでも――


 大切な人を守る覚悟も出来ている。


 《鉱物生成》を使用して、フローレス商会がある地点から半径1km程を石の壁で囲いこむ。建造物もあるだろうが、その建物も低いところは飲み込む様に、少なくとも馬車を使用するだけではどこからも逃げ出せないように。


 それ程の規模でも無かった筈だが、それでも大地が揺れるのを感じた。


「あの、今の地響きはゼル君が?」


「あ、ああ、ここから半径1km以内を全て壁で囲い込んだ。これで逃げ出すの不可能になったと思う。」


 ……少し魔力を使い過ぎたようで、久しぶりに魔力が減少するのを感じた。それでも、オリハルコンのインゴットを生成する際に必要な魔力量の半分にも満たない小さな魔力だ。


「フローレスさんの居場所が分かる様な魔道具は都合よく無かったりはしないよな?」


「そんな魔道具は無いですけど、恐らくこの時間に馬車を走らせる様な人は誘拐犯以外に居ないと思います。もしそんな馬車が無ければ恐らくどこかの建物に隠れているのだと思います。」


 そうか、それなら何とか見つけ出す事は出来るかもしれない。


「じゃあ俺は今から行ってくる、エレノアはここで――」


「私も連れて行ってくれませんか? お父さんの安全をこの目で確認するまで安心出来ませんし、それにここに残っていたら私まで誘拐されるかもしれませんか……?」


 もしかしたらまだここら辺にエレノアを狙った誘拐犯が潜伏している可能性もあるか? それならエレノアを一人にするのも不味い、か。


 俺が一緒に居る限りは確かに守る事も出来るだろうし……


「分かった。でもあまり暴れない様にしてくれ。」


 俺はエレノアを片手に抱え込んだ。


「はい?」


 エレノアは理解出来ていないようだが、落下するまではまだ時間があるし、説明している時間も惜しい。


「飛ぶぞ。」


 魔力強化による身体能力で、空高くへと跳躍する。そして最高点まで達してから緩やかに自由落下を始める。


「し、し、死んでしまいますよ!! こ、これからどうするんですか!」


「大丈夫だ。空中に鉱物を生成して落下する前にそこを起点にジャンプをすればずっと飛んでいられる。降りる時も除々に降下して行けば良い。落下する鉱物も魔力を完全に抜けば砂状になる。」


「ど、どういう事ですかー!?」


「心配する必要は無いってことだ。それよりも、馬車を探してくれ、どこかに無いか?」


 ……幸いまだ日も暮れていなくて、探すのに必要な光度は足りてはいるが、それでも探さなければ範囲が広すぎて、咄嗟に見つけ出す事は出来そうにもない。


「遠くにゼル君が作った、石壁が破壊されている所が……あ、見つけましたよ!!! あそこです!! 丁度今、馬車が館に入ろうとしています!!」


 エレノアが指差す方向には、貴族の館があり、確かに馬車が開かれた門から入っていくのが見えた。


 フローレスさんを誘拐したのはどこかの商会では無くて、貴族……? 深く考える必要は無いか。


 石壁で逃げる事を不可能にするという作戦は失敗に終わったが、結果的には見つけ出せた。俺が作った石壁の向こうではあったが、強引に破壊してくれたおかげで寧ろ見つけやすかった。


 こうなれば後は簡単だ。


 あとは魔力を戻して砂に変えてから、あそこに直行して、フローレスさんを誘拐した奴らを全員ぶっ飛ばしてやる。


「エレノア、舌は噛むなよ、あそこまで飛んでいく。フローレスさんを助けに行くぞ。」


「はい、私も今回は戦いますよ。ミスリルで魔杖を作ってきましたから。」


 別にエレノアが無理して戦う必要なんて――そう言おうと思ったが、自分の父親なら自分が助けたいのが当然か。もし余裕があれば、エレノアに任せてもいいのかもしれないな。


 俺はエレノアを抱えたまま、空中で跳躍を繰り返して、貴族の館へと向かっていった。

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