レントゲンの魔法は?
遅れると言ってましたが、先に区切りがいいところまで書いたので載せます。
相変わらず、サブタイトル詐欺です。
気合を入れて聖堂に踏み込んだ。何か言いたげだが、シューの身分のせいかそれを飲み込んで、決まり悪そうな顔だけばかりだ。こちらも文句をつけたいところだが、ディーンが手を振ってこっちだという仕草をする。嫌だなと思いながらも、にっこりと笑ってディーンの元へ行く。彼の隣にアイザックが座っていて、シューと目が合うと嫌そうに目を逸らした。
「さっきはありがとう。助かったよ。」
「大丈夫です。」
ディーンがお礼を言ったことで、他の少年たちが気になって尋ねてくる。
「シューが光魔法が得意のようだから、俺の担当の患者を何人かやって貰ってたんだよね。」
「へぇ、良いなぁ!」
使えると言っても光魔法が得意ではない人間たちも多いから、この奉仕作業が苦痛だと感じる人もいるらしい。下手くそだと魔力の調整もできなくて、必要以上に疲労を感じてしまう人もいる。とは言っても(遠目から見た所感だが)、ディーンは光魔法が上手い方だ。無駄な魔力を使っている様子もなかった。だから、シューは勝手に勘ぐりしているのだ。
「…今日は余裕あったから。」
「次は俺も助けてほしいなぁ。」
「余力があったら。」
シューは苦笑いで返す。少年たちの楽しそうな笑い声が、シューは怖いと感じた。善意なのか、悪意なのか分からなくて気持ち悪い。座席に置いてある祈りの本を取って、読むふりをする。カーティスは何故かにこりと従者らしくディーンに笑った。
夕餉は味の薄いスープとパン、干し肉だ。ちなみに美代子の知識があるシューとしてはこの国のご飯は不味い。メニューはもっと豪華でも公爵家の料理でもそう思うから仕方ない。正しくいうと全ての料理がシンプルだ。ただシューの評価は現代と比較しての評価でしかなく、他国からの人はオルレアンの料理を絶賛しているらしい。エリオットJr.がそんなことを言っていた。
だから、ご飯を食べている時シューが微妙な顔をしてしまうのは仕方ない。料理の担当者には申し訳ない。焼きたてパンですら、使ってる小麦粉が古いからあんまり美味しくない。清貧だからとケチって古い小麦粉を使っているわけではなくて、新しい小麦粉は蓄えになっているのだ。じゃないと、いざという時に小麦粉が腐って食べれない。
「シューは好き嫌いが多いのかな?」
同席しているディーンが何気なしに聞いてきた。
「…違います。…食べるのが億劫なだけです。」
食い気よりも魔法の勉強、がシューのいままでだった。だから、そう言っても間違いではない。本音はおいしいと感じられないからだけれど。
「じゃあ、パン頂戴。ほら、俺成長期だから。」
「…半分なら。」
ディーンはひょいとシューの皿からパンを半分攫っていく。
「シュー、今日俺たちの部屋においでよ。」
皿の上が寂しくなった頃、ディーンはシューにそう言った。だが、シューはやはり魔法のことばかり考えていて、誘いには乗りたくなかった。だが、社会人の美代子が行けと言っている。いくらこちらの方が立場は上でも、神殿の中で彼らと敵対してしまえば困るのはこちらである。
「お邪魔ではないのなら、是非。」
カーティスが驚いたようだったが、何もいうまい。
シューも綺麗好きではあるが、片付けは得意じゃない。だから、カーティスが居てくれるから綺麗な状態を保っている。
男6人部屋、その言葉を聞いた時に恐怖する。しかし、ここは神殿。余計なものなど持ち込めないはずだし、毎日清掃の時間がある。美代子の予想よりは汚くないはずだ。
「入って入って。」
促されて入ると、男部屋らしい臭いが漂う。やはり毎日掃除しているから汚くないし、リネンも綺麗に毎日洗っているから全然綺麗だ。とある区画を除いて。
「あの角のベッドはなんであんなに…。」
二階建てベッドが3台あるうちの、一番右の端にある一階のベッドの上は何故か服や宝飾品が溢れかえっていた。
「俺のベッドなんだよー。」
「ディーン…。」
明らかに貴族らしい服やアクセサリーが置いてあったから貴族の子供なのは分かっていたけれども、あんな風に乱雑に置いたら絶対しわくちゃになってしまう。
「実家がね、舐められないようにって送ってくるんだけど、正直要らないじゃん?」
「クローゼット小さいですしね。」
「そう、片付けられないし、邪魔なんだよねぇ。」
「あんな風に置いてたら盗られません?」
「あー、なんだろう。雑に置きすぎて価値あるものに見えないからかなぁ、盗られたことないし、盗られても気づかないからねぇ。」
ベッドにこんなにものがあってどうやって寝ているのかと尋ねると、部屋の中で一番背丈が小さい子(9歳)のベッドに潜り込んでいるらしい。傍迷惑なお兄さんだ。
「よーし、シューも来たしカードやろう。」
ディーンは汚いベッドからさっとトランプを取り出す。
「汚い割にすぐ出て来ましたね。」
「こないだあれとこれ使ったからだいたいこの辺かなーってわかるんだよね。」
「無駄な知性…。」
「よく言われるー。」
部屋の子たちは呆れ顔だ。でも、ディーンがカードをやろうと言うと皆真ん中のベッドの周りに集まった。
「ポーカー?」
「ブラックジャック?」
シューに聞いてくるが、シューはどれもやったことない。普通なら神殿の子たちだってやる機会なんてないだろうけど、ディーンが広めているようだ。
「じゃあ、インディアンポーカーにしよ。分かりやすいし。」
と言われ、仕方なしに参加する。カーティスも誘われたが、彼は護衛だからと断った。隙を見て帰るつもりだったけれど、きっとギリギリまで付き合わされるんだろう。ライトの油は無いが、彼らには魔法があるから、そんなの関係ないのだ。
結局カーティスがそろそろ就寝しないと明日の作業に支障が出ると言って止めるまで続いた。
「あー、疲れたぁ。」
部屋に戻って、自分のベッドにダイブする。下にルルが居たが気にしなかった。
「お疲れ様です。苦手なのに頑張りましたね。」
「うん。頑張った。」
社交場に出たことのないシューにとっては苦痛だ。全く楽しくなかった、という訳でもないが、それ以上に緊張していたから疲労感が酷い。元々美代子の記憶以前にマトモに会話したのだって、アルバート家で魔導師としてシューに教鞭をとっていたミカくらいなのだ。
「これは独り言なのですが、シューを除くと少年たちの中で一番家柄が良いのがターナー伯爵家なんですよね。まだ神殿に権力があるとはいえ、ある程度力がある家ですと神殿に召使わす意味が薄いですから。」
「よく知ってたね。」
「ユーリ様に教えて頂きました。…思い出すのが遅くなりましたが。」
申し訳なさそうに彼は眉を曇らせた。
「もし、彼がここでお山の大将していたんなら、僕の存在ってちょっとウザいよね。」
「下衆の勘繰りかもしれません。」
カーティスは肯定しないで、笑って誤魔化した。
「高貴な身分なのになぁ。」
シューは口を尖らせながらも、耐えきれなくなって笑いとばした。
魔法なんて一朝一夕でできるはずはない。寝ているカーティスを横目に、フレダーマウスの目の構造を基にして魔法を作り出す。自分の手を光にかざして見てみるが、壁に影は映らない。
「は、上手くいってねぇじゃねえか!」
「…ちょっと黙ってくれないかな?」
「ギャハハ、明日…いやもう今日までに治すとか言ってたくせにぃ?」
「いざとなったら、従来の魔法でなんとかしてみせる。」
「そんなことしてあいつの足を壊さなきゃいいなぁ。」
ルルがニコニコと楽しそうに太い尻尾を揺らす。いつか痛い目に遭えばいい。
【…結局貴方の知りたいことは分からなかった、ということかしら?】
「光は合ってるはずだよ。」
光の中にうっすらと骨の影が写っているように見えなくない。
「更に映し出す何かが…。」
アンゲルフレダーマウスの脳は普通の虫と同じだ。
「…哺乳類の僕と虫のアンゲルフレダーマウスじゃあ、神経細胞の数が違う、とか?」
「なんだぁ、それ?」
「僕も虫はよく分からないよ…。でも、なんかそういう話を聞いたような、聞いてないような。」
でも、脳の形から違うのなら目の構造だけを真似して作った光では映し出せないのも納得だ。
「最初からやり直しぃ!」
そう言ってルルに手を差し出した。
「なんだぁ?」
「紙頂戴。昼間どっかから盗んできてくれたんじゃないの?」
ルルは嫌そうな顔をしながら、さっとなにもない空間から紙を数枚取り出した。
「これどっから盗んできたのさ。」
「デブの部屋だな。」
「デブって…。」
クラウス神殿長の部屋からだろうが、紙を盗んだ上に蔑称で呼ぶのが可愛そうだ。
「これ盗んだって騒ぎにならないよね。」
「俺様がそんな愚かなミスするわけないだろうが。ちゃんと管理表のところも偽造してきたぜ。」
さすが悪戯するためだけに人族に紛れる悪魔だ。変なところで小賢しこい。それにシューは救われているのが腹立たしい。
シューは解剖したアンゲルフレダーマウスの頭部を詳細に書き写して気づいた。マウスの解剖した時や人体解剖したときとは違う、頭部の一部がピンホールカメラのような構造になっているのだ。元々映し出すものではなく、彼らは観ることに使っていると知っていながら、忘れていた。
「やっぱり映すものがなきゃあ。」
人体の頭にそんなものないのはよく知っている。
「これって闇魔法の出番じゃないかな?」
闇魔法は毒や病気などの状態変化、または人体を他の生物に変化させることに特化している。ただここは光の神殿。
【貴方、バレたらどうなることか。】
「バレたらバレた時に考えるよ。」
【…知らないわ。】
「おもしれぇ!いつバレるか楽しみにしてるぞ。」
シューは見た目だけはそのまま変えることなく、頭のごく一部だけアンゲルフレダーマウス変化させることは簡単にできた。
「後は光で照らす!」
それから、光で自分の腕を透かすと今までの苦労が笑えるようにあっさりと、くっきり脳裏に映った。
「…なるほどー。」
「その魔法使ってる時目がキメェ。」
「え?」
「虫っぽい。」
闇魔法のように異形になる魔法は忌避されがちだ。シューの虫らしくなった目がどれくらいの人に受け入れられるのか不安だし、ルルに気持ちが悪いと言われたことに、美代子のなけなしの乙女心が傷つく。
「つーか、他の奴にその魔法教えてくれって頼まれたらどうするんだ?」
「勘でやってる部分が大きいから教えられない、でよくない?根性論の魔法と同じでさ。」
「お前がどうにかなるって思ってんならどうでもいいや。」
上手くいったのはこれだけだ。今更変えようとも思えない。しかも、今は深夜で眠気が襲ってきていて、もう深くかんがえたくない。散らばった羊皮紙を集めて、トランクの中に入れておく。カーティスにはどやされる気がするが、他にどうするか思いつかない。ルルに盗んだ紙のように隠してもらうこともできるとは思うが、彼は悪魔だからあまり弱みは握られたくない。
【シュー、片付けるの下手ね。】
【思ったこと伝えてこないで…。】
シューがベッドに飛び乗ると、自然と瞼が落ちてくる。
【ちゃんと布団被りなさい。】
母親のような彼女の言葉に空返事で返す。シューがそのまま布団を被らないまま寝てしまったのを見て、フアナはため息をつき、小さい嘴で頑張って少年に布団をかけた。
纏まりが無くてすごく不安です。