I'll be A HAPPY BOY .
IN summerrrrrrrrrrrrrrrrrrr って書きたかったタイトル。
その日は誰よりも母のディアナが浮足立っていた。
「パーティーは何がいい?」
エリオットJr.が困惑しながら、シューの前に立っていたのだ。
「お母様が…。」
今日はシューの誕生日。子供の誕生日パーティー、この国の貴族は子供の友人を招いてパーティーを開いて大騒ぎする。毎週どこかで誕生日パーティーが開かれているくらい、この国はパーティーが好きだ。
「…あの、何も嫌です。」
「クリスから、祝いのメッセージが届いたのだが…。」
エリオットJr.の従者が手に何か持っていて、エリオットJr.に渡すところをシューは魔法で奪い取った。飛び出すケーキが出るバースデーカードにアルビオンの言葉で誕生日おめでとうと書かれている。
「な、なんで?」
「これはジョーンズ伯からだが…。」
「ビル様のお父さん?」
「連名だが。」
両手で数えるほどしか会っていないのに、ジョーンズ騎士団長も送ってくれたらしい。
「それから、王女殿下から引き渡し請求撤回とともに祝いのカードが。レディ・ホワイトとからも来ているな。」
「さらっと一番大切なものが聞こえた。じゃあ、普通に戻れるじゃないですか。」
「戻るのは春からでもよいだろう。どこにアレクサンドラがいるかもわかりえない。」
先日アルビオン議会で正式にリース伯爵の爵位はく奪及びセバスチャン城に抑留が決定された。リース伯爵夫人は火の神殿預かりになり、リース伯爵家の遠縁が爵位を継いだ。バッドエンディングを阻止するためとは言え、アレクサンドラへのこの仕打ちはさらに追い詰める結果となったのは、シューには正しい選択だとは思えなかった。
「おい。」
「あ、はい。」
「パーティーの参加者は母とオズワルドだけだ。ダンスも狩猟もなし。これでいいだろう?」
「え…、はい。」
シューの前から去っていたエリオットJr.の後姿を見て、昔はアレックスが弟たちと穏やかに過ごしていたのだろうと思うと悲しかった。
母以外に浮足立っているのはカーティスだろう。奥ではフィリップが誕生日の祝いとはなにかとエリオットJr.から来た侍従に説明を受けていた。
「心の底から喜んでおりますから。」
シューは中庭のスノーマンの前でしゃがんだ。ニーナが形を残すために塩で固めて、キッチンメイドに氷の魔法が使える人が定期的に冷やしてくれているから10日ほど経ってもほとんど残っている。
「ミヒャエルを呼べば、夏でも生きているかもよ?」
シューが眺めていると、オズワルドが隣にやってきた。
「ハッピースノーマンにする必要はないです。」
「ハッピースノーマン?」
オズワルドの疑問を無視して、美代子は調子外れの歌を歌った。美代子の誕生日はどうだっただろう。大人になってからは親からおめでとうというメッセージが届くくらいで、盛大に祝われたのはいつでおわっただろうか。
「オズ兄様の誕生日は派手でしたね。」
「ちょうど社交期だったから、嬉しいことに人がたくさん来たね。」
「それを喜べる人って凄いと思う。僕は疲れてしまいますから。」
「うーん、楽しいけどね。シューちゃんは考え過ぎなんだよ。人なんてね、本心で好かれようか嫌われまいかどうでもいい。目の前で言葉を交わして楽しいかどうか、それだけさ。」
オズワルドは人づきあいに悩んでいた時期があったように思うが、今は前よりももっと気楽に人と付き合っていることが羨ましいけれども素直に尊敬できる。
「誕生日おめでとう、シュー。」
言葉にならない感情が押し寄せてシューは膝の中に顔を隠した。膝に生温かい雫で濡れてしまったが、一度それを許したら止まらなかった。
「ごめんなさい、オズ兄様。」
「ん?」
「僕も謝らなきゃあいけなかったんだ。」
オズワルドは先にシューに謝ってくれた。シューは謝る気にはなれなくて、ずっとオズワルドの優しさに甘えてきていたのだ。今までオズワルドを貶してきたこと、見下してきたこと、ずっと持っているのはもう苦しい。
「いいんだよ、もうずっと許しているよ。」
「…うん。」
それから、アレクサンドラへ。君が幸せな世界を奪ってしまってごめんなさい。
心の中で何度も謝った。
それでも、何度でも世界をやり直せたとしても、自分の幸せを投げ打ってもアレクサンドラの幸せを守りに行くとは思えなかった。
だから、何度も謝った。
ダンスもない、音楽会もない、狩猟会もない誕生日パーティー。普通の貴族がみたら、息子の誕生日にこんな寂しいパーティーなんて有り得ないというかもしれない。ただ母親と兄弟がシューの為に誕生日の歌を歌った。生まれてきてくれてありがとうと言ってくれたので、もう何もいらなかった。
プレゼントはシューの瞳と同じ色の晴れ着と、髪飾りのリボンなど、複数の衣装類。シューが王女殿下のお茶会で用意した衣装を気に入っていたというのが多く伝わったらしい。
「女子っぽい。」
どれもこれもかろうじて男性用の服の形をしているけれど、淡い色合いと薔薇の刺繍と大量のフリル。
「…お母さまも女性だ。女の子が欲しかったんだろう。」
エリオットJr.が目をそらし、オズワルドは似合う似合うと手を叩いて嬉しそうに笑った。
素直にありがとうとは言えなかったが、ディアナがくれた薔薇の刺繍が施されたマフラーを翌日朝一で中庭のスノーマンに掛けにいったのは、照れ隠しのようだが、もっとうきうきとした心持からだった。その一週間後同じ薔薇のマフラーを身に着けたスノーマンのぬいぐるみを貰って両腕一杯に抱きしめた。
カーティスがくれたものは、ヴァイオリンの音だった。夜寝る前、シューに物を贈ることはできないと謝りながら、シューの為にヴァイオリンを奏でた。きっと上手ではないのだろうが、音楽の感性はからきしのシューには十分感動的で、世界一のコンサートだった。もう一度と何度もねだってしまったが、カーティスは笑って何度も奏でた。シューと一緒に観客になっていたフィリップが、音楽とはすばらしいと感銘を受け、自分も弾きたいとカーティスに頼んでいた。
「平和には音楽がつきものだ。音楽!」
「フィルが弾いたら音楽に魔法が載りそうだ。」
「それはいいな。カーティス、もう一度頼む。」
「ええ、そろそろ寝るぞ。明日だ、明日。」
「そうだね、僕が本を読んでいる間練習していればいいよ。」
「それは仕事放棄だ。」
「僕が聴きたい。」
「そうか、一応侍女長に話してみよう。」
それ以降シューが屋敷で本を読んでいる隣でカーティスとフィリップが音楽を奏でる練習をしているのが普通となった。




