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これがゲームの世界ですか?  作者: 詩穂
救済
61/115

I wanna say I love you.

アンドリュー・ホワイト(20)

ヒロインの優しい兄


マリアン・ホワイト(14) 光属性

ゲーム『ザ・ストーリー・オブ・マジック』のヒロインと思われる人物。

強い光の力を持つ。

アンドリュー・ホワイト


 ホワイトという姓の意味は肌や髪色など容姿から来ていると言われているが、2人の容姿はあまりホワイトとは無縁だ。勿論苗字なんて先祖から受け継いだものだから、2人には関係なくてもおかしい話ではない。でも、シューは思う。もしかしたら、空欄ブランクなのかもしれないと。


 前回、3時間しか時間がないというのに兄エリオットJr.やシャルルが横槍を入れて大して進まなかった。カーティスを伴い慣れた足取りでシューはマリアンヌの書斎、現代の役割でいうなら居間に向かった。

「シュー、ご、ごきげんよう。」

 迎え入れたのはマリアンとマリアンの兄、アンドリューだった。マリアンの挨拶はぎこちないが、初めて会った時と比べれば大分変わった。

「マリアン、アンドリュー、こんにちは。」

 マリアンヌも王女として勉強しなくてはいけないため、偶にマリアンヌが立ち会わないこともある。マリアンヌがいなくても変わらず同じように光の魔導書を広げる。シューはマリアンの所作についてとやかく言わないが、いつもマリアンヌに口酸っぱく言われているせいか、スカートが広がらないように座った。

「マリアンはマナーを守ってて偉いね。」

「へ?」

 シューがマナーの先生が嫌いで何度も逃げた記憶がある。シューは生まれながらの貴族だが、マリアンはつい先日までスカートを翻して、鍬を肩に乗せていた農民が、素直にマナーを守っているのが凄いと尊敬していた。

「んー、王女様から無理強いはしないけど、これから生きやすくするためには覚えておけって言われた。マナー覚えれば、嫌になって城から出て行っても仕事見つけやすいって。」

 マリアンは子供ではない。正確な言えば大人に守られていた子供ではなく、生計をどうしたら建てられるかを考えていた若い大人になりたて。シューのように嫌いだから、面倒だから、必要なさそうだからと捨てたりしなかった。どうやらシューが彼女のことを見縊っていただけだ。

「確かに。マナーさえ身につけて、きれいな恰好していれば『貴族』だって勘違いする。後は文字さえ覚えれば、だね。」

「最近覚えはじめた。にいちゃんも一緒に!」

「1人より捗っていいね。アンドリューはここで働けることが決まったの?」

城で言葉を教えられているということは、下っ端であろうと宮仕えするものだと思ったからだ。

「勤め先は城で斡旋してくれるそうで、斡旋するからには教養を身につけろ、と。」

 喜ばしいことだろうと、勝手な貴族は思う。いや、貴族だけじゃなくて「他人」は勝手にそう思う。でも、偶然アンドリューはそういう人間じゃなかった。押しつけられた善意でしかない。

「まだ憤っている?」

「…それを言っても構わないのですか?」

「いいよ。ずっと燻られたままは嫌だもの。」

 シューが許可すると、アンドリューはポツリポツリ話始める。

 どうしてマリアンを見つけられたのか。どうしてマリアンだったのか。どうして連れてかなければならなかったのか。

 あの村から出なくたって良かったではないかと。

 シューは彼に納得いくような答えは持ち合わせていなかった。

「にいちゃんは俺が村を出るっていうの嫌だったのか?」

「そこは嫌じゃない。マリアンが自分で決めたことは俺は喜ばしいことだと、思う。」

 シューよりもアンドリューの吐露に驚いたのはマリアンだ。何しろマリアンは少しでも兄の負担を減らしたくて、あの村を出る決意をしたのだから。でも、アンドリューが言っているのは、シュー達が連れ出した件で、マリアン本人の意思に関して最大限の尊重をしているのだ。そうでなかったら、もっと彼は力ずくで止めたはずだ。

「この世界は貴族が全てを決めている。それだけだと諦めを進めるべき?」

 マリアンは複雑な顔をしたまま、アンドリューの納得する答えを導き出せないシューは逆に尋ねた。納得できない人に更に疑問を提示したってさらなる怒りを買うだけだと分かって言った。シューの疑問には答えず、アンドリューは憤りと哀しみと諦念を持ってシュー を見つめた。

「俺には可愛い妹だけどマリアンはただの『田舎娘』だよ。」

「会ったばかりのアンドリューには分からないだろうけど、僕は神殿の仕事が大切なんだよ。ただの田舎娘にその仕事の時間を減らすわけないでしょう。」

 シューのことを知らない人間にそんな説得はなんの効果も持たない。だが、シューではなくたって、マリアンに王太子や王女殿下が直接話しかけている時点でただの田舎娘ではないとアンドリューだって分かってはいる。それでも言いたかったのだ。

「マリアンを見つけたのが精霊の啓示というのなら仕方ないんだって分かるよ。人族は精霊に庇護されなければ生きていけないんだって。」

 その敬虔さはどこから来るのだろう。

「アンドリューも精霊の声が聞こえているの?」

 漸く尋ねられたのはそれだけ。しかし、アンドリューは首を振った。美代子が神に熱心ではなかったから、シューには精霊が身近すぎたから、超常の存在の啓示など何の疑いもなく肯定することはできなかったが、彼はシューではない。

 宗教は元は弱者のための生きる道だったはずだ。弱者とは貧富ではなく、精神が不安定な人間が拠り所とするためのもの。それを思い出した時、シューの考えは真っ向から否定された。

 唐突に光産まれがいるとマリアンを迎えに行く口実にマリアンヌがオケアニスの預言だと発していたのは、この国の人間はシューの想像よりもずっと深く精霊を信じていたからだ。

「でも、精霊様を憎んでしまいそう。」

 真に憎まれるべきはシューとマリアンヌだけれども、シューはこの世界の精霊が、人族を気にかける素晴らしい存在であると共に贔屓と自己満足の体現者であると知っている。少しくらいシューとマリアンヌの責任くらい背負って貰ってもいいだろう。

「それで前を向けるのなら、そうして。」

 アンドリューはああと諦観したように頷いた。シューの兄エリオットと同い年だが、背負うものが違うからか幼く見えた。いや、エリオットJr.が妙におじさん臭いだけかもしれない。

 

 暫く勉強してから、短くではあるが休憩時間を取った。シューは勉強中は弱音を吐いてはいけないが、休憩になった時は何でも言っていいというようにマリアンにルールを決めたが、マリアンは疲れたというくらいしか悲観的な言葉を吐かなかった。それどころか、文字の勉強を始めたマリアンは最近読んだというお伽話の感想を話し出した。

灰被り姫(シンデレラ)の姉ちゃんたちは、腹立つけど、どうして目を潰されたり踵を削られなきゃあいけなかったんだ?」

「踵削ったのは継母の下らない欲望のせいだから、『いけなかった』とは違うと思うけど教訓だから、人を蔑み、人を虐げると目を潰されるぞという脅しなんだ。」

「赤い靴を履いた子はなんで足を切られなきゃあいけないんだ。」

「盲目の優しいお婆さんを騙したから、だよ。」

「でも、ちょっとかわいいものを履きたくなったつていうだけだろ。灰被り姫(シンデレラ)の姉ちゃんほど酷いことしてねえのに。」

「そうだよね。僕も同意見だよ。」

 流石未来の勇者、聖女だ。意見が先進的だ。この世界は美代子の世界ではない。文化は中世から近世というように古く、それに伴い価値観も古く、罪人の処刑がこの世界では未だエンターテインメントなのだ。首吊り、火あぶり、串刺し、股裂、その他様々。シューは一度屋敷を抜け出して見たことがあるが、美代子でなかったその時も狂っているのは罪人なのか、市民と呼ばれる大衆なのか分からなかった。かつて先進国と呼ばれる国に住んでいたマリアンヌやシューはそれが絶対におかしいと思えるのは普通だが、この世界になんの疑いもなく生きていた彼女がそう思えるのは凄いことだ。

「マリアンのその考えが多くの人を救うと思うから、大切にしてほしい。」

「ありがと、いつもシューは俺のこと褒めてくれんな。」

「…僕もまた精霊の掌の上の人間で、運命に執着しているだけだよ。だから、君には気持ち悪いかもしれないけど。」

「そうは思わねえよ。凄え嬉しいんだ。なかなか褒められたことねえしな。」

 褒め言葉を素直に褒め言葉と受け止められるということだけですらも、シューには眩しいものに見えた。シューも褒められたら嬉しいし、やる気だって出てくるものだが、同時に下心を探ってしまう。

「でも、一番はシューが心の底から褒めてくれているって分かるから。」

マリアンの真っ直ぐな言葉が恥ずかしくて目を逸らす。

「アンドリューの褒め言葉よりも?」

「にいちゃんのはにいちゃんで、シューのはシューだな。」

「冗談、アガペーには敵わないって知ってる。」

「あがぺ?」

「それを僕たちの国の言葉で訳すのは大変なんだ。簡単に言えば同じLove()なんだけど…よくいうのは無償の愛、自己犠牲的な愛。」

 マリアンは魔法の勉強よりもずっと難しそうな顔で唸る。

「難しく考えんなぁ。そんなに愛しいっていう気持ちを細かく分けて考える必要があんのか?」

「必要性じゃなくて、分けたいから分けただけだと思うよ。ほら、友達への愛と家族への愛と恋人への愛、全く同じ感情って言い難いじゃない。同じ愛しているじゃ困る人はいるんだよ。」

 口を尖らせながら考え込む彼女にシューはクスクスと笑いながら、再び魔導書を取る。もう少し彼女が読んだ話も気になるが、教える方が彼女の勉強する時間を奪ってはいけない。

「緊急性のある治癒魔法なんだけど…。」

「緊急?」

「5分〜10分以内に処置しないと死ぬ。」

「い、今からやるのか?!」

「いやいや、これは実践の中で身につけるしかないし、緊急性の無い怪我や病気で少しずつ学んでいくしか無いよ。」

「シューはそれが得意なのか?」

 アンドリューが見守りながら、光魔法の練習を続けていた時だった。王城とは基本的に静かであるべきである場所で、静かであるのだが、バタバタと人々が駆けていく音が広がった。

「侵入者でも入ったかな。」

 シューはこの場にいるカーティスと部屋付きのメイドに目配せをした。カーティスやメイドは厚いカーテンをめくり、外の様子を確認するが特に変わったところを見つけることは出来なかった。

「なんだろう、ここは騎士団の中でも近衛兵だから、知り合いいないしなぁ。」

 近衛兵は要人護衛とは聞こえがいいけれども、王侯貴族が連ねる、おぼっちゃま集団。王国の顔も務めるから、見た目もいい男たちばかりだ。エリオットJr.も家柄、容姿共に選ばれてもおかしくはないが、彼はその道を蹴ったらしいと、シャルルが残念そうに話していた。

 数人の足音が部屋の前で止まり、シュー・アルバートが部屋にいるとは思われていないほどの力で扉を叩かれたが、「シュー・アルバート卿」とマリアンヌの代わりにシューを呼び、近衛兵であると名乗ってから入室許可を求められる。その声はとにかく焦燥していて、死にそうだった。カーティスが警戒しながらも部屋の戸を開けた。

「ご無礼をお許しください。実は。」

 扉を開けた瞬間入ってきた近衛兵が話し出した用件をシューは理解するのに時間がかかった。


ーーー王女殿下が毒蛇に噛まれて重体です。


 マリアンヌがどこにいたのかはシューも知らない。だが、王宮内に居たのは間違いなくて、何人もの護衛と側仕えがいるのに、何故マリアンヌが咬まれているのだ。まだマリアンヌが死ぬのは早すぎるし、シューは何もしていないのに。

「王女様が!」

マリアンの大きな声で、シューは現実に引き戻された。

「…早く殿下の元へ連れて行ってください。」

「こちらです!」

「マリアンも!」

「しかし、シュー・アルバート卿、この者は…。」

「マリアンも光の魔道士だよ!さ、速く!」

 近衛兵はマリアンの存在を受け入れがたいようで躊躇っていたが、シューが捲し立てると、嫌々そうにこちらですと案内を始めた。

 マリアンの顔はいつでも倒れそうなくらい青ざめていた。この城で唯一彼女を気にかけていたのはマリアンヌだ。マリアンヌの私室を出ると、城内はオフィシャルな空間しかない。足の引っ張り合いの戦場(社交場)だ。だから、マリアンが外に出る時、何があっても庇えるマリアンヌが付き添っていた。マリアンヌの気遣いが分からないほど、マリアンは愚かではない。

ーーーお願い、助けて。

 シューの元に聞こえてきた美しい声。

 誰の声ともつかなかった。ただ一つ、二度もマリアンヌを殺したくはない。



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