Lord Albion,Eliot Jr. ALBERT
エリオットJr.・アルバート(18) 土属性兼火属性
シューの兄 次期アルビオン公爵
シャルル・ド・オルレアン(16) 水属性
マリアンヌの兄 次期オルレアン王国国王
マリアンを連れて帰ってきてから、シューの1週間のルーティーンに1つやることが増えた。週に2回、光属性のマリアン・ホワイトに光魔法を教えるということだ。原作でマリアンに文字から魔法の使い方まで教えたのは、途中まで水先案内人だったシューだ。シューは現実でもそういうものだと思っていたが、普通に考えて12歳の子供が(この世界の成人が15歳ということを加味しても)、この世界の勇者又は聖女となる娘の教育係になるのはありえないことだった。宰相閣下と王女殿下の根回しによって漸くこの週2回、1日3時間の予定が設けられたのだ。たかが168時間中の6時間だったが、これが大変だった。神殿の朝は夜明け前から始まる為、昼食の後に昼寝の時間が設けられているのだが、この時間が王宮へ向かう時間に組まれてしまっているからだ。これによってシューだけではなく、側仕え2人も大変な為疲労を溜めないためにカーティスとフィリップ2人で交互に休憩を取るようにしたくらいだ。シュー自身はそのマリアンの勉強時間が終わって神殿に帰ると何もせずに寝るのだ。
しかし、今日も光の神殿では多くの命が失われていた。懸命に生きさせようとしている魔道士達を横で死神が嘲笑っているようにすら思う程に、感染症は猛烈な脅威を払った。
シューなら助けられたかもしれない。ディーンがそう言ったように、シューもまたあの死んでいった命たちは助けられたかもしれないと思いながらマリアンの元へ向かうのだ。
「神殿に迷惑かけてばかりですね。」
午前の奉仕作業が終わり廊下でばったりと会った、クラウス神殿長の秘書アレンに申し訳なさそうに言った。
「いいや。なんだかんだ言って1週間合計してもシューが一番人を治しているから、迷惑と言うほどじゃない。それに君はアルバート公爵家の人間なんだからやるべきことはやらなきゃあ。オルレアンの神殿で病人を治癒するよりもね。」
この神殿長の秘書アレンは家からの見合いを断って、貴族の家から縁を切られていた。ある意味シューにとって家を出るという点では先輩だった。現状シューは家を出ることは叶ってないが。
「アレンはどうして貴族の家を捨てられたの?」
「シューは自活していく実力もあるのにどうして見切りをつけないの?」
シューは父親が嫌いだし、義理の母は会ったことなくて怖いし、兄2人は信用しているところもありつつ、嫌悪感や不信感は完全には消えていない。ネグレクトしていた家族に通す義理もないし、シューには逃げ出す力があった。しかし、していない。
「この地位は貴族だったからいられたけど、今はもう必要ない。見合いを蹴ったというより、僕は家が嫌いだったからここにいるんだ。単純だよ。」
最初こそこのアレンという男は穏やかで面倒見がよくできた人間だと思っていたが、数ヶ月友人と呼んでみて、彼はとてもドライかつシンプルで、だがとても複雑だと気付いていた。このアレンの答えは彼なりにシューに対して誠実であるのだと感じたシューも誠実に答える。
「少し前までは家族に復讐する気でいたんだ。復讐するにはあの家にいたほうが確実だったからあの家にいた。今は、正直分からない。」
「少なからず、公爵家に愛着が出てきているのなら捨てない方が後悔しないんじゃない。」
「捨てることを選ばないということにも後悔しているよ。だから、アレンに話しているんだよ。」
「脇目も振らず捨てることしか考えられなかった僕に言われてもなぁ。捨てないことを選んだことにも、後悔してないのならそれで良いんじゃないの?それとも僕に神殿一本に絞ったほうがいいって言われたかったかな。」
「意地悪。」
シューもわかっている。出来る限り神殿で尽くしたとして、「自分は一所懸命滅私奉公して頑張ったから、救えなかった人たちは仕方ない」という言い訳が欲しかったのだ。
「シュー、僕はね。神殿の人間としては有り得ないけど、こういった病が流行は精霊が人間を減らして世界を浄化するためだって思ってるんだ。」
だから、人は死ぬものなんだと諦めているとアレンは言う。
「最低な事を言っているとは自覚しているけど、シューには『今生きている人間』よりも『未来で生きていく人間』を大切にしてほしい。」
目の前の「今」より「未来」。
アレンの言う通りだ。「今」を対処できる人間は多いけど、「未来」を見据えて行動する人間は限られてくるのだから。公爵家三男という立場なら「未来」を目指して生きるべきだ。
アレンの声援を刻んでから、シューはマリアンとマリアンヌが待つ王宮へと向かった。
マリアンヌの書斎、といっても本だらけの部屋ではない。言葉は書斎であっても実態的には居間と称した方が分かりやすい。ローテーブルに落ち着いたソファに、ピアノも置いてある。
「よ、シュー!」
嬉しそうにシューに駆け寄ってくるのはマリアンだった。シューが来る時はレディ教育ではなく絶対に光魔法の修練だから嬉しいのだろうけれども、マリアンが来てから1週間は過ぎ去ったが、駆け寄ってくるということはまだレディ教育は進んでないのだろう。今日もコルセットの服は着れなかったようだ。
「レディ・ホワイト、殿方に駆け寄らない。シューは美人ですけど紳士なのですよ。」
マリアンヌは深くはあとため息をつき、マリアンはびくりと肩を震わせた。
「マリアン、アンヌは決して君が憎いわけじゃないし、嫌いでもないよ。この国を一番に憂いているだけなんだ。」
シューが諭すように言うと、マリアンはスカートを持ち上げてぎこちなく頭を下げた。
「ご、ご機嫌よう、シュー。」
必死になって貴族のように挨拶をしたマリアンに、シューも貴族の男子として手を取って挨拶をする。慣れていないマリアンはかああと頬を赤くした。
「な、慣れねえな。」
「数こなせば当たり前になって来るよ。」
マリアンは2つも年上だし、シューは背が低い方だから、目線は上だが、萎縮しているせいか自分より小さく見えた。
マリアンヌとマリアンと一緒に座り、光の魔導書を開いたところに、来訪を告げる声があった。
「やあ、進んでいますか?」
シャルルがエリオットJr.を連れて訪った。シューは少し驚きながらも挨拶をした。
シャルルとはパーティで既に顔を合わせていたが、エリオットJr.とは初めて会ったマリアンが首を傾げ、マリアンヌが慌てて紹介した。
「レディ・ホワイト、この方はこの国一番の領主のアルバート家ご長男、エリオットJr.・アルバート伯爵様ですよ。」
王女殿下に紹介されたエリオットJr.は恭しくマリアンに頭を下げる。空気を察したマリアンもマナー教育の先生が教えてくれた言葉をなぞるように挨拶をした。
「シャルルさんと、エル兄様如何されました?」
「ああ、ごめんね。どのようなものかと気になったものですから。」
「俺は勤務中だ。シャルルのわがままでな。」
「なんですか、リオだって気になると話していたじゃないですか。」
シューは2人の思考の流れが読めた気がした。大方シャルルにエリオットJr.がマリアンの魔法訓練が気になるような素振りを見せ、シャルルが護衛の代わりと無理を言って騎士団からエリオットJr.を連れてきたに違いない。
「お好きなところでどうぞ。」
深くはつっこまない。無駄に弁のたつ2人に、言葉で戦うのは面倒臭い。シューは2人の視線からマリアンを防ぐように立った。
魔法を教えるのなら、理論や言葉と言った基礎から始めるのが普通だ。しかし、まだ言葉や文章理解なんてできていない彼女にそれから教えるのは周り道だ。それは普通の家庭教師に任せるべきだ。シューが教えるのは光魔法のみ。
「はい、また光魔法の基本中の基本、小さな光で周りを照らしてみよう。」
「こないだもやったな!」
「こないだの君と現状君は全く同じの体調かな?コンディションが変わっても一定の力を出せなきゃ魔道士にはなれないよ。それに自分の体調が分からない人間が他人の体調なんて分からない。光の魔道士になるならそれも頭に叩き込んで。」
これができている人間が何人光の神殿にもいるか。医者の不養生とはよく言ったものだが、美代子の世界の医者とは違う。魔法のクオリティは術者の体調にも左右されるからだ。そのクオリティは光の魔道士あるいは魔術師にとって、命を助けられるか否かに影響を与える。
「む、難しいな。」
「昨日何していたのか分からないけど、こないだとは違って睡眠不足だね。」
「こないだ来た時、どんなだったか覚えてねぇ。」
光で照らして見せたというのは、マリアンだって覚えている。だが、どのようなものだったか、とは覚えていなかった。横から見ていたシャルルが口を出した。
「シューはスパルタなんですね。」
「僕はアテネの方が好きですね。」
シャルルが振ってきた会話を簡単に流す。王太子殿下に失礼ではあるが、シューはこれでも必死なのだ。茶々入れて欲しくない。
シューは見本のために魔法を発動させて光で辺りを照らす。それを見ながらマリアンは同じように光を作る。マリアンは地頭は悪くない。すぐに人(師)を真似てできるのだから。
「あとはブレをなくすだけ。マリアンはもともと簡単な治癒魔法が使えるから、マリアンヌの肌を治してみようか?」
「え、私の肌?」
マリアンヌの肌は丁寧に手入れされているから、凄く綺麗ではあるが、この世界でできることは限られて来る。
「額と髪の毛の間くらい、痤瘡ができてるよ。これも治癒魔法で治せるから。」
「おお!」
「これができれば、貴族女性相手に相当稼げる。と思っていれば、怖いもの無し。」
そして魔法自体はとても難しいものでもない。だが、どうやってその金を払ってくれる顧客にたどり着くかは難易度高いし、治癒魔法をそんなことに使うなと倫理的批判もあるはずだ。
「シューは稼がないのか?」
「僕はとりあえず衣食住と魔導書さえ手に入れば問題ない。それに僕は男だから、貴族女性と会うのはスキャンダラスだよ。」
「もしかして俺もシューと会うのにそうなったりするのか?」
「なるだろうね。」
その衣食住と魔導書という要件は中流階級以上でなければならないのだが、この世界では簡単ではないということを美代子もシューも分かってない。ただ12歳という若い年齢であっても、上流階級であるシューもそのスキャンダルの面倒さの一端は分かる。
「リオにはシューをアルバート家から出す予定でもあるのですか?」
「俺にはない。それから父もな。」
シューとマリアンが魔法の練習をしている横で、聞こえないようにシャルルは耳打ちをした。
「誤解しているなら解いたほうがいいのでは?」
「そうだな。雄弁な父も俺の前では全く話もしないしな。」
エリオットJr.の名前の元の主である父エリオットはシャルルに対しては厳格でありながらも穏やかで優しい場面もあるというから、アルバート兄弟には驚きだ。
「円滑な組織運営について、会話が重要だと話した人には思えませんね。」
「仕事とプライベートを9.9:0.1で生きていた人だ。仕方ないのだろう。」
「リオも人のこと言えないですからね。」
「ああ、悪いところばかり似てしまったようだと、最近になって反省している。」
親しい人の前でお手本のような笑顔は見せず、鉄仮面のように顔色を変えないエリオットJr.だったが、この時は仲のいいシャルルの前ということもあって少しだけではあったが、バツの悪そうな、罪悪感を抱いたような顔をしていた。
「初めてシューを見たとき、まだ産まれたばかりで真っ赤な子供だった。それなのに俺は怖かった。理由など分からない。珍しく父が抱き抱えていたせいか、あるいは底知れない魔力でも感じたのか。隣にいたノーランド女史が悲しそうだったからか。」
エリオットJr.は執事見習いのユーリや親友のクリストファーにも言ったことがない弱音だった。シャルルもなかなかこの男がネガティブな発言をしないのを知っているから、真面目にうんうんと頷きながら聞いていた。だが、最後に零した言葉は彼には引っ掛かった。
「ノーランド『女史』?」
エリオットJr.はつい仲の良いシャルルに対して気が抜けてしまったようで失言に気づいた。こうなってはシャルルに隠すのは難しい。
「…エリザベス・ノーランド女史。アルビオン魔法研究所で働いていた、シューのナニーだった女性だ。4年前に逝去している。」
「研究所の研究員からナニーにるのは珍しいですね。」
研究員から専属保育士、なかなかない経歴だ。エリオットJr.はシューに背を向けて話す。
「エリザベス・ノーランド女史は謀計によって研究所を追放されたところをタウンハウスの方で保護しただけだ。」
「へぇ、随分ノーランド女史は大事にされていたようですね。」
「…母と仲良かったからな。」
エリオットJr.とシャルルの背の向こう側でマリアンヌの嬉しそうな声があがる。マリアンの魔法が上手く発動され、マリアンヌの肌が見違えるように綺麗になったらしい。シャルルのもとに来たマリアンヌは思慮深い彼女とは思えないほど声が弾んでいた。
「お兄様、見てくださいな。」
元々綺麗だったマリアンヌだから、女性の肌になんて疎いエリオットJr.には何も変わらないように見えたが、シャルルはその頬に触れておおと驚きの声を上げた。
「凄く肌質が良くなっているね。」
「これならシューちゃんにだって負けてないです。」
マリアンヌは楽しげに息巻いている。名前をあげられたシューはどうかなと揶揄うように笑う。
「アンヌもこうやって神癒魔法練習すればいいよ。病気を治す治癒魔法と違って、怪我の治癒魔法は失敗すると大事故だから研鑽は大事。」
外傷という分かりやすい場合の治癒魔法は簡単だか、その分失敗したときリスクがある。骨折も治すのを失敗すると骨が変形してしまうこともあるから慎重にやる必要があるのと同じだ。
「そうだったのですか?」
「まあ、骨折や腕が取れたとかでない場合は範囲回復でも治せるくらいでミスするほうが難しいから分からないよね。」
「へえ。」
「マリアンにはよく聞いてほしいけど、治るからって無駄に魔力を消費しない。さっきの見る限り同じように傷が治っても、僕の2倍以上消費が激しいよ。」
「なんでそんなのわかんだ?」
数ヶ月前にあったアルビオン魔法研究所の研究員エディは魔力測定器の研究はほとんど進んでいないという話をしていたことを思い出した。
「…感覚?」
魔力は視覚では捉えられない。光魔法を発動しているというときキラキラと輝いているが、光量は使用魔力とは比例しない。
「それは俺も気になるな、シュー。アルビオンの研究員セオが魔力の数値化という難題に頭を悩ませているから、その感覚は突破口になり得る。」
分かりづらいが、エリオットJr.の目が輝いている。クリストファーやシャルルは見たことがあるのかもしれないが、シューは初めて見たので少しばかり動揺した。
「なんだろう、これ。温度や圧力かな。」
「圧力計は10年前くらいに発明されたな。まだ安定していないようだが、そろそろ次ができるだろう。」
「あはは、流石リオ。こういう話好きですね。」
「ああ、無性に感情が湧き立つ。」
この人も生きているんだなと変なところで感じる。完璧主義者で親しい人には鉄仮面で、どこかシューはロボットのように思っていたが、楽しそうに笑う彼が人間だったと思い直される。
「エル兄様、手を出してください。」
「あ、ああ。」
シューは手を握ると、彼の手に回復魔法をかける。前にも彼には魔法を使ったことがあるが、シューの言っていることが彼にも伝わるかもしれないと思ってのことだ。
「…手も疲れるんだな。」
「それよりもどうですか?虫がついたくらいの力だとは思いますが。」
「回復されているという感覚が強すぎて分からないな。どれが魔力だ。」
「さぁ。兄様が感じているのは兄様しかわかりえませんし、言葉では伝えきれません。」
あのエリオットJr.が不思議そうに首を傾げている。知らないものはないとでも言うような雰囲気とは全く違っていて、シャルルは噴き出しそうになるのを必死に抑えていつもの微笑みを浮かべる。マリアンヌには悟られているようだけれども。
「チャーリー、お前も受けてみろ。」
「ノン(Non).無理です。」
分からないのなら仕方がないとシューは再びマリアンの元に戻った。シューが話したいのは魔力の数値化の話ではない。ただマリアンの力を無駄に使わないでほしいというだけだ。
「ほら、マリアン、おいで。」
マリアンの頬にできている赤い痤瘡を治すと、マリアンはああと感嘆と驚きの声を上げた。
「分かった!あつりょくとか、温度とか分かんねぇけど使う魔力が少ないってのは分かった!」
自分が分からなかったことをこの田舎の少女がわかったのが驚きと少しの悔しさもあってエリオットJr.は尋ねた。
「なにが違うんだ?」
「俺のはどわぁぁって感じで、シューはすうーって感じ。」
シューが言葉で伝えきれないものをマリアンが伝えることはできるわけがなかった。
「マリアン、兄様に回復魔法かけてあげて。」
「え、俺がか?」
「うん、比較対象があれば兄様も分かりやすくなると思うよ。」
「かいふく、ってガァってなるやつだろ?」
「ごめん、君の主観的な言葉を僕は適切に解釈できない。」
あまり言語能力については良くないが、ある種マリアンは天才だった。彼女は感覚を掴むのが上手い。シューが先ほどエリオットJr.にかけた魔法を彼女にかければすぐ理解する。
そうしてマリアンがエリオットJr.にシューと同じ魔法をかけると、エリオットJr.は感慨深そうに頷いた。
「シューが言いたいことがなんとなくではあるもののわかった。はっきりとまでは分からない微細な差だがな。」
「これでアルビオン研究所がさらに活発になったらいいですね。」
シューは研究員エディを思い出しながら、研究所を大事にしている兄への想いを考えて言った。しかし、隣にいるシャルルは苦笑いだった。
「あまり活発になりすぎると、近隣の領地から恨み買いますよ。」
シャルルが言っている意味が分からずシューとマリアンはつい王太子に反論するように疑問を投げた。
「え、何でですか。」
「けんきゅーって進めばいいんじゃねえのか?」
「ええ、素晴らしいことですよ。しかし、人というものは愚かなのです。力のあるものを『羨ましい』と妬む。それが原因で破滅する人はよくある話です。」
実際にアルビオンの現状は、良いものばかりとは言えない。今オルレアンの多くの地域で不作に喘いでいるのに、アルビオンは一部を除き豊作だ。それが原因でアルビオンがオルレアンを侵略する陰謀だという話が多く流れている。王都ではアルビオン三男のシューが多くのオルレアン人を治していることによって、アルビオンを疑う人は他の地域よりは少ないが、それでもエリオットSr.の失脚を望む声はそれなりに存在する。
「…高い木は多くの風を掴みますからね。」
シューもそれは分かるが惜しいと思う。元々土壌がオルレアンよりも豊かなのが原因で陰謀なんてない、それはこの国の王太子シャルルもわかっている。
「そう、良くも悪くもね。不安を減らそうとオルレアンの王立魔法学院と共同研究してはいるんですよ。私はアルビオンと他国にはなりたくないんですけどね。」
「ああ、それは俺も望まない。アルビオンの経済はオルレアンによって発展しているからな。」
「私と仲が良いからが理由ではないのが寂しいところですね。」
残念だと冗談のように言ってはいるが、シャルルの言葉は本気だった。シャルルの言葉に大袈裟に肩を竦めるとエリオットJr.は部屋の隅にあった1人がけのソファに腰かけた。
「その理由は許されないのだから、違う理由はたくさん作っておくべきだぞ。そんな事を冗談でも言っているから、セルジュを推す人間が出てくるのだ。」
参政権などないこの国の平民であるマリアンは2人して何を言っているんだと頭を捻っていた。もし、彼女がこの2人のどちらかと恋愛するようになるのならば彼女も無関係な話ではない。
「はぁ、偉え人ってなんだかいけすかねえって思ってたけど、なんつーか、難しいんだな。」
「そうだね、僕も願わくばエル兄様がさっさと結婚して子供を産んでって思う。そんな難しいことに関わりあいたくないから。」
「お前は俺に対して冷徹だな。」
エリオットJr.の人生を一ミリたりとも慮らず、ただ自分の欲望のみを伝えると、エリオットJr.は呆れた。
「だって、僕は嫌いな人に笑顔は向けられないから。」
「慣れだ、慣れ。とは言っても、もし俺もオズワルドも死んでお前が爵位を受け継いだら、アルビオンは滅亡を辿りそうだから足掻くがな。」
「病気になっても、腕ひとつ、足ひとつ切り落とされても、生きてさえいれば全て元どおりにしてあげますから。」
それはエリオットJr.の献身にも聞こえなくはないが、そうではない。エリオットJr.の友人であるシャルルやクリストファーのように、エリオットJr.へ気遣う優しい言葉はなく、飾らないシューのエゴ。重圧もなく気楽でいいなという羨望と嫉妬もないわけではないがそれでいい。
「お前の自由を守れるくらいの力はある。」
だから、自由を着飾った振りをして悲しまなくていい。
エリオットJr.の言葉にシューは動揺した。エリオットJr.は功利主義だから、治癒魔法の使い手であるシューの存在は社会にとって最大幸福を得るのに重要だと思考する彼が、シューを捨てることはないと知っていて、エゴを吐き出した。しかし、シューの利己主義的な所は彼の最大の敵だ。非難されるべきで、彼には否定されると思っていたのだ。
「あ、ありがとうございます。」
シューの自由を守るということにぎこちなく答える。
「なんで、シューは兄弟なのにそんな畏まってんだ?」
シューとエリオットJr.の会話は難しくて分からなかったが、マリアンは思った事をそのまま口に出した。シャルルとマリアンヌはお互いに丁寧に話しているけれども、そこに堅苦しさはないからマリアンの目には浮いて見えるのだ。それはマリアンヌもシャルルもここにはいないクリストファーたちにも分かっていることであるが、誰も言わなかったことだった。
「王女様もそうだけど、クリスさんやグイードさんとはもっと仲良かったように見えたから、なんでかなって思ったんだ。」
シューは何をいうか迷った後、
「クリスさんやグイードは他人だから。でも、兄様は、兄弟だから。」
と答えた。マリアンには謎謎のようで難しかった。他人だから畏るというのがマリアンにとっては普通だし、兄弟だから素直に甘えられるものだと思っていたからだ。
「レディ・ホワイト、それでいいんだ、我々は。」
「え、あ、はい。よけえな口出しだったな。悪りぃ。」
シューにクリストファーの言葉が反芻される。お互い尊敬しあっているのだから仲良くなれると。でも、お互い身を引いている。
「君は悪くないから、謝る必要はないよ。」
あと一歩踏み出せないからこうなっているのは確かだ。エリオットJr.もそれでいいと言っているが、いつまでも緊張してしまうのも、他人行儀に話すのも良しとは思えない。
「だから、もう少し待っててください。」




