敗北
人物紹介はあとがきに追加させていただきました。
初めて訪れたその村は、ゲームで見たような穏やかで静かに時が流れる場所ではなかった。少しずつ、少しずつ死の香りが溜まり、滅び始めている暗い村だった。
それに拍車をかけるように日が暮れ始め、穴やヒビが入った古びた家々に更なる哀愁を齎していた。
馬車から降り、カーティスが慌てて制止するのも気に留めず、近くにある畑に膝をつけて土を触った。神殿に初めて行った日に触った神殿の豊かな土とは全く違う。
「…葉が死んでる。」
農業の知識なんて一切無いが、本を読むのは好きなシューは作物が病気に罹っているのははっきりではなくても分かった。
「もうすぐ収穫期だったと思うけど、実はなってない。」
「確かに駄目になってる。」
グイードは服が汚れないように気をつけながらシューの隣でしゃがんで覗き見る。
「半分は駄目になってるね。ウィリー、何か聞いている?」
「ああ。今年は降水量が少なく、アキテーヌ地方全体で収穫高が3割減だ。元々一次産業は弱く、アキテーヌの街も含めて貿易で豊かな街であったから。」
ジョーンズ伯爵家も二代前程に領地替えがあった。その時は豊かな地方を下賜された訳だが、数十年で一気に不良債権になったとでもいえばいいのだろうか。
グイードとシューが畑を眺めている間に、クリストファーは辺りを見回して村人を探した。農閑期どころか繁忙期の筈だが、人は少ない。おーいと声をかけてみるが警戒しているのか人が出てこなかった。
マリアンヌはゲームの記憶を思い出して見て回るが、彼女が覚えているマップとは全く違う。
「…はぁ。もしかしてヒロインの住んでいるところではないのでしょうか。」
ここまでの疲労も相まって、マリアンヌは気力が出てこなかった。そばにいるトーレンは借りている服ではあるが、上着を脱いでマリアンヌの肩に乗せた。
「もし違ってもまた探せば良いのですよ。」
マリアンヌは悲嘆しているが、シューはニーナが調べたことに自信を持っていて、疑っていなかった。
「これ降水量が少なくないことでおきる病気じゃない、はず。植物と仲のいい兄様じゃないからはっきりとは分からないけど。」
「僕も全然分からないなぁ。風属性の子は今回多いけど、土属性はウィリーだけだもんね。」
「…忘れられていたと思っていたが。」
ポセイドンと戦う時に、土属性は誰もいないと言っていたグイードにウィリアムはショックを受けていた。
「あの時ウィリーは防衛一辺倒だったから、頭から抜けていたのさ。それに、ウィリーは攻撃魔法は苦手だって知っていたから。」
そして、土属性であってもウィリアムは守護ばかりしか分からず、植物に関しては門外漢だ。
「役立たず、だな。」
「まっさか。そんなこと思っている人誰もいないでしょ。王女殿下の護衛が少なくて済んだのはウィリーが付いてくるから通った訳だしね。元精霊様も守護結界が得意みたいだからそう思っちゃうのかもしれないけど。」
ポセイドンの矛を止めてみせたトーレン・スミスに引け目を感じるのは仕方がないが、彼にも一応元精霊という意地もあっただろう。
「守護結界だけならビル様の方が上に感じます。彼も得意のようですが、ビル様程安定して使えるという訳でもありません。」
ウィリアムの守護結界の範囲は広く、強度もあるし、トーレンが止めたのは一度だけで、ウィリアムは何度も攻撃から船を護っているから十分であると、ウィリアム以外はよく分かっていた。
「…そうだな。」
ウィリアムがその鉄仮面のような顔を少しだけ綻ばせた時、あー!という少女の大声が3人を驚かせた。
「おめえら、俺の畑に何してやがる!」
言いたいのは何となくシューたちにも伝わったが、訛りが強くて言葉を正確には把握できなかった。
その声の主を辿るように振り返ると、シューは止まった。太陽の焼け付くような強い光の力。今まで一度も感じたことのない同族の香りと、それを全力で拒否する闇の身体がシューを襲った。
「ヒロイン…、いや、聖女マリアン、か。」
【私ダメだわ。あの子嫌いよ。】
それは彼女の心なのか、それとも光の力の強さが原因なのか分からないが、フアナはシューのマントの中に隠れた。
「見たこともねえが、誰だ。あんたら?」
見た目は貧乏農家の娘だ。若いとはいっても、髪にツヤはないし、梳かしてない髪は無造作に結ばれている。顔は日に焼けて少しだけ皮がむけていて、14歳というよりは20歳くらいに老けて見える。ゲームで見た可愛らしい「ヒロイン」とは全く結びつかないが、おそらくゲームの設定を忠実にリアルで再現すればこうなるだろうという見た目だった。ご飯をきちんと食べさせて、ちゃんとした教育を受けさせて、髪型や服を綺麗に整えればちゃんと可愛くなりそうなバランスは整っている。
「僕の名前はシュー・アルバート。王都では光の神殿に仕えている。」
「オート?」
怪訝そうにマリアンは眉を顰めて睨む。
「王様がいる都だ。アンドリュー・ホワイトも行ったことあるはずだよ。」
なるべくゆっくりと、分かりやすいように簡単な言葉を選ぶ。
「知ってんのか、にいちゃんのこと。」
近親者の名前を出すと、少しばかり彼女は警戒を解いた。発音の訛りは確かに強いが、アルビオンとオルレアンの言葉だから時間はかかるが、会話が出来ないほどではない。
「一度王都でお世話になったんだ。」
「すげえだろ、俺のにいちゃんは。」
「うん、お礼がしたかったけど、今君のお兄さんは?」
「村長のところだよ。最近調子が悪いんだ。」
「そこに行ってもいいかな。僕はこう見えて治癒魔法が得意だから、役に立てると思うよ。」
マリアンに優しく話しかけるシューを黙って見ていたグイードははあと感嘆の息をついた。
「んー、にいちゃんと女将に聞いてくる。此処にいてくれ。」
直感で生きている少年のようにマリアンは返事も聞かずにさっさと行ってしまった。
「ねえ、シュー。彼女がその光の子?」
「そうだよ。絶対に間違いない。」
「僕は自分の見識の狭さを知ったよ。」
聖女、と聞けば確かに美しい品格の高い女性を想像するのだろう。しかし、原作では鬼神の如く剣を振り回す娘だった。シューには多少の違いに思えた。
「シューってあんなに優しく話すことができたんだね。」
「警戒されたくないからね。」
そして、エリオットJr.とまた違う恐怖を抱いた。美代子はゲームでのヒロインの強さを知ってはいたが、まさか一目見ただけで敵わないと打ちひしがれるほどの力の持ち主だとは思っても見なかった。
「あの強さで精霊の加護がないのが異常だ。」
「さすが精霊発見器。」
「馬鹿にしているのかな。」
「いやいや。凄く尊敬しているよ。精霊の話大好きだもん。」
グイードはアフロディーテの力を感じられただけでシューの精霊の話は信仰する勢いで信じている。
「声をまるで無視しているのかも。こんな法律も届いてなさそうな村だもの。精霊を感じられるレベルの力の持ち主なんて珍しいでしょ。」
珍しいというのは、こうした閉鎖的な村では異端として弾かれる。それが耐えられなくて、精霊の声を無視をするというのは容易に想像できる。
「無視されたら精霊も無視するようになるからね。」
「人間と一緒だねぇ。アフロディーテ様しか聞いたことないから僕は分からないけど、確かにアフロディーテ様は応答しないと暫く拗ねる。」
マリアンが戻ってくるよりも先に、辺りを探していたクリストファーやマリアンヌが戻ってきた。マリアンを発見したことを告げると、マリアンヌはほっと胸をなでおろした。
「この村にいないのかと恐ろしかったですわ。」
「レディ教育スタッフの腕がなるよ。」
「…覚悟はいたしますわ。」
「でも、ちゃんとヒロイン…、聖女だったよ。」
グイードにしたようにマリアンのことを説明すると、クリストファーは目を丸くした。
「本当に、光属性だったんだ。」
「信じてなかったの?」
「申し訳ない、俺は半信半疑だったんだ。」
これでマリアンヌの予言が的中し、マリアンと同じようにマリアンヌも聖女と扱われるのだろう。
「アンヌの奇行も、漸く認められるわけだ。」
「酷いですわ。」
シューはマリアンヌを弄ると楽しそうに笑い、辺りの畑や村の家屋を見やった。
「寂しい村だね。200メートル以上も向こうの畑に漸く人が見えるよ。子供いれて3人くらい。」
「さっき村人に会えたけど、やっぱり今随分流行病で人が減少しているみたいだよ。その家の人も2人も亡くなったとか。シューが気を遣ってくれているけど、俺らも気をつけないとね。」
そのうち全員病で全滅してしまうかもしれない。それに加えてこの不作だ。マリアンが死んでしまう前に来れて良かった。
「おーい、おめえらぁ。」
一応シューは名乗ったのだが、彼女は覚えられなかったみたいだ。
「来てええって。」
病人がいるところにこの大人数で押しかけるのは良くないだろうと、シューとマリアンヌ、護衛のためにクリストファーとウィリアムの4人で尋ねることになった。
村長とはいうが、この小さな村の長は他の家より少しだけ立派なくらいで下男、下女がいるわけでもないようでマリアンの兄、アンドリューがまず顔を出した。
「初めまして、皆様。アンドリュー・ホワイトと言います。」
マリアンとは聞き比べにならないほど綺麗な王都寄りの発音だ。初めて王都であった時、道案内してくれた時も全く違和感がなかったが、王都では暫く出稼ぎに近いような長期間の滞在だったのかもしれない。
まずこの派遣部隊のリーダーであるマリアンヌが乗馬服で失礼と謝罪した後挨拶をする。
「初めまして。お会いできて嬉しいです。オルレアン王国、王位継承第3位、マリアンヌ・レーヌ・ド・オルレアンでございます。」
「はい?」
いきなり現れて王女ですなんて、誰も信用できるはずがないが、シューはマリアンヌに続いた。
「こんにちは。私はオルレアン王国宰相、エリオット・アルバート公爵が三男、シュー・アルバートでございます。数ヶ月前王都で迷子になった時大変助かりました。」
「あ、ああ、あの時の。」
シューの事は思い出したようだったが、その先の言葉は紡げていない。それからマリアンヌの代わりにクリストファーとウィリアムを紹介したが、聞こえているのか怪しい。
「そのような高貴の方々が何故?」
「率直に申し上げます。貴方の妹様であるマリアン様は光の属性の生まれでございます。」
突然自分の名前を言われたマリアンが聞き返したが、そのままマリアンヌは続ける。
「ここにいるシュー・アルバート卿は、とても魔力や精霊の気配に敏感で、その彼がマリアン様か、強い光の力を感じると証言いたしました。」
「…どうして。」
そのどうしてはどういう意味なのかが分からなかった。マリアンに光の力がある、ということなのか、シューがそれを感じられるのか、ということなのか、どうやってマリアンの存在を知ったかということなのか。
「ひいては王国の存続のため、マリアン様に王都に来て頂きたいのです。」
全てが突然のことにアンドリューは困惑の色を隠せない。
「そんな、マリアンはただの田舎の娘です。来月祝言の予定もあります。」
「…祝言?」
農村部の結婚は早い。子供を産むことができる体になれば、すぐに女性は結婚してしまう。それはシューの歳くらいの少女でもだ。
「その結婚は彼女が望んだ結婚ですか?」
思わずシューは聞いてしまった。
「え?」
シューと同じように思ったのか、マリアンヌがアンドリューの驚きに答えた。
「貴族の女性のデビュタント、お見合いが始まるのは16歳からです。なので私たちの感覚では早く感じます。また王立魔法学院では16歳から入学いたしますと、寿中退される方もいますが、20超えてから結婚される女性も多いですから。」
アンドリューもマリアンも戸惑うようにお互いを見やった。それは突然押しかけられて、王都によこせだの、結婚するには早いだの言われてもそれがどうしたと思うのは当然だ。
「王女殿下がわざわざマリアンに会いに来たのは、そして僕が確かめに来たのはちゃんとした理由があります。ただ、説明だけではわかりづらいと思いますので、実際に光の魔法がどのようなものなのかお見せしたいです。村長にお会いできますか。」
「村長に?」
「にいちゃん、さっき話したろ。」
「…ああ、そうだった。」
「…アンヌとビルさまはここで待ってて。病人がいるところにぞろぞろと入っていくのはよくない。」
マリアンヌとウィリアムは了承し、アンドリューが部屋の中央にあるテーブルの椅子に座るように促した。何かあればすぐ対応できるようにウィリアムは椅子に座ることを辞退し、マリアンヌの横に立った。
シューはクリストファーを連れ立って、アンドリューの案内で隣の部屋に入り、最後に入ったマリアンが部屋の戸を閉じた。入った瞬間からシューはマントの裾を掴んで手に覆った。闇の力が強い。
「クリスさん、部屋の外で待機して。」
「大丈夫かい?」
「…恐らく。」
村長はヒューヒューと浅い息を繰り返し、肌には紫斑が出ていて、熱は高く、呼びかけには応答がない。いつ死んでもおかしくない症状だ。
死神と踊る絵で有名な病気や、脳外科医が治した有名な流行病ではない。それどころか、美代子は医者ではなかったが、美代子が勉強してきた現代の病気とも当てはまらない。
「…フアナ。」
【…確かにこれは…闇の力が強いわね。私も見たことない構成しているわ。】
シューは骨ばった村長の胸に手を置いた。精神論は嫌いだが、村長の状態から見て病気を研究する暇はない。
「苦しみ、悲しみ、憎しみ、切なさ、身体を縛り付ける闇の力を解き放て。」
呼吸しづらそうな村長に呼吸器を広げて空気が通りやすくする。紫斑が出ている肌には、血管を正常に戻し、皮膚下の出血を止める。
「光は我らの目印、洪水の果てにある光に向かい我らは新たな時代を求めん。」
夕闇で薄暗い室内が、キラキラとシューの魔法によって大きく照らし出され、家具たちに陰を落とす。
シューの魔法に対抗する闇の力も強い。本当に辛い。これが闇魔法だったら、フアナやハデスに協力を求められたが、光魔法を助けてくれそうな精霊とは仲良くない。
「マリアン!」
「あい?」
シューが何やっているかも分からないマリアンにシューは手を伸ばした。
「力を貸して。」
「え、え、どうすりゃあええんだ?」
戸惑いながらマリアンがシューの手を掴むと、シューは強く握り返した。強いマリアンの光の力に、闇属性でもあるシューの手は痛かった。きっとティキもそうだった。シューが尻尾を掴むのも、頬を抓るのも、抱きしめるのも凄く痛かったはずだ。
「祈って、村長を助けたいと。」
それでも、同じ光属性でもある自分はマリアンの手を掴んで離さない。
シューの力によって誘発されたマリアンの魔力が部屋にキラキラと舞う。アンドリューは初めて見る神聖な光に包まれた妹の姿に息をするのも忘れた。
「君には才能があるよ。苦しみを持つ人間を救う才能が。」
過去で、魔族の味方であることを隠していたシューが、思うように魔法が使えない落ち込んだマリアンに言った言葉だった。あの時シューはどんな思いで彼女に言ったのだろうか。今のシューは自身に走る痛みと安らぎの実感を伴ってそれをマリアンに告げた。
ーーーでも、私はあなたを救えなかった。
かつてのヒロインはしばらく経ってからそう返した。
しかし、何も知らないマリアンの目は輝いていた。
「本当か!」
マリアンがシューを知らないように、シューもマリアンのことが詳しいとまでは言えない。シューの言葉にそれほど喜んでもらえるとも思ってなかった。シューはマリアンの力強い瞳から目を逸らす。はっきりと意思を伝えてきたわけではないが、マントのうちに隠れるフアナが不満だというオーラを発していた。
少しずつではあるが、村長の呼吸が整い、肌の紫斑も消えていって、容態が安定してきた。精霊の力なんて借りなくてもマリアンの光の力は強い。ふと顔を上げるとアンドリューの目が悲しそうにマリアンを見つめていた。
美代子はアンドリューが好きではあったが、どうやらシューは嫌われ役だ。後は村長の自然治癒で治るだろうと、魔法を止めマリアンの手を離した。シューは汗を拭うとマリアンとアンドリューに視線をやった。
「マリアンは今まで人を治した経験がある?」
「簡単な…、傷なら、いくつか。」
マリアンの代わりにアンドリューが目を伏せながら答える。
「うん、にいちゃんやフレディがよく怪我してたから治した。でも、病気は治せなかった。今日が初めてだ。…もし、俺がちゃんとその魔法が使えたらマルコやサラが死ぬことなかったんかな。」
マリアンは自分の手を握りしめる。シューはマリアンに彼女自身の力を知って欲しかったが、まさかマリアンが過去の救えなかった人間を悔やむとまでは考えてなかった。
「きちんと事実を言うなら『救えなかった』。だって、君は僕と初めて会ってこの魔法が使えたんだ。この小さな村で学べることなんて限られているもの。」
どういう言葉が正解なのかは分からない。シューは続けた。
「でも、ここで君は選択肢を得た。僕達と王都へ行くのならば、勉強する気があるのなら、未来で苦しむ人たちを救える。この村を出ていきたくないというのなら、君は未来でも同じような人を救えない。それだけだよ。」
どうしても彼女を慰める言葉は出てこない。説得はマリアンヌに任せるつもりだったから、言葉を考えてこなかったツケが回ってきたのだ。
「せんたくし…。」
「君が君の未来を決めていいってこと。」
シューは寝ている村長に頭を下げて部屋から辞した。廊下で待つクリストファーがシューに微笑んだ。隣の部屋に戻ると、40代くらいの女性がマリアンにお茶を差し出していた。
「こんにちは。」
シューとクリストファーが挨拶をすると、マリアンヌが村長の夫人であることを教えてくれた。彼女は訛りはあるものの、マリアン程はきつくなく、会話に大きな支障にはならなかった。
「ダイアナ・デイビスです、それで夫は…。」
「問題ないよ。体力の回復は自然治癒に任せたから、まだ寝ているけど病気自体は完治した。」
シューが告げるとダイアナはシューの手を取り何度も頭を下げて礼を言った。
「デイビスご夫妻は、両親を亡くしたホワイト兄妹の後見人らしいです。ホワイト兄妹は近くの別の家に住んでいるそうですよ。」
「そうなんですね。失礼で申し訳ないですが、お子様は…。」
先に話を伺っていたマリアンヌは悲しそうに眉を寄せた。
「この夏、お二人とも病気で亡くされたそうです。」
それがもしかしたらマリアンが名前に出したサラとマルコなのかもしれない。
「来るのが遅くて、すみません。」
今も自分がいなくて神殿でも病気で亡くなっている人がいるのだろうと、神殿に置いてきた感情が戻ってきてしまう。
「王女様と公爵家の方に、我々の子に想っていただけるなんて、幸せでございます。」
ダイアナは涙ぐんで二人に再び頭を下げる。デイビス夫妻がホワイト兄妹をどう思っているかは分からないが、子供を失ってすぐの人に聞いていいのかと思いながらも尋ねた。
「マリアンは才能があります。今回ご主人を治す際、細かい魔法の使い方は僕が行いましたが、マリアンの力が無ければ助けられなかった。王都できちんと魔法の勉強をすれば、僕以上の光の魔導士になれます。王都での生活費は国から降りますし、心配することはありません。いかがですか。」
マリアンヌからも説明されていたようで、ダイアナはすぐに返答をした。
「…私たちは、あくまで後見人ですから、決めるのは彼らに任せます。しかし、ずっと側で成長する姿を見ていた私から言うのであれば、あの子はこの小さな村で育った子です。文字も読めませんから、都でやっていけるのかどうか、不安でたまりません。」
「…生活環境が大きく変わりますから、苦労は絶対にします。たくさん努力してもらいます。」
「正直、なんですね。」
ただの田舎の村娘でしかない彼女に、王立魔法学院に行ってもらうには、貴族の立ち振る舞いを学んでもらうしかない。言葉遣いから何から何まで叩き込む必要がある。こちら側の努力だけでは絶対にうまくいかないのだ。
「それに彼女が耐えうることができないと、貴方方が判断するのなら、彼女にそう説明頂ければいいと思います。」
この村で、襲いかかる死の恐怖に耐えるのもそれだって苦しいことだろう。
その日、マリアンヌと護衛のウィリアムのみを村長の家に泊めてもらうことしてもらい、他はクリストファーが荷馬車に積んだテントを村長の家の近くで広げた。ニーナはマリアンヌの側仕えたちと同じテントに泊まるため、護衛ができないと申し訳なさそうにシューに告げた。
シューは静まり返った小さな村の片隅で、アキテーヌの賑やかな街を反芻した。外の虫や鳥の音も心なしか弱く感じる。
シューは、側で守るフィリップとカーティスに回復魔法をかけた。
「どうしたんですか?」
「やっぱりザカライアを探しに行こうと思う。付いてくる?」
シューの中でザカライアを探しに行くのは決定事項だ、二人が止めたところで覆らないだろうと分かる。カーティスとフィリップは2人で顔を見合わせた。
「だから、回復魔法をかけたんでしょう?」
「また転移魔法で一人で行かれるよりはマシだ。」
「流石に僕だって2人に心配かけていることくらいは自覚してるから。」
シューはそう言って顔を逸らした。誰も心配してくれない、なんてもう思わない。
「心配性のカーティスのお陰かしらね。」
フアナは面白がって羽を広げて笑う。
シュー・アルバート(12)
公爵家三男 光属性兼闇属性
カーティス(14)
シューの側仕え 風属性
心配性で尽くしたがりな面もある。
フィリップ・アヴァロン
シューの側仕え 闇属性
食人鬼に連れ去られ魔族に変容したが、シューに人族に戻された。その事に恩を感じている。
心を読む力があることもあり、フアナの狂信者。
フアナ
闇属性の心の精霊
シューのことを大切に思ってはいるが、フアナは揺れ動く不安定な心を愛しているため、必ずしもシューの為に動くとは言えない。
トーレン・スミス
元精霊・シトリの人間 水属性
トーレンはシューから名付けられた名前だと言うがシューは覚え知らない。
シューのことを友人、同胞だと主張しているが、シューからは真っ向から否定されている。
攻略対象の1人
マリアンヌ・レーヌ・ド・オルレアン(14)
オルレアン王国、王位継承権第3位 水属性
上に2人兄がいる。長男シャルルは異母兄であるが、仲良し。
元日本人のキャバクラ勤めで、このゲームの廃人真理亜の記憶を所持している。
今は自身に降りかかる死亡フラグと、バッドエンディングを阻止するために動いている。
クリストファー・オールセン(20)
オールセン伯爵の長男 であり、伯爵を継ぐことが既に決まっている。風属性
シューの兄エリオットJr.の親友
柔和な態度で親しみやすい人でシューもエリオットJr.より気を許している。
攻略対象 ニクラス・オールセンの兄
ウィリアム・ジョーンズ(16)
騎士団長 ジョーンズ伯爵の長男 土属性
シューの兄オズワルドの親友
無表情をしているつもりはないが、あまり表情は変わらない。話しかけにくい印象のせいでそれなりにモテてはいるが、本人は実感がない。
攻略対象の1人
グイード・デ・ガスペニ(16)
ガスペニ伯爵の長男 風属性ではあるが使う魔法は水属性
老若男女問わずで美しいものが大好き。
精霊画を描くのも、精霊の神話も好きな画家。魔法学院の玄関ホールに大きなグイードの絵が飾られている。
オズワルドとは昔好きな娘が被って大喧嘩した為に犬猿の仲。
シューのことは見た目と、精霊に詳しいところが好きらしい。




