悪魔の情報屋
シュー・アルバート(12) 看護師の美代子の記憶がある主人公。闇属性の力も待つ光の属性の人族。
カーティス (14) シューの側仕え。心配性が故にティキに「シューの母ちゃん」と言われていた。風。
フィリップ・アヴァロン シューの側仕え。テレパスの持ち主。フアナ狂信者
ティキ・シルヴィア シューのことがお気に入りだった中級悪魔
フアナ シューのことがお気に入りな性格の悪い心の精霊。やっぱりシューが苦しんでいるのも好き。
夜ではあるが人工的な灯(とはいってもロウソクのような小さな火ばかりだが)で明るくなった、怒声と歓声が響く歓楽街の道の真ん中に、何事もないようにシューは立っていた。
「まさか、お一人で宿から来たのでは。」
「フアナも一緒だよ。」
フアナはふふんと自慢げにシューの頭で翼を広げた。
一人では行動するなと言われていて、いくら人外だとカーティスは分かっていても鳥とシューで部屋を出てくるのは危険な場所だ。
「…シューは何故ここにきた?信用できなかったのか?」
「ううん、待てなかっただけ。」
側仕え二人ははあとため息をついた。今でこそ自分の立場を慮って勝手に行動しないシューだが、少し前まではそんなこと気にせず、自由に一人で(たまにフアナやティキがいたものだが)行動していたのだ。落ち着かなくても仕方ない。
「ニーナが見つけてきたという、マリアンのいる村だが、現在悪魔がいるそうだぞ。」
「…悪魔は自身の存在を誇示なんてしないよ。」
悪魔はとてもプライドの高い存在ではある。しかし、悪魔は人族の魔力や生命力を吸い取るためにその身体を乗っ取る訳で、その存在が悟られれば人族は束になって悪魔を消しに行く。だから、安全にその力を人族から奪おうとするのであれば、悟られない方がいいのである。だからこそ、人族にとって悪魔はとてつもない脅威なのであるのだが、村にいるのは本物の悪魔ではないのだ。
「悪魔がいるのではなく、流行病というだけだ。…はあ、神殿に戻るのも怖いのにな。」
シューはマリアンの保護という重大なことがなければ神殿でその対策を講じていたはずだった。しかし、神殿ならある程度の清潔さを求めることはできるが、この世界の農村にそれまでは求められない。
「シュー、このアキテーヌの街でも今季の死者の数は多いようですよ。」
「国防(バッドエンディング阻止)って言ったところで、人間たちが健康じゃなけりゃあ意味ないよねぇ。」
何年と続いた戦争も流行病で国力が低下して終結することだってこの世界ではよくあることだ。ふんと嘆いたところで何も変わらない。
「あとそうだな、アキテーヌに浮浪者のダニーというものが最近来たらしい。」
それだけでシューは何の人物なのか察したようだが、それが面白くないのはカーティスだ。勿論面白くないと感じるだけで彼は何も言わないし、シューやフィリップに不信感を募るわけでもない。ただただ面白くないのだ。
「彼の大体の居場所は掴んでる?」
「教えてくれた人は10番ストリートの仕立て屋の近くで話したと言っていた。」
「10番ストリートか。」
地図なんて立派なものは無いが、フィリップが能力で抜いてくれた記憶の映像をまとめていけばなんとなく場所もわかった。
「じゃあ、行ってくるね!」
「待ってください!」
と、魔法を使おうとした瞬間カーティスから手が伸びてきたので慌てて魔法を止めた。
「その、ダニーという方に会うんですよね?」
「うん。」
「フィリップの言っていることが正しいなら相手は悪魔ですよね。」
「おそらくそうだね。」
「お一人で行かれるのですか?」
シューは掴まれた手を丁重に剥がした。
「これはいくら君の言うことでも従えない。ただの海賊や奴隷商がいるときは君たちの力が必要だ。でも、相手は悪魔だ。人族が側に居られる方が困る。理由は簡単。悪魔が人族に取り憑いて逃げる、人質にする可能性があるから。」
「なら貴方はどうなんですか。」
悪魔は光属性が苦手だ。お気楽な中級悪魔ですら、シューが美代子を取り戻す前まで光の神殿には絶対に近づかないと言っていたほどだ。
「僕だけなら全く問題ない。何かあったとしてもフアナが信徒であるフィルにすぐ伝えてくれるから問題ない。」
「…確かにそうかもしれないが。」
精霊の声が聞こえる力のあるものは、その鮮明さ具体は力の強弱によるものがあっても、耳を傾ければどこにいたって聞こえるものなのだ。特にフィリップは元々テレパスの持ち主だ。聞こえないかもしれないということはない。
シューはカーティスの腕を振り払うとさっさと魔法でどこかに行ってしまった。カーティスの行き場を失った手が宙に取り残される。
「フィリップ…。」
「フアナ様がいらっしゃるのなら問題ない。変な目で見ないでくれ、あの人は魔族なんて汚らわしい存在ではない。」
元魔族だったフィリップが、あの黒い小鳥に対して熱烈な感情を向けているのはカーティスも知っている。フアナも自身で人外だと公言している。魔族や悪魔でもないとしても、明かせない身分なんて恐ろしいに決まってる。
「結局皆さん俺のことをどう思ってるんだ。」
「大切に思われてるだろう。」
「…俺が馬鹿だからいけないのかもしれないけど。」
殆どの知識をカーティスも知っている。ただカーティスはそれだけなのだ。知っているだけで、分かってない。
「強いていうなら、私たちははみ出し者。ただカーティスは違うんだ。そのシューへの真っ直ぐな忠誠も、なにもかも、綺麗なんだよ。」
「なにをしたら、俺もそちらへ行けるんだ。」
「…来ないでくれ。そして、願わくばシューをそちらへ引っ張ってくれ。」
本来ならシューは大貴族の子供で、更に言えば皆に賞賛されるべき光の属性だ。それがなんの間違いか、シューは暗い世界の隙間に迷い込んでしまったのだから。
ダニーは色んな家、店から排出されるゴミを漁り、使えそうなものを引っ張り出してはその日の金にしていた。8時間、昼から夜まで働いて得られる金は漸く1フィル(美代子の世界で凡そ1ドル)だ。例えばそのゴミを美しく磨いたり、直したりすればもう少し金は得られるのかもしれないが、そんな知識を小汚い浮浪者があるはずもなかった。
この国の秋は寒い。しがな街を歩き続けて、汗もかいていたが、それもだいぶ冷えてしまった。うち捨てられた服を合わせて少しばかりの毛布を作り、なんとか建物の隙間で挟まって風を凌ぐのだ。
この日は運が悪かった。そうただ運が悪かったのだ。目の前で喧嘩をする男たちが居て、巻き込まれては不味いと見つかってないうちに逃げようとしたのだ。
「ああん、なに見てんだぁ?」
既に疲れていた身体が悲鳴をあげ、なにも動かなかったのだ。お互いに喧嘩していただろうに、良いカモだと認識すると二人は目を合わせた。
「ふざけんじゃねぇぞ。」
ダニーは見た目ほど年は取っていない。髭や髪は伸び放題。長年にわたる生活苦のせいか髪は白くなり、常に外にいるせいで皮膚はシミだらけで、みずみずしさもない。
「やめてくれ!俺はなにも持ってない!」
悲鳴をあげる声だけがとても若々しいのだ。
「は、案外若いんじゃねえの? 恨むならてめえの親を恨むんだな!」
「可哀想にな!」
顔に傷のある男が、ダニーに襲いかかった。
しかし、殴った衝撃は来ず、バランスを崩して男は転倒した。
「は?」
横でニヤニヤと笑っていた男もなにが起きたか分からず、表情をなくした。そう、男たちの先に彼はいなかったのである。
「浮浪者の振りってのも俺はぁさ、苦手なんだどぉ、頑張ったよねぇ。」
若く綺麗な声が男たちの頭に響いた。キョロキョロと二人は辺りを見回すが、どこにもいないのだ。
一人の身体が突然動かなくなり、白目を剥いて泡を吹いた。
「おい、お前、どうしたんだっ。」
男が駆け寄ると、目がぎょろりと動いて男の方を向いた。
「…不味い。力がなさすぎる、こんなのいらなぁい。」
「ひっ、あ、あく。」
それ以上は彼に思い切り首を掴まれ、うめき声しか出せなかった。男の知るの声と顔で、目の前の悪魔はニコリと笑い、
「お前たちの体は必要ないし、大した情報も持ってないし、ほんっとうに運が悪い。」
男の首を折った。悪魔は男から落ちたナイフを手に入れると、くるくると手のひらで回す。
「まだ悪魔がいるって思われたくないからねぇ、バイバイ。」
悪魔は自分の身体にナイフを、いや、乗っ取った身体にナイフを躊躇いなく突き立て、その場で倒れた。
その赤く染まった身体から黒い影がぬーっと現れると再び浮浪者の姿になる。
「ふぁああ、この臭い身体もおさらばしたいなぁ。」
「させてあげようか?」
ゴミや糞尿で汚い路地裏に、なんの汚れも知らないような美しい姿の少年が忽然と姿を現した。
「……お前は。」
「黒く滲む世界の陰よ、我が光を持って照らし出せ。ニコラ・ハリー!」
ダニーは激しく口から血を噴いた。自分の身体がグチャグチャにかき乱されるような、いっそのこと首から下を切断したいくらいの激しい痛みだった。
「ふざけんじゃねぇぞ、シュー!」
口から大量の血をダラダラと流しながら、ダニーは叫んだ。なんだなんだと、近くの民家から人が顔を覗かせたのを見て、ダニーは顔を見られるわけにはと焦り、シューを肩に俵担ぎをすると一目散に逃げ出した。
15分程逃げ続け、街の端の方に辿り着くとダニーはシューを下ろした。
「わざわざ僕まで運んでくれてありがとう。」
「くっそう、俺の方が死んだぁ。暫く腕上がらねえじゃん。」
光の子であるシューを担いだ時点で腕への支障は感じていただろうに、よくここまで運んだなとシューは感心していたところだった。
「んだよ、最近姿を見せてなかったのはそっちの癖に俺にこんな仕打ちって何?」
「何って君の擬態している人間姿を治してあげたんだよ。」
「最低だな。ってあああ!」
汚らしかった髪や髭は艶を取り戻し、シミだらけでしわくちゃの肌は、傷ひとつない貴族の子供のような美しさを取り戻した。
「どれだけ俺が汚らしい肌を手に入れるのに苦労したと思ってるんだよ!」
「知らないよ。どれだけの人が美しい肌を手に入れたいと思ってるんだ。」
悪魔は人の姿というのは偽物に過ぎない。つまり、作り物だ。綺麗な人形のような肌なら恐らく簡単に作り出せたるのだが、浮浪者として怪しまれない肌は逆に難しいらしい。絵や造形をしたことがある人は恐らく分かるだろう。描く対象が増えるのだ。
「訴えてやる、テメェ。」
「どこに?誰に? そして、訴えたとしても、財産を改良したから僕の方が金取れるよ。」
逆にシューは担がれて、彼に触れていた辺りが痒い。恐らく何年も洗われていない布に沢山の虫が住んでいるに違いない。その様子を想像するだけで吐き気がしてくる。
「いっつか、殺してやるからな。」
「返り討ちにするよ。僕と君となら僕に利がある…、ね、悪魔のダンタリオン様?」
「テメェ、マジで巫山戯んなよ。この姿の時にその名前で呼ぶんじゃねえ。」
上級悪魔の一人、ダンタリオンはうざったそうに自分の髭を撫でると、どこから刃物を出したのか分からないがジョリジョリと剃り始めたり、髪の毛を結ったりととても自由だ。上級といっても、彼がそう名乗っているだけで本当はティキと同じか中級なのではと思うくらいだ。
ただ彼が本当に有能な情報屋であるのは確かだ。
「…終わった?」
「んで、なに。何聞きに来たの、金あんの、クソ坊主。」
「お金?アルバート家三男に随分なこと聞くね。」
「いや、お前いっつも金ねえじゃん。」
「うん。勿論ないよ。」
「ハイ、閉店ガラガラー。」
じゃあな、と手を上げて振り返ろうしたダンタリオンの腕を掴む。それだけで彼はぎゃああと悲鳴をあげる。
「だって、僕の家はちゃんと経費を計上して伝票書かなきゃお金くれないし。」
「どこの会社だよ!」
「公爵家っていう巨大なカンパニーです。」
「は、公爵家の子供が聞いて呆れるぜ。ちょっと『パパぁ、あれ買いたいのぉ!』って上目遣いで裾掴んでくれば一発だろ。」
「な訳ないだろ。財務経理部はパパじゃないし、兄でもない。」
「本当に会社か!」
「会社じゃなくて役所だ、バーカ。」
「知らねえよ!」
それにいくらなんでも悪魔の情報屋から情報を買うなんて許されるはずもない。
「んで、結局金がないならさぁ、客じゃないだろ。」
「貨幣経済ができる前はさ、物々交換だったでしょ。」
「…ふーん、へぇ?」
「情報の交換で手を打たないかな。君は王都から命からがらで逃げおうせたみたいだし、暫く王都には行ってないでしょ。」
彼を追い詰めた騎士団はエリオット隊で、その話を聞いた時はもしかしたらダンタリオンは消滅したのではないかとも思ったくらいだった。
「苦い思い出を思い出させるなぁ。ていうかあのエリオットってお前の兄ちゃんだよねぇ?俺恩を仇で返されたんだ。」
「えー、君の情報にはちゃんと対価を支払ってる。返す恩なんて元々ないよ。」
「ひゃー、腹立つ。で、何くれんの?エリオットJr.の身体くれるんならサービスでなんでも喋ってもいいけど。」
この悪魔は敵でもないが味方でもない。彼は何度か本当にシューを殺そうとしたことがある。それでも、彼の情報に今まで一つも嘘はなかった。だからこそ、彼は『信じられる』のだ。
「エル兄様を殺せるなら頑張って、僕より難しいと思うし、僕は絶対に手伝わないけど。光の神殿の神殿長の不正と、エドガー子爵の愛人と、騎士団の横領と、今の流行病の感染源、感染経路とか色々あるけどどれがいい?」
「先にお客様の欲しいものを聞こうか。」
ダンタリオンはいくつか欲しい情報があったのか、こちら側にきちんと向き直った。
「狂信者ザカライア…、カイムの行方。あと、ガイルの部下の現状。」
「おっとう、これは高くつきますぜ。なんせ今俺は暫く人族側についていたから、魔族側の情報は貴重なんだよねぇ。」
「何個話せばいいのさ。」
これはふっかけられそうだなと思いながら、シューは肩を竦めたが、それを見てニヤリとダンタリオンは笑った。
「今俺は旧知のシューに久し振りに会えた特典で安くしてもいい気分だからさぁ。」
こういう時のダンタリオンは絶対に碌でもない。ただでさえ、数分前には仮にも殺すと言った悪魔だ。
「ティキ、中級悪魔のティキ・シルヴィアは今どこいったのかなぁ。」
「知りたいこと、ってそれ…。」
シューは指先から凍りついていく錯覚を覚えた。
「ふふふふ!あははは、確かに俺たちは個人主義だ。同族がどこで野垂れ死のうがどうでもいいけどぉ!でも、人族に肩入れして人族に殺されたならそれはそれで可哀想な話だと思わない?」
シューの言葉を待たず、ダンタリオンは早口でまくしたてる。
「ねえ、今どうして君の側にいないのかなぁ?」
シューを飲み込もうとする黒い影が身体に纏わりつく。どうしても気持ちが悪いのに、どこか落ち着いてしまうのは悪魔の力なのだろう。
【シュー!】
彼女の声が響くと同時にシューは異物を排除させる回復魔法を発動させ、黒色の液体のような不定形が劈くように声をあげた。
「ぎゃああ!」
「…そんなに僕の身体が欲しいの?」
「強い力を求めるのは悪魔の本能だからねぇ。」
ダンタリオンは元の人型に戻ると、はあとため息をついた。
「お代は後でいい。シューが教えてほしいこと教えてやるよ。」
「待って、そのお代はなに?」
うまい話には絶対に裏がある。後でいいなんてとんでもない物を要求されそうだ。
「今度シューはアルビオンに行くのだろう。どうしても知りたいんだ。アルビオンが15年前からずっと研究していた『最新兵器』。」
「15年前からなんてもう別に最新でもなんでもないんじゃ…。」
「いいや!そんなことはねえ。だから、調べてきてくれよぉ。ちゃんと調べてくれたら、5年間はシューを殺そうとしないし、情報無料サービスつけちゃう!」
アルビオンの秘密兵器をシューが調べられるか疑問だ。何しろ過去の知識にはそんな兵器は無いからだ。
「…それってそんなに高くつけてまで売れる情報なの?」
「大体どこの国だって軍隊、兵器の情報は何が何でも知りたいだろ。」
その情報を売ってしまえば、アルビオンの民が死ぬかもしれない。
「僕はエル兄様のような権限はない。だから、君の言う情報はとってこれない可能性がある。それなのに、僕の知りたい情報を今渡してくれるの?」
どうせなら今持っている情報だけで、シューは完結したい。
「ふふ、まあいいさ。君は案外『使えない』から、期待はしていない。」
その情報を取ってくるまでの期限を設けて、ダンタリオンはその日を過ぎたら違う情報を貰うと譲歩した。
「ザッキーはねぇ、どっかの山奥に住んでるって情報しかないからまあ、安くていいよ。全然。」
「使えないのはどっちだ。…山奥か。」
ヒロインとシャルルがプロローグのボス、ザカライアを倒したのは村の近くの山奥だった。ザカライアが既にあの村の近くにいるのもおかしくない。
「カイムとガイルの部下は、セイン川の上流側で今は暮らしてるよ。ガイルが消えた後、カイムが彼らを引き取って面倒…っていうか下僕にした感じ。」
「最近目立った行動は?」
「今あそこさぁ、あんまり食料取れてないみたいだからそういう小競り合いが多発してるよぉ。今年中に大きな動きをしようとかは無いと思うなぁ。そもそも全滅の危機だし。」
今年王都周辺では作物の生産に影響はなかったが、他の地域ではいくつか不作に陥っていた。このマリアンが住む村の辺りも不作で冬を幾人が超えられるかという状況だという。
「あと、俺が海超えてないから信憑性薄いけどぉ、魔族の動きは弱め。アルビオン側のアジェリーの地域はいつでもアルビオンに攻め込む気満々だったけど、魔王が許可する様子はないってね。」
「信憑性薄い情報ほど、どう扱えばいいか分からないよ。」
「じゃあ、これならどうかな。『人族を裏切る優秀な人族を探している。』」
ダンタリオンのこの笑みをシューは昔見たことがある。そうだ、そもそも昔シューが魔王側に寝返えると決めた時、誰の手を取ったか。彼は人族側でも魔族側でもないが、かの王とのコネクションがあるのだ。
「興味ないね。魔王側についたとして僕に利は無い。」
シューがそう言うと、ダンタリオンは少しだけつまらなそうだったが、大して意に介してない。
「だよなぁ、こんな陳腐な文句だけじゃ釣られねえよ。マルガリオの人間にも何人か聞いたんだけど、皆そう言うんだ。そもそも、あんな貧しい国に行きたい奴なんてそうそう居ないよねぇ。」
その陳腐な文句についていった過去のシューがどれだけ愚かだったんだと言われているようで気分が悪い。ただ過去のシューは人族に迷惑をかけたかっただけなのだ。
「ああ、でもこの不作じゃあ、あっちなら飯もあるって逃げる奴はいるかもしれないかぁ。あははは、あっちもねえと思うけどぉ!」
ダンタリオンは楽しそうに笑い転げていた。
この笑い転げるダンタリオンを包囲してシューは心配をかけている従者が待つホテルの部屋へ戻った。
「シュー、ご無事で…ってその血はなんですか。」
シューのお腹にはダンタリオンに担がれた時に着いた血がベットリとついていた。
「これは嫌がらせをした時の悪魔の血だから気にしないで。」
シューは自らが考えたクリーニングの魔法をかけるといつも通りの綺麗な服に元に戻る。
「何か分かったか?」
カーティスほど心配はしていなかったとはいえ、フィリップも心配と不安そうな目をしていた。
「君の部下は大体カイムについたらしいけど、王都から北東にあるセイン川上流域に潜伏中…だけど、今彼らも食糧難だってさ。」
「…そうか。」
いくら彼が人になりたかったとはいえ、魔族の部下たちの行方には心配をしていたらしい。とはいえ、次会った時は殺してもらわなきゃ困るのだが。
「身勝手な上司を持つと可哀想だと思っただけだ。もう仲間では無い。」
しっかりとシューの目を見つめて真剣に言う彼の言葉に嘘はないだろう。
「ザカライアの行方はダンも知らなかったけれど、山奥に引っ込んだと言う話を聞いた。これはこれから行く村の山奥の可能性はかなり高い。」
「…つまり病気が蔓延している可能性があるのですね。」
「それに関して僕以外の僕たちの予防についてはフィルお願い。」
「任せておけ。私がこの旅で魔法使う予定は少ないからな。」
行かないという手はない。シューは魔法が使えなければただのお荷物だから、魔力の無駄遣いは拒否したいのだ。
「ねえ、カート。聞きたいことがある。」
「はい、なんでしょう。」
カーティスはフットマンの末席(いや、正確にはフィリップだが)で知らないかもしれないが、シューはダンタリオンの話を聞いて一つ引っかかったことがある。
「今年、アルビオンとオルレアン王都近郊で不作があるか聞いた?」
シューがただ魔法の研究の方に力を入れすぎただけなのかもしれないが、シューが知っているのはマリアンやアキテーヌ、王都から西南部にある海沿いの街の不作の話だ。しかし、王都から北東に進んだ先にも不作地域があるらしいとのことだった。
「シュー、アルビオンは全域で今年豊作です。飛び地はいくつか不作地域もございますが、本土からの支援により大きな問題もございません。」
「…これまた。」
そしてまた、アルビオンと王都は密接につながっている現在、王都も不作の難から逃れている、そういうことらしい。アルビオンもアルビオンで蓄えなければならない為、オルレアンへの供給は王都までということだ。
「今の状況、簡単にアルビオンがオルレアン併合できるじゃん。」
「…このオルレアン王女殿下とオルレアン貴族が多くいるところで、聞かれでもすればこのチームも瓦解しますよ。勿論アルビオン側からもそこは不満に出ていることではございますが。」
オルレアン貴族とはいえ、オールセン伯やガスペニ伯は自領さえ有利ならばどちらにでも着くだろう。全員純粋なオルレアン貴族ではないのだから。
「今は太鼓持ちしていた方が利があるんだから、皆気にしてないと思うけどね。まあ、勿論ダンの話もあって防音しっかりしてるからこの部屋で話すくらい大丈夫。」
軍事同盟が大義名分だが、今でもアルビオン、その他の地域がオルレアンにいる理由は恐らく関税が理由だろうとシューは踏んでいた。国内であれば自由貿易、アルビオンは産業国だからオルレアンという大消費地に大量に輸出できるわけだ。
「…1番の疑問点をあげていい。誰も答えなくていいけど。」
「なんです?」
「なんで過去は魔族軍に負けたんだろう。」




