容量超過
フィリップ・アヴァロン シューの側仕え 思考を読む力を持つ。
カーティス(14) シューの側仕え 突出して秀でたところはなく、平均的な人物。
ギーに案内を頼み、フィリップとカーティスは暗くなった古い時代の様相が残るアキテーヌの街を歩く。どこの酒場も賑やかなことこの上ないし、喧嘩をするような怒声も飛び交っている。
「王都の繁華街も五月蝿いものだけど、ここはそれ以上だ。」
「ああ、心の声とほぼ同じような怒声ばかりで鬱陶しいことこの上ない。」
「心の声っつーのは分からねえけど、ここは毎日こんなもんだぜ。どこでも夜はそんなもんだと思ってたけど、違うもんなんだな。」
「その動物に変化する力があるのなら、渡り鳥にでもなってしまえば、違う所にでもいけるだろうが、そのようなことはしないのだな。」
「…へ。行ったところでどーしようもねー。俺みてえな奴は他の所に行っても変わんねーよ。」
変わらないと決めてこの場に留まることを決めるのも英断である。置かれた場所でどのように咲くかを考えてもいいのだ。ガイルはそうやって生きてきたのだから。それが不遇だったとは思わない。
「そうだな。私の場合はすっかり諦めていた所に思いかけず、自身が望んでいたものが手に入ったからお前にもそう言ってしまった。」
「ふうん。俺も思いかけず手に入ればいいんだけどよぉ。」
現在の彼の関心は魅了されているためにグイードに集まってはいるが、フィリップにはそれが魅了されたが故の発言ではなく、本心であることが分かる。勝手に口出しするものではないと自責する。
本来別行動した目的のために、ギーは騒がしいのが好きなのであまり好んで入らないとのことだったが、カーティスの中ではこの喧騒の中で比較的穏やかと称することができる飲み屋に入った。
「おや、見ねえ顔だねぇ。本土の方から来たのかぃ。」
気の強そうな恰幅のいい女将が3人が入るとすぐ声をかけた。
「彼はこの街出身だが、我々はその通りだ。」
「ん…?誰だい、あんたは。」
「…ギーだ。」
アキテネーヌの街はそれなりに大きな街だ。知らない人間がいても当然だが、あまりこない店とは言え、この近辺のチンピラであるギーをこの女将はクソガキと呼んで可愛がってくれたのだ。
「プィチのギーだよ。女将さん。」
「はぁあ?あ、たしかにその格好はあのクソガキと同じだねぇ。でも、あんたもっと貧乏そうな顔してたろ。」
「うっせぇ、クソババア。」
「あんだと、テメェ。」
悪い人ではなさそうだが、女将の剣幕にカーティスは気後れしていた。なんて所に来てしまったんだと。ただそのやりとりでギーであるとは分かっていただけたようだ。
「マダム、3人座れますか?」
「おやまあ、マダムなんて!」
気後れしたカーティスの代わりに、フィリップが女将に声をかけると、彼女はとても嬉しそうに大口を開けて笑い、空いた席に案内をした。この店では相席が普通なようで、大きなテーブルの真ん中に3人は案内された。
「きれえな顔したおふたりと一緒でどうした、ギー?」
フィリップは美丈夫であるが、カーティスはあくまでも綺麗に身なりを整えているというくらいで、王都の繁華街でも同じように対応されたが、褒められて嬉しい反面困惑してしまう。
「今日の仕事だ。」
「へぇ、いつもの仲間はどうしたよ?」
「知らねえ。どっか行ったって言ってた。」
流石にポセイドンによって沈められたとは言えず、のらりくらりと誤魔化していた。しかし、いくらなんでも仲間と逸れたというのに悲壮感や焦燥感は彼にはなかった。
「高波があったって漁師のジジイが言ってたけど、まさか飲まれたんじゃねえだろうね。」
「そうなのか?まあ、アイツらも海には慣れてんだからどうにか逃げたんじゃねえか。」
カーティスがフィリップに何かをしたのかと目配せをしたが、フィリップは首を振った。
【私は気分の上げ下げは出来ても、魔法で大きく心を逸らすというのは私には出来ない。】
フィリップが感情をコントロールしたのでなければ、ただギーが彼らに愛着というものもがないだけなのだろう。関係のないカーティスの方が悲しい気分になるのだ。
「で、ギー? 昨日まで死にそうな顔をしていたのに、どうしたっていうんだい。」
「あ、ああ。シューっていう人間に変えられたんだ。」
「変えられたぁ?そりゃあどんな魔法なんだい。」
女将とギーの会話を手を伸ばしてフィリップが遮る。
「変えたんじゃない。治療したんだ。」
「ちりょー?」
「身体はいつもより動きやすいだろう?怠さだったり。」
「まあ。」
ギーには彼に付けられた傷を修復されたことまでは分かってはいるものの、顔の作りが変わるほどというのはどうにも解せないらしい。
「王都では彼に治療されたい人がたくさんいるのだから実は幸運なのだが、そこに拘るのはシューの本意ではない。」
フィリップは咳払いを1つして話を変えた。
「この地域にダンという男がいないか?」
女将は首を傾げ、近くの男たちにも声をかけて尋ねた。
「あんたたち、ダンって知っているかい?」
「ダンって名前だけじゃ分からねえよ。水夫のダンか?粉屋のダンか?何をしているやつなんだ。」
幾人の人物が複数人から出てくるが、それらしい人物は出てこなかった。
「ふむ、私も名しか聞いたことがないので、困ったな。」
横にいるカーティスもまたなんで彼がダンという男を探しているのか分からなかった。旅の前でも、道中でもその名前が挙がったことはなかった。
「兄ちゃんたちはそいつに会いに来たのか?」
「いや、これは別件だ。本命は違うある人物を探しているのだ。あの山と海に囲まれた村にいるらしいことまでは分かったんだ。」
「うひゃあ、やめとけやめとけ。」
正面にいた男は大げさに手を振った。
「どうしたというんです?」
「訛りが強すぎて、何言ってんのか分からねえんだ。ここらは貿易やらなんやらで本土とほとんど変わらねえけど、あそこは物売り以外は何言ってるか分からねえんだ。」
話を聞いて見るに、言語自体は同じようなだが、発音が独特で、聞き分けが難しいらしい。元々はアルビオンの地域ではあるためアルビオン語とオルレアンが混ざったような発音なのだという。
「へぇ、それは確かに苦労しそうだ。」
とは言うがテレパスの力がある彼からすればそれは簡単な問題なのかもしれない。
遠くで聞いていたまた違う男が、そのテーブルに割って入ってきて、首を振った。
「それ以上に行かない方がいいと思うぞ。今あの村に悪魔がいるっつー話だからよ。」
この街で最も大きい高級なホテルの一室は、美代子が想像するビジネスホテルとは全く違い、一部屋ではなくリビングルームがつき、寝室も2つつくような間取りだった。流石にマリアンヌとシューは性別が違うから違う部屋ではあるが、シューの方のリビングルームにマリアンヌは寝るまで話をしようと遊びに来ていた。
「今、プロローグを思い出しているのだけれど。」
と前置きをした。同じ部屋で待機しているウィリアムには聞こえないくらいの声で話し出す。他の人間にフアナによる細工はしてあるものの、ウィリアムは力のある攻略対象の1人、いつその力が解けてしまってもおかしくないからだ。
「鷹狩りにきたシャルルと山で出逢ったのは、村長が病気でそれに使う薬草を取ってくるといって、ヒロインが山に入ったよね。」
「そうだったはず。ヒロインの冒頭の力なんて軽い外傷くらいしか治せなかったと思うから。」
「足をくじいた兄様を直ぐに治してたいらっしゃったけれど、あれは大したことではないんでしょうか。」
「ゲームの演出上じっくりかけるわけにもいかないだろうし、外傷より病気を治すには原因が目に見えないからかなり難しいよ。僕だって美代子の知識をかなり使わせてもらってる。」
そう言ってマリアンヌの言葉を切った後に、シューはいつもは自信に満ちる青い瞳が陰った。
「この世界は沢山の病気があるから特定は難しいのだけれど、その村長の病気はヒロインとシャルルが倒すプロローグのボス『邪教信者ザカライア』によるものではないかってね。」
シューに指摘されてマリアンヌも顎に手を当てて思い出す。
「蛇のような胴体で、大きく裂けた口に、目玉はカエルのような怪物だったよね。あまりにも気味が悪いから覚えてますわ。でも、大丈夫だとは思います。プロローグでは村長が倒れてから数日という話でしたから今はまだ2年前、ザカライアもいないと思いますよ。」
特徴的な見た目の怪物だ。近くにいればそれだけの騒ぎになるだろうし、この街にまで届いていても確かにおかしくはないから、マリアンヌの言っていることは間違っていない。
「これは僕の知識だけど、ガイルという二章のボスの繋がりで、オシリス教の過激派系宗派の狂信者がいるんだ。これが熱心に病気の闇魔法を研究していたという噂がある。ただ見た目は普通の人間系の魔族で、怪物じゃあない。」
「聞いたこともない宗教ですね。その魔族の人間がザカライアと言うのかしら。」
「そう、名前がザカライア。しかし、今どこいるかは分からない。」
「いないと決めつけるより、いると警戒するといいですわね。」
「…本当に気をつけなきゃいけないのはその男がいるかどうかより、あの村で流行病が発生してないか、ということだよ。」
ここまで来てしまって何を言うかと言うところだが、ザカライアの存在を忘れていたのはプロローグを流していた美代子のせいとしておく。(結局自分に跳ね返るのだが。)
「でも、人間系ですものね。」
マリアンヌは持ち物の中から、真理亜の記憶を記したノートを取り出した。この話はプロローグと六つの章で構成されていて、各章ごとにボスが設定されている。因みにシューは最終章の前で出てくる中ボスという中途半端な立ち位置だ。次の一章のボス、カイムはシューの知識でも現れていないし、2章のガイル以降のボスは王都を出てからの戦いとなる為、探すのも難しい。
「カイムもまた鳥の頭を持ち、人の胴体、カエルのような手足を持つ怪物とありますね。この方も実は人間系と申します?」
「それすらも分からない。過去でカイムが王都に侵入したのは僕が呼び寄せたからだよ。だから、何もない限り彼が侵入してくる手段がないはずだ。」
とは言ってもどう未来が転ぶかも分からない訳だ。シューがいなくなった隙間を誰かが変わる可能性は大きい。シューは天才ではあるが、代わりがないとまでは言えないからだ。
「勿論こんなこと今気にしても仕方ないんだけど。」
シューは側近2人が帰ってくるのを待った。
酒場で悪魔の話を聞いたあたりで、もう情報は出てこないだろうと、カーティスとフィリップは早々に切り上げて帰ろうとした時、ある男がああと手を叩いた。
「ダンじゃねえけど、浮浪者のダニーっていうやつがいたぞ。こいつはここ数ヶ月で現れた新参者だから、お前の知りたいやつかもな。」
「ダニー…。いや、情報を感謝する。」
フィリップは手を上げて患者の意を示し、慣れた様子で彼が感情をすると酒場をでた。
ギーを引き連れて宿へ戻る道でカーティスはそのダンという男について尋ねた。
「ダン、か?」
「そのダンという男はマリアンさんと関わりあるのか?」
「…あったら困るな。ダンというのは私の方の個人的な知り合いだ。カーティスも知っての通り私は魔族だっただろう。」
「ダンというのも?」
「いや、悪魔だ。」
カーティスは思わず歩みを止めた。カーティスには、ルルがティキだというのも本当のところは信じたくないのだ。
「驚かせてすまないが、そこまで脅威な悪魔でもない。いや、ティキと比べれば断然危ないんだが。」
悪戯好きの中級悪魔は神経を逆撫でするくらいで、特に大きな害を及ばすことはない。
「…なぜその悪魔に会うんだ?」
カーティスはフィリップを信頼しているが、悪魔に会いたいというと、それに綻びが出る。
「その悪魔が裏社会において、情報屋であるからだ。」
「…情報屋?」
不安そうなカーティスに、フィリップはふっと悲しげに笑った。
「私も勝手に抜けてきたからな、どこで魔族から襲撃を受けるかも分からん。だから、奇襲よりも、ある程度分かっていた方がいいだろう。」
「新入りフットマンの給金で…、その情報屋から買えるんですか?」
情報屋というくらいだ。情報が欲しいと頼むのであればかなりの額のお金が提示されるはずだ。
「いや、厳しいだろうな。まて、怪しまないでくれ。これでもある程度の策は見つけているんだ。」
フィリップは必死に弁明をした。シューはカーティスから嫌われるのを恐れているが、フィリップもなんとなくその気持ちはわかる気がした。フィリップもまた幾人から忌避されて慣れているのにもかかわらずだ。
「すまない、疑ってしまって。」
「いいや、私もちゃんと説明しなかった。許してほしい。」
少し怯えた様子の瞳、カーティスはよく見覚えがあった。少し前の、自分と、それから。
「カート、フィルお帰り。」
「はい?」
宿でマリアンヌと共に休んでいるはずの少年がそこにいた。




