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これがゲームの世界ですか?  作者: 詩穂
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Sleeping beauty

シュー・アルバート(12) 美代子はパパ大好き。シューは父が嫌い。

カーティス(14) シューの側仕え 家族のこと大好き。

フィリップ・アヴァロン シューの側仕え2 元の家族は覚えていない。食人鬼の親は嫌い。

フアナ 闇の精霊。心を司る。

ニーナ・ネーサン (20) 家族のことを大切にしているが、それ以上に自分の人生を大切にしている。

クリストファー・オールセン(20) シューの兄エリオットJr.の親友殿 父親とは仲がいい。

グイード・デ・ガスペニ(16) シューのことが気に入った変態芸術家。母親大好き。

富、名声、この全てを手に入れた男、ゴール…という話では全くない。

この時代の造船力はヨーロッパの大航海時代が始まる時分辺りの技術である。しかしながら、風を利用とする帆船ではあるものの、この世界はどんなエネルギーよりも便利な魔法という動力が存在する為、安定性は大航海時代よりも更に上と言えるだろうが、美代子は帆船が少なくなった現代で生きていた訳で、エネルギーはディーゼルだとかいう燃料で進む船にしか乗ったことはない。

「気持ち悪い。」

場合よっては帆船の方が汽船よりも揺れが少ないという話もあるが、残念だがシューにはわからない。

「シューちゃん、大丈夫かしら。揺れない船尾の方に行きましょう?」

「アンヌ、どうしてみんな平気なの?」

「私はあまり気分は良いものではありませんが、酷いものでもありませんわ。」

マリアンヌもたしかに顔色が良いとは言い切れなかったが、問題はなさそうだ。

「俺の場合は船に乗り慣れているからな。」

ウィリアムはやはり領地に海があるせいか船には慣れているようだった。

「僕もねぇ。ガスペニ家は古い時代船でブイブイ言わせていた家だからってよく今でも船に乗るからだいぶ慣れてるよ。」

「領地の位置が変わってしまったが、水軍は未だに強いだろう。」

「いや、流石にそれは無いよ。」

グイードは苦笑いする。

足手まといになると感じたシューは気分が辛い中自分に回復魔法をかけて自律神経の乱れを正して立ち上がった。ガイルが話していたシューの自動回復魔法はどうやら外傷のみにしか通用しないらしく、こうした体調不良には何の働きも示してくれなかった。

「シューちゃん、無理してはダメですわよ。」

「ううん、ここのあたりは海賊がよく出るらしいから、ある程度対処しないとね。」

マリアンヌは騎士団海軍の小さい船を借り受けてきた訳だが、だからといって海賊に狙われない訳では無い。決して海賊は漫画だけの世界じゃないし、この時代の海賊は本当に質が悪い。残虐に人を殺し、使い古す。

「距離はあるけど、前方に海賊船だよ。」

望遠鏡を持ち、船の航路を見ていたクリストファーが落ち着いた声で言った。

「あっちも気づいているな。海軍の船とは言っても小型船だから狙われるかもな。」

「既に守護結界は張ってあるが、遠距離の魔法は撃ってこないだろうか。」

遠距離の魔法攻撃に近接攻撃の方が得意なウィリアムは不安そうだったが、グイードは首を振った。

「んん、白兵戦になった方が危ないよ。遠距離から僕とクリストファー・オールセン卿がいるし、防衛も君1人でなんとかなるからね。」

あちらの船の人員の人数は分からないが、ここにいるメンバーはシューの側近2人とニーナ、クリストファー、ウィリアム、グイード、それからマリアンヌの側仕えを抜かして護衛5人、ほかの水夫10人程度の規模な訳だ。船が傍について白兵戦になる方が危険だというグイードの意見も分かる。

「弟くんも遠距離の攻撃魔法使えるんじゃない?」

「期待はしないでほしいです。」

シューは光の魔道書を取り出してみるが、イールゥイから古い字の読み方が書かれた辞書のようなものを手に入れたものの、殆ど解読は成功していない。

「でも、この船の人間が死ぬことはないですよ。」

「うわぁ、格好いいなあ。」

虚言であったとしても、シューの言葉に水夫達も驚きとともに安心したような顔になる。

少しずつ距離が縮まり、船に緊張の糸が張り詰める。

「…先制攻撃しよう。」

様子見をしていたが、海賊船も海軍の船に警戒はしているようで打って出てこない。シューが見ていた穏やかなクリストファーの横顔が険しかった。

「500メートルは離れてますよ。」

「そうだね、いつもの俺じゃあ無理だなぁ。弟くん行ける?」

魔法攻撃をするにはあまりに離れている海賊船に、グイードは疑うような目をするが、シューは当たり前のように頷いた。

「不和を生み出す愚者よ、我が光によって排せよ。キュア。」

オズワルドのような限界値を底上げするような魔法ではなく、いつかの稽古でクリストファーにかけた、完璧な回復魔法だ。疲労、睡眠不足、筋肉痛様々な諸症状を治す現代社会にこそ欲しい魔法だが、元々クリストファーも優秀な人だから調子を完璧に整えるだけで最高のパフォーマンスをすることができる。

「エコー、君の嘆きを聞かせて!ウィンドウ・ボイス!」

水夫たちとカーティスが必死に抑えながらもこちらの船体も揺らぐ程の精霊エコーの風が轟音を立て相手の船に当たった。

「うわぁ、これが本当に情けない長男?」

「流石に殴るよ、グイード。」

大波と水しぶきで相手の状態は見えてなかったが、徐々にそれは収まるとクリストファーは舌打ちをした。

「そりゃあ、あちらは海戦には慣れているよねぇ。こういう攻撃も簡単にお見通しというわけだ。」

「守護の結界魔法か。」

そうウィリアムが呟いたと同時に、船体が轟音とともに大きく縦に揺れ、シューとマリアンヌは甲板に打ち付けられた。しかし、それから船が転覆するようなことはなかった。

「…流石慣れている、船じゃなくて水面を狙ったんだ。ニーナちゃん、ありがとう。」

ニーナはウンディーネの魔法で大きく揺れた水面を落ち着かせた。

「クリス殿もとっさの判断が早かった。」

またすぐにクリストファーも彼らが使った風魔法と違う方向に風を打ち付けて消滅させた後に、船の周りの風を平常に戻した。

それでも、全くの運動不足であるシューとマリアンヌは物の見事に転倒したわけだ。シューは自分とマリアンヌに魔法をかけるとすぐに立ち上がった。

「難しいですわね、クリストファー様の魔法も簡単に消されてしまいました。」

「…違うよ。精霊エコーは本来音を司るんだ。精霊魔法の風の魔法であっても、アネモイと違って威力は弱めだよ。」

「あら、風の精霊についても研究していたのですね。」

「そうだね。だから、クリスさんは本当ならきっと音の魔法が1番攻撃力が高いんだよ。」

「でも、耳栓があるわけでもないので、私たちにも影響があるということですわね。」

「さすが、アンヌ。言いたいことをすぐ分かってくれたね。」

もう少し近づけば、クリストファーも音を制御できるだろうが、まだ少し遠い。

「シューちゃん?」

「グイード!」

グイードもまた特殊な人間だ。生まれは風属性の癖に使う魔法は水の魔法で、彼に力を貸しているのは水と土の2つの属性を持つアフロディーテなのだから。

「はいはーい?」

「カートをこちらに置くから、ちょっと僕と船尾の方へ。」

「願っても見ないよ。」

グイードはシューに呼ばれただけで、目をキラキラと輝かせて喜んだ。

「ねえ、アフロディーテの魔法はどこまで使える?」

「土系以外は大方使えるよ。大得意なのは魅了だよ!」

「…普通その手の状態異常は闇属性の魔法だけど、さすがアフロディーテはその手の魔法は得意だね。」

ニコニコとシューの質問に答えていたが、すっと真顔に戻った。

「僕はシューにアフロディーテの加護を受けている話をしたかな?」

「してないよ、僕が気づいただけだ。」

彼が風属性で水属性の魔法が使えることくらいしか、彼について美代子は覚えていなかったから、アフロディーテの存在を知ったのは完全にシューの感覚のみだ。

「気づいた、そんなことってあるの…。」

そばにいるフィリップはグイードに肯定した。彼の知識を読むことはできないが、シューの言葉がシューにとっての真実であることは間違いないのだ。

「アフロディーテの魅了の魔法を使って、情報を引き出したいけれど、海の上だしなあ。」

「それは彼らも同じだと思うよ。オールセン卿も一応海軍にいた経歴があったとしても、王都の騎士団所属だから情報はほとんどないだろうしね。」

クリストファーは学生時代から王都に居て、卒業後はそのまま王都の騎士団に所属した訳だが、海の魔族討伐した際に本部からの応援ということで海軍に暫く居たこともあったらしい。

「へぇ、そんなことよく知ってるね。」

「ノ(no)、ノ! みんな知ってることさ。眠り姫。」

シューが全く社交界に出ていなかったのを、眠り姫とグイードは冗談めかして言う。

「…たとえ僕が100年眠りについたとしても絶対に起こして欲しくはないよ。」

「僕は100年も寝かしてあげないけどね!あれもいくつか場所によってまた人によって話は違うけど、1番ひどい話だと王子が眠り姫を妊娠させて放置して、子供が生まれて赤ん坊が自力でおっぱいを飲もうとして指に刺さった毒針を吸って目がさめるパターンがあるんだよ。」

グイードの話にシューは口をあんぐりと開けた。それはハッピーエンドと言えるのか。100年後目を覚ましたら自分の子供がいるなんてどんな悪夢だろう。

「それなら僕は毒針で死んだ方が幸せだよ。」

「あはは、君を殺したくないのは僕のエゴだね。例え100年眠らせたとしてもさ。まあ、その後別の人間に取られるなんて殺したくなる訳だけど。」

「眠り姫を?」

「どちらもさ。」

穏やかな太陽と、クリストファーの穏やかな風に包まれる船で、グイードは爽やかに笑うのだが、シューやフィリップは後ずさる。

甲板の方で相手側へ攻撃するクリストファーやニーナの魔法の爆発音が響き、多少船が揺れてバランスを崩しかけたが、グイードがしっかりと抱きとめる。変態芸術家ではある癖に肩も広く体幹がしっかりしているのが嫉妬する。彼もまた伯爵家の人間、軍人の1人であることを見せつけられる。

「私ではシューの護衛も満足にできないな。」

対してフィリップは剣を腰に携えているものの、基本的に彼の戦う手段はシューと同じ闇魔法だから、この面子に囲まれてしまうと魔法を使うに使えない。本来ならば何の問題もないのだけれど。

「君は君の仕事をしてれば良いんだって兄様も言っていたでしょう。」

フィリップは少しだけ考えを巡らせてから頷いた。

「…ああ、同じ属性の人間の考えならば私の方がつかめるかもしれん。」

丁度一羽の海鳥が船の上を旋回する。フィリップからシューにそれを伝えると、シューは面倒臭そうに呟いた。

「…結界越しは厄介だなぁ。」

護身用の短剣ーーートーレンが打ったものとは違う安物の短剣ーーーを手元でくるりと一度回すとシューの手から消えた。

グエッ。次の瞬間には変な声を立て海鳥が結界の上に落ち、赤い水滴がウィリアムの結界を伝う。

「敵?」

グイードの問いに頷き、転移魔法で海鳥を船の上へ移した。

「僕の庭を汚すものよ、ケラウノスの錆となれ。」

闇魔法の変身を無理やり剥がすのに、フィリップの時のようにじっくりとやることはせず、ある程度痛みを残したまま行った。

「うげっ、いてぇ。」

手入れされていない髭や髪は艶を失い、ボサボサで目は大きく窪み、ほおはこけていて、いっそ中年のような男に見えるが、恐らくは10代後半の男だ。背に刺さったナイフを更に深く刺す。

「シュー、エグいね。」

「だって、邪魔だったから。」

【…同じ手で幾人の人を救うなんて信じられないわね。】

その違いについて言い訳をするなら、機嫌が悪かったとしか言いようがない。

「くそ、殺すなら殺せよ。」

「ある程度苦しませたら完全に回復させてあげるから安心して。」

「は、はあ?」

「特別サービスだよ。君の肌荒れも筋肉痛もみーんな治してあげるっていう話だからさ。」

シューは微笑みながら、フィリップの持っていた剣を足に刺した。

「っー、何がききてえ、んだよ!」

「君たち海賊たちの規模かなぁ。アキテーヌの海賊の様子も聞きたいしね。」

剣を刺したまま、シューはその傷を修復し始めた。そうすれば彼もシューの言っていることがよく分かると思ったのだ。

離れたところでウィリアムの背に庇われながら、マリアンヌはシューの様子を見ていたが、ひっと息を呑んだ。今まで見ていたシューではない、かつてゲームで見た悪役シューがそこにいたからだ。

「…アキテーヌは、マルガリオ一家つー、大きな海賊が支配していて、俺たちは末端の小さな海賊だよ!俺たちは10数人しかいねえし、若い人間しかいねえけど、マルガリオは100人くらいの海賊だ!」

「ふーん?」

「シュー、聞きたい情報は手に入った。」

シューが大腿部に刺さった剣に手をかけようとしたところで、フィリップがシューを制止した。シューのように何もせずにフィリップが全て筒抜けできるなら良かったのだが、今回の相手はそうもいかなかったので、シューが精神を痛めつけている間に、フィリップがテレパスを応用した魔法で、フィリップがある程度提示した情報に対して心の反応を見るという、ややこしいことをしてなんとかフィリップは情報を聞き取った。

「まあ、それなら約束通りにしてあげるか。」

短剣と剣を引き抜くと、最初約束した通りに肌荒れや筋肉痛などと言った症状も全て消し去った。更に栄養失調だった肌や髪も艶を取り戻し、中年の男というような容貌が、若い男の姿に戻った。

「…か、体が、軽い?」

「さぁ、完全に健康を取り戻したわけだけどさぁ、その姿で帰っても君と認識されないかもね。」

最早美容整形の域だ。水面で確認してこいと身振りで表すと男はつんのめりながら、かけて水瓶を眺める。

「これが俺?」

「いやぁ、化けたよねぇ。」

「栄養が行き届いてないと、老けるのが早くなるからね。」

無論いくらシューが回復させたところで、老人が若返るのはありえないが、彼は元々回復力のある若い人間だったから大きく変わったのだ。

「グイード、どう?」

「普通に魅了させてから情報を抜くこともできたんじゃない?」

「君やアフロディーテのやる気を出させてあげたんじゃない。」

「あはは、配慮ありがとう。そんなことしなくても僕は既に君に魅了されているから元々やる気いっぱいだったよ。」

グイードは彼の前に現れると、呪を唱える。

「ミア・アフロディーテ、全ての人に愛を。僕の為に溶けるほどの熱情を。泡となるほどの思いを。」

精神に呼びかける魔法だから、見た目は全く変化していないが、男がグイードに向ける目が輝いているように見える。とは言っても自分の性質を大きく変える魔法ではないから、グイードに恋するというよりは、グイードに憧れる舎弟のような感情に変わるだけだ。

「さぁ、Piccolaチビちゃん。僕の為に君はここに留まってくれよ。」

「勿論。」

Piccolaチビちゃんって…。」

グイードよりも背は低いが、一応あちらの方が年は上のような男にPiccolaチビちゃんと呼ぶにはどうも違和感の方が大きい。

「Piccola、君の名前を教えてくれるかい?」

「ギーだ。」

そうして海賊の一人をこの中に引き込んだわけだが、海賊が人質くらいで動揺するはずもない。

「あちらの乗組員の数は15人、ギーが抜けて14人だ。あの船一つなら白兵戦でも勝てるけど。」

しかし、彼らはマルガリオという海賊グループの1つだ。彼らの仲間が参戦してくる可能性も十分ある。

「それにクリスさんの方が魔法は上だけど、向こうにもいい魔術師がいるし、楽観視はできないね。」

「海賊なんてほとんど暴力手段ばかり鍛えているからなぁ、美しくないよ。」

貴族ぐんじんの癖に何言ってるのさ。」

またグイードがシューにキスをしそうになったのを、フィリップがシューの腕を引いて躱した。

「酷いなぁ。でも、海賊なんて美しいものを無理やり暴力で奪う、動物的な種族なんだ。」

それは思想だとか、そういう教訓を受けてきたとかそういう類の表情では無く、心から憎んでいるような様子だった。

「何が言いたいかって言うと、ギーを人質に取ったところで取引にもならないし、あんなチンピラでも手こずるかもって言う話だ。」

「…グイードも遠距離の魔法攻撃できるんでしょ?クリスさんのサポートしてきていいよ。」

「あと100メートル近づけばね。」

「あと1分も経たないよ。」

グイードは人使いが荒いと口を尖らせる。

「僕に惚れても知らないよぉ。」

「残念だけど、蓬莱の玉の枝を取ってこれるような人じゃないと惚れないから。」

美代子の知識からすらば「おととい来やがれ」の意味だったが、グイードはその異国の物語は分からなかったようだ。首を傾げながらも甲板の方はへ戻る。

「よ、グイード。弟くんとの作戦会議はいいのかい?」

「今度はこっちを手伝えってさ。」

「お、有難いね。」

クリストファーの魔法の牽制もあって300メートルの距離までなんの問題もなく接近した。シューの見込み通り、グイードの魔法も届く距離だ。

「美人に振り回されるのは好きだし、仕方ないなぁ。」

「多分そう言うところだと思うけど。」

クリストファーはグイードの発言にたじろいだが、いつものことなので雑に流しておく。

「ミア・アフロディーテ、独占欲と自己愛を持って罰したプシュケーのように、かの物にも厳罰を。」

グイードの呼びかけとともに、海賊船の周りが無数の泡で埋まる。

「いつもより調子がいい。」

その正体に気づいてグイードは嬉しいような悲しいような笑みを浮かべる。

海賊船を囲んだ泡は一斉に弾けて割れ、キャラック船の1つのマストを折り、船体の側部を破壊した。

「オールセン卿、流石ですね。あちらの結界を壊すとは。」

「単にこちらは回復係が優秀だったから、連続の魔法攻撃が可能だっただけさ。」

こちらの守護結界も優秀だったが、ニーナが絶えず安定した海面の維持に尽力していたのもあちらの攻撃を受けなかった1つでもある。

攻撃を食らった彼らはこれ以上の戦線維持は難しいとゆっくりと航路を展開した。海軍の立場からすれば、ここで撃沈させておきたいところだった。また残念ながらこの世界に『人権』または『自然権』という言葉は広くて浸透しておらず、罪人は人の狂気と残忍さを表すような方法で処刑されていた為、拿捕されるより撃沈された方が『生き残る』可能性があるのが、不可思議な話だ。

クリストファーとグイードによる追撃を、と二人が構えたところだった。それは突然起こった。大きく深い波が蛸の足のようにうねり、彼らを飲み込んだ。これは異常だと水夫たちもニーナの魔法に合わせて船を安定させるように帆を強く引き、舵を握る。

晴れていた空が水彩画が滲むように暗く淀んで行く。

「な、に?」

各々がこの状況に理解が出来ず呟いた。ギーに眠らせる魔法をかけてフィリップに任せると、シューは広い甲板に戻り、揺れる船体にしがみつきながらそれを見た。

「…水、いや海の精霊…だ。」

シューの頭に憎き実父の警告する姿が蘇ると同じタイミングで300メートル先の水の中から人影がぬーっと現れた。

「海ですか?オケアニス様?」

「海にも幾人か精霊がいるけど、恐らく彼は『水』の最高精霊が一人。」

シューが言う前にグイードがその名を呼ぶ。

「海の王、ポセイドン。」




俺様のこと忘れねえでくれよ。

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