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これがゲームの世界ですか?  作者: 詩穂
救済
44/115

絶望と切望のパイ

相変わらずのサブタイトル詐欺でございます。


ティキ・シルヴィア お気楽悪魔。不思議な言葉を吐いて消滅。いつもチェシャ猫のように笑っていた。


カーティス(14) シューの側仕え ルルが消滅したことには戸惑いを覚えているが、悪魔が居なくなってホッとしている。


フィリップ・アヴァロン 元々人族、食人鬼に育てられ変質したが、シューの魔法で再び人族に戻った。以来シューの側仕えとして生きている。


フアナ 心を巣食う闇から生まれた精霊 性格が悪いことは自認しているが、人のように好きな人に嫌われるようなことは嫌だと思う心もきちんと存在する。


トーレン・スミス ティキからは精霊シトリの気配がする人間だと言われた。フアナも精霊の気配がするものの人間だという。

ゲームのシナリオ中ではオズワルドと同学年といわれ魔法学院に通っていた様子。そこでの設定は精霊。


美代子がゲームが好きな理由は、ゲームの世界では問題が一つずつ提示されることだ。一つ一つ解決していけば、最後にはハッピーエンドを迎えられる。


ティキが消えて次の日も神殿の奉仕作業にシューは精を出していた。それはティキがいなくても出来ることで、無駄な私語もなく淡々と行えることでティキの消失を無視することができた。シューの周りにいる従者やフアナ、神殿のお偉方も、あのディーンでさえもが休んでおけと言ったのだが、何もしない方が余計なことを考えてしまうのでちょうどいい。

カーティスとフィリップは、2人ともいつも以上にシューを見ていた。カーティスがいつものようにシューの手伝いとして問診している間、フィリップはシューから離れなかった。動いている方が気が紛れると言っても、昨日きちんと寝られた訳ではなく、何度も眠りから覚めていたようだったため、身体にガタが来てもおかしくはないのだから。


カーティスは昨日のトーレンの話をシューが寝ているうちに新人の側仕えにしていた。本当に最初この訳の分からない新人に怪しさと嫉妬を感じずにはいられなかったが、今は彼がいてくれて安心する。こういう頭脳労働はカーティスの苦手分野だから、尚更彼の存在が有難い。

「しかし、君の言うトーレンの様子はシューへの敬慕を感じるな。」

「それもあって俺は受け取っちゃったんだよ、ルルを殺したあの人が作った短剣を。」

「シューの中で踏ん切りがつかない限り、シューは使わないから問題はないだろう。シューは元々この世界にストーリーがあると言ったが、彼もまたそのストーリーを一部、又は全てを知っているのだろうな。」

「彼はそのストーリーでは精霊であるらしいと王女殿下と話していたけど、実際に会ったトーレンさんは人間、フアナさん曰く精霊の気配がする人間らしい。ですよね?」

シューの側で羽の手入れをしていた彼女にカーティスは話を振った。

「ええ、そうよ。私も貴方たちより長く生きているけれどそんなの初めてよ。」

「どんな精霊が分かるんです?」

「知らないわよ。人族や魔族程いないって言っても精霊の数も100、200の話じゃないの。消失した精霊も数えだしたらきりが無いし。」

「精霊の消失?」

「有名どころでいえば、光の王ゼウスじゃないからしら。」

と、フアナが具体例をあげたのだが、カーティスとフィリップは首を傾げた。フアナはさも当然だとその名前を出したのだが、2人に思い当たる名前ではなかった。

「嘘、だってシューは知ってたわよ。」

「それはいつの時代の精霊なんですか。シューはその時代から研究していたということでしょうか。」

「死んだって噂されていたのは1000年から2000年前かしらね。生きていた時代は知らないわ。」

「神代に消えた精霊なんてわかる訳ないですが。」

「ええ、じゃあもっと最近だったのかしら。」

フアナの記憶はあてにならず、本題とは関係ないと2人は探るのをやめた。

「とにかく精霊は消失することがあるということですよね。」

「精霊はエネルギー体が意思を持っている、そう考えていいわ。大体供給元が消えれば消える。それが精霊の核なんて言われているわ。」

フアナの発言を受けてフィリップは更に頭を悩ませた。

「精霊の力を持った人間はどういうことだと想像しますか?」

「想像でいいのね。理屈もなく。」

「はい、これはイレギュラーの事だと思いますから。」

フアナ自身も初めて会ったと言うのであるし、理屈や根拠を求めたら何も発言できないのが当然とフィリップはそう尋ねた。

「精霊を取り込むことに成功した人間マッドサイエンティストとか、悪魔みたいに精霊が人族に取り憑くとか、しか考え付かないかしら。あとは、精霊が死んで人間として生まれ変わったから、なんてね。美代子からシューになったみたいに。初めて会った時は精霊の気配を私は感じられなかったから、精霊の力が凄く弱いのか、それともコントロールが取れるのか分からないのが私は怖いのよね。」

「フアナ様でも恐怖を抱きますか?」

「そりゃあ、人族ひとに比べたらあんまり怖がらないかもしれないけど、強そうなモノには怖くなるでしょう。私戦うの苦手だし。」

恐怖は自己防衛本能によるものだから、基本的に不死性の精霊であるフアナが持つことは少ないが、絶対的に優位に立つ相手にはフアナであろうと怖いのだ。それを聴くとフィリップは同じだと嬉しそうだった。

「トーレンさんは多分敵じゃないと思うんだけど、ルルさんを殺したあの人をシューが赦せるかどうか。」

「時間かかりそうだな。」

「鍛冶屋の前で戦ってたっていうことは、会いに行ったのはルルさんの方だと思うけど、なんでだろう。フアナさんは知ってますか?」

「残念だけど、私はシューに置いてかれてふて腐れていて気晴らしに散歩に行っていたのよ。その途中で雷に遭って。」

とは言うが、フアナもシューのことか、ティキのことが心配したに違いない。素直な人ではないとカーティスは内心だったが、フアナには筒抜けでギロリと睨まれる。

「そうだ、雷。私もシューが使っているのしか見たことがないが、シューは古い魔法だと言っていたな。」

「シューは記憶がないみたいだけど、あの人はシューのことを知己のように話していた。」

「私はシューのことを8つか9つの時から知っているけど、トーレンのことなんて知らないわ。」

ティキの方がシューとは先に知り合っているが、それほど差はない。昔は今ほどずっと一緒にいるわけではないから、その間に会っていた可能性が無いわけではないが、心の精霊であるフアナが別の存在に気づかないはずがない。

カーティスとフィリップは今すぐにでも確認をしに行きたいが、不安定な状況にある主人を置いていくことはできなかった。目が覚めたとき、更に人が減っていたら彼がどう思うか容易に想像できてしまう。

フィリップは少しでも気休めになればと心を落ち着かせる魔法を唱えた。


1日シューの様子を見ていたが、問題はなかった。骨折患者にも的確な魔法ですぐ治し、普段と変わらない数の患者を救った。カーティスは事前に無理そうなら救急の外来を担当するアレンの方にも回していいとも言われていたが、その必要すらなかった。

【カーティス。】

【…貴方の能力は知っていても驚くな、これは。】

【いきなりですまない。ただシューに少し記憶障害が出ているようだ。トーレンの件は暫く先延ばしになるだろう。】

【元々先にエリオットJr.様との打ち合わせの方が優先するから、先延ばししても問題はないよ。俺は馬鹿だから、シューさえ良しとするなら問題に積極的に関わる必要はないとすら考えてる。】

フィリップは心が読めているから、シューの奥底にある蟠りを消してあげたいと感じているのかもしれない。しかし、カーティスは王女殿下とシューの話で「シューの絶望」を聞いていた為、それがパンドラの箱のように考えてしまうのだ。

「2人とも何か難しいことを考えている?」

テレパスで心で会話をしているとそちらに集中してしまい、側から見ていると考え込んでいるように見えるのだ。シューが不安そうに2人の顔を覗き込んで、無理に笑った。

「ティキのことなら気にしないで。きっと帰ってくるよ。」

カーティスは息を飲んだが、すぐ微笑みを返した。

「今度は帰る時間を告げないとソーセージにすると言っておきましょう。」

「マクシムさんも協力してくれそうだ。」

「要請しておきます。」

【存外演技派だな。】

新人の先輩に野次を飛ばされながらも、カーティスにとってはいつも通りの生活が始まった。そこに不細工な猫の姿は消えてしまい、少しだけ静かになった部屋だけれど。




続けて投稿します。

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