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これがゲームの世界ですか?  作者: 詩穂
救済
42/115

誰が駒鳥を殺したの?


再び情報共有回。正直シューが安楽椅子探偵でもない癖に動かないのでつまらないです。


ルル 悪魔ティキ・シルヴィアの猫の姿


マリアンヌ・ド・オルレアン シューと同じように前世の記憶持ち。前世は真理亜。


アンドリュー・ホワイト ゲームヒロインの兄。神殿に行く時人混みで迷子になりかけたシューを助けた。


トーレン・スミス ゲームの攻略対象 鍛冶屋の親方のところで修行を積んでいる徒弟。彼に武器製作を依頼している。


ティキは猫の姿で暗く狭い道を進んだ。広場のギルドの脇道を抜け職人街通りを真っ直ぐに進み、二つ目の角を右、4つ目の角を左に曲がった場所だ。

「…おや、あの時の猫さん?」

「おう、初めまして?トーレン。」

シューが拾った青年と似たような黒髪を持った十代後半に見える少年は、ルルが話すことに何の驚きも見せることもなく微笑んだ。

「こないだ会ったじゃないですか。もうすぐ魔法は完璧に定着しますので、お渡しできると思いますよ。」

「ふーん。俺様はどうでもいいがな。」

「そんな、あんなに仲良かったのに?」

「誰があんな馬鹿と仲が良いって?くそったれ。」

不細工な猫はけっと唾を吐くと、トーレンは呆れるように手を上げた。

「では、何故ここに貴方は来たのです。」

「俺様の興味の為だな。」


シューはマリアンヌの事を大分見下していたのだと気付かされる。シューは半日休みを取り、マリアンヌと顔を合わせにオルレアンの王城に来ていた。

「これってスキャルダルにならないのかな。」

「大丈夫ですわ。シュー・アルバート卿は私の神癒魔法の師であり、私の神殿訪問での仲介者という説明をしていますの。ほら、周りには公的訪問と同じくらいの側付きがおりますでしょう。」

マリアンヌは簡単に説明するが、それを納得させることができるマリアンヌは凄い。

シューはあの後オズワルドに兄ともう一つマリアンヌ宛の手紙を頼むことにして、マリアンヌとコンタクトを取った。すると、3日も経たず返事が返ってきたのだ。(エリオットJr.の方も直ぐに返ってきたが、それはまた違う話だ。)

「それで何かありました?私はいつでも会いたいですが、貴方はそうではないでしょう。」

「会いたくないわけじゃないよ。本当は聞きたいことは別だったんだけど、昨日実は情報が入ったから、そっちを先に。」

マリアンヌは搾りたてのオレンジのジュースが入ったグラスを置いてシューの目を見つめた。

「アンドリュー・ホワイトの住んでいる村が分かった。それに彼女の名前も。」

「まさか!」

昨日夕方の祈りの時間も終え、夕餉へ向かう道で来賓の報せを受けた。いつもならその時間の面会は拒絶している神殿も、ニーナ・ネーサンが何故かエリオットJr.の書状を持って現れた為に面会が可能となった。

「ニーナ姉様、何かありましたか?」

その緊急性のある報せを受けて、シューは何があったのかと心配をしたのだが、ニーナは苦笑した。

「実はシューの探していたアンドリュー・ホワイトの住所が分かったのだが、神殿に行くには時間が時間だったのでな。アルバート邸宅の方を尋ねてみたのだが、丁度よくアルバート隊長殿、いや、アルビオン伯爵殿が帰宅され、早い方が良いだろうとこうして書状まで書いてくれたのだ。」

ニーナの仕事の早さにも舌を巻くものだが、エリオットJr.がシューのやろうとしていることに全面的に協力してくれているのに、驚きを隠せない。しかし、きちんとニーナには感謝をし、彼女の後のことをエリオットJr.に頼むことを手紙に記し、ニーナをアルバートの邸宅へと帰した。

その話を聞いたマリアンヌは手を叩いて喜んだ。

「それでヒロインはなんて言うの?」

「マリアン。マリアン・ホワイトだよ。昔アルビオンに支配されていた現オルレアンの村。山と海に囲まれた小さな村。」

「マリアン…。」

「言語の違いはあるけど、アンヌと同じ名前だね。」

公式で一度も名前が付けられなかった主人公ヒロインの名前を聞いてもピンと来ることはないが、マリアンヌと同じ名前であることが不思議だ。

「マリアンの名前は人気があるから、変に勘繰るのは良くないと思うんだけどねぇ。もしかしてアンヌと誕生日が一緒なのかも。」

「そうなのかもしれませんね。」

美代子や真理亜のアジア人としての感覚的には奇妙に感じてしまうが、名前を受け継ぐ文化のある国であるから、名前が被ることにマリアンヌやシューには普通のことだ。マリアンヌが生まれた後、王の恩恵を受けたいと、シューの年くらいの女子にはマリアンヌ、マリアン、マリアンナ、マリアンネが多いので尚更シューには驚かなかった。

「どうする?会いに行くの?」

元々ヒロインが魔法学院に来るきっかけは、鷹狩りにヒロインの村近くの山に出かけたシャルルが怪我したところをヒロインが見つけて、光魔法を用いて怪我を治したことにある。

「会いたいですわ。シューちゃんも付いていく?」

「理由は? いくらなんでも王女殿下がそんな辺境の村に行くことに理由が必要じゃないの。」

「精霊オケアニス様の導きとでも言えば、信じますわ。私今までそう言って切り抜けてきましたから。」

「オケアニスはただの水の精霊、未来を見る力なんてないのに?」

「あらシューちゃんは精霊に詳しいのね。」

「魔法の研究に精霊の研究するのは大事なことだよ。」

しかし、殆どの魔道士達は自分の属性かそれに近い属性の精霊のみしか知らない。光属性のシューが水属性の精霊を知っていることは驚く程凄いということはないだろうが、闇魔法の方が得意であるということを知っている真理亜は流石だと感嘆する。

「シューちゃんはヒロインの所には行く気はないのかしら?」

「マリアンも会いたいんだけど、予定が合うかなぁ。」

エリオットJr.の方とも今度会う予定があり、普段の神殿の奉仕作業もある。こないだのお茶会と討伐隊が異例だっただけで、バッドエンディング回避に支障が出てこない限りは神殿の仕事は続けたいのだ。

「ヒロインはシューにとって唯一の友達であり、ルートによっては最愛の人であるわけだけど、僕はもう君やビル様もいるしね。後は僕の代わりに光の魔道士として生きていってほしいし。」

「才能はヒロインの方が上だとしても、彼女に才能を十分に使う知識や頭がないですわ。貴方に教えて頂かないと。」

「それくらいは自分の役割だと自覚しているよ。安心して叩き込むからさ。」

「ふふ、ラッセルイベントを思い出しますわ。」

何故か攻略対象の1人から勉強勝負を挑まれたヒロインに鬼気迫る気迫でヒロインに勉強を叩き込んだのがシューだ。

原作ゲームだと一年で英雄になった娘、自頭は悪くないだろうからそんなに不安もない。」

ヒロイン、マリアンの話をした後、マリアンヌは「それで?」と尋ねた。

「だって、聞きたいことがあると話されていたでしょう?」

わざわざシューが自分からマリアンヌに聞きたいことがあるとオズワルドに頼んだのだから、マリアンヌも気になっていたようだ。

「うん、こないだトーレン・スミスに会ったんだよ。」

その名前を出すとマリアンヌは目を丸くして驚いた。

「追加コンテンツで仲間にできるシューとは違って、トーレンはどこで仲間にできるか分からなくて全然僕情報が無いんだよね。」

「アレックスが居なくてもトーレンは居たんだ。」

「アレックスって、攻略対象の?学院の騎士隊の1年生だったよね?」

アレックスというあだ名だが、本人の名前はアレクサンドラ・リース。リース伯爵家の長女だ。だが、彼は自分の事を男だと思っていて、このゲームでは1番男らしく、容姿もウィリアムと同じくらいの短髪の綺麗というより格好いい男だった。日本の演劇で人気なフランスの男装の麗人とは違い、彼は心から男だ。

「アレックスのルートをクリアした後の2週目以降にしか出てこないんだよね。」

「アレックスと仲良くしないと出てこないってこと?」

「アレックスの幼馴染らしい、けど。」

そこで頭を捻る。アレクサンドラは一応伯爵の娘で、トーレンは職人街の職人でしかない。しかも、オルレアン系やアルビオン系とはまた違う容姿をしている。

「あれ、トーレンってなんで学院に入れているの?」

「正確には生徒ではないよ、彼。」

「生徒ではない? オズ兄様と同学年かと。」

「そう思わされているだけ。話していて感じなかった?」

思い返しても、容姿が日本人に見えたこととその容姿の割に落ち着いた雰囲気で年齢が読みづらいことしか印象がない。シュー個人の感覚は、彼と話をすることはとても好ましかった。

「そう言うってことは彼は人外ってことだよね?魔族?」

「スパイで恋して国を裏切るのか、面白そうだね!」

「じゃあ、精霊か。」

マリアンヌの様子からそうだと確信を持てた。隠すつもりもない真理亜はうんと頷いた。

「彼は水の精霊。アレックスに力を貸している精霊だよ。」

幼馴染というくらいなら、アレックスの前に顕現させているはずだが、精霊が何故職人街にいるのかというのは謎のままだ。

「東蓮という名前からして、ここら辺の精霊ではないはずだ。わざわざ異国の名前を名乗るんだから、自分のいた地域に拘りがあるんじゃないのかな。」

「そんな話はゲームではありませんでしたわ。人間の生活に興味を持って人間として生きてみたかったというキャラクターでしたから。」

原作ゲームではそうだったとして、現実はどうか分からない。ゲームと現実にいくらかの差異が明らかになっていて、彼がここにいるかどうかにきちんとした理由がありそうだ。

「彼ルートはどう?」

「彼は元々人間が好きだから、出現してしまえば攻略は難しくないよ。Jr.様と違って。」

エリオットJr.は父エリオットと同じくして、恋愛ゲーム向きではない性格をしている。いや、寧ろ恋愛系のラスボスとしては最大に向いているのかもしれない。乙女ゲームに慣れていない美代子からすればエリオットJr.の塩対応には安心するところがあって、エリオットJr.を攻略したところもある。

「エル兄様が簡単に攻略されたら、天変地異の前触れかと思うから弟としてはそれでいいんだけど。」

「トーレンはあの話の中では1番甘い。砂を吐くレベルだよ。」

「砂を吐く?」

「目も当てられないほどの恋愛描写とでも言っておきます。」

マリアンヌの話を纏めると、とにかく過保護でヒロインが最前線で魔族と戦うことに否定的なキャラクターということらしい。それは彼が人間でもなく、貴族でもないから、なのかもしれない。ただシューがあった彼はそうだったかと思う。穏やかに微笑む彼は、気性の荒い職人街では異色だった。しかし、誰かを溺愛するようには見えなかった。

「いえ、難しく考えることもありませんわ。ゲーム補正が無くなっただけかもしませんし、目下の目標はマリアンの説得です。」

「そうだね。ゲーム基準で考えると、妹を大切にしているアンドリューの説得の方が難しそう。」

「マリアンとアンドリューのプロフィールに、ゲームとの差異はありますか?」

「ニーナ姉様の報告を聞く限りはない。元々2人とも攻略対象程情報がないから判断しかねる。」

アンドリューの話が出て、ふと真理亜が話したバッドエンディングを思い出した。1番好感度の高い攻略対象がヒロインを庇い死ぬと言われていたが(本編で攻略対象ではないシューは庇うことはしない)、精霊トーレンも攻略対象ならばまたそのエンディングを迎えるはずだ。

「トーレン、いや、精霊って死ぬの?」

ゼウスがもう亡くなっているというのを知っているが、ほとんど魔力体でできている精霊が死ぬことを想像できなかった。(悪魔も同じだ。唯一の違いは精霊と違って光魔法による消滅があり得ることくらいだ。)

「ゲームでトーレン死にましたわ。」

「エンディング回収にも余念がないね、真理亜は。」

聞いたシューもシューだが、好きなキャラクターが死ぬバッドエンディングでも回収する真理亜も真理亜だ。あくまで創作だとしても、出来がいいと称される人のバッドエンディングを見られるかたも少ないだろう。

ドンドンドン。話を遮るような王宮の窓を叩く音に、風がうるさいと見やった。

「は、はぁ?」

神殿に置いてきた黒い小さな小鳥、フアナが窓を割る勢いで叩いていた。

「あら、あの子。シューちゃんのペットよね。」

彼女は人々を俯瞰して楽しむタイプで、はめ殺しの窓を叩くような性格ではない。

「王女殿下、御前で失礼します。」

「え?どうぞ?」

何がなんだかわからないと呆けている王女を放ってシューは魔法を唱えた。生物相手には苦手だが、中身は精霊だ。なんとかはなるはずだ。

「天から遣わした烏よ、我が元へ!」

呪文とともに窓を叩く音はやみ、シューの腕の中には小さな綺麗な黒い小鳥が抱えられていた。

「ちょっと!未完成の転移魔法は恐ろしいじゃないの!」

「フアナ、言葉!」

「…この子、鳥じゃないのですね。」

フアナはああもうと嘆きながら、マリアンヌを無視した。

「そんなことより、ティ…ルルが!」

「はぁ、ルルがどうかしたの?」

「殺されるわ!」

カナリアのように高く細い声で、フアナは叫んだ。






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