喧嘩する友達も必要です。
遅くてすみません。
シュー・アルバート (12) 主人公。魔法は得意だけれど、それ以外は社会不適合者。
カーティス(14) シューの側仕え。頭は良くないけれど、貴族としての教養はちゃんとある。シューのことを信頼している。
ルル ティキ・シルヴィアの猫の姿の時の名前。放浪中
フアナ 心を司る 闇の精霊。人の揺れ動く心が大好物。
ディーン・ターナー(15) お調子者だけれど、神殿の少年達のリーダー的存在。弟大好き。
アイザック(15) ディーンとよく一緒にいるが、貴族嫌い。シューのことを目の敵にしている。
オズワルド・アルバート(16) シューの兄。最初はシューのことを虐めていたけれど、本当は可愛がりたかっただけだった。
ウィリアム・ジョーンズ(16) オルレアン騎士団団長の息子。シューに命を助けられて以来、シューのことを尊敬している。嘘をつかない、言葉で飾らないウィリアムにシューは信頼を寄せている。
シューが寝てからカーティスはずっとシューのナニーであるエリザベス・ノーランドのことが気がかりだった。彼女は既に四年前に亡くなっていて、カーティスがアルバート宅に奉公する前であるから会ったこともない。昔馴染みらしいルルもエリザベスのことは知らないと言っていた。
「…君は何を知っているんだ?」
心を読むことができるという、黒兎の姿をしているフィリップに尋ねる。
「残念ながら、私は心を読む…というのも違うな、思考を読むだけで記憶すら読めないのだ。」
という前置きの後、フィリップはシューが持つエリザベスへの感情をカーティスに伝えた。悲しみが殆どで、その片隅で憎んでもいる、しかし、シューもまた彼女の事が恋しい。
「不思議だ。」
「…幼いシューには彼女しかいなかったのだろう。」
エリザベスは少なからずシューの事を愛してはいたはずだ。執事のアーサーから聞けば、シューの部屋のベッドカバーや壁紙、カーテンは彼女が全て選んでいたし、本棚に並んだからの兄弟からのお下がりではない子供用の本も彼女がシューのために選んだ物だ。オルレアン語の方が得意なのに、子供の寝かし歌などはアルビオン語で彼は覚えている。アルバート邸に勤めているのは基本的にアルビオンの人間であるし、名前から察するにエリザベスはアルビオン出身だろう。
「シューはエリザベスの為に闇魔法を覚えたのだと私は思う。」
「何故。」
「闇の最高精霊の1人が、冥府の王ハデスだからだ。そのハデスの魔法を使えば死者を呼び出す事ができる。」
ただシューは光属性の子供だ。普通に覚えられるはずはない。だから、死ぬ気で「闇属性」を習得したのだ。いや、死ぬ気というより死んでもよかったのかもしれないと、カーティスはシューに思いを馳せる。
「シューは呼び出せたのだろうか。」
「それは分からん。私は闇魔法でも心の魔法が専門だから、ハデスの魔法はシューのを見ただけだし、よく分からない。」
闇の最高精霊の一角、ハデスは幾人かいる闇の最高精霊の中でも死を忌避する人族に恐れられている。その魔法を使うという者に目の当たりにしたら、もっと嫌悪し忌避すると思っていたのだが、何故かシューがその魔法を使えるときくとただ納得するだけで気持ち悪いとも思わなかった。その感情を、この黒兎は読み取ったのかふむと頷いた。
「カーティス、ハデスの闇魔法を怖がることは正しい。私も同様風属性の切り裂く魔法が怖い。それに、何分研究する方が好きなものであまり鍛えていないので、剣の使い手は怖い。」
フィリップはいう。
「しかし、カーティスは怖くない。」
「え、はい。ありがとう?」
「ハデスの闇の魔法も、カーティスが得意な剣も結局は人を殺すかもしれないが、手段に過ぎない。本当に怖いかどうかというのは使い手依るのだろうさ。」
カーティスは呆けたあと、そうですねと頷いた。「俺も今は怖くないよ、貴方のこと。」
兎は円らな瞳を大きく見開き、しかし眩しそうに目を細めた。
家に帰る、といえばすぐ帰れるのも分かってはいるが、神殿のルーチンワークを続けているとどうしても言いづらいく、しかも、1ヶ月程度実家に戻ったあとでまた休みますなんて言い出しづらい事ありゃあしない。なんだかんだ言って長兄に相談する算段はつけているが、「実家に帰る」ことが出来ずに2日経った。
「それにしても、ルルさん帰ってきませんね。」
それから、ティキも出て行ったまま帰って来る気配がない。特に約束していた訳でも無く、また彼にいてもらわなければならない事もない現状喚び出すことも考えられない。
【五月蝿いのが居なくて、楽ではあるわねぇ。】
フアナが楽しそうだと、少し憂鬱な気分になる。
「あ、シュー。」
修練の時間のために自室に向かう道すがら、ディーンに声をかけられる。隣の不機嫌そうなアイザックはシューに挨拶をする気すらないようで、シューが挨拶をしても視線を寄越すだけだった。
「さっきシューのお兄様がいらっしゃってたよ。」
「え?」
兄が神殿に来るなんて想像がつかず、聞き返してしまった。
「オズワルド様だよ。僕は見ただけだから、もしかしたらそろそろ呼びに来るんじゃないかな。そんなに驚かなくてもいいんじゃない?」
「いえ、あんまり会わないので。」
和解してから暫く経つものの、兄と会うということに抵抗を感じる。
「おい、さっさと行くぞ。」
ディーンは苦笑しながら、アイザックと共に去り、その後すぐディーンが言ったようにシューは呼ばれた。
「こんにちは。ご機嫌いかが、シュー?」
「突然で済まないな。」
いつものように来賓室に入ると、何故かそこにはオズワルドとウィリアムが揃ってそこに居た。
「…お久しぶりでございます。」
「狐につままれたような顔してるなぁ。」
コツンと勢いはない拳でシューの頭を叩く。
「お二人が仲いいのは存じておりましたが、揃ったところを拝見したのは初めてですので。」
「シューちゃんってば、ここは公式の場でも無いのに堅いな。リオ兄様だってプライベートは結構崩してるのにさ。」
シューにはそれすらもエリオットJr.の戦略の一つにも思えてくる。場所によって口調を変えるなんて面倒臭い。それなら、最初から丁寧な言葉を使っていた方が楽だと思うのだ。
「オズワルドの今までの態度のせいではないのか。」
ぶすっと膨れっ面のオズワルドに、ウィリアムは少し呆れた様子だった。
「あ、ああそれ言われちゃうとなぁ。」
「何か用があったのではないですか?お二人でいらっしゃるなんて。」
「俺は護衛の代わりだ。オズワルドの護衛が風邪を引いていたから、代わりを申し出た。」
シューの身勝手な話だが、オズワルドよりもウィリアムに会えて嬉しかったところもあったせいで多少残念に思ってしまう。
「ちょっとちょっと、リアムはそれだけかよみたいな表情しないの。俺が悲しいじゃん。」
「どうぞ。」
「酷いな。」
オズワルドが大げさにショックを受けたような態度を取ると、シューはクスリと微笑んだ。オズワルドはそれに驚いて動きが止まった。
「だって嫌いなままでいいって言ったから。」
「ああ、うん。いいよ、それで。」
意地悪で言ったのに、満足気に笑うオズワルドにシューは戸惑う。
「それで用って言っても大したことじゃあないんだけど、兄様がさ、辞めるかもしれないんだって。」
「え、何を?」
「オルレアン騎士団を。」
憖原作の知識があるせいで、妙な驚き方をしてしまう。シューの知っている未来では彼はまだ騎士団に所属していたが、何がその未来を変えたのはシューには分からなかった。
「なぜ辞めるのです?」
「自領に戻って、領地経営の方に専念したいというようだよ。シャルルは兄様にオルレアンにいてほしいみたいだけどねぇ。」
父エリオットも実のところ国政よりも自領の政治により関わりたいと考えてはいるが、現実問題オルレアンの宰相という地位があるため、家令とアルビオン貴族に任せている。しかし、最近はエリオットJr.が積極的に参加していた。けれども、エリオットJr.もまたオルレアン騎士団に所属していたので彼の思う通りには全く参加できてはいない。
「騎士団の仕事が嫌では無いらしいけど、二足草鞋が辛いって感じ?」
「あの人完璧主義者ですからね。」
ただそれだけが理由で国の友好関係を示す騎士団の所属を辞めるような人でも無い。
「…僕の母様を探すため?」
「シューのお母様?探しているの?」
「エル兄様は気になっているようで。」
「ん、あ、そっか。シューちゃん、光の属性だから、お母様は光の系統だもんね。でも、探すのならオルレアンの方がいいと思うけど。」
属性は基本的に遺伝しているため、飛行機など無いく移動手段が限られている為同じ土地には同じ属性が多い。つまり、国が違えば、多い属性が変わる。シャルルやマリアンヌを代表するようにオルレアンは水属性を中心として多い。反対に、ダブルエリオットやオズワルドが火属性であるようにアルビオン(アルバート家領)は火属性を中心とした属性が多い。光属性は水属性に最も近いのでシューの母親が光属性でないとすれば、水属性の可能性が高いのだ。勿論突然変異などで例外は起こり得るが、シューの母親はオルレアン人の可能性の方が僅かに高いというのだ。
「まあアルビオンの方が隠せる手段は多いとは思うけどね。」
「では、なぜ?」
「これはアルビオン語が話せた時の場合だよ。」
いくらアルビオンのある程度の地位の人が全員オルレアン語を話せるというにしても、全くアルビオン語が話さないと言うのはおかしい。オルレアン人においてはアルビオン語を話せる人は限られている。
「まあ、俺の考えなんて浅はかなのかもしれないけどさ。」
「いえ、アルビオンに隠れていてもオルレアンで失踪した人間を探せばいい訳ですから。」
では、やはりシューの考えが間違っているのだろう。エリオットJr.の情報量と、ただ魔法の事しか勉強していないシューでは見える場所が違うのだ。
「エリオットJr.様の話、俺が聞いて良かったのだろうか。」
不安そうに眉を顰めたウィリアムに、アルバート兄弟は揃って首を振った。
「リアム(ビル様)なら大丈夫だよ。」
オズワルドとシューの声が被ると、ウィリアムは目を丸くした後静かに吹き出した。
「リアムぅ。」
「いや、すまなかった。オズワルドは気にしていたようだが、2人とも仲良くなったのだな。」
「仲良くなってません。僕はオズ兄様のこと嫌いだもの。だから、似ているだけです、兄弟で。」
それだけだというシューにウィリアムは理解できず、首を傾げた。
「オズ兄様、少し待って頂けませんか。」
シューは長兄に話を聞いてもらう予定だったが、もしオズワルドの言うように騎士団を退団し、アルビオン領に戻ってしまうと、中々時間が取れなくなってしまう。
「ギリギリまでいるつもりだけど。」
「エル兄様にお手紙を書きます。」
「俺には?」
「僕は用事のない方に手紙を書くような情緒のある人間ではないです。」
「情緒っていうより、教養?」
「どうせ魔法馬鹿ですよ。」
そうしている間に、カーティスが便箋を調達してきてくれ、直ぐに疫病についての事を書いた。
「直ぐに返事必要?」
「エル兄様次第ですかね。僕は早い方が嬉しいですけれど、エル兄様が不必要だと思ってしまうのならそれで終わりです。」
「ええー、シューちゃんってば何難しい事を考えたのさ。」
気になるのなら渡した手紙を見てしまえばいいのに、育ちの良い彼はそれを一切見ようとはしなかった。
「少しでも魔道士が楽になればいいと考えただけですから。」
「全然足りないもんねぇ。皆水属性で無理して頑張ってるよね。シャルルみたいに光の精霊に好かれれば全く話は違うけどさ。」
「ごく稀に風属性もいますよ。それでもアルビオンよりはマシなのでは?」
「魔道士の数はね。患者の数はオルレアンの方が多いよ。」
比較的アルビオンの地域が闇属性に近いこともあってオルレアン人より患者数は全体的に少ない。その反対に光魔法が使える魔道士も少ないのでどちらもどっちと言えるのだが。オズワルドがその事をサラッと言い出したことは、彼がお気楽次男ではないということをシューも実感した。
「これはきちんと兄様に渡すから安心して。」
「お願いします。それからオズ兄様の護衛は大丈夫なんですか?」
「ん、気にしなくていいよ。もう治ってるだろうから。」
ウィリアムの驚きの声を無視して、シューは口元を緩ませた。
「流石僕ですね。僕の力がどうやらお兄様の護衛のもとにも届いたようで。」
「うん、凄いよ。」
オズワルドとシューが笑い合うと、ウィリアムは肩を竦めた。
「誰と誰が仲が悪いのだ?」
「似ているだけらしいよ。」
オズワルドがニヤニヤとウィリアムの肩を叩くと、ウィリアムははあとため息をついた。
四月が予想以上に忙しくて更新できずにすみません。1ヶ月も空いたのに4000時程度で本当申し訳ないです。
サブタイトルは思いつかなかったので、私の高校生時代の友人の名言を。本当は「友達って役割は一つだけじゃないと思う。喧嘩する、仲良くない友達も必要だと思う。だから、彼女は私に必要なんだよ。」みたいなことを言ってました。毎回彼女には会えば喧嘩する友達がいたんですよね。




