Mon Apollon
ガイル 元魔族、フアナ狂信者 黒兎
ルル 中級悪魔ティキ・シルヴィア 黒猫
フアナ 闇の心を司る精霊 黒い鳥
カーティス(14) シューの側仕え
ジャスミン 前シューの側仕え
マクシム たまにカーティスの代理でシューの側仕え。普段はオズワルド付き
マリアンヌ オルレアン王国 第一王女
Mon Apollon
まず家に帰ってくると、シューの顔や腕の熱傷を見て侍女長クラリスが言葉を失った。ジャスミンが泣きそうな顔だった。カーティスが失神しそうだった。ルルが涙が出るほど大笑いし、フットマンのマクシムに殴られていた。
「ってー、あのフットマン思い切り殴りやがって。」
「大丈夫です、マクシムさんが殴らなければ私が殴りつけていました。」
「なんの大丈夫でもねえよ。体格いい奴らがこんな愛らしい猫を殴るなんて動物虐待にもほどがあるぜ。」
「余程ソーセージにされたいのですね。」
シューが討伐隊から帰り、報告はエリオットJr.が全てするので幼いシューは帰って良いと許されて、疲れていたこともあってすぐに自室に戻った。ルルがマクシムに殴られた小さい頭を痛いとさすった。
「しっかし、お前また動物を連れ帰ってくるなんて、鬼ヶ島にでも行ってくる気かよ。」
「鬼を退治してきたあとだよ。それに一応ガイルは人間…。」
シューの部屋の中では普通に話してもいいといういうと、ガイルは中にいるカーティスやフアナも含めて全員に自己紹介を始める。エリオットJr.に話していることだから、カーティスが知っていても特段悪いこともないだろう。
「んー、ガイルって魔族がつけた名前だよね。」
「そうだな。親がつけた名前は知らない。」
「それなりに名前が通ってるし、変えていい?」
「勿論、構わない。シューが決めてくれ。」
ルルは猫の姿につけたものだから、可愛くても気にしないがガイルは一応人間だ。変にペットのような名前をつけるのも違う。
「フィリップ、フィリップでいい?」
フアナを愛しているので、安直に付けた名前だったが、王にもいる名前なので悪いことはない。
「兎だし、うさこちゃんでいいんじゃねえの?」
「フィルは幼児受け悪そうだから、却下。」
「んだよ、怖い都市伝説込みでこいつっぽくねぇ?」
「あらはシンプルさを追求したデザインで口を縫い付けたデザインじゃな…。」
あれ、とシューは言葉を止めた。それから、ブサイクなルルの目を見つめた。
「どうした?」
ここがゲームを元に作られた世界なら、それをティキが知っていても可笑しくはないのかもしれない。童話や神話は美代子の世界と似ているのだから。
「何でもない。とにかくフィルは人族だから、気にしないこと。カート。」
黒兎の姿しか見てないカーティスは一切信じられないらしい。そう気づいたシューは闇魔法を唱えた。
「え?」
カーティスの前に現れたのは可愛らしいシルバーウルフの子供だった。
「闇魔法は姿を変えられるんだよ。人族であってもね。」
狼の姿から、すぐに人間に戻る。それまでのシューを知っているルルとフアナはシューが闇魔法を使っているのが信じられなくて止まった。言葉を失ってしまったカーティスはゆっくり口を開いた。
「シュー、何故闇魔法が。」
「凄いよねー。僕光属性なのに。あ、ここにいるメンバーしか知らない秘密だから。誰にも教えないでね。」
努めて取るに足らない些細な話であると思わせるように話す。が、返ってシューらしくなく、カーティスはより怪訝そうになった。
「…光の属性が闇属性の魔法なんて、身を焦がすようなものではないですか。」
「え、まあ、中途半端になっちゃったよね。光属性の力が思うように使えなかったり、闇属性の魔法は威力弱かったり。」
シューの復讐秘話を話すのもいいのだが、カーティスがどんどんシューを嫌いになってしまう気がして、カーティスが知りたい事は何も答えない。暫くカーティスはシューが続きを話すのを待ったのだが、シューは口を開く気はなく、黒兎を抱き上げたままベッドに寝転がった。
「服を着替えます?」
「ううん、いい。フィル、この部屋にいる間は元の姿に戻っていいよ。」
「助かる。」
フィルはすぐに魔法を解いて人間の姿に戻った。小さな黒兎が立派な男に変わると、カーティスは許容範囲を超えたのか、壊れたラジオのようになった。
「シュー、闇魔法のことなら私がこうするだけでよかったのでは?」
「そろそろカートにも教えておかないと隠すのも面倒になるから。」
【私も姿を明かしてもいいんじゃ。】
【フアナ様、流石に闇の精霊は人族が怯えます。ご容赦を。】
フアナが化けた黒い鳥を人の姿になると、わが子を愛するようにフィリップは嬉しそうに撫でる。どんなに敬愛していてもあの仕打ちをされたあとでそのような態度を取れるなんて、シューには真似できない。
討伐隊の翌日、エリオットJr.に連れられて王城へ向かう。その前にあまりにも顔の傷が酷いと侍女長クラリスに呼び止められ、鐔の大きい帽子を被せられる。
「本当に王太子殿下と謁見するのですか?」
「何故それほど狼狽える。公式の場でもないし、俺とチャーリーは友人だ。クリスくらいに気楽に話せ。」
クリストファーはかなり砕けて話しかけてくれるから、シューも緊張しないで話せるし、シューより下位の身分だったため、何が無礼なことになるかを考えなくて良かった。シューにとってはシャルルはこの国の中で数少ない上の身分の方だった。
「嫌われてないかな。」
彼が溺愛する妹と仲良くなっているから変な不安もある。
「チャーリーはずっとお前に会いたがっていた。」
それが妹を誑かしたからという理由でないことを願う。誑かした訳ではなく、同じゲームの記憶を持つもの同士であるからとは言っても、王子には理解されないだろう。
シューが通されたのは、どこもかしこも彫刻や金銀飾りのついた煌びやかな王城の中では比較的シンプルなサロン(サルーン)だった。シンプルな装飾を好むアルビオン人(アルバート家領の人)への配慮なのだろう。シューは完全にオルレアン育ちだが、アルバートの屋敷はアルビオン建築だから、シューもシンプルな方を好む。
「このサルーンはアルビオン好きのかつての王が作ったものだから、アルビオン風なのだ。」
エリオットJr.が王城でシャルルと会うときはいつもこのサロンを使うらしい。
「他のサルーンはもっと派手で目が痛い、俺が文句をつけたらそれ以来チャーリーはここに通すようになった。」
「王太子殿下に対して無礼じゃない?」
「チャーリーが何でもかんでも俺を呼ぶから、断り文句のつもりだった。」
結局このサルーンへ通されて、兄の思惑は失敗したらしいが、兄がシューを知らないように、シューも兄のことを全く知らなかった。知り合いだろうという予想はあっても、シャルルと仲良かったのもシューには予想外だった。
シャルルと会う事に不安があるシューとは違って、美代子はワクワクしていた。美代子はシャルルがお気に入りだったからだ。混ぜこぜな感情にシューは黙り込む。
「火傷、痛いか?」
黙っていたのを傷が痛むからと勘違いしたのかもしれない。エリオットJr.はいつものように鉄仮面だったが、声色は心配そうだった。余程傷が酷いらしい。クリストファーも使用人達も全くシューに鏡を見せようとしていないためどれほど痛々しい傷なのかシューには分からなかった。ただ冗談でもエリオットJr.はオペラハウスの地下に幽閉するわけにはいかないと言っていたのだから、人前に出るのは憚れるレベルだろう。
「ある程度自分の回復魔法で治ってはいるみたいです。痛みは感じません。肌が突っ張ってる感じがしているのは気になりますけど。」
「そうか。」
この傷が治らなかったら社交界に出る必要が無くなるので悪くはないとは思うが、見るたびにカーティスたちに可哀想な目で見られるのは嫌だ。背後に控えるカーティスはずっと祈っているようだった。
兄弟で話をしているとサロンの扉が開き、兄の友人シャルル王太子殿下が従者を従え入ってきた。前に彼が街の視察に出たとき以来だったが、相変わらず透き通ったプラチナブロンドと宝石のような緑の瞳が美しく、穏やかに笑みを浮かべた彼は誰からも愛されるこの国の第一王子だ。
「昨日はお疲れ様でしたね、リオ。」
王子として騎士のエリオットJr.に労をねぎらうが、エリオットJr.はぞんざいに返した。
「ああ。これが我が家の末の弟のシュー。シュー、この女顔の男がこの国の王位継承第一位だ。」
順番に紹介され、シューはシャルルに会釈する。
「酷い紹介の仕方ですね。私はシャルル・ド・オルレアン。君の呼びたいように呼んでください。」
「シュー・アルバートです。とても優しい方だとお伺いしてます。いつも兄がお世話になってます。」
あの恋愛に興味がない美代子が、攻略対象の中では(美代子はヒロインの兄と武器屋のおじさんが好きだった)、愛着を持っていたキャラクターは、シューの目でもキラキラ輝いて眩しかった。
「シャルル殿下は。」
「シャルルでもチャールズでもチャーリーでもいいですよ。プライベートの場で、友人の弟に堅苦しい言い方はされたくないです。」
「はい、シャルルさん。」
しっかりと挨拶をした後、シャルルはシューの傷を痛ましげに見る。王子や王子の従者たちは、みな訓練された人たちだからか、シューの傷に眉をひそめる者は居なかった。侍女長クラリスを始めアルバート家の従者がそれができないと言うわけではなく、身内の気持ちの方が強かったのだろうが、彼らの対応が有難い。
「私が光の精霊から力を借りられるとは言っても、妹のように治すことはあまり得意ではないのです。」
「治すことならシューもできる。頼みたいのは精霊への説得だ。」
「精霊への説得?」
エリオットJr.はシューがアルテミスの力を感じられることを伝えるが、どうにも力を貸してくれる気配はないことを伝える。そこで光の精霊に愛されているシャルルに説得してほしいということだ。漸くシューも兄がしたい事を理解した。
「私と仲良くしてくれている精霊は、アルテミスではなくその双子のアポロンですが、アルテミスの説得には遠い気がします。」
「アポロンが協力してくれるならそれでも。」
シューにはアポロンよりアルテミスの力の方がより近くにいる気がするので、なにかとあればアルテミスを呼んでいたわけだが、男嫌いのアルテミスよりアポロンの方が説得は容易いかもしれない。
「アポロンの力もシューは感じられるのですか?」
「ええ、アルテミスよりは遠くにいる気がしますが。」
シャルル王子は絶句した。シューにはそれが当然で、なんでもないことだったのだが、他の人間にはそれが異常だった。一度シューがウンディーネとアルテミスを呼び出していたことを知っているエリオットJr.は驚いていないが、さすがの王宮の人々でさえ目を丸くしていた。
「アルバート宰相閣下が隠したがるのも頷けます。これは意思能力の低いうちは争いの種になりかねないです。」
「どうだろうか。父は魔族に強い危機感を持っているのは確かだが、父のシューに対する行動がよく分からない。あの人なりになにかからコイツを守ろうとした意思は感じられるがな。」
シャルルはエリオットJr.にただ頷く。シャルルも父がシューを守ろうとしていた、と言うことに違和感は無いらしい。
「この話は置いておいて、いつまでもシューの顔をそのままにしておくわけにはいきませんね。私がアポロンに頼めばいいのでしょう。」
「無茶なことを言っているのは分かる。期待はしていない。」
シャルルがアポロン説得することに頷いたところを見ると、シューは光の治癒魔法を唱える準備をする。シャルルが側にいるせいだろう。いつも遠くにいた今はアポロンの気配が凄く近くにいる。
「アポロン、この傷が僕の罪に対する罰だと言うのなら甘んじて受け入れるつもりだ。地の底に幽閉され、もう二度と君たちと会うつもりもない。それでも地上で罰を受けよというのなら、この顔では全うできない。力を貸してほしい。」
シューの言葉にシャルルは驚きながらも、自身もアポロンに声をかける。
「アポロン、彼は私の大切な友人の身内だ。君たちがシューを嫌う理由は分からないが、シューが君たちに罪があると言うのなら一緒に背負おう。」
キラキラというよりは、夏の太陽の如くギラギラと輝いた光がサロンを覆う。太陽と冠される精霊の力で、エリオットJr.も、侍従たちも目を開けられない。
「全く何の罪かも知らずに大層なことを言うな。」
シューとシャルルの瞳に、アルテミスと対をなすような黄金の髪と黄金の目、黄金の弓を携えて、精霊アポロンが映った。アルテミスと同じように、その頭には月桂冠が乗せられている。その人知から離れた美しさにシャルルは息を呑んだ。
「その『子供』に元より罪は無い。アルはいじけているだけなのだ。」
アポロンはシューの頭を撫でたあと、シューの手を握った。
「親の罪を子が贖う必要は無い。好きに生きよ。」
「親の、罪?」
アポロンから受けた力は冬の昼間のような太陽の温かさを感じる。それから、雪解けのように、シューの回復魔法に力が入り、焼き爛れた肌が嘘のように消えていった。その傷が癒えるのに比例してサロンを包む太陽の光は収まっていった。アポロンはすぐに姿を消した。アポロンの声を聞いたシューとシャルルは首を傾げた。シューが光の精霊に嫌われていたのは、シューが彼らと敵対する闇属性を得たからだとずっと考えていた。しかし、アポロンはシューが口にした罪を『親の罪』だと答えた。
「父は何かしたのでしょうか?」
シャルルに尋ねてもシャルルは首を振った。
「火属性のアルバート宰相閣下が光の精霊と何かあったとは考えづらいです。対精霊と何かをやらかしたのならイフリートの加護が消えてないことが可笑しいですし。」
エリオットJr.はアポロンの声を聴くことが出来なかったため、シャルルとシューの会話についていけず、2人に何の話をしているのかと尋ねる。シャルルがアポロンの言葉を丁寧に伝えるとエリオットJr.は顎に手を当てて考え始めた。
「『親の罪』、か。シューの母親だろう。」
「確かに火属性のお父様が光の精霊の声を聞くはずないですが、ここに来てお母様ですか?」
「光の系列なら光の精霊と何かあってもおかしくはない。」
「その話私がいる場で話しても大丈夫なんですか?リオ。」
「たしかに家族の話ではあるが、俺の家では光属性は遠いからな。アポロンから更に詳しく聞けないのか?」
シャルルがアポロンに対し呼びかけたが、返事が返ってこないようだ。
「だんまりです。」
本当に母親なのだろうか。顕現は分体と出逢うことなのでその精霊と似た性質が必要であるが、本体と偶然出逢う事に関してはそうである必要は無い。だから、父が偶然光の精霊と知り合った可能性はなくは無い。何しろシューが光属性でありながら、闇属性のハデスやフアナと知り合っているのだから遠い属性だからと切り捨てるわけにはいかない。
「アルバート宰相閣下のことですから、国益を害することは無いはずですが、息子としては不安ですか?」
「お前の父への信頼はどうなっているんだ。」
「宰相閣下には随分優しくしていただきましたし、よく宰相閣下の夢の話や家族の話は聞いておりましたよ。皆自分の子供の頃より出来が良くて困ると。」
「それは本当にエリオットSr.・アルバートですか?」
エリオットJr.も顔をしかめているから、半分くらいはシューと同じような感情を抱いているようだ。
「お前がする父の話は本当に自分の父親か疑う。」
「はは、宰相閣下は随分恥ずかしがり屋ですよね。いつも自分の子を、リオを前にすると緊張するようですし。」
シューの父親の印象はエリオットJr.に近況を聞く、オズワルドに勉学に励むように小言をいう、シューの使用人がシューに実害を与えた場合放逐する、の三択を行動しているイメージだった。それだけで、実は息子たちを愛しているなんて、シンデレラの継母だってもっとシンデレラを構っているし、怠慢にも程がある。結局いくら話しても結論は出ず、「親の罪」は保留となった。
「父もチャーリーのような息子だったら、話しやすかったのかもしれんな。」
「他人の子供だからですよ。」
「あのお父様だから、お兄様ができたようなものじゃないですか。」
「何も言わん。」
「あはは、リオが押されてて面白いです。シューはアルバート宰相閣下やリオではなくてオズに似ているんですね。」
オズワルドに似ているのかどうかはさておき、シューの性格がこうなったのはティキの反面教師だと思っている。ナニーが亡くなってシューがまともに話す相手といえばティキだった。お喋りな悪魔だから、人と話すことに抵抗がなくなった事には感謝している。
「シャルルさんはオズ兄様とも仲が良く?」
「同い年ですから。とは言ってもリオの方が良く付き合って下さいますが。」
「オズワルドはシャルルが苦手のようだな。」
「はっきり本人にいいますか、それ。」
「あれ?シャルルさんはオズ兄様と同い年でしたっけ?」
ゲームではシャルルはオズワルドの1つ下だった筈だ。
「そうですよ。」
「変な話かもしれないですが、魔法学院に通ってますか?」
シャルルは首を振った。これもゲームと現実の差異だったのかもしれないと思っていると、シャルルは話を続けた。
「恥ずかしい話ですが、今年の入学試験に落ちたのですよ。」
「え?」
この国の王子様が魔法学院の入学試験に落ちた、なんて信じられなかった。どんな点数であろうと、国の威信であるから入学できそうなのに、そうはならなかったらしい。
「落ちたというか、試験を受けられなかったのが正しいだろう。」
エリオットJr.の訂正では、入学試験の前日から熱に魘されており、今年の試験は受けられなかったらしい。王立魔法学院といっても、王族であっても特別扱いをせず、欠席不合格になったという事だ。しかし、元々試験を受けられる年齢が16歳というだけであって、実際に通っている年齢はかなりバラバラだ。入る年齢は16歳だが、そこは現代の大学くらいの認識なら納得できる。しかも、簡単に落第するから卒業年齢もかなりバラバラだ。
「ですから、来年にはちゃんと行けるようになりたいですね。」
「あまり行く意味もないかもしれないだろう。」
「コネクションを作ることは大事ですよ。うかうかしているとこの国の王にリオがいるかもしれませんからね。」
エリオットJr.は学院に行ったところで、この機械人間は元々交流関係が広いので、そういった面でも、元々優秀な人だったから勉学や剣術においてもあまり大きく良いことがあった、とは言えなかったらしい。それでも、シャルルには行く意味があるらしい。
「セルジュは他国に留学することが決まってますが、その次の年、マリアが同じ魔法学院を受けると言っていますから楽しみなんですよね。」
「シスコン。」
「ふふ、昨日帰った直後、就寝予定だった私に直談判してきた貴方に言われたくありませんね。」
「王女殿下の茶会に間に合わせたかったからな。」
クリストファーもエリオットJr.が一人でシューを探しにきたことをからかっていたが、シャルルの目にも彼がシューの為に動くことは少し異様なのだろうか。
「そういう事にしておきますね。」
シャルルは穏やかに笑った。しかし、その笑顔は慈悲深い王子様というよりは、狡猾な兄の悪友のような気がした。
「シューも魔法学院試験、私とともに受けますか?」
「はい?」
ゲームでも規定の16歳よりも早く、14歳で試験を受けさせてもらって合格をしてみせたシューだったが、ここでそのようなな話が出るとは思っても見なかった。
「知識も魔法の実力も申し分ないと聞きます。アンデット討伐に向かった騎士たちは、大変シューに感謝していますよ。」
「え、兄様?」
返答に困ればすぐ兄に頼る。自分で思考しないことは決して自分の為にならないと、ずっと思っていたが、シューは予想外過ぎて何も考えられなかったのだ。
「検討はしてみよう。神殿でも随分自分の新しい魔法で人を治しているようだから、学院の研究家たちは喜ぶだろうな。」
学院に行くのは構わないし、シューとしても学院にある魔道書は読んでみたい。ゲームのシューもよく本を手にして読んでいたから、そこにしかない魔法もあるはずだ。魔法オタクのシューが嫌がることはない。しかし、1つ気がかりというのは「ヒロイン」の存在だった。早くヒロインを見つけたいのだから、学院の授業に気を取られたくはない。
「僕、王女殿下と同じ年にできれば入りたいです。」
シスコンのシャルルになんてことを言うのだろうと思いながらも、ほかに疑われない理由が思いつかない。
「マリアと? マリアもシューのことを甚く気に入っているようだけど、まさか。」
「はい、姉様のようで楽しいです。」
「そういえばネーサン少尉も姉と言って慕っていたな。姉が欲しかったのか?」
ニーナを姉様と呼んでいたことが功をそうした。厳つい男である兄よりも柔和な女性の姉が欲しかったのは確かだ。
「マリアは面倒見がいいからなぁ。」
姉として慕っていると分かってくれるとシャルルのシスコンも治った。よくこれで乙女ゲームの攻略対象になれたと思う。攻略対象に愛されるヒロイン以外の女性なんて、絶対に許されないはずだ。と思ったが、これもマリアンヌが必死に死亡フラグを防ごうとした影響かもしれない。
「準備期間も含めて王女殿下が入学なさる年の方が都合がいい。」
「来年なんて言っても、入学試験は三ヶ月後だからね。」
それで次の試験を受けさせようとするなんて、いくらなんでも酷だろう。シューが得意なのは魔法だけだ。
「試験は何が出るんです?」
「魔法の実技と、計算、魔法理論、古典、文学、後はオルレアン語が母語でない場合はオルレアン語能力試験があります。とは言っても元々オルレアン語かアルビオン語にしか試験が対応していません
。」
「殆ど僕の場合オルレアン語しか話さないから、母語扱いで良いのかな。」
「残念だが、アルバート家の母語はアルビオン語だ。オルレアン語能力試験は受ける必要がある。」
意外と母語の能力試験は難しい。簡単に話せるからこそ、自分が気づいていない落とし穴がある。美代子も留学生に尋ねられ、日本語能力試験検定の問題を見たが数詞などが特に難しかったし、彼女が英語圏だったので代わりに英語の品詞分解を教えてもらおうとしたが難しいと言われた。だから、シューも項垂れた。
「しかし、そんな未来の話よりも五日後のお茶会の話だろう。」
項垂れるシューに、エリオットJr.は更に追い討ちをかけた。
何が書きたいのかはっきりしていなくて焦りました。




