表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これがゲームの世界ですか?  作者: 詩穂
アルバート家とアンデッド退治
32/114

I will kill someone instead of ten peaple.


エリオットJr.(18) 土属性の精霊 エントの信徒


クリストファー(20) 風属性の精霊 エコーの信徒


信徒 精霊側の言葉。人族は使わないが、精霊の加護を受けた者を意味する。


幼い少年が発した言葉に、大人の男二人は言葉を失った。

「元魔族と言ってなかったか?」

「今は人族ですよ、闇属性ですけど。」

エリオットJr.は誰かに殴られたように頭を抑えた。

「シュー、流石に無理だろう。」

ガイルも困惑したままだ。人族だと言われても未だに実感はない。しかし、それまで魔族として生きていたのだから、人族として生きていくのは難しいだろうということはガイルにだってわかる。

「でも、このままじゃ市民権もないし、人権もないから奴隷になるだけだよ。それなら、僕の下僕になった方がまだマシでしょ。本がたくさんあるし、君も本好きだよね。」

「そうなのかも、しれないが。」

フアナの加護を戻されたガイルにはシューが騙そうとしているわけではないのはよく分かってはいるが、損得勘定もしないでガイルを助けようとしているシューが怖かった。

エリオットJr.はシューが見たことないほど顔を険しくさせていた。

「服従の紋をお前は入れられるのか?」

凶悪な獣を捕まえて、言いなりにさせる魔法の1つだった。六代属性魔法以外の魔法で、現在王都では罪人の送致にしか使われていない魔法だ。普通の人間にそれを使うのは奴隷にするということになる。

「…それで私がシューの元で暮らせるのなら。」

卑屈で嫉妬深い男が、プライドの高い男がそれでも構わないと言った。シューは目を丸くするしかない。

ここでエリオットJr.の心情にも目を向けて欲しい。戦場でシルバーウルフたちを相手に戦っていると、後方で弟を任せたはずの親友殿が顔面蒼白で弟がどこかに連れていかれたと告げられた。何の気配もなく消えた弟の行方を捜していると、森の奥から大きな破壊音が響き、遠くからでも見える巨体を目にし、そこにいるのではないかと森の中へ入ると元々討伐予定だったアンデッドたちに行方を阻まれた。森の中は土の精霊エントにとっては庭のようなものだ。シューの居場所は簡単に分かったものの、襲いかかるアンデッドたちによってなかなか思うように進めないと、打開策を探していると、晴れているのに地面を揺るがすほどの大きな落雷があった。

「雷、聞いたことないが、光の魔法か。」

「弟くんの魔法の可能性大だね。」

落雷から数分経つと、突然彼らに襲いかかっていたアンデッドたちは霧のように消えた。親友と共になにがなんだか分からないと思いながらも、この機会を逃すわけにはいかないと、精霊エントの導きと熟練の乗馬技術によって誰よりも早く弟を見つけ出した。

そこにいたのは、女性のように美しい黒髪をした、半裸の男に抱きついている(ように見える)弟だった。実際には魔力が尽きて自分を支えられなくなったシューが、戦いによってボロボロになった服を着た男にもたれかかっただけなのだが、それをエリオットJr.には分かるはずもなく、畳み掛けるように弟はその美しい男を家に連れて帰るという発言をし、厳しい条件を付けたエリオットJr.に対し、その男はシューの側に居られるならという熱烈な告白をした、という訳だ。合理主義で機械人間とも揶揄されるエリオットJr.が頭を抱えるのも仕方ないというものだ。

「いや、愛の形は様々だとは思うが。」

「エル兄様?」

恋愛音痴の美代子にも、ただの子供のシューにもエリオットJr.の心情は全く分からなかった。ガイルの肩を借りているのも、エリオットJr.の想像するようなものではなく、父親に抱っこをされているくらいの気持ちだった。勝手に魔族から人族に戻してしまったから、身元保証人の代わりに下僕にすると言っただけだった。

「…いずれにせよ、元魔族だろう?他の孤児の平民だって就職は難しいのだぞ。その男だけ可哀想だと連れて行くのか。」

「彼は頭が良いし、良い能力持ってるます。優秀な人間は役に立つ。」

「良い能力とは?」

「心が読めます。」

基本何に関しても見た目より機能重視の男だ。それは人間でも同じであるはずだ。そう伝えると彼は思案した。

「ふむ、検討するが今人間一人増えると混乱する。」

オズワルドだったらもっと半狂乱になったのかもしれないが、機械人間は混乱しながらも冷静だった。

「闇属性だと話していたな。」

闇属性が人族の中では差別されるということを知っているガイルは何を言われるか恐れたが、

「何か動物、弟が持てるくらいの小動物になれるか?」

アルビオンは秘密裏に闇属性を保護して研究員にしている。その研究所と懇意にしているエリオットJr.は偏見や侮蔑はなかった。拍子抜けしたガイルはしどろもどろに答える。

「は、え、あ、なれるが。」

「そうか。変化したら、連れて行こう。」

ガイルはエリオットJr.の態度にすら戸惑ってしまうが、そうする他突然人族に戻されたガイルにはそれしか生きていく道はない。

「シュー、好きな動物はいるか?」

「ん?」

嫌いな動物はいないが、特に好きな動物もいない。強ければいいなぁという男の子の考えしか出てこないが、エリオットJr.がシューが持てる動物と言っていたから、ライオンや狼などは無しだろう。犬なら狼に近いかもしれないが、ピンと来ない。

「あ、兎。」

「…兎か。」

美代子が兎のキャラクターが大好きで、小さい頃ワンピースを着た兎の絵本を表紙が取れるまで読んだ。

「まあ、いいだろう。エリオットJr.…、様?シューを頼む。」

シューの攻撃を受けたガイルは、辛いだろう体を持ち上げ、シューを抱き上げるとエリオットJr.に渡す。

「…お前動けなかったのか。」

「口は動きます。」

「知っている。」

左腕だけでシューを抱く。いくらシューが平均身長よりもかなり小さいとはいえ12歳の少年を担ぐなんて両手でもあり得ないが特に大変とも思っていないようだ。ガイルはそれを見ると闇の魔法を唱える。

「フアナ、力を貸してくれ。」

既にフアナの加護が戻っているガイルは簡単に姿を変える。素のガイルが、黒髪の美丈夫だったせいか、綺麗な黒兎になった。こういう変貌の魔法はどうしても元の美醜に左右されるのだろう。ルルの不細工さは誰にも変えられない。ちゃんとガイルはシューが持てる大きさに変わった。エリオットJr.は兎を手にするとシューに持たせた。それから、2人を馬に乗せ、来た道を戻る。

「おーい、エル。漸く追いついた。」

その道中で、エリオットJr.を追いかけたクリストファーが駆けてきた。このやり取りをこの討伐隊の間で何度したことだろう。山賊一家を相手にした時もそうだった。

「良かった、弟くん無事だった。」

自分の背から突然消えた彼が、親友の馬に乗っている姿を見てクリストファーは心の底から安堵した。

「心配おかけしました、クリスさん。」

「自分の首が飛ぶとこまで想像しちゃったよ。」

クリストファーは冗談めかして言うが、それは実際考えていたことだ。それ以上に幼子が死ぬことを心配していたので、シューの姿を見て心底安心したのだ。

「いくらなんでもオールセン伯の長男様にそんな厳罰が。」

「俺は俺より優秀な弟がいるし、オルレアンが待ち焦がれた光の子供だ。あり得なくはないよ。」

シューは兄に手渡された黒兎を強く抱きしめた。

【…何故シューは光の子なのに、闇の力を手に入れたんだ?】

ガイルが黒兎に化けているため、フアナと同じように言葉ではなく直接頭に訴える。

【そのスペクタクルな話ははフアナに教えてもらって。】

【再びフアナ様に拝謁叶うのか。】

シューにすれば、フアナは親兄弟よりも身近な存在だったが、ガイルにとってフアナに会ったのは今回が初めてなのだ。

【一緒に住んでるよ。】

ガイルは歓喜と衝撃に悶えていた。黒い兎の姿だから可愛らしいが、元の美丈夫の姿だったら気持ち悪そうだ。しかし、あれほどフアナに振り回されておきながら、ガイルはフアナへの畏敬の念を無くさない。あれは偶々フアナが寵愛するシューが相手で、精霊の気紛れだからと諦められるのだろう。

森を出ると既にシルバーウルフとの戦いに大方決着がついていた。各隊の確認が取れ次第夜明けとともに王都へ帰還することが決まった。 確認の間は出発ができないため、シューはエリオット隊の人が引いてくれた布の上にガイルを抱えたまま座る。

「弟くんの傷、治らないのかい?」

瞬きがしづらいその熱傷を、クリストファーは心を痛めたように見つめる。

「火属性の火傷でなら、魔力が回復次第治せそうですが、闇の力で受けた傷ですので、僕の力では…。」

闇と対抗する光属性だが、シューは闇の力もあるせいか自身の力だけでこれを治すのは難しい。

「光の精霊か?」

「そういうことですね。」

「ネーサン少尉の時のようにはいかないのか?」

精霊エントから加護を得ている優秀な兄が、ニーナを助ける際にアルテミスの力を借りているのに気づかないはずがなかった。

「あれはニーナ姉様だからできたことで、僕自身はアルテミスに嫌われているから。」

「え、でも、ニーナちゃ…、ネーサン少尉を治す時に頼んだってことはアルテミスの声が聞けるってことだよね?」

「あ、確かにそうですね。」

精霊の力を借りると言っても様々なレベルがあるが、声が聞こえるというのは最低条件、姿を顕現させるというのは、更に強い力を借りられる。更にいつでも召喚してもいいよ、と契約を結べるのが一番力を借りているということになるのだろう。

「うーん、でも、精霊ってどこにでもいますしね。」

「いやいや、居ないよ?」

シューはアルテミスはいくら呼んでも無視を決め込む精霊と思っている。だが、通常人は初めからそこに居ないと思うのが普通だ。

「お前はずっとアルテミスの力を感じているのか?」

「精霊ってそういうものですよね?」

「そうかもしれないが。」

「納得ちゃうんだ。」

でなければ、精霊魔法の精霊の力は誰から借りているのだ。クリストファーはエリオットJr.のことを聞いてふんわりと理解した。

「オペラハウスの地下に幽閉する訳にはいかないからな、チャーリーにできるか聞いてみる。」

チャーリーと聞いてすぐに人物が思いつかなかったが、光の精霊の加護が得られる、アルビオン公爵に近しい者と考えていると思いつく。

「もしかして、王太子殿下ですか?」

シャルル(Charles)は、アルビオン語でチャールズという響きに変わる。つまり、マリアンヌの兄シャルル王子だ。

「そうだ。王女殿下が絶対にお茶会に兄を誘うと仰っていたから、お茶会に行けば必ず会うが、その前にその傷はレディ達には見るに耐えないだろう。」

「どうなってるのか自分でも分からないけど、目が開きづらいから治せるなら治して欲しい。でも、王太子殿下が治してくれるの?」

どれほど親しければ、傷を治してほしいと王族に頼めるのだ。

「チャーリーは人の傷や病気には敏感なんだ。母を亡くしているからな。」

「お兄様、そんな人と仲良くできるんですか。」

兄が悪人とは思っていないが、慈悲深い男でもない。簡単に10人を助けるために1人をトロッコに投げ捨てられるような人だ。

「お前は俺への評価が厳しいな。」

「無愛想に見えるから誤解されるけど、エルは意外と誰とでも仲良くなる人間だからね。」

ゲーム(げんさく)では、そんな描写はなかったが、18の若造の癖に部下達に慕われている様子から見てもエリオットJr.は人と関わることが得意なのは不思議ではなく、しっくりくる。

「俺はシャルル殿下苦手だけどねぇ。優しすぎて、ちょっと怖い。」

反対に誰とでも仲良くなれそうなクリストファーは仲良くなれる人間が限られてくるらしい。

「優しすぎて怖いんですか?」

「怖いよ。もう少し打算的なところを見せてくれた方が安心する。勿論王子様だから仕方ないんだろうけどさ。エルは世が世なら王子様だったのに、案外普通の男だし、なんか比べちゃうよなぁ。」

「それは俺への批判か?」

「弟の危機を知って、1人で突っ走ったアルビオン伯爵様だからなぁ。」

「置いていったことをまだ根に持つのか?俺は光魔法など使えないし、瀕死や重傷ならば救命は時間の勝負だ。アルビオン公爵の後継ならオズワルドがいるし、光の魔法が使えるシューの方が優先度は高いだろう。」

「そうやって直ぐ命を損得勘定にいれるんだから、心が無いって言われるんだよ。」

2人のやりとりが楽しくて羨ましいが、シューは兄の横で眠気が酷く襲ってきて、うつらうつらと船を漕ぎ始める。

「流石に疲れちゃったか。お兄様、一緒に馬車に乗ってあげれば?」

何故かニヤニヤと下品な笑みを浮かべるクリストファーにエリオットJr.は強く肩を殴る。

「クリス、お前が一緒に乗れ。俺はコイツに回復魔法をかけられているから、今は大して疲れていない。」

エリオットJr.はシューと黒兎をクリストファーに任せると、報告をしに今回の現場指揮をしているマケット大佐の元へ行ってしまった。元々人並み以上の体力があるエリオットJr.だが、クリストファーはかなり普通の人間だ。そのエリオットJr.にずっと付いて行っていたクリストファーは疲れていた。

「いやぁ、弟くん。君のお兄さんカッコいいよねぇ。」

半分眠りの世界にいたシューは力弱く答える。

「ぼくいがいには、ですね。」

黒兎をクッションのように抱きしめたまま、そのまま不思議の国へ冒険に行ってしまった。




突然のBL(兄視点)。シューはそのような感情を持っていないし、ガイルはフアナを顕現させるシューの側に居たいだけです。ただのフアナ狂です。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ