【番外編】お互い嫌いです。
再び番外編ですみません。読む必要は全くありません。起承転結なんてないので、つまらないです。
西田美代子(19) 大学1年生。最近ゲームにはまっている。主人公。
シュー(14)美代子がやっているゲームの悪役。
ヒロイン(16) ゲームプレイヤーが動かす女の子
「美代子、おはよう。」
朝早く大学についた美代子は、ファイルとペンケースだけ鞄から出すと、本を開いて読んでいた。そこへ、美代子の友人が話しかけてきた。
「おはよう、千秋。」
「美代子、今日も女っ気がないね。」
千秋がマジマジと美代子の服装を見る。Tシャツにデニムのパンツだけきていて、その姿はとても花の女子大生ではない。
「服を選ぶ時間が勿体無いもの。」
「はぁ、もっと格好に気を遣えばいいのに。メイクだけしっかりしてもね。」
Tシャツとデニムのパンツという気の抜けた格好をしているのに、メイクだけはしっかりしているのでちぐはぐだと言われても仕方はない。
「血色が悪いと思われるのは嫌なの。それにメイクしてれば、こういうファッションだって思わせられない?」
「ダサい。」
「まあ、出かける時はちゃんとした服にするし、大学なんて勉強して帰るだけなのに気取った格好する必要性を感じないの。」
「…そういう無駄を排除していく姿嫌いじゃないけど、絶対真似できない。」
千秋は美代子のスタイルに最早畏敬の念すら感じるが、真似したくはないと思う。美代子の隣の席に着くと千秋もペンケースとファイルを出す。
「教養科目って面倒。」
「ていうか、教養科目が教養とか疑わしいよね。」
「その割に楽しそう。」
「結構マザーグースとか好きなんだよ。」
次の科目は英語の児童文学の科目で、美代子はプリントを取り出す。
「美代子って結構文系だよね。」
「看護師目指してなければ、きっと文系の学科に入ってた。」
美代子はプリントに書かれたハンプティダンプティを取り出す。
「変な歌だよね。」
全ての授業を終えて家に帰る。まだ両親は帰ってきてなくて、真っ暗な部屋だ。誰もいないし、特に急いでやる課題もないので、パソコンを開く。最近始めたゲームが意外と楽しくてなんの約束もなくて暇な時は殆どこのゲームばかりしていた。
「…相変わらずムカつくなコイツ。」
目の前に金色の髪の少年が出てくる度に美代子はイライラする。最初こそ弟のような愛くるしさと助言をしてくれる可愛いお助けキャラだと思っていたが、つい最近その本性を表した。
「うげ、強い。負けイベでもなさそうだしやばい。」
目の前に出てくる「ゲームオーバー」の文字にため息をついた。
「なんなの、強すぎる。パパに聞いてみようかなぁ…。でも、それも負けた気がするし。」
最近仲間になったエリオットJr.のレベルが低いのかもしれない。レベルをもっと上げて強い装備を整えようと再びコンテニューを押す。
『欢迎、何にするネ。』
学院の購買部でイールゥイが商売しているのはなんとも思わないが、同じパーティでイールゥイも使う消耗品を一切値下げしてくれないのは、酷いと思う。
美代子がゲームで四苦八苦していると、玄関が開く音がして、母親が帰ってきた音がする。急いでゲームをやめて、母親を迎えにいく。
「お帰り、パパは?」
「今日は残ってくるって。多分システム作り終わるまで暫く遅いと思う。」
「大変だねぇ。」
母親の荷物を受け取り、台所まで運んだ。
「美代子、大学生なのに家に帰るのが早いわね。」
「いい子をもって幸せでしょ?」
「ええ、本当に『いい子』ね。」
母親の嫌味を受け取りながら、なんでもないように返す。自分でも高校生の頃から変わっていないと思うけれど、「大人」に憧れているわけでもないので、今更変える気すら無い。母親からすれば、安心しながら、美代子の将来に不安を隠せないのだろう。
「正直結婚して子供産んでとかにも憧れもないんだよね。ママには悪いけどさぁ。」
「あなたが満足しているのならそれでいいけどね。あなたの人生なんだし。お母さんに責任はない。」
「ママの考え、日本人っぽくないよね。」
「そう?いつまで経っても『親が親が』っていう方がおかしいでしょ。義務教育もとうに終わった子供が悪いことしたからって謝罪会見してる芸能人がよく分からない。」
バッサリと切る母親に呆れながらも、美代子も同意見だった。この親に育てられたからそう思うのかと言われれば否定はしづらい。
「こんなことばかり話してないでさっさとご飯食べましょう。明日も学校でしょ?」
美代子は朝を起きると暫くぼうっとする。それから、ずっと美代子を起こそうと必死に身を震わせる目覚まし時計を消す。少しだけ高い目覚まし時計は買って暫く経つが狂うことなく正確に美代子を起こす。そして、気怠さが残りながら起きる。あの少年を倒すためにパーティを強化していたせいで寝不足だ。
部屋から出ると、既に母親は仕事に行った後で1人だった。作ってあったご飯と味噌汁をよそうと一人でダイニングテーブルに座って朝ごはんを食べる。
大学の広場のベンチに座ってイヤホンをつけて音楽を聴く。それだけなのに、自分が何かの物語の舞台に立ったような気分になる。
携帯電話を取り出すとゲームの少年について調べる。攻略法が見たかったわけではない。ただ急に気になったのだ。
「人間なんて嫌い…。」
それなりに人気のあるキャラクターのようで、ファンたちが描いた絵などが見つかる。泣きながらヒロインに縋り付く彼をどうしてか好きにはなれない。
「シリーズで1番『ヒロインのことをよく見て、嫌いになって、好きになったキャラクター』。」
インターネットでの評価は極端だ。怖い、嫌いという人も多ければ、盲目的に好きだと言う人も多い。どちらでもないという人間が少ないのは、彼が物語の根幹だからだろうか。
「美代子ーー、何やってるの?」
友人の一人が美代子に気づき声をかけてきた。
「んー、調べ物。」
美代子の返答を聞いているのか分からないまま、携帯の画面を覗く。マナーがなっていないというのも面倒でそのまま見せてしまう。
「ああ、美代子が最近やってるゲームか。」
「結構楽しいよ。」
恋愛が入り込むのも、苦手であってもそれはそれで面白い。強いて言うなら美代子の好きなタイプの男が攻略対象にはいないところだ。
「萌も始めたらしいよ、美代子に触発されて。」
「萌って重い話好きじゃなかったっけ?なんかヤンデレ系の…。」
シューを除けばこのゲームでヤンデレは殆どいない。
「でも、ネットの評判も悪くないし、さすがだね。」
クリアする頃にはまた初めの頃の初々しい彼らが恋しくなる。まだ仲間になる前の彼。いや、敵になる前の彼が妙に気になったのだ。
貴族たちの波にのまれ、どこに行けばいいのか分からなくなったヒロインは辺りを彷徨っていた時、彼女は後ろから袖を掴まれた。
『だれ?』
慣れていないヒロインは急に掴まれて驚いて振り向く。後ろにいたのは、気性の大人しそうだか、作り物めいた美しい金糸の髪と碧い目を持った少年だった。
『あ、ごめん。驚かせてしまって。あのね、僕君と同じ特待生で。』
『え、本当?』
制服が買えないヒロインと同じように、この少年も私服だった。サイズが合わない袖を何重にも捲って、ズボンが落ちないようにと草臥れた紐で締められていた。
『うん、同じクラスのシュー。神殿から来た平民だよ。』
『良かった、平民って私くらいかなって不安だったんだ。』
『ね。ここは貴族ばかりだから肩身がせまいよね。僕少しだけ早く入寮して学校探索してたから君より詳しいし、案内してあげるね。』
『ありがとう、どこがどこだか分からなくて困ってたの。』
シューは任せてと嬉しそうに胸を張った。シューの説明は丁寧で分かりやすい。ゲームの案内役という役割の為でもあるかもしれないが、会話の間に挟まれるジョークや細やかな豆知識が出てくる辺り、教養の高さが垣間見える。日本で生きている美代子にとって最初は頭いいんだなくらいで何も考えていなかったが、いくらなんでも平民がそれほどの知識があるなんて、この世界観からいえば可笑しい。聡い人はここらへんでシューに疑問を持つのだろう。
『あ、王女殿下。』
『お姫様?』
シューとヒロインの前の廊下から王女殿下御一行が現れ、慌てて2人は頭を下げて道を譲った。それで済むと思っていると、正義感の強い王女様は2人に目をやった。
『貴方たち、制服はいかがしたの?そのような下着同然の恰好で恥ずかしくありませんこと?』
この国の王女殿下は平民のことはよく分かっていない。いや、むしろ王女殿下はお金なんて見たことないのだろう。だからこそ、2人が制服じゃないのか分からないのだ。
『用意できませんでした。お目汚しさせて申し訳ありません。』
『お目汚し、ではなく、校則は守らなければいけませんのよ。堅苦しく感じてもルールはルールですわ。』
王女殿下は正しいし、正しいことしか恐らく知らない。間違いは正されるべきとしか教わっていないのだ。ヒロインは王女殿下にお金がないということを訴えようとしたが、シューは制止した。
『殿下、下々の私たちにまでご配慮頂き感謝いたします。』
ヒロインの代わりに、シューが前を出て頭をより下げる。
『手配が遅くなりご不快な思いをさせてしまってすみませんでした。』
『いえ、私は気にしてませんわ。でも、お気をつけなさって。』
王女殿下はニコリと微笑むと2人の前から去って行った。
『…私お金持ってないの。どうしても制服は買えない。どうしよう。』
『僕もだよ。でも、あそこで王女殿下に訴えたところで不敬としか思われないよ。』
『じゃあ、どうして?嘘はいつかバレるよ。』
『王女殿下は凄く地位の高い人だもの、僕たちに声をかけるなんて滅多にないことだよ。バレたところで、すぐ何か言われることはないと思う。』
凄く優しげな声でシューはヒロインを諭すような話し方をする。本性を知った今、きっとシューはこの時苛立っていたに違いない。でも、と言いたげなヒロインにシューは大丈夫大丈夫と言ってその先の言葉を封じた。
シューの言った通り、その後王女殿下は平民と言った2人の恰好に何か言いたげではあったものの、直接なにかを言われる事はなかった。
ヒロインへの嫉妬で陰口を叩かれたりすることはあっても、暫く平穏に学院生活を送っていると突然攻略対象の双子に絡まれる。正しくいえば、双子の片割れのラッセルの方だ。レオンはラッセルを諌めていた。それが更に火に油を注いで、更に水を入れるような事態になるのだけれど。
『はぁ、なんでラッセルと勉強勝負になるのかしら。』
『大丈夫だよ、僕勉強だけは得意だから。』
光魔法も闇魔法も隠していたシューは魔法の知識だけで特待生として入学したこともあって、勉強に関する事は本当に得意だ。文字すらちゃんと読めていなかったヒロインもシューの根気のある勉強のお陰で貴族たちにも馬鹿にされないような教養を得ることができたのだ。ヒロインを騙すため、学院を、国を欺く為とは言え、シューは手を抜かなかった。ヒロインが泣いて困れば、苦笑いしながら絶対に助けてくれた。
物語の前半、イベントスチルでもシューの笑顔が多かった。全てが偽物には思えない。ヒロインはそう仲間たちに説得していた。
シューとの戦いが終わって、シューを拘束したヒロインたちは取り囲んだ。魔力の尽きたシューは険しい表情でヒロインを睨みつける。
『シュー、本当に全て嘘だったの?』
シューは何も答えなかった。それは泣きそうなヒロインへの同情でも、シュー自身も分からないというようなものでもなく、答えることが煩わしかっただけで、ヒロインに対して今まで嫌がらせをしてきたどの令嬢より冷たい目をしていた。
『何も答えないのか?』
ヒロインの代わりに、彼女に絆されたエリオットJr.がシューへ尋ねると、シューの顔は嫌そうに歪んだ。
『君はなにが聞きたいのさ?全てが本当にあったことで、全てが僕のためだった。僕にはそれが真実だけど? 』
『…貴方は私に優しくしたつもりはないということ?』
『君の言いたい事が僕には全く分からないよ。君に勉強を教えることとマリアンヌに王子のペンダントを破壊させること、僕にとってはどちらも同じものだったって言えば僕の言いたいことはわかる?」
物語の最後、ハッピーエンドのルートでヒロインがパートナーと結ばれる婚約パーティーの前夜、ヒロインはシューが収監されている地下牢を訪ねる。ジメジメとしていて、カビ臭くこんな所に居たら1年も経たないうちに病気になって死んでしまうだろうというような場所だった。シューは多くの人を殺し、敵の魔族に協力して国を滅亡させようとした大罪人。すぐに処刑されないだけでも優しいのかもしれないが、ヒロインは全くそのようには思えなかった。
『酷い場所。』
力なく倒れ伏しているシューにヒロインは話しかけた。
『そう思うなら、とっとと殺してほしいよ。君が無駄に助命を嘆願したから、エリオットJr.が僕を殺せなかった。』
変わらず生意気な言い方をするものの、シューの言葉は息も絶え絶えと言った様子で、美代子もこれは可哀想だと思った。
『死にたがりには相応しい罰よ。』
『君は僕より残酷だ。』
ヒロインはそうかもしれないと言って目を伏せた。それから話しづらそうに口を開く。
『私、婚約したの。明日はそのパーティーよ。』
シューはどうでもよさそうでさっさと出て行けと言わんばかりに睨む。
『私、貴方が教えてくれたから、学院で生活ができた。貴方が丁寧に道案内をしてくれたから迷子にならなかったし、貴方が勉強を教えてくれたからラッセルの勝負に勝てたし、新入生歓迎パーティーでたからさがしのときは貴方がいなかったら、ご令嬢たちに嵌められて学校から追い出されていたかもしれないもの。…貴方は全てが真実だと言ったわ。私と笑ったのも私を励ましたのも、私を憎んだのも私を殺そうとしたのも全て本当だったんでしょう?』
『そうだね。』
シューははっきりと肯定した。他人にとってはそれが矛盾であっても、彼には凄く筋が通っていることだった。シューはもうヒロインを睨みつけなかった。出て行って欲しいとも言わなかった。
『君と笑ったとき楽しかったけど、堪らなく憎かった。君を殺そうとした時嬉しかったけど、とても愛しかった。それだけ。でも、そんなものでしょう、人間なんて。』
シューはいつも素直な子供だった。完璧な演技だったと思っていたけれど、そうではなく、全てが彼の本心だった。彼が騙していたというより、ヒロインの受け取り方が違っていた、というのが正しいのかもしれない。でも、勿論ヒロインに非はなくシューの方に非があるのは間違いない。
シューは重たそうに体を起こし、ゆっくり柵に躙り寄る。
『明日、婚約パーティーなのにこんな所で男と話しているなんて、とんだレディがいたものだよ。』
『密会じゃないよ、彼も知っているもの。』
『可哀想だ、貴族になんてなるものじゃない。』
『私が選んだ道よ。』
『結婚したらチョコレートプディングを作っちゃダメだし、締め切りのカーテンを開けちゃダメだよ。』
『それは何のお話なのかしら。はしたない事をしてはいけないというのでしょうけれど、私には分からない。』
シューはよく自分が読んだことのある物語の冗談を言うのだけれど、本なんて家にほとんどなかったヒロインはいつもよく分からないのだ。でも、久しぶりに友人と話すことができて彼女は楽しかった。
『さあ、なんの話だったかなぁ。』
そして、久しぶりに見たシューの笑顔だった。
美代子はシューが嫌いだった。物語の途中まで信用しきっていた、というのも原因の1つだと思うけれど、この嫌悪感はそれだけではない気がする。それでも、不思議なことで美代子はおそらく一番好きなキャラクターよりもシューの事を調べた。嫌いなものを何故嫌いなのかが納得できなかったからだ。罪人だから、王女殿下を殺したから、ヒロインを裏切ったから、それだけでは納得できなかった。
分からないまま、追加コンテンツでシューを仲間にもして、シューの技は使いやすいなぁなど、嫌悪感を無視してパーティーに入れていた。
結局、美代子が分かることはないまま、美代子は学校を卒業して夢だった看護師になり、ゲームのことは頭からさっぱり忘れることになる。シューのことなんてどうでも良くって、担当患者が日に日に弱っていく姿に苦しんでいた。
自分を起こすのが少し高性能な機械ではなく、真面目な人間になったシューは、その日も神殿の硬いベッドでカーティスに起こされた。
「おはようございます、シュー。今日は寝覚めがいいですね。」
いつもスヌーズ機能の代わりにあと5分と頼んでいるシューが、あっさりと目を覚ましたことをカーティスは驚いていた。
「いい夢を見ていたから。」
「それは謎かけかなんかでしょうか?」
「ほらよく言うでしょ。本当の自分は人間の夢を見ている胡蝶かもしれないって。」
生真面目なフットマンはううんと頭をひねった。特に大した意味なんて無かったのだ。これが美代子の夢だろうが、美代子がシューの夢だろうがどうだっていい。
「でも、いい夢だったけど、悪夢でもあったよ。私が僕のことを嫌いだって再確認したんだもの。」
「美代子さん、ですか?」
「私は僕が嫌いなの、理由も分からないけど大っ嫌い。それって凄く苦しいんだよね。だって、一番僕のことを理解している私が僕を認めてくれないんだもん。」
「私の矮小な脳では理解が追いつきません。」
「自分を愛することができれば、人間幸せになれるじゃん。ほかの誰が嫌ってても私さえ僕のことを愛していればもっと幸せなんだけどっていう話。」
カーティスはシューを着替えさせる手を止めて黙った。
「それって同族嫌悪ではないのですか?」
そう言ってまた手を動かし始める。今度はシューが止まってしまう番だった。
「同族嫌悪…。」
「似たような物なのかなぁと思って。美代子さんはシューで、シューは美代子さんなんですよね?」
今はシューは美代子だし、美代子はシューだからそう言われてもおかしくはないが、前世はそうではないはずだとカーティスにまくし立てる。
「私ってシューに似てる?私は殺したい相手を愛しいって思ったことないし、笑いあった相手を憎んだことなんてないよ。」
シューの顔で美代子のように迫られても、事情は知っていてもよく分かっていないカーティスには分からない。未来のシューすらもカーティスは知らないのに、美代子の言い分なんて分かるはずない。
枕元で寝ていたルルが五月蝿いと嫌そうに顔を歪めながらふぁあと欠伸をした。
「嫌いになるのに理由なんているかよ、気に入らないから嫌いでいいだろ?」
「でも、気に入らないっていうことは何かが自分の意に反しているってことでしょ?」
「はあ、ミヨコもそういうやつだったんなら、てめえらはそっくりだぜ。同族嫌悪で正しいだろ。」
ルルも心底面倒くさいなという顔で話題を終わらそうとする。ルルにもカーティスにも同意されると、胸にストンと落ちたような気がした。
「…なんでそれでホッとしているんだ?」
「不明なものって怖いんだよ。だから、言葉で名前を付けたがる。」
「めんどくせえ生き物だな、お前は。」
「それでシューが納得できるのならいいではありませんか。」
ルルの言うように、嫌いであることに理由なんて必要はないのだろう。それでも、シューは美代子が自分を嫌う理由が何となく分かって、受け入れることができた。真理亜はシューが好きなのだし、美代子が嫌うくらい諦められる。
その時神殿の時刻を知らせる鐘が鳴る。
「ああ、まずいです。祈りの時間が。」
カーティスは慌てて小さなクローゼットからローブを取り出し、シューに着せ、自分も神殿の恰好になると部屋を出た。
残された猫は再びうたた寝を始める。
「嫌うことに理由なんてねえよ、ティキ。」
ボソリと呟いた猫の寝言など聞くものはいなかった。
番外編続いてしまってすみません。