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これがゲームの世界ですか?  作者: 詩穂
アルバート家とアンデッド退治
29/115

光の魔法使いは戦えない

ニーナ・ネーサン(18) アルビオン語(アルバート家領語)訛りがあるものの、オルレアン人。綺麗なものや可愛いものが大好きな普通の女子。


エリオットJr.・アルバート (18) オルレアン語のとアルビオン語のバイリンガル。アルビオン公爵の長男。レディの前ではちゃんと紳士だけれど、機械や馬が好きな普通の男。


クリストファー・オールセン(20) ケベンハウン語(オールセン家領語)の方が得意だけれど、オルレアン語も普通に話せる、オールセン伯爵の長男。年下に対して兄貴面したい普通の男性。


冥府までの道案内をする、ことはできなくはない。何故なら一応闇属性でもあるし、冥府の王とは親交は途切れていない。ただニーナや、周囲に騎士団がいる状況で闇魔法を使うことはできない。短剣を食人鬼向けながらも、目の前の敵を倒す算段はつかない。

「シュー、無理はしなくていい。彼らはアンデッドを食すがアンデッドではない。」

「あの魔法あの方のものですよね。」

食人鬼の周りに吹く風は、あの貴族の男の魔法とよく似ている。

「どうやら食った皮の魔法を使えるようだな。」

「ネーサン少尉、怖い顔はしないで頂きたい。」

食人鬼がここにいること自体恐ろしいのだ。いつから入れ替わっていたのかがわからないのだ。王都には魔族が入れないように結界が張ってある。この国一番の高度な結界だ。いくら食人鬼が人の皮を被ったところで、入ることはできない。それなら、ここに来るまでの間ということになる。

「…先遣隊。」

彼は先に道中に何かないか見て回る、数人の斥候部隊の一人だった。シューの呟きにニーナはすぐ反応する。

「それは、まさか。」

先遣隊は何も無いと報告した。しかし、食人鬼に襲われて何も無いというのはあり得ない。

「先遣隊は6人いるぞ。」

獣は楽しそうに笑う。何も無いという報告は、全員食人鬼だからだ。この事実を何人が知り、警戒しているのか。殆どが知らないのなら、この事実を伝えなければならない。

食人鬼は顔は人間の姿のまま、手を食人鬼のものに戻してその鋭い鉤爪でニーナに飛びかかった。ニーナは水の精霊の力を得た剣で応戦する。食人鬼の意識がシューから逸れた時、シューは短剣を高く掲げた。

「僕の光の庭を汚すもの、ケラウノスの錆となれ!ライト・ガーデン!」

シューを中心に半球状に光の膜がキャンプ地点を包み込んだ。広域の範囲状態異常回復魔法だ。

「…何がしたい?」

光の膜に危機感を抱いたが、食人鬼はよく分からないようだった。アンデッドに対しては攻撃魔法になるそれだが、アンデッドではない食人鬼に対しては状態異常を回復するだけだ。

シューがしたかったのは二つ。シューが広域に魔法を使っているのを知らせて、騎士団にキャンプの中心地に異常があることを知らせる。もう一つは。

食人鬼は顔からボロボロと何かが落ちてきていることに気づいた。いや、顔だけではない、指の先から腕、足から薄い橙に近い色をした何かがこぼれ落ちている。

「お前!」

それは被っていた人間の皮だった。シューのことを弟さんと慕っていた貴族の男の顔ははもうどこにもない。食人鬼にとって、「人間でいること」は異常な状態である事に変わりない。とは言っても、普通の状態異常回復であったのならこうはならなかった。闇魔法の変化を知っているシューの改変であったから人間の皮を剥がすことができたのだ。

あれほど広範囲の回復魔法ができるのはシューしかいないので、察した周囲から応援の騎士たちが駆けつけた。また他の先遣隊のメンバーの皮も破れた様子が、シューの場所からでも確認できた。

「食人鬼が…。」

シューに皮を壊された食人鬼は恨めしそうにシューを見たあと、ニヤァと口角を釣り上げて笑った。

「この魔法、どこで覚えたんだろうな?」

鉤爪から生じる衝撃波をニーナの水龍か防ぎ、辺りに水が舞った。シューもニーナを助けようと光の矢を放つが、彼の風によって簡単に地面に落ちて消えてしまう。

「僕のオリジナルだけど。」

「光魔法だけで?」

シューは苦虫を噛んだような顔をする。当たり前と口先では返すが、内心で未だに返す言葉を探していた。ガイルがシューの裏切りに気づいていて、シューを狙っているのなら、ガイルの手先である食人鬼のこの一言で彼のやりたいことが見えてきた。

「ヒーリング・サークル。」

けれども、大口を叩いておきながら光魔法だけではこの集団の中でシューは少し光魔法が得意な動きの悪いポーンなのだ。現にニーナはシューを守ることで精一杯だ。

代わりにほかの騎士たちが食人鬼と相対しているのだが、騎士たちのレベルも低いわけではないのに、複数対1の状況で押されている。ニーナが水の膜でシューを包むと、シューに対して耳打ちした。

「先遣隊のメンバーが全員敵だったせいで乱れがある。」

そうでなくても同僚がいつのまにか死んでいた、ということは少なからず騎士たちに動揺がある。エリオット隊には隊長、副隊長不在の不安も抱えている。

「迷わず剣を抜け!君たちが僕を守る限り、僕も君たちを守る!」

「はい、卿。」

シューを守る騎士たちは、気合の入った返事だった。代わりにシューも彼らに回復魔法をかける。範囲回復よりもより個人に絞った魔法だから、効果量もより大きい。守るものへの尊敬が上がったのか、先ほどより動きは良くなった。こうして騎士がシューを守る間は、ガイルの作戦も進行しないはずだ。

他の先遣隊メンバーやカルヴィン辺境伯領にしか生息が確認されていないシルバーウルフが気になるのだ。カルヴィン辺境伯が持つ軍隊なら恐らくシルバーウルフに慣れているだろうから苦戦しないのだろうけれど、王都の騎士団は知識として知っていても慣れていない。

「弟さん。」

食人鬼からその顔を奪ったはずだった。なのに、その顔に見えたのはシューの心の弱さだろうか。一瞬でそれは消えて、気持ちの悪い鬼へ戻る。

「シュー!」

ニーナは食人鬼のシューに向かった一撃を阻止した。彼女は護衛としてしっかりと動いていたのに、それはシューの戦場での力の弱さだ。ゲームではない、本当の戦場に敵は前だけではないのだ。 背後から迫った別の食人鬼の存在に気づかなかったのだ。

「ニーナ姉様。」

シューの白い肌に滴る赤い赤い雫。赤く染まった神殿の白いローブは罪人が着るには相応しい色にも見えるが、それが自分のものなら良かった。

「ふ、私は、ごえい、だ。」

ニーナの笑った口から赤い血が流れる。早く傷を治さなければいけないのに、その鬼は弱った獲物を見過ごすまいと続けざまに襲いかかる。

ニーナに大怪我を負わせておきながら、焦燥心があるのも間違いではないが、冷静な自分がいた。この襲いかかる食人鬼に闇魔法でなら防げるが、闇魔法が使えることを騎士団に伝わってしまうのだと。そして、恐らくそれがガイルのしたいことなのだ。シューを人間の集団から追い出し、シューからガイルを縋るようにすることだ。

「ハデ…。」

「エント、巨大なその腕で侵略者を薙ぎ払え!ツリー・ハンド。」

食人鬼の迫る腕、顔が大きな木の枝によって千切れ、大きな刃がその身体を切り裂いた。

「お兄様。」

憎らしい程の綺麗な顔でエリオットJr.は剣の汚れを振り払った。エリオットJr.が乗っていた馬や部下たちをどこに置いてきたのか、彼1人だった。

「何のために連れてきた。足手まといになるなと言ったはずだ。」

エリオットJr.に素気無く言われ、自身の足元にいるニーナに躙り寄る。真っ赤な動脈血がどくどくと勢いよく流れ出る。美代子の知識なんて無くたって危険な状況であることは一目瞭然だ。

「兄様、お願いします。」

「お前はお前の仕事だけをしろ。」

どんなに嫌いでも、どんなに冷たい機械人間でもこういう時のエリオットJr.はとても頼り甲斐がある。

毒で侵されたウィリアムとも、熱にうなされた患者達とも違う。大きな深手の傷から血が流れている。光の治癒魔法でも単純な治癒魔法で治せものだ。しかし、流れた血の量や時間が掛けられない戦さ場という状況に純粋かつ単純に大きな魔力量が必要だった。

「お願いです、裏切りダブルクロスの僕のことをどんなに憎んでも恨んでも彼女は貴女の同胞ウンディーネの愛した人間だ。アルテミス、ニーナを救うことに手を貸してください。ウンディーネ、水の女神様、貴女の良き信徒を守る力を僕に。」

お願いだと何度も心でも頼む。シューに出来ることは、自身のことを嫌う精霊たちに頼ることだけだった。

エリオットJr.は部下だった男の皮を被った食人鬼を倒しながら、自身の末の弟のやっていることを横目で見ていた。口でぶつぶつと呪文を唱えているようだが、二つの光がシューの呼びかけに応じているようだった。非常識だ。そもそも1柱の精霊の声が聞けることでも普通の魔導士より優れているというのに、一度に2柱に対して呼びかけて更に精霊が答えているのならとんでもないことだった。エリオットJr.はシューを守るために応援にした騎士たちに呼びかける。

「ルディの隊のものたちだな。愚弟を助けたことに感謝する。ここは私がなんとかするのでマケット隊の助力を頼む。」

「いえ、弟君の助けになったのなら光栄です。」

騎士たちはエリオットJr.に頭を敬礼を捧げるとエリオットJr.の言うマケット隊の加勢へと走った。

ニーナは精霊に好かれているのだろうとシューは思った。

「私は同じ女の身で戦士であり、ウンディーネのお気に入りだから救うだけだ。闇に囚われた少年。」

キラキラとした白い光はやがて人の姿となり、銀糸のような髪と月桂樹の冠を携え、月のような銀の瞳を持ち、瞳と同じ色をした銀の弓を背負った美しい女性が姿を現した。

「テミス様、欠点の多い人間に対して厳しいですね。美しき我が信徒を救うこと、感謝いたしますわ。」

そして、もう一つの青く光る光も少しずつ人の形をとると、南国の海のような明るい青い瞳と透き通る金色の髪が美しい女性となった。

今までいくら呼びかけても無視を決め込んだ光の精霊がニーナの危機によって初めてシューの目の前に現した。アルテミスは協力するとは言っているものの、シューに気を許した訳ではなく、フアナのように一緒に魔法を使うことは不可能だ。

「力を貸してください。」

アルテミスはムスッとしたまま、シューがニーナに魔法をかける手の上に手を重ねた。予想より細い手に心の中で驚いたが、すぐにどうでも良くなった。

「妾も参加いたしましょう。」

ウンディーネは水属性だから、光の治癒魔法とはいかなくても人を癒す力を持つ。ウンディーネの力によってニーナの容態は安定し、シューとアルテミスの魔法によってニーナの傷は塞がっていく。

他の騎士たちは全て出払っている中、エリオットJr.にアルテミスとウンディーネの姿は見えてはいないが、容姿だけは美しい末弟とそれをつつむ2つの神聖な光で溢れた光景を1人で見ていると、目に焼き付けなければという思いとともに、目を背けなければいけないという気が出てくる。

「エリオット兄様。」

シューに名前を呼ばれてエリオットJr.は我を取り戻したように目を瞬かせた。

「ニーナ姉様を背負ってください。」

治癒行為は終わり、ニーナを救うという目的で姿を顕現させた2柱はニーナが助かったということが分かるとさっさとシューの元から去っていった。アルテミスはシューの事を嫌っているから仕方ないし、ウンディーネもアルテミスのことを慕っているのでアルテミスが去ると当然というように彼女もいなくなった。

ニーナの顔色は良いとは言えない。あれだけ出血がひどければ、貧血にもなる。アルテミスとの連携がもっと上手く取れたのなら貧血状態から脱せたのに悔しいところだ。

「ということで僕の体躯ではニーナ姉様は背負えないのでお願いします。」

「俺の両腕を防ぐ気か?」

剣を腰の鞘にしまっているが、いつ敵がどこから現れるか分からない状況にニーナを背負うことに難色を示す。

「でも、ニーナ姉様を置いていくなんてできませんし、エリオット兄様なら両腕を防がれても戦えますよね。」

先ほど、敵を千切った魔法はエリオットJr.の剣を起点にしたものではない。

じきにクリスが突破しここまで来るはずだ。俺の馬を預けているからな。」

どうやらここまでエリオットJr.はクリストファーの魔法で単身移動したらしい。クリストファーも自身の馬で来ているはずだから、2頭の馬を操ってくるのは大変だろうとクリストファーが可愛そうになった。

そう話していると複数の馬が駆けてきた。見知った顔も何人も確認できた。

「お前たち食人鬼にはなっていないな。」

「この乱戦を突破してきた部下にかける一言かなぁ、それ。」

シューの赤い姿で座っている姿を見るとクリストファーはぎょっと顔をしかめた。

「弟くん、無事なの?」

「コイツに怪我はない。」

「…ニーナちゃんの血か。」

馬の高さからは確認しづらい位置にニーナはいたので、クリストファーはすぐには気づけなかったらしい。一度馬から降りてニーナの顔を見る。

「そういう呼び名で呼ぶと誤解されるぞ。」

「はいはい、隊長。ネーサン少尉も無事らしいね。顔色は悪いけど。」

「僕を庇って。」

ニーナの性格を把握しているクリストファーはそれだけで大方の予想はできたのだろう。得心した様子でシューの言葉に頷いた。

「エル、どうする気なのかな。」

「今回の指揮はマケット大佐だ。俺に権限はないが、態勢が戻り次第撤退だろうな。」

「その撤退まで、だよ。」

「俺は前線に行く。お前たちにはシューと怪我人の護衛を頼む。」

その答えも予想通りだったのか、はああとクリストファーはため息をついた。

「アルビオン伯爵様が護衛も付けずに前線に出ると。」

「戦力を分散するにはそれが一番だと思うが?時間が惜しいのだから、俺は行くぞ。」

「さっきの山賊一家も結局一人で壊滅させてしまったお前だけどさ。むしろ捕縛する俺たちが時間かかっちゃったけどさ。」

既にエリオットJr.はクリストファーの話は聞いていない。自身の馬の鞍を整え、乗ろうとしたところをシューは彼の服の裾を引っ張って止めた。

「なんだ?」

「精霊の加護がありますように。」

シューは疲労回復魔法をエリオットJr.にかけた。馬車で揺られていたシューとは違って山賊討伐した後に騎士団を急いで追いかけてきて、流石に疲れていると思ったからだ。

「エリ…。」

いつもどおり「エリオット兄様」と呼ぼうとしたのだが、長ったらしくて面倒だなと思った。オズワルドと違って愛称で呼んでなかったのは、この男があまりに他人すぎたからだ。

「エル兄様。」

エリオットJr.は目を細めると、シューの頭にポンと手を乗せた。

「助かる。」

不思議な話だ。沢山の人の怪我や病気を治し、感謝されているのに、家族に回復魔法をかけるのも、この兄に礼を言われるのも初めてなのだ。

「アルビオン伯爵様、お気をつけて。」

「ああ。」

嘲笑と不安を混ぜたクリストファーの言葉すらも普通に受け取り、彼は馬を走らせた。

「俺たちも少し移動しようか。ビリー、悪いがニーナちゃん背負ってほしい。」

筋肉隆々のクリストファーの部下、ビリーははいと頷くと馬から降りてニーナを背負った。それからクリストファーは一度馬から降り、シューを自身の馬に乗せる。

「シュー、魔法はまだ使えるかい?」

「ニーナ姉様のように命に関わるような大怪我でなければ、まだまだ使えます。」

「分かった。それなら後方支援が十分できるところに行こう。ここからだと少し遠いから無駄に魔力を使うよね。」

「はい。」

「ビリー、守護結界は使えるか?」

「後方支援を守るくらいなら大丈夫です。」

「うん、上出来。前の敵はエルがほとんど倒すだろうから、自力で動けない人を増やさないことが重要だ。」

全員の顔を見回してからクリストファーはシューの前に乗り、シューはクリストファーの腰を掴む。ビリーは気を失ったままのニーナを馬に上手く乗せると支えながら自身も乗馬する。

「ビリー、急ぐなよ。イスコ、ビリーのカバーを頼むぞ。」

「了解です。」

クリストファーが足で馬に合図をすると、馬は走り出した。クリストファーで前は見えないが、役立たずのままで終わるものかと意気込んでいたのだが、

「いっ。」

誰かに金属バッドで殴られたような痛みが頭に走った。その衝撃で反射的に腰を掴んでいた手が離れ、重心が後ろに行った。

「危ない!」

後ろで走っていたエリオットJr.の部下たちが叫んだ。

「え?」

クリストファーも掴んでいた腕が離れたことにすぐ気づいて馬を止めようとしたが、それよりも早く重力に掴まれシューは馬から落ちた。

車はすぐ止まれないと現代でよくいう話だが、人間が知覚してから、その馬が止まるまでにはどうしてもタイムラグがある。すぐ後ろにいた騎士は幼子を轢いてしまうと萎縮した。

全ての馬は止まった。しかし、後ろの騎士が恐れていた轢いた感覚は無かった。

「…ちょっとまって。」

クリストファーが青い顔で馬から降り、周りを見回した。

「シューはどこ行った?」

幼い子供の返事も、叫びも何もなく、聞こえるのは剣や魔法の爆発音のみ。騎士たちは一斉に馬から降り(ビリーはニーナを支えながら)、全員で血眼になって辺りを見渡した。

「…連れ去られた?なんの気配もなく?」

前線にいる親友になんと言えばいいのだろうか、と再び手綱を取った。

「俺はエルの所へ急ぐ。その後の指揮はケルンに任せる。」

後ろの騎士に指揮を任せるとクリストファーは疾風の如く前線へと駆けて行った。


お待たせしました。


そして、次回もお待たせしてしまいます…。

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