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これがゲームの世界ですか?  作者: 詩穂
アルバート家とアンデッド退治
25/115

過去の清算

カーティス(14) シューの側仕え ワーカホリック気味


クリストファー・オールセン(20) 騎士団 エリオットJr.隊 副隊長 怒ると怖い


ナニー(乳母) シューの乳母はシューのことを愛し殺そうとした。

エリオットJr.の帰宅時間よりも、シューは先に帰らされた。体力のない幼い体が恨めしいところだ。迎えに来たのは、未だ名前を聞いていないフットマンのあの男だった。

「お疲れ様です、おぼっちゃま。」

「はい。」

「今日と明日は私で我慢してくださいね。

彼が嫌いなのではないし、追い出したいわけでも勿論ない。どうして接していいのか分からないのだ。カーティスと同じように気楽に話すには少しばかり彼が年上であるし、アレンやクリストファーのように話すにも話題がない。

「あの、昨日のことまだ怒っていますか?」

昨日のこと、と言われてすぐに思いつかなかったので、手で顎を抑えながら考える。恐らくヴィクターの代わりにシューを怒ったあの時の話だろう。

「しつこいってあの時は思ったけど、今は思ってないです。」

それ以来彼も落ち込んだのか、シューに必要以上に声をかけない。

「カーティスは…。」

と言いかけて、彼は口を噤んだ。使用人を比較なんてしてはいけない、それは最初にナニーがシューに教えたことだった。彼女が亡くなってから今まですっかり忘れていた言葉だ。きっと貴族である彼もそう思ったのだと思う。

「どちらかっていうとカートは僕の遊び相手なの。気にしないでほしい。」

シューの言いたいことをなんとなく理解したのか、彼は微笑んだ。

「あと僕のことなんて好きになれないでしょう。」

彼ははっとして何か気づいたようだった。

「それは、神殿に行く前貴方が使用人を虐めていた、からですか?」

今のシューは使用人を虐めるというよりも使用人達を恐れている。否、それは恐らく前と変わらないが、恐れている使用人達に対して必要以上に関わらないようにしているだけだ。変わったのはユーリとカーティス、それにジャスミンを信じられるようになったことだ。だから、「恐れる」だけで済んでいる。

「こんな綺麗事のようなこと信じられないとは思いますけど、貴方のアレは『子供の癇癪』でしたので、今は気にしておりません。」

「…子供の癇癪?」

「行き過ぎたものも勿論ありましたね。女性の髪を切ったり、階段から突き落としたり。」

ジャスミンの火傷だって馬鹿にならない傷害事件で、絶対に許されるものではない。あの子供は手のつけられない悪ガキだと侍女長クラリスだってため息をついたのを知っているのだ。

「でも、もうしないのでしょう。」

「しない、ですが。」

「ならそれらは許すべきことです。だって貴方はまだ成長できる子供なのですから。」

「階段から落ちた侍女は言っておりました。階段から落ちた直後意識を失ったが、目が覚めた時には全く痛みもなく、その後、後遺症が出ることもなかったと。もしかして、あの時おぼっちゃまは治していたのではないかと。」

「…あの時あの人は頭から血を流していました。」

「そうですか。」

「彼女を呼ぶ声が聞こえました。」

何故彼女を助けたのか、分からない。もしかしたら、元々美代子の感情があったのかもしれない。痛みに苦しむ彼女の姿を見ていられなかった。

「これは母屋の使用人達で話し合ったことです。おぼっちゃまを怖がることはない、それから、許していくべきであると。」

主な被害者だった使用人達はシューを許すと、許していくと言っている。それなのに、まだ美代子はシューを許さない。

彼の言葉を噛み締めながら胸に手を当てる。優しそうでしっかりとした声に、消えかけていた思い出が蘇った。

「ありがとうございます。マクシムさん。」

「…私の名前を知ってたんですか。」

名前を知らなかったフットマン、ではなく、名前を忘れていただけだった。

「7つの誕生日の時に来た人、ですよね。挨拶してくれました。」

ひっそりとナニーが祝ったシューの誕生日、マクシムはケーキを買って挨拶しにきた新しい使用人だった。

「よく覚えてますね。」

「あれが最後の誕生日のお祝いでした。」

その次の年にナニーが亡くなったから、誰もシューを祝おうと思う人がいなかった。ユーリが来てからは、ユーリが何かプレゼントを買ってくるくらいしかなかった。エリオットJr.が「1番愛した人の子供」だった説を話していたが、父親は一度も誕生日を祝ったことはない。

「来年は盛大にやると思いますよ。」

「やらなくていいです。神殿に帰ります。」

「オズワルド様が悲しみます。」

「悲しませとけばいいのです。」

マクシムは実は普段オズワルドの側仕えを担当しているらしい。オズワルドにはもっと沢山の側仕えがいるから問題はないらしい。

「おぼっちゃまは神殿生活が楽しいのですか?」

「僕を必要だと言う人がいますから。」

使用人であるマクシムはその答えに納得できるようだ。

「…でも、本当に、王宮では盛り上がっていますからね。」

「何に?」

「光属性生まれの光の魔導士に。」

そう言われても全然シューには実感がない。盛り上がっていると言われても全くそのような話を聞かない。二ヶ月程神殿にいたが、神殿のお偉方たちにも聞いたことがない。

「ある程度情報を規制させて、民衆には腕のある幼い魔術師が神殿にいる、くらいになってますからね。」

「そうだったんですか。」

と、言われてもさあ困った。シューは絶対にヒロインにはなれない。性別の話ではない。光の精霊魔法が使えないからだ。光属性生まれとちやほやされたとしても、光の精霊に愛された水属性に負ける。例えば、シャルル王子に。あくまでシューが得意なのは病気や怪我の治癒でしかない。

では、闇の精霊と手を切って光の精霊と仲良くなろうか、とも全く思えない。闇の精霊には1番苦しい時に助けられているから、彼らから離れたくはない。

「…光属性生まれ、か。」

一刻も早く人柱ヒロインを見つけ出さなければ。



次の日も再びエリオットJr.と騎士団に行って、今度はもっと本格的に混ぜさせてもらった。騎士であるからには、馬に乗るのだがエリオットJr.から付け焼き刃の乗馬など使えないと、エリオットJr.の馬に乗らせて貰った。さすが本職の騎士、エスコートは勿論完璧だった。それから、乗ったまま魔法を使うのだが、安定しづらいので集中力が問われる。エリオットJr.がシューは馬に乗れないと言ってやめさせようとした理由がわかる。 最初のうちはうまく魔法が発動しなかったり、範囲回復が狭まったりした。

「はあ!」

次が最後と言われて挑み、その日初めて完璧に成功させた。

「おお、弟くん、今の完璧じゃない!」

「弟さん、できましたね!」

馬から降りると、隊員たちがシューを囲んで頭を撫でた。生意気な子供だと思うが、何故かエリオットJr.の隊員たちはシューを可愛がってくれる。まだ慣れていないからクリストファーの後ろに隠れてしまうが。

「エル、俺が1番好かれていると思わない?」

「なんの自慢だ。ウチの執事見習いのユーリに雰囲気が似ているからだろう。」

「え、似てるかぁ?ユーリくんはもっと優等生って感じだし。」

ユーリが気楽に話している姿を見ていないからなんとも言えない。ただエリオットJr.と違って穏やかそうな空気であるのは変わりないし、他の騎士とも違って、正しくない表現かもしれないが、二人とも女性っぽい柔らかさがあるのだ。

「僕は別にユーリに懐いているわけでは…。いえ、お兄様より頼りにしてますが。」

「そうだろうな。」

嫌味で言ったが、エリオットJr.には効かなかった。超不器用であることに、本人も自覚があるのだ。

この日もエリオットJr.よりも早く帰らされ、フットマンのマクシムが迎えに来た。

「今日で最後ですよ。」

息がつまりそうだったとは言わない。毎日帰ればルルやフアナが騒ぎ立てるので、話し相手も居なかったとも言えない。ただ少しだけカーティスがいなかったことが寂しかっただけだ。今にして思えば、それで彼にあたっていたような気がする。書斎で立てこもったあの時カーティスが迎えに来てくれるような気がしていて、ユーリと彼の声で少し落胆した。迎えに来たのがカーティスだったら、ぶつくさ言いながら自分で開けただろう。

それでも、今はマクシムに仕えてもらって良かったと思う。

「マクシムさんが、僕を許すって言ってくれたから、僕もまた少し前に進めたよ。」

マクシムは少しだけ驚いたように目を開いた後、頰を緩ませた。

「私も前に進めましたよ。」

部屋に着くと、彼は扉を開けて背を押した。

「ありがとうございました。おぼっちゃま。」

背を押す彼を不思議に思いながら、そのまま歩く。

「お帰りなさいませ、シュー。」

落ち着いた大人の声ではない、少しだけ幼さとやんちゃさを残した聞きなれた声で自室に招かれた。シューが入っあと、扉はゆっくりとしまってマクシムは入ってこなかった。

「え、と。お帰り、カート。早かったね。」

シューは明日までだと思っていたので驚きながら、声をかけるとカーティスは嬉しそうに笑う。

「ぼっちゃまは変わりありませんか?」

「え、うん。当たり前でしょ。僕が側仕えが変わるだけで何もできなくなるわけない。」

カーティスの後ろでここのところ枕元でずっと不気味なマザーグースばかり歌っていた猫が噴き出した。

「子猫ちゃん、母ちゃんが戻ってきたからパイを焼いてもらえよ。」

「行儀の悪いブサ猫はとっくに女王様に首を刎ねられたと思ったのに。」

【その猫首を刎ねても生きてるわよ。】

ケタケタと首だけで笑うルルを想像してしまい、気持ち悪くて本人を殴った。

「ぐぇ。テメェ、おぼえておけよ。」

「覚えてるよ。君が僕に何をしたのかね。」

「ネチネチ、姑かお前は!」

「君みたいな出来の悪い嫁なんて、早く追い出したくて仕方がないよ。」

カーティスはルルとシューのやり取りを聞いて、笑った。

「やっぱり2人の言い合いが懐かしくなりますね。」

ルルとシューは2人でカーティスに異議を申し立てるが、それすらもカーティスにはなんだかホッとするようだ。

「はぁ、カートもルルに毒されちゃったのか。」

「それだけは否定します。」

「おい、護衛。」

2人を見て笑っていたカーティスも、ルルと同一視されると真面目な顔で否定した。

「それよりカートは良い休みだった?」

「ずっとシューのことが気がかりではありましたが、良い休みでしたよ。少し待っていてください。」

ワーカホリックの少年は自身の簡易ベッドの下から布に巻かれた何かを取り出してシューに手渡す。

「ハッピー・リバースデー、です。」

「あの時の冗談を本気にしたの?」

カーティスは首をすくめると、眉を曲げて笑った。

「ということにしておきたいところですが、嘘です。シュー、鍛冶屋の親方を覚えてますか?」

カーティスは巻かれた布を外した。中から出てきたのは華やかな文様の、短剣だった。柄の部分に紺碧の色の石がつけられて、持ちやすいように巻かれた紐は金糸と青い糸で組まれ、花のような紋様を作っていた。刃の部分もよく研がれて繊細な作りだった。

「あの、親方が。」

「ええ、シューが騎士団の魔物討伐に加わるので、身を守るために何かしら武器もあると良いかと相談したんです。すると、是非親方が作らせて欲しいと言ってくれました。」

カーティスは酒場であった親方の話を余すことなくシューに伝えた。

「ですから、今回は親方の好意で譲ってくれたんです。元々あったものを鍛え直し、新しい組紐に替えてくれたんです。」

「今度親方の所で何か買わなきゃ割に合わないね。しかも、これ魔力補助の効果がある魔石だ。」

シューは碧く輝く石に触れると、温泉に触ったような温かみを感じる。親方の感謝の気持ちが伝わってくるようだ。

「さすがシューです。すぐ分かるんですね。魔法の媒体にすると、更に安定するようです。加護がつく魔道書などには劣るようですが。」

急いで作らせた新しい鞘に短剣はピッタリと収まった。

「ありがとう。」

「それは是非親方に。」

「ううん、カートに。僕は、僕1人だったら思いついていなかった。」

シューはその美しい短剣に額をつけた。

「ね、カート。」

カーティスの礼、シューにとってはそれだけのことだったが、カーティスには何かの儀式のように見えて言葉を失った。その後シューに何度も名を呼ばれて我にかえる。

「シューにそれほど喜んでいただけるとは思ってもみてなかったので。」

「今僕の状況に丁度いい武器だから。」

カーティスはこの三日間のシューを知らない筈なのに、シューに今ぴったりのものを用意してくれた。それが何より嬉しい。

「酒場の冒険者から伺ったのですが、最近少し魔族が静からしいんですよね。知性の低い者たちは変わらないのですが、言語を用いる魔族は大人しいのだとか。」

「…そう、貴重な情報をありがとう。」

オルレアン付近で統率のとれた魔族は全てガイルの支配下だ。そして、人族領にあるこの地域は魔族たちにとって最前線だから、慎重なのだ。

「シュー、何を考えているのですか。」

いつに無くシューの顔は険しい。シューはルルとフアナを見て答える。

「過去の清算だね。」



更新のスピードが戻ります。

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