マリー=アントワネットは優しい。
戦闘は大したことはありません。
エリオットJr.・アルバート(18) アルビオン公爵の長男 ゲームでのキャラ設定は『ドS』
ビリー(21) エリオットJr.の部下 筋肉隆々の方
イスコ (19) エリオットJr.の部下 中衛タイプ
またサブタイトル詐欺
「はじめ!」
仕切る隊員の声で開始するや否や、開始戦15メートルの位置から一気に詰め、シューの1.5倍ありそうなビリーがシューに向かって練習用の木製の剣を振りかざした。
「させない!」
ビリーの剣はクリストファーが受け止める。そして、ビリーの後ろからイスコが剣を振りかざし、まっすぐシューの頭を捉えた。しかし、手に衝撃が伝わらない。
「…錯覚。」
「ライト・アロー。」
シューが光の屈折を生み出して、実際の位置からイスコの目にズレて映るようにしたのだ。シューはその瞬間を狙って狙ったが、
「ストームエリア。」
それは全てイスコを取り囲む風たちに全て打ち消された。
「光は全て焼き尽くす!」
シューが次の攻撃魔法を発動させる前に、イスコに距離を縮められる。シューは咄嗟に転移魔法てま斜め前に避けた。
「転移魔法…だと。」
「ああ、使っちゃった。」
カーティスとジルがユーリに報告していないなら、エリオットJr.にバラしたくなかった。
「シュー!」
クリストファーの声がし、横目で確認すると背後から竜の形をした水が迫っていた。幼い子供を狙ったことに少しだけ躊躇いがあったのかもしれない。その僅かな隙を見逃すはずもなく、いや、そんなものなくても当たらなかった。水の竜はシューの前で弾けて消えた。
「よそ見しないでね!」
魔法が消されたことに少なからず動揺していたビリーをクリストファーは見逃さない。
「…副隊長!」
ビリーの魔法を消したシューに続けてイスコが剣を振りかぶるが、すっと転移魔法で逃げる。しかし、転移魔法は一瞬であっても場から居なくるので、戦闘中目を離すことになるためあまり転移魔法を使いたくない。ただ騎士の動きから運動不足のシューが逃れる方法があまりにも限られている。
「ちょこまかと…。」
シューは転移魔法で場内ギリギリまで来た。このままではジリ貧なのはシューであることははっきり分かる。
「ビリー、本気だな。有難いけど。」
「勿論です。何事も手を抜かない。これがエリオット隊の掟です。」
生真面目な部下に喜びながらも、クリストファーも焦りがある。何のために2対2を申し出たのかという状況だ。彼らも全力で勝負しているから、シューの苦手な体術に持ち込んでいるのだ。なんとかしてシューの得意な状況にしなければ押し切られてしまう。クリストファーはシューによる回復魔法でいつもよりよく動けるし、よく見える。ビリーの剣を打ち払い、距離を開けるとクリストファーは魔法の呪を唱える。
「エコー、君の力を貸してね!繰り返す音の刃、ウィンド・ボイス!」
悲鳴をあげる女性のような轟音がビリーに襲いかかり、小さい裂傷がいくつも生まれる。
「…暫くエコーの嘆きに付き合ってね。」
「ライト・アロー!」
当たらなくてもいい。シューは彼と自分までの間に雨のように光の矢を放ち続ける。
「風よ、全てを打ち消せ!」
イスコはそれらを風の魔法で打ちはらいながらシューに接近する。しかし、シューも払われても払われても光の矢を放ち続ける。
「ヤケになったのか?」
完璧に全ての矢を払ったイスコはシューを捉える。そして、木製の剣がシューを襲った。
ヤケになんてこの男如きにするはずがない。
光の矢ではない。直径3センチメートルほどの光の棒が真っ直ぐ彼を貫いていた。
「な…!」
「大丈夫、死にかけても僕が蘇らせてあげるから。」
カランと剣が落ち乾いた音が鳴る。それからパタリと少年よりも大きな身体が倒れた。
「イスコ!」
「はーい!」
彼のコンビが動揺した時に、後ろからポコンと怪我がしないくらいの優しげに頭に剣が当たる。
「…あ。」
「実戦で死ぬぞ。」
優しい物言いではあったが、クリストファーの目はかなり本気で怒っていた。
「はぁ、勝負あり、か。」
エリオットJr.がため息をつき、レフェリー役が焦って勝敗を言い渡した。
「勝者副隊長と弟さん。」
それを告げたのに、周りは静かでボソボソと話していた。
「副隊長!あれは。」
ビリーが怒ってクリストファーに詰め寄る。
「ほらほら、よく見てよお。血なんて出てないでしょ。」
いくら棒が栓になるとは言っても全く血が出てないのはおかしいとクリストファーが指摘すると、ビリーも冷静になったようで、情けない声が出る。
「…2つ使って挟んだだけ、とは言っても夢の中で死を確信すると身体が間違って死んでしまう噂が本当なら危ない行為ですよね。」
シューは光の棒が刺さってないと証明するように、棒をイスコの体から浮かせて消した。
「起きてこないってことはまさか。」
焦るビリーにシューは冷たく返す。
「寝てるだけですよ。」
「ね、てる?」
「誰だって致命傷を食らったと思ったら動揺しますし、その隙に魔法で寝させただけです。」
誰にも闇魔法をつかったことはバレてないようで安心する。そしてすぐに光の睡眠状態回復をかけると、イスコはぱちっと目を覚ました。
「しょ、勝負は?!」
倒れていたイスコに手を伸ばした。
「僕たちの勝ちです。」
イスコは伸ばされた手を掴みながら、うなだれていた。
「やっぱり私は弱いな。」
イスコが立ち上がると、シューに軽く礼を言って離れようとした。
「それは僕に対する侮辱?」
「え?」
「卑屈は相手を馬鹿にしてる。」
シューはムスッとしながら、動揺するイスコの脇を通る。それから、クリストファーに話しかけて礼を言った。
「ありがとうございます、クリスさん。」
「俺も勉強になったよ。ありがとう。シューは光魔法の難しい方ばかり覚えてるんだなぁ。」
クリストファーはシューに基本ができていないと言っているわけではない。恐らくシューがみえをはっているのかとどうかしりたいのだ。
「光魔法の目眩し(フラッシュ)は事前に打ち合わせしていなかったので、クリスさんにも迷惑かけるかなぁと。あと、光の簡単な魔法は殆ど模擬戦闘では役に立ちません…。」
「あー、そうか。俺でも知ってる有名な光魔法ばっかりだと思ったけど、光魔法って基本的に回復とか状態異常を治す魔法だもんね。」
どうしてもシューは闇魔法が使えない場合、回復に徹するしかないようだ。そして、何よりの課題は一対一に弱いということ。ガイルと戦うと決めているのはシューだけで、誰かに助けてもらうという考えがない。元々バレたら処刑されるのだから、一人で戦うのは決定だ。
「範囲回復ができる時点で、対アンデッドはかなり楽になるし、ジョーンズ騎士団長もシューのことお気に入りみたいだから、そろそろ諦めたら、エル。」
「なんのことだ?」
エリオットJr.が肩を叩いてくるクリストファーのことを渋い顔で睨む。
「弟さんが可愛くて早々に諦めさせたかったんだろう!」
「クリスさん、兄様はそこまで人に愛着を持つ方ではありません。」
「お前も俺をなんだと思っているんだ。」
「そっかぁ、そうだったね。ごめんね、隊長。」
「やっぱり隊長の血が青いって噂は本当だったんですか?」
「お前たちの気持ちはよく分かった。まだ元気なようだし、外周30行くか。」
常に鉄仮面のエリオットJr.の『紳士な笑顔』を初めて見た。言っていることは、鬼畜教官のそれではあったが。ただここに来て初めてエリオットJr.が部下にも慕われる人ということを知って驚いている。部下たちが悲鳴をあげながら走り始める。
「お前は走るか、素振りか選ばせてやる。」
素振りというが、エリオットJr.がシューに差し出すのは真剣で、絶対にシューはそれを持ち上げられない。
「走ります。」
「お前は10だ。」
「それって俺も10でいいのかなぁ。」
「お前も普通に走ってこい。」
「ええ、だれが弟くん見てるの!外周なら攫われてもおかしくないよ。」
「俺が見る。」
その一言にクリストファーとシューは絶句した。
「頭打ちました?魔法かけてあげます。」
「ヴィクターにもっとしごくように頼むしかないな。」
再びエリオットJr.の笑顔を見る。ゲームでドSという設定だったが本当にそういう性癖だったのかもしれないと息を呑んだ。
「頑張りまーす。」
空元気に明るく返事する。
エリオットJr.の二人で並走する(エリオットJr.からすれば、その場で足を下ろしているレベルだったが)が、シューには必死なので何も言えなかった。
「…ここで話すのは変かもしれないが。」
シューは隣で話し始めるエリオットに目を向けた。
「お父様とお母様は周囲の大反対を押しのけて結婚した。」
あの父親が恋愛などするものかと目を丸くしたが、そうではないらしい。
「いくら政略結婚が普通とは言え『愛が無さすぎる結婚』に使用人たちが大反対したのだ。」
「…は?」
冷めた目でエリオットJr.を見るが、エリオットJr.もやはりそう思ったらしい。
「そもそもお母様の家、エンリケ侯爵家と縁を結ぶことになんのメリットもなかったのだ。元々民族も違うこともあって反発は領民からもあった。だが、二人は結婚した。不思議だろう。」
これはどうやらオズワルドが言っていた「ディアナ侯爵夫人は極度の面倒くさがり」という話に繋がってくるのだろう。
「二人とも煩わしいことが嫌いなのだ。お父様も『経済学のない女性とは結婚しない』と言っていたり、お母様も『女を女でしかみない男とは結婚しない』と言っていたらしく、お互いあまり色恋沙汰は嫌いなタイプだった。お父様が1番うまく行く結婚相手、正しくいうと共同経営者がお母様だと思い、アプローチをして、お母様も1番マシだと思ったのだろう、二人は結婚した。」
「…見事に…、愛の、ない。」
周囲から大反対された政略結婚、というより合理的な契約でしかない。よくその二人の間に二人も子供が生まれたと驚くくらいだ。
「俺が言いたいのは、それほどまでに情愛のないあの人が『娼婦』との間に子が生まれたのかという謎だ。」
「また、その、話。」
それを正直にその子供に言うエリオットJr.の人間性を疑う。しかも、まだ12歳の子供相手にだ。父親の夜の話なんて絶対に聞きたくない。美代子だって忌避する話だ。
「本当は『娼婦』なんかではないのではないか。」
辛いロードワークの最中になんていう爆弾を投下するのだ。シューは目を見開いた後に、エリオットJr.から視線を外して、真っ直ぐ走る道を見る。
「1番周囲から、詮索されないで簡単につける嘘だ。」
恋愛をしたくないと言っていた男が本当に恋した相手の子供なのかもしれない。男に1番良く似た、ディアナ侯爵夫人の1番上の息子はそう言った。
ディアナ公爵夫人はマリー=アントワネットとは正反対かもしれない、というだけのサブタイトルです。
マリー=アントワネットを調べてつけたタイトルではありません。




