闇の魔術師と光の魔導士
こんなに短いのに、前投稿したのが10日以上前…。すみません。
カーティス(14) シューの側仕え。生真面目な一般人。
エディ(18) アルバート家の研究所の研究員。きちっとしたいが、研究にのめり込んでしまう研究家
ルル(ティキ・シルヴィア) シューにつきまとう中級悪魔。とにかく楽しいことが好きな性格
フアナ 闇属性の精霊。自分の興味があることにはなんでもやる性格。
ガイル(未登場) 闇属性の魔族。テレパシー能力があるらしい。
「この家の書庫も偏りがどうしてもあるよね。」
例えば今シューの前にある光の魔道書はおよそ10冊。元々アルバート家の血族は土や火属性が多いのだ。だから、魔道書もその2つの属性が多くて、魔道書の蔵書も光の50倍はあるはずだ。
「まだ探したり無いのかもしれませんよ。」
「元々光の魔法が使える人間が少ないですから、研究も進んでませんので、魔道書も少ないのです。光はむしろ旧代の古い魔道書の方があるかもしれません。」
「旧代の魔道書とは?」
旧代の魔道書はほとんどが作り手不明の神代の魔道書を指すのだが、カーティスはどうしてもその手の話には疎いので、エディとシューの話に遅れてしまう。
「光と闇は昔の方が多いんだよね。昔のは研究が進んで無いから、魔力効率は悪いけど単純に強い魔法が多いっていうのが特徴だね。」
さらりと闇魔法の事を言ってしまって良くなかっただろうかと不安でいると、エディは眉を寄せて鋭い顔をする。
「闇はそもそも研究をすることすら許されてませんから、謎の多いところです。ただ俺としてはもっと闇魔法も研究するべきだと思います。」
「…昔、闇魔法の魔術師が蔓延させた死に至る疫病。多くの人を殺したけど、特に闇が弱点でもある光属性の人族が1番死んだっていう事件の所為でしょ?」
エディはううんと頷くのを渋った。
「歴史書はその闇の魔術師はマッドサイエンティストとされているのですが、俺が読んだことのある文献で『闇の魔術師のそれは人族を滅ぼす為ではなく、本当は魔族の殲滅に作った魔法だった』という説があって、たしかにその時期多くの魔族が討伐され、人族の支配地域が大きくなっているんだ。」
エディは待っててというと、書庫の奥から古い地図を出してきた。トコトコとまたいくつかの歴史書も持ってきた。
「ほら、その禁忌の事件の数年前からその疫病まで人族の支配地域が大きくなっているんです」
「このジョルジュ王のおかげでは?その後の疫病をキッカケで王家は変わったみたいだけど。」
疫病の後ポンメルシー王家が衰退していく様子が歴史書の簡単な記述でもわかる。
「勿論ジョルジュ王のおかげかもしれない。けど、俺の話も聞いてほしい。闇の魔術師は、恐らくこの王国の筆頭魔導士フスという人物なんです。優秀な方だとされながらこのあとの歴史から消えております。」
エディは擦れて消えかけている文字を追う。確かにその疫病の前に散見するフスという人物の名前は疫病の流行った後突然消える。
「それより100年空いた、ジョルジュ王の子孫のポンメルシー家が書いた本ではフスは光の魔導士で、疫病で死んだことになってます。」
エディは違う本を取り出して、フスの名前のところを指差す。そこの記述は確かに光の魔導士と書かれていた。
「けど、フスの功績が明らかに光の魔導士じゃないね。」
フスがしたという功績は、ほとんど魔物の討伐だったり、隣国との戦役での武勲だった。当時、光の魔導士が沢山いて、光の魔導士も攻撃魔法を使えていた、というのなら別だが、光の魔導士は回復、治癒が得意なのだからもっとそういった功績があってもいいのだ。
「闇魔法でもここまで攻撃出来ればすごいけど。」
ボソリと呟いたシューの発言は誰にも気に止められなかった。
「でも、目的が違えど、闇の魔法が人族を滅ぼしかけたのは事実で、それがポンメルシー家は王から遠退いたのですから、人族が闇魔法を恐れるのは当然なのでしょう。」
「恐れるのは当然だと思います。でも、だからこそ研究すべきなんですよ。戦争でも戦う相手を研究するじゃないですか。」
通常人の感想がカーティスで、エディは研究員としての発言だなと感じる。
「だからって、闇属性の人族を差別するのはどうかなぁ。」
カーティスはシューの発言を聞いてはっとなった。元々シューは闇属性とされて、それを知っている使用人達から迫害を受けていた。
「僕はエディの発言に賛成だよ。知らないものは怖いんだ。」
シューは実際には闇属性ではないのだが、光属性よりも思い入れはある。カーティスはバツの悪そうに目を逸らした。
「闇属性の人族は病気耐性に優れると聞いておりますから、光属性の人族と相性がいいんですよね。光属性と光属性の間には子供は生まれづらく、乳飲み子の時は闇と戦う力を持たないので病気にかかやりやすくて死にやすいんです。」
「そんなことまで研究したの。」
恐らく偏見がないというよりはエディはどこまでいっても研究員なのだ。不気味だ、怖いなんていう迷信よりも知らないから知りたいという思いの方が強いのだろう。
そこまで話して、エディはついつい口を滑らせたと焦って口を抑える。
「これは口外して欲しくないですが、アルバートの研究所は闇属性の研究員を多く所属しておりまして…。これは公の場では属性は隠しているので、アルバートの高貴な方以外教えてはいけないと言われてます。」
シューがこの家の三男だからとエディは教えてくれた。アルビオンの研究所には多くの闇属性の人族が保護されているらしい。
「ふーん、ちなみに僕は闇属性って言われて育った光属性なんだけど、そう聞いて何か理由思いついたりしない?」
カーティスがぎょっとしたけれど、シューとしてはエディも秘密を話してしまったから、シューの秘密を話しても良いかと思った。
「へ、光属性、め、珍しいですね。」
エディの驚きは純粋な研究心でしかなかく、シューにはそれが有難かった。同情や差別の感情はほとんどないようでエディは少し黙って考えた後、顔を上げた。
「これはあくまで俺の私見ですし、なんの記録も見たわけではありません。間違っている可能性が高いですが、いいですか?」
「いいよ、聞きたい。」
「先程言ったように光属性の乳飲み子は病気にかかりやすいんです。そして死に至ることも多いです。それを防ぐために、闇属性の研究員が密かに遣わされて病気耐性を付与し続けた。ですが、それは闇魔法、禁忌の魔法です。」
闇の魔法を使う魔術師のことがバレれば、王国の法律によりアルバート家は裁かれる。それでも、光属性の赤子を生き長らえさせるにはそれが確実だった。表立っては病弱、使用人達には闇属性だから属性の力を封印する魔法をかけるため、といえばその罪がバレることはない。
エディはそう話した。
「あくまで本当に俺の憶測でしかありませんが。」
そうあくまでエディの憶測なのだ。でも、シューにはそれが恐ろしい事実のように聞こえた。唯一確定しているのは、生存率が高くない光の赤子が今元気に生きているということだけだ。貴族よりも悪環境にいる平民のヒロインだって生まれ光属性で元気に生きていたのだから、シューが闇の魔術師に力を借りなくても自力で生き抜いた可能性だってあるのにも関わらずだ。
「ユーリ様曰く旦那様のお考えはエリオットJr.様もご理解されてないらしいです。なので、シューが分からなくても不思議ではありません。」
エディが考えつくことは、きっとエリオットJr.も考えつくことだ。 でも、エリオットJr.がシューに対して期待していないのなら、それで終わりだ。
シューはため息をつく。気にしていないつもり、もう気にしないつもりだったのに結局実家に帰ると考えてしまうのだ。シューは自身の頬をつねった。
「僕がお父様の為に何か頭を使うのも勿体ないね。エディ、光の強い攻撃魔法とか知らないかなぁ。」
「俺は土(属性)で、自分で使えないし、研究も進んでないというか、畑違いなんです。今も精霊魔法をもう一回やり直そうと思うくらいの力量です。」
「自分で探すつもりで光の魔道書探してたんだけどね。」
積み上がった10冊の魔道書を手にするが、いくつかは既に読んだことのある本だ。残念ながら、ゲームで装備して能力強化するような精霊の加護は付いていない。
「光魔法で攻撃する、というのはまた珍しいですよね。他の属性に攻撃魔法が多いので、光で戦う必要が低いというか。治癒魔法に専念する場合が多いですから。」
「えー、回復専任なんてやだ。」
「ぼっちゃまも男の子ですねぇ。」
エディもパラパラと光の魔道書を見てくれるが、補助的な魔法が多いようで、シューが求めるようなものはない。
「転移魔法は役に立ちそうですね。土魔法にも欲しいです。」
エディは光の魔道書の転移魔法の項目で目を止めると、目を輝かせた。
「転移魔法なら使えるよ。簡単なやつだけだけど。自分だけか、物を移動させる奴。」
「あとは大規模転移ができればいいんですね。生物を移転させる魔法と無生物を移転させる魔法で随分構成が違いますね。括りは同じでも全く違う。」
「エディ、興味があることにすぐ意識が持ってかれるんだね。」
「あ、俺の悪い癖です。すみません。」
「僕も同じタイプだから責めづらいけど。話を戻すんだけど、魔族に闇属性が多いんだから光で攻撃したら効率良さそうじゃないかなぁ。だから、あったらいいなぁって。」
ヒロインは光の攻撃魔法を使っていたが、ゲームではプレイヤーは現代日本人だから、魔法の構造なんて知るはずもなく、技名を叫ぶ程度で呪文すらも分からない。あとはゲームのシューもDL版では使えていたが、本編シナリオでは光属性のヒロインが敵だから殆ど闇魔法ばかりだった。
ただ今シューは判然としない未来の敵ではなく、ガイルという明確な敵が存在するから、すぐにでも魔法を闇属性の彼に光魔法で攻撃するのが1番いいのだ。
「シューが作るのはどうなんです?」
「魔法を?」
前にレントゲンの魔法を3日で作ったが、それは元となる光線を作る魔法、美代子のX線の知識、そして、異形化する魔法の3つを全て知っていたからできた芸当であり、全くベースがない状況ではない。そのレントゲンの魔法の話をカーティスがエディにも話す。
「ベースがあればいいって言ってましたね…。」
「ベースがあっても普通、調整にはもっとかかるものですので、十分早いですけどね。でも、簡単な攻撃魔法は光でもありましたよね?」
「あるし、使えるけど超弱い。威力がないよ。」
シューも覚えているその簡単な光魔法を使ったのは、アンゲルフレダーマウスを仕留める時にしか使ったことはない。
「それを改造してみればどうですか?」
「そういう知識がない。」
火薬の量で爆弾の威力が変わるように、魔力を費やせば威力があがるという単純なものではない(少しは増すとは思うが)。何か役に立つ知識があったとしても組み合わせるアイデアも浮かばない。
「また話は戻りますが、今ほど回復、攻撃などの役割分担も無かった旧代の魔道書ならばそういったおぼっちゃまのご意向に添えるものがあると思いますよ。」
「旧代の魔道書がどこにあるのか分からないけど。」
エディも光の旧代の魔道書の所在に心当たりはないらしい。アルバートの家に土と火の旧代の魔道書がいくつかある方が異常だ。
「光なら貴重ですから王家が持っているのか、それとも光の精霊が持っているか。あとはポンメルシー元王家他の貴族の家が所有している可能性もなきにしもあらずですね。」
光の旧代の魔道書は手に入るのが難しい。真っ当に育たなかったシューは窃取を思いつき、ただ所持しているのがはっきりしていないのに盗みに入るのは早計だなんて考えていると、カーティスが口を開いた。
「王家ですか。王女殿下に相談なさってはいかがでしょう。」
シューとマリアンヌが未来の知識の共通項で気の置けない仲であることを知っているカーティスは提案したのだが、シューはまたやってしまったと思い、顔をしかめる。
「シュー?」
「ああ、うん。そうだね。ちょうどアンヌに会う予定もあることだし、気の向かないお茶会がたのしみに変わるからそうするよ。」
シューがかつて盗みを働いた禁書、闇の魔道書は、王宮の地下書庫だったり、研究所や博物館の書庫だったり、はたまた闇の精霊遺跡(かつての神殿)にあった。光の魔道書だって大差ない場所にあるはずだ。しかし、悪さをするつもりだったシューが盗みを働くのは仕方ないことだとしても、今のシューはそれをしてはいけないと、美代子がシューを諌める。
「光の攻撃魔法、できたら俺にも教えてほしいです。」
「エディの実験に役に立つなら喜んで。」
「俺も頑張りますねーっとああ、司書さんに怒られるからそろそろ行きますね。」
エディは自分が使っていた本を大きな音を立ててかたし、自分のノートやら本やらを引っ掴むと頭を下げて出て行った。
「…この光の魔道書持ってこう。」
「持ち出し記録書いておきますね。」
「そんなの必要なの。」
「シューは使用人泣かせです。勝手に持ち出されて本を探している司書を見たことがあります。」
「反省する。」
「というか、使用人を頼ってください。そういう家の慣例は使用人の方がよく知っておりますから。特に母屋にいるような使用人は。」
「ウィ(oui)、ちゃんとカートに頼む。」
「ええ、いくらでも。」
ここに来て何度カーティスに頼むと言ったことだろう。神殿にいる間は修行の場でもあるから、シューが自分でやっても小言を言う程度だけれど、ここは公爵家だから、貴族らしくないことは強く指摘される。
カーティスがシューの借りた全ての魔道書を手に持ったところで、当番の司書がやってきたので、エディから預かったマスターキーを手渡した。
「またきてくださいね。」
「ありがとう、ちゃんと返しにくるよ。カートが。」
色々本を書庫から抜き取っていたから、司書に文句の1つでも言われてもおかしくないと思っていたが、司書はニコニコと微笑んでいた。公爵の息子だから、強く言えないだけかもしれないので罪悪感は付いてくる。
シューの寝室にもどり隣接する書斎に入ると、カーティスは魔道書を机の上に置く。
「結構ゆっくり本を探してましたね。朝食まであと1時間程度でしょう。お飲み物お持ちします。」
「ハーブティ?」
「ええ、いい香りがするものを。」
カーティスがそう言って部屋を出て行く時、開いた扉からルルとフアナが滑り込んできた。
「てめぇら、早くねえ?」
ルルがジャンプして座るシューの膝に乗る。フアナは机の魔道書の束の上で羽を休めた。
【どこに行ってたの、私たち暇だったわ。】
「くそ面白えことあったか。」
「魔道書を取りに行ってただけだよ。」
別に飼っているわけでもない猫と鳥から不満の声が上がる。
「光の魔法ー?急に調べ始めたわけだなぁ。」
「病気や怪我を回復する魔法をもっと調べてもいいでしょ?」
「この闇の精霊から病原を教わっててめえが作った、治癒魔法より素晴らしいのがあったかよ?」
「対症療法じゃないと意味ない場合もある。」
フアナは教えていないはずだが、この悪魔もなんとなくシューが何を調べようとしているのか推測が出来ているらしい。見透かされた気がして腹立たしい。
「光の精霊は攻撃魔法は詳しくねえと思うぜ。」
「狩猟の光の精霊もいるんだけど?」
「ふーん。俺様使ってるところ見たことねえけどな。まあ、リーダー格の精霊が戦いに参加しないってのはよくある話だからなぁ。ただ絶対確実に言えるのは光の神、スピリットの方が詳しい。」
「どうして?」
「スピリットは負けた陣営だからな。普通に考えて、負けかけてる奴が一矢報いようとするのは当然だろ。全員で攻撃側に回ってても何も不思議じゃねえ。」
光の魔道書に光の攻撃魔法が少ないのは、『役割分担』だからという話があった。負けかけてて人数が少ない側なら、全員で攻撃を仕掛けようとするのは悪魔の言う通りおかしな話ではない。
「あと俺様が知る光の神は、超攻撃的だったしな!」
「…ふーん、で?スピリットが書いたとされる魔道書でもあるわけ?」
「人族や精霊が書いてて、スピリットが書いてねえってこともないと思うが、焚書で燃やされた可能性は高いし、あっても土の下とかで保存状態は最悪だろうがな。」
「最悪じゃん。」
「そもそもスピリットの言語は人族にはわかり得ねえし、意味無い話か。」
「ぬか喜びさせないでよ。」
「俺様知ってるけどな!」
シューが睨み付けるとルルは嬉しそうに笑った。彼が話したのはシューに悔しがらせたかっただけなのだ。
「まあ、お前が考えればいい話さ。シュー。」
「全く思いつかないから、魔道書に頼ってるんだけどね。」
「へぇ、そんな緊迫している話なのか?」
ルルがニヤリと笑うので椅子から落とすと、彼はその容貌と同じように醜い声で悲鳴をあげた。
キャラクターのイメソンを考えて聞いていたら書いた気でいました。
全然書いてなかった!
すみませんでした。