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これがゲームの世界ですか?  作者: 詩穂
アルバート家とアンデッド退治
17/114

寝起きにホットチョコレートを下さい。

ルル(黒猫) 中級悪魔のお気楽悪戯王、ティキ・シルヴィアの仮の姿


フアナ(黒い小鳥) 闇の精霊 心を覗くことができる。




シューは、未来ゲームの知識を得て客観的になり、世界がつまらなくなった。だが、どうだろう。いざ未来げんさくの筋書きをかき消して、違うものが生まれてきたら今度は怖いと恐れた。

【まあ、頑張ったところでシューはまだ子供よね。】

【お前の大好物だったな。張り付いて見てて大正解ってヤツ?】

【そうね、私人を見る目があるわ。】

シューと護衛のカーティスが眠りについたところでフアナとティキはシューの枕元で話し始めた。

【いやぁ、俺様も大概性格悪いって自覚しているがお前ほどじゃねえって分かってなんだか安心するわ。】

【ふふ、ごめんなさいね。闇の精霊は皆性格が悪いのよ。】

【まだオシリスの方が可愛いな。】

【だあれ?貴方の好きな人かしら。】

【な訳ねえだろ。男だ。】

【精霊に性別なんて関係ないわよ。】

【俺様は気にするわ。】

【でも、それって闇の精霊の子でしょ?】

【…闇のスピリットだ。つーか、俺様の心を覗けんだろ?】

【だぁから、記憶は読めないって言ったでしょ。あくまで感情しか私は分からないもの。全く誤解が多いわ。しかも表層心理だけね。シューくらい感情がふらふらしていたらかなり読めるのだけれど、貴方は分からないわ。ガード固過ぎじゃない?】

【そりゃあよかった。】

フアナはもっとティキの感情を探っていきたいのだが、フアナにしても彼は読みづらい。感情を素直に表に出してはいるものの、それ以外全く分からなかった。

【もっと心を動かさないと、長い生楽しくないでしょ?】

【俺様は今凄え楽しいんですぅ。】

フアナはこの中級悪魔の事があまり好きではないが、ティキが悪戯を仕掛ける相手のことは大抵好きになる。だから、ティキとはそれなりの付き合いになるのだが、いつもこの悪魔はこの調子だ。

【不細工猫。】

「頭に直接悪口言うんじゃねえ!」

シューがティキのことを気に入っているのはこういうところだとフアナは思う。シューの周りにシューに対して軽口叩くのはこの猫だけだ。

「なんだよ。」

「オズワルドの前で貴方は話さなかったけど、どうして?」

フアナは久しぶりに口に出して話をする。

「口を挟む要素あったか?俺様も空気は読めるぞ。」

「空気を読めても読まないのがティキ・シルヴィアだと思ってたから。それとも、ティキにとってシューは遊び道具ではないってことかしら?」

フアナがいつもティキがするような下品な笑い方でティキに笑うが、ティキはつーんと無視をする。

2人が声に出して話していると、シューが目をこすりながら起きた。

「うぉ、まだ夜だぞ。」

「うん、行かないと…。」

「は?」

シューの部屋の隅のベッドでカーティスは寝ているが起きる気配はない。シューはベッドから降りて窓のカーテンを開けて外を確認する。

「なにしてんだ?」

「ちょっと行ってくる。」

フアナとルルの制止も聞かないで、シューは光となって消えた。

「うぇー、置いてかれたぜ。面白えことがあったら泣くぜ。」


オルレアンの王都の周囲には森があって、街道以外には魔族や猛獣が住み着いていて、深夜に森へ行く人間などいない。

草木も寝静まった頃に、シューは光の転移魔法で移動した。

「せっかく人が気持ちよく寝ているところに呼んできて歓迎もなし?これだから魔族は。」

シューがありえないと文句を言うと、ざわざわと木々が揺れた。現れたのは古びた鞄のレザーのような皮膚とひしゃげた大きな鼻を持った魔族のゴブリンだ。背丈はオルレアンの12歳の中でも小さいシューの135センチよりも小さい。

「久しぶりだなぁ、シュー?」

全くもって教養の感じられない下卑な話し口調にシューは眉をしかめる。何度かあったこともあるけれど、好きにはなれない。

「今日も相変わらずブスだなぁ。」

「随分なご挨拶だね。そういう世間話はどうでもいいから、要件だけ話してよ。」

全く上から下まで見る姿にセクハラだと訴えたいくらいだ。ゴブリンにセクハラという単語を理解できる知性なんて持ち合わせていないだろうから意味はないとは思っても。

「魔王様が人族領に攻め入る計画を持っているらしい。」

「…それで?」

恐らくゲームのシナリオが始まるのだろうと身構える。まだシューは魔族との繋がりは薄いけれど、これから強くなるはずだ。

「シューには人族の結界を壊してほしいってガイル様が言ってた。」

ガイルとは王都近くにいる魔族たちを束ねる魔族の1人で、いわば魔族の地方官と言ったところか。

「冗談。あんな複数人で複雑にした結界魔法、僕に解けるはずないでしょ?」

その矮小な頭には魔法の高度性なんて分かるわけないと馬鹿にすると、そのゴブリンは静かに言った。

「何言ってんだ、魔法は殺せば解ける。そうだろ。」

風が木々を揺らす音が嫌に耳についた。ゲームのシューだったらすぐそれを思いついた筈だ。でも、今のシューには思いつかなかった。思いつかなかったし、それはとても衝撃的な発想だった。

「…王都の魔導士の何人分の魔法だと思っているわけ?しかも、あれは交代でやってて。」

「そこまで調べてるってことは大体の魔法はよく分かってんだろ。1人ずつ殺せばいい。魔王様もそんなに急いでない。」

痛いところをつかれた。王都が機密文書にしている闇の魔道書を手に入れるときにかなり王都の警備システムを調べたのだ。

「そんな歴戦の魔導士を相手に一人で戦えっていう?」

「真正面からじゃねえ、暗殺だろ?シューの魔法から行けば得意な筈だってガイル様が言ってた。」

このゴブリンではなく、ガイルは嫌に頭が働く。暗殺が得意とはシューは言えない。やったことがないからだ。しかし、転移魔法を使って忍び込み、闇魔法の相手を病気にする魔法があれば、完全犯罪くらいできそうだと自分の覚えている魔法を冷静に分析する。

「はぁぁ、期待されてて有難いんだけどさぁ、あんまり期待しないでよね。こう見えて小心者の引きこもりだから、歴戦の魔導士に尻込みするかも。成功率は微妙って思ってよね。」

「小心者が魔族にあったりするかよ。」

「こう見えてもって言ってるでしょ?色々やってきたけど本物の戦いはやったことない。」

シューは猫の首を切り落としたり猟奇的なことはしてきたが、まだ人は殺したことがない。猫だって首は切り落としたが、殺してはいない。あれは野犬が猫を殺したのを利用しただけだ。禁書を盗んで、人に追いかけられても逃亡を優先して、気絶させたり眠らせたりすることばかりしていた。つまりは、大悪党なんかではなくて、チンピラのような小悪党だ。

「大丈夫だ。あと正式な計画まで2年あるからな。準備期間も必要だろうと言っていた。」

「…今から結界魔導士を殺す必要はないってことだね?」

「そうだろうな。」

あくまで魔族の中でも体が小さく弱いゴブリンは大した使者ではない。決定権もなければ、指揮権もない。彼らが百体で束になっても勝てる気すらするので気が抜ける。ゲームでも序盤のレベル上げくらいの相手だ。

「曖昧。で、これで今日の話は終わり?」

「半月後、またここで。」

「僕の予定はまるで無視だね?」

「…ガイル様がまた追って連絡するだろう。俺にゃわからねえ事だ。」

シューがティキを召喚する契約をしたように、ガイルとは連絡をしてもよいという魔法の契約をしている。テレパシーというガイルの特殊能力がなければ成立し得ない契約ではあり、先程ここに呼んだのも勿論このか弱いゴブリンではなくてガイルだ。

「眠いから僕帰るよ。」

「酒でも飲んでけよ。」

きっと彼より背の高いシューを大人だと勘違いしているのだ。はぁと嫌そうにため息をこぼす。

「あんな臭い飲み物嫌い。フレッシュジュースのみ受け付けます。」

「なんだ、ふれっしゅジュースって。」

「君みたいな可愛そうな子には手の届かない代物さ。じゃあね。」

保存技術のレベルが低いこの世界ではフレッシュジュースなんてワインよりもうんとする高級品だ。

魔族の中でも地位の低いゴブリンには夢のまた夢だ。 誤解しないで欲しいのは、シューは決して貧乏人が嫌いなのではない。嫌いなのはあくまでこの下卑なゴブリンである。貧乏人が嫌いではなくても、平民の家庭にホットチョコレートがないことを知っているので、あまり積極的に平民になりたいとは思わないけれど。

シューはありったけの嫌味を込めたあと、すぐに帰った。


すぐに帰ってきて仕舞えば、いつも時間に正確な従者は寝ているので問題はない。

「はええ、帰りだな。」

「起きてたの?」

天蓋付きのベッドの真ん中でルルは不服そうな顔をしていた。

「面白い話だったか?」

「君のいう面白いって何。僕の失敗談くらいでしょ。」

「んにゃ、お前が困るような話も大好きだ。」

「僕が困るって?」

ガイルのいう「結界魔導士暗殺」はたしかに困った話ではあるが、ルルに話すような話ではなかった。言ったところで、手伝うだのやめろだの、はたまたアドバイスを言う彼ではない。フアナには気づかれているようだが、彼女も一切口にしない。

シューは適当にあしらって、ベッドに入る。中央でいばりくさる猫は蹴飛ばして追い出す。

でも、すぐには眠れなかった。結界魔導士を殺すのはダメだ。それこそバッドエンディングへの近道になる。

ゲームのシューはどうだったか分からない。1人くらいは殺したのかもしれないし、殺せなかったかもしれない。ただ一つ言えるのはゲーム内の王都に魔族は攻め込んでいなかった。結界は壊せなかったということだ。

だが、ゲームのシューはそれ以上に武勲をあげているし、人族の邪魔もたくさんした。だから、魔族側からは一定の信頼を得ていたが、今のシューは人を殺す予定もなければ、人族の邪魔もする気は無い。シューの裏切りが知られれば、シューは悪魔の餌にでもされるかもしれない。

シューが死にかけながらも死なないような新たなウイルスの闇魔法で作るという手はいかがかとは思ったが、そのウイルスを作るための実験ができない。できたてして、実験台になったものは何人か死ぬだろう。既存の疫病を流行らせたあと、シューが死ぬ気で治癒魔法をかけるのも、シューの魔法が届くまでに死者がでかねない。

どうやったってシューが人を殺すしか無いのかと思っていた。しかし、「殺す」という恐ろしい言葉ばかり考えていたせいだろう。

「ガイルを殺すのが1番早い。」

最早生を奪う、という思考に絡まってしまったらしい。思いついて仕舞えば、それが妙案に思えてくる。どうせ人を殺すことになってしまうのなら、魔族のガイルの方が幾分罪悪感は薄い。オルレアンの法律でも魔族を殺すことは罪では無い。シューが懇意にしている魔族はガイルの息がかかったものばかり、彼さえ消えてしまえば魔族との繋がりは断ち切れる。しかも、四元素の属性だろう王都の魔導士より闇属性のガイルの方が対峙して戦いやすい。

問題は残っているのだが、その結論が出たことで安心してシューは眠った。


神殿での習慣に慣れていたせいで、随分早い時間にシューは目が覚める。神殿では無いのだからまだ眠っていられるのに、なんだか勿体ない気分だ。

「あら、シュー。起こしてしまいましたか?」

「…あれ、カートも起きていたの?」

「ええ、神殿の時間に慣れてしまいますとね。ちなみに、まだメイドがパンを焼く前ですよ。」

この家のキッチンは地下にあるが、パンを焼く竃は外にある。シューの部屋から見える位置には無いが、煙が上がっていないということはそういうことだ。

「街のパン屋もまだ仕込み中ですね。そろそろ焼く時間だとは思いますが。」

神殿の起きる時間は早いが、祈りの時間やら掃除の時間やらでご飯を食べる時間は貴族と変わりはない。よってパンを焼く時間も変わらない。

「寝ますか?」

「いい、書庫に言って魔道書でも取ってくる。」

「お伴しますよ。」

そういえばカーティスは何をするにも付いてくる。それは護衛だからだと思っていたが、元々彼は側仕えだった。昔は側仕えも鬱陶しくて遠くにやったものだが最近は慣れてきた。カーティスはシューの服を持ってくると着替えさせる。

「今日はご自分で起きられましたね。」

「久しぶりの実家だったから気を遣ってたのかも。」

いつもカーティスが無理やり起こさない限りシューが起きなくて、寝ぼけながら着替えさせるのはかなり重労働だろう。少し申し訳なくなって、大人しく着替えさせてもらう。それから、カーティスは丁寧に髪を梳く。雑な美代子よりよっぽど上手だ。

「はい、今日も美しくなりましたよ。」

カーティスたちがいなければ、きっとシューは美少年では無かっただろうなと思う。美しさも努力がなければ維持はできないのは美代子もよくわかる。天然美人は10代までだ。そう思ってシューは頰を触る。

「肌感最高。」

「湖面に映った自分に惚れないでくださいね。」

「自分に惚れて死ぬなんて最高に幸せな死に方じゃない?」

「とても哀れに思います。」

2人のふざけた会話はさておき、シューは早速書庫へ向かう。魔導士のミカから言うと、アルバートのマナーハウスの書庫の蔵書量と比べれば、大分少ないらしいが、タウンハウスの書庫だってバカにはできない。現代日本の地方の市民図書館くらいの蔵書量はある。だから、この書庫を管理する司書を何人かこの家は雇っている。だが、まだ司書も寝ているところだろうと、シューに書庫の鍵を取りに行ってもらったが、マスターキーは無かったらしく手ぶらで戻ってきた。

「いらっしゃい。こんな早くにお勉強ですか?」

怪しみながら書庫の扉を開けると若い男が机から離れてシューに話しかけてきた。

「…こんな朝早くからお仕事ですか?」

まだ使用人だって半分は寝ているはずだ。まさか司書がいるとは思っていなかった。

「私ですか?私は司書ではなくて研究に来ていた者です。そろそろ鍵を返そうと思っていたのですが。」

髪が日焼けしないように書庫には窓らしい窓はなく、ランプの弱い光が3人を照らす。

「ちょっと早いですが、もう朝ですよ。そろそろパンを焼く時間です。」

「パンを焼く時間とは…、ランプの油を無駄に使ってしまいました。申し訳ないです。貴方は司書のお弟子さんか何かでしょうか?」

研究と言っていたが、恐らくエリオットJr.と仲の良い、マナーハウスの方の研究員なのだろう。それだったらシューのことを知らなくてもおかしくはない。

「こちらはアルバート家の3番目のご子息ですよ。」

カーティスがシューの代わりに紹介すると、彼は後ろに飛び退いた。

「ええええ、三男様ぁ!気安くてすみませぇん。」

「そんなことより、貴方は何の研究しているの?」

「え、俺ですか?」

「ここを使うのを許されたってことは、面白い研究してるんでしょ。」

司書でないのならエリオットJr.にも認められて王都まで来て勉強しているのだろう。

「俺は、いえ、私は精霊魔法と通常魔法の消費魔力量と効果量の差異、より効率的な魔法の使い方の研究を。」

「なるほど、どう結果は?まだ、出てない?」

「主だった実験などはアルビオン(アルバート家領)でやらせていただいていて、そういった細かい資料は今はなくって。ただ結論が出るほどの実験はできてないんです。」

「今何を調べているの?」

「精霊魔法の使い方と呪文を調べておりました。精霊魔法を使える方が少ないので。」

「ああ、なんちゃって精霊魔法とかあるもんね。」

精霊魔法とは文字通り精霊の力を借りる魔法で、単純な感覚で言うならば普通の魔法よりも威力はあるように思う。シューが言うなんちゃって魔法は呪文は精霊の名を名乗っているが、実のところ精霊の力を借りられていない魔法のことだ。シューの光魔法がほぼほぼなんちゃって精霊魔法だ。闇魔法ならちゃんと精霊魔法を使えるのだが。

「そうなんです。言うだけならタダですから…。でも、安易に精霊魔法の呪文は使わない方が良いんです。」

「え、やっぱり?」

「何か分かることでも?」

「通常の魔法の呪文を唱えるより、精霊魔法の呪文の方が魔力を持っていかれる気はしているんだよね。数値化はしてないからわからなくて、感覚の問題だね。でも、精霊魔法ではなくても通常魔法よりなんちゃって精霊魔法の方が成功率が高い気がするから、精霊魔法の呪文使っちゃう。」

「おお、なるほどなるほど。やっぱりそうなんですね。貴重な話です。」

最初こそこの大貴族の息子に畏怖したようだが、シューが魔法の話をしだすと、その感情はどこかへ行ってしまったように話し出す。

「ただ思い込みかもしれない。この方がうまく行くからって思っちゃってて。」

「メンタル面ですか。たしかに心はパフォーマンスに影響を致しますからね。人の心理状態までは実験には入ってないので、やはりあの実験は不十分だと言えますね。次の研究発表会にまで迷います。」

「その研究凄く興味があるなぁ。でも、魔力の数値がもっとはっきりした計測器がないと進まないだろうね。」

「そちらには別の方が研究しておりますが、難航してます。」

「やっぱり難しいんだ。そういう方がちゃんと出来てこないと研究の方も難しいよね。」

2人が楽しそうに話しているのを傍から眺めていたカーティスは、感慨深く考えていた。シューは極度に人と話すのが苦手というわけではないが、人と話していても楽しそうではなかったので、楽しそうに話しているのがとても嬉しく感じていた。

「ねえ、名前なんて言うの?」

「俺ですか?あ、違う。私。」

「普通に話してくれていいよ。その方が僕も気を使わなくていいし。」

「す、すみません。俺はエディといいます。」

「よろしく、エディ。僕はシューだよ。気軽に呼んで欲しいけど、好きに呼んで。」

アルバート家の研究員エディは戸惑いながらも笑顔で答えた。

「僕お金なんてないから、金銭的な援助はできないけど頑張ってね。」

貴族なのだけれど、シューには自由にして良いとされるお金はもたされていないし、家族から支給される衣服などの金勘定もしていない。そう言う意味でお金はないと言ったのだが、エディは笑った。

「アルバート家のご子息がお金ない、とは。」

「勿論お金に苦労なんてしてないよ。必要なものは全て買ってもらってるから。」

と、その話題になった時、カーティスは困ったように眉を下げる。

「おぼっちゃまの場合は、必要なものもこちらが用意しないと延々と古いものを使い続けますからね。」

「えー、そうだっけ?」

「シューが私に何か欲しいって言いましたか?」

カーティスに言われて頭を捻る。例えばシューが好きな魔法の勉強に使うノートもシューは自分から頼んだことはない。カーティスが何も言わないと、表紙裏や裏表紙にも書きはじめるくらいだ。あとは食欲もあまりないからお菓子が欲しいなどもなかったし、水も欲しいとは言わないからカーティスは神経をすり減らす。

「うーん、頼んだ記憶…、頼んだ記憶。」

「たかだか数ヶ月でも出てこないのですから、何も頼んでいないのです。」

「あはは、おぼっちゃまは世話焼かせですね。」

何も頼まないからこそ、シューの欲しいものに常に気を配らないといけないカーティスが可哀想だ。

「もうちょっと気をつける。」

あれ欲しい、これ欲しいという我儘な子供も大変だけど、それ以上にシューのように何も言わない子供の方が管理する上で大変だろうなと美代子は思う。

「じゃあ、ホットチョコレートが飲みたいなぁ。」

「なんですか、それ。」

まだこの国にはカカオがないから、ホットチョコレートなんてものは無いので前世ジョークだ。誰にも伝わらないけれど。

「嘘。欲しいものは光の魔道書です。」

「やっぱりそうなるんですね。」

カーティスが書庫の中を探しにいこうとするのを、エディも手伝うと追いかけた。

シューはシューのために魔道書を探す二人を見て不思議な気持ちになりながら、シューも二人とは違う方向に探しに行く。







ホットチョコレートの元ネタは分からないかもしれませんが、解説も恥ずかしいのでやめておきます。


元々は「ホットチョコレートが庶民の家に出てこないことを知らない優しい貴族よりマシでしょ?」って言わせたかったのですが…。言いたいことはシューは庶民の暮らしをよく知ってますっていうだけなんです。


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