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これがゲームの世界ですか?  作者: 詩穂
アルバート家とアンデッド退治
15/114

猫と悪魔とソーセージ

…説明回なので面白みはないです。

説明回って説明するだけなので、早く書けますね…。


ジャスミン(19) カーティスの前のシューの側仕え。そそっかしいらしい。


オズワルド(16) シューのお兄ちゃん メンタル弱い方


エリオットJr.(18) シューのお兄さん メンタルが強い方


ユーリ(19) アルバート家執事見習い 1番シューのお兄さんっぽいことをしてくれるが、ただの使用人

20人の治療で疲れていたのだろう。ユーリの横で馬車に揺られている間にシューは寝てしまった。一応石畳ではあるが、ほとんど舗装されていない道路で凄く馬車は揺れていたので、カーティスは酔いそうなくらいだった。

「シュー様は寝てしまいましたね。」

「どうかしましたか?」

「少し前だったら、多分彼は眠らなかったと思います。」

カーティスは眠るシューを見てどこか安堵していた。神殿ではよく寝ている印象を受けるのだが、神殿に行く前にカーティスはジャスミンからシューの眠りが浅く、寝付けていないと言われていたから実は気を配っていた。ジャスミンが無理やり水差しを持たせたのも、寝付けない彼への配慮だったのだが、彼は不要だと怒った。

「カーティスはシューおぼっちゃまに信用された、ということでしょうね。」

カーティスはシューから言われた言葉が反芻する。

「そして、アルバートの家に彼を害する使用人が居たのも原因です。」

「…害する。」

「おぼっちゃまが闇属性だと知った使用人たちは、恐れから、そして、罪を被ってもこの家から災いを遠ざけたい、とね。…ただ実際には光属性だったのですから、もうそんなことは起こり得ません。」

「皆に知れ渡ったのですか?!」

「…エリオットJr.様はシューおぼっちゃまの活躍を聞いて調べたようですね。どんなに頑張ったとしても闇属性の人間にあそこまで人を癒す力はありません。」

普通に考えたら、シューが光の魔法で人々を治して、その名声が伝わればとっくに気づかれるはずだった。

「旦那様は?」

「エリオットJr.様が聞きに行き、その時は『光属性の人間は、チヤホヤされるがその分実験台にされやすいから黙っていた』、と説明を受けたようですね。」

とは言われても、カーティスは腑に落ちなかった。エリオット1世がシューの為に光属性だと言わなかったのなら何故倦厭される「闇属性」だと嘘をついたのか。シューはそのせいで死にかけてもいるのだから、シューの為にはなっていない。アルバート家の信用された人間にしか闇属性だと言ってなかったとしても、息子可愛さの理由ではないのだ。

「結局旦那様の考えが私には分かりません。」

「それは私どころかエリオットJr.様にも分かり得ていないところです。」

カーティスはそれが王女殿下の言っていたシューの「絶望」のような気がする。シューが未来で人を殺戮する原因なのだと王女殿下は言っていたが、今患者のために走り、患者のために自分が倒れてもいいようなシューを見ていると疑問だった。

「良くも悪くも旦那様は『国のため』が第1の人間です。おぼっちゃまはその旦那様の理念の犠牲者であるのだと、私は思います。」

悪路でもぐっすりと眠るシューの肩を、ユーリは摩りながら言った。カーティスはモヤモヤする思いを抱きながらアルバートの家に戻るのだった。


家に着き、ユーリが隣で寝ていたシューを起こし、馬車から降ろした。ルルやフアナのことは全く考慮しなかったせいで、2匹は地面に落下する。

「こら、なにしやがる!」

「ああ、すみません。」

「怒らないでよ。ほら。」

シューが2人に手を差し出せば、嬉しそうに彼らは飛びついた。

「懐かれてますね。」

「…利害が一致してるだけだって。」

「そうだぜ。」

【酷いわぁ。私はシューのことが好きなのに。】

シューの腕でフアナは2人に抗議するが、シューとルル以外には伝わらない。カーティスがルルの普段と変わらない様子を見て睨んだ。

「…ここはアルバート家の屋敷なのだから、悪さをすればすぐにソーセージにされてしまうぞ。」

「1番物騒なモノに喩えんじゃねえ!想像しちまったじゃねえか!」

シューに抱かれたルルが体を震わせた。

「ルルが普段から不用意なことばかり言っているからそうなるんだよ。態度を改めなよ。」

「だからってソーセージはねえぞ!ソーセージは!腸を取り出して肉を細切れにして詰めるんだ!」

「ある村でいじめっ子が肉屋ごっこでいじめられっ子をソーセージにする寓話があったなぁ。」

「ふざけんな!そんな話で夜眠れるかっつーの。トラウマだわ!」

ルルは短い足で頭を抱える。

「ルルはソーセージにされそうになったことがあるの?」

「…ね、ねえよ…。」

視線を泳がせる様子を見て、シューは直感的に「ティキ」が悪戯で何かをやらかした時にされそうになったか、むしろなったのかもしれないと思った。悪魔だから細切れにされてもおそらく復活できる。

【馬鹿じゃない。】

シューもフアナの言葉に賛成だ。


「シューちゃん!」

「兄様?」

カーティスが屋敷の扉を開けて中へ入ると、オズワルドがシューに抱きついた。今日は普通に平日だから学校のはずなのだが、今日は帰宅日で丁度帰ったばかりという出で立ちだった。シューごと抱きしめられたルルが悲鳴にもならない声を上げていたが、シューは硬直してしまってルルに気づかなかった。

抱きしめられたこと、今まであったか?オズワルドだけではなくて、使用人や親を含めて。赤ん坊の頃はあったとしても、物心ついてからは恐らくない。

「オズワルド様、シューおぼっちゃまが混乱しておりますから、離してあげてください。」

「え、ごめん!」

ユーリに言われたオズワルドは慌ててシューを離した。放心していたシューの目に次に飛び込んだのは、使用人たちが並んだ姿だった。中にはジャスミンもいた。

「おかえりなさいませ、おぼっちゃま。」

シューに真っ先に声をかけたのは侍女長のクラリスだった。女性使用人のトップでこの屋敷では執事たちと殆ど同じくらいの権力を持つ方で、この屋敷の主人である父も彼女の意見は全く無視できない。

「ただいま戻りました。」

引きこもりだったシューがそう使用人たちに言うのは初めてだった。中でも1番にこにこと笑っていたのはジャスミンだった。シューは彼女が前髪を下ろしているのに気がついた。他の女性使用人は髪を落とさないように全て纏めているから目につくのだ。1人だけ前髪を下ろしていても怒られないのは、きっと彼女がそこに傷があるからだ。

「…ジャスミン、少しだけ屈んで欲しいな。」

それはシューの罪の証だ。シューが美代子を取り戻す前、彼女は些細な発言のせいで熱い紅茶を頭から被った。神殿に行く前は自分のことばかりで彼女の火傷に気づかなかった。

シューに言われて不思議に思いながらジャスミンは素直に屈んだ。シューは彼女の額に手を触れるとそっと呪文を唱える。

「アルテミス、我に癒しの力を。」

優しく温かな光に包まれ、彼女の額は生まれたての赤子のように綺麗になった。

「あ、おぼっちゃま…。」

鏡が無くともジャスミンには、肌の変な突っ張った感覚が消えたため傷が無くなったのだと理解し、恐る恐る傷があった場所に手を伸ばす。

シューは消え入る小さな声で彼女に謝った。

「ごめんなさい。」

すると、ジャスミンは心から嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます、おぼっちゃま。」

お礼を言われるべきではないと分かっているから、シューは変なふうにどもる。周りの使用人たちはシューが治癒魔法を使ったことに驚きを見せながらも、静かにしていた。

「さ、馬車でお疲れでしょう。夕食の準備をしますので、暫くお部屋でお休みくださいませ。」

クラリス侍女長の一言によって、シューはカーティスに連れられて部屋に向かい、使用人たちは各々の持ち場へ戻った。

オズワルドはシューの後ろ姿をじっと見てから自室へ帰った。


ルルとフアナを自室のベッドの上に下ろす。

「うぉー、ふわふわだぜー!」

神殿の硬いベッドに慣れたルルが嬉しそうにベッドで飛び跳ねた。

「行儀が悪い。」

「うっせぇ、護衛!」

ルルはカーティスに毛を逆立てて怒る。

「護衛っていうか正しくは側仕えなんだけど…。なんでルルは名前で呼ばないの?」

「護衛だって碌に俺の名前呼んだりしねえし、おあいこだろ。」

「カートはたまに呼んでるよ。」

「たまにだ。」

カーティスがルルのことを嫌いだとは思っているだろうけど、ルルは恐らくそんなに嫌っていないはずなのにと考えてやめた。能天気中級悪魔の考えなんてシューには分かるはずもないし、分かろうともしてはいけないのだ。

シューもベッドに大の字になって転がる。

「…憤怒するクー。」

ティキ・シルヴィアは中級悪魔で、シュールートのラスボスは上級悪魔クーだ。何故彼がシューのラスボスになったのか、美代子はクリアしたはずなのに思い出せない。

「ルル、クーって知ってる?」

「王女が言ってた、お前の…ラスボス?つーか、ラスボスってなんだ。」

ゲームであることを知ってはいるものの、ゲームが何かはルルも分かってない。

「シナリオの最後ラストに出てくる強敵ボスだよ。」

「つまり、お前の…シナリオの最後の敵ってことか。それが上級悪魔のクーな。そういや、シューも知らねえだろ。悪魔の位ってどうやって決まると思う?」

カーティスにはルルが悪魔であることはバレていないのに、普通に悪魔の話をしてもいいのかと一瞬迷うが、そのまま続けた。

「普通に強さ?魔族の中でも悪魔は異質だから、あんまり分かんない。」

「強さっていうのはあってるんだけどよ。誰がその強さってのを決めるかなんて分かんねえ訳だ。人間のリストで上級や中級って書く場合もあるが、悪魔の中で位を決めたりもする。だが、悪魔なんて全員気まぐれさ。」

「人間のリストは人間が戦った時の強さの所感って感じなのかな。そして悪魔の方はそれこそ集まった時に何となく力比べで決めたりするのかな。あまり上級とか中級とかレッテルは意味ないってこと?」

「まぁ、そういうことだな。そして、本題だ。『クー』って言う名前は悪魔の中では人気のある名前でな。」

「え、なにそれ。そんなのが悪魔にもあるの?」

悪魔の名前ランキング、というのが頭によぎって、テレビのワイドショーで話題になっているというイメージをしてしまった。

「あるわ、ばかやろう。お前たちのジャック並みに出てくるわ。なんで悪魔に人気かって言うと『クー』はある精霊の名前でもある。戦争の神だな。」

「闇属性?」

「六大属性以外の精霊だ。いや、精霊っていう言葉が違うな。四大元素のエレメンタルと一部の光と闇のスピリットを精霊と呼ぶからな。んで、神代の時にエレメンタルとそちら側についた光と闇のスピリットに負けたスピリットを、悪魔の中で『神』と呼ぶんだ。」

ただクーについて呑気に聞いただけなのに、突然この世界に関わる重要な話が出てきて、シューは混乱した。精霊がエレメンタルとスピリットというものに分かれる時点でよく分からない。

「人族と魔族は基本的にエレメンタルと光と闇のスピリットの加護を受けて誕生するから、他のスピリットの事はあんまり意味ないがな。」

「じゃあ、なんで悪魔だけが『神』ってスピリットを呼ぶの?」

「悪魔は精霊の加護を受けられねぇ。だから、悪魔は魔力が低いんだ。それ故に精霊信仰がねえし、精霊の代わりにつけた呼び方だと思うぜ。魔族が殆ど闇属性なのは、闇の精霊が魔族の信仰の対象だったからとは思うが、人族に関しては分からん。信仰的には光の属性が1番多いのにな。」

「人族が光の精霊に嫌われた、とか?神殿の人を見ているとそう思えないけどね。悪魔は闇属性なんでしょ?光属性が苦手だって言ってた。」

「闇属性じゃねえよ。光が弱点なだけだ。だから、人族側には間違えられるし、あー、若い悪魔は誤解してんだろうな。」

「ルルって何者…。」

若い悪魔は自身が闇属性だと思っていて、ルルは神代の話を覚えていて、この悪魔は相当な古株の悪魔なのかもしれない。

「俺様は話好きの猫だぜー。」

「猫じゃないでしょ。…結局クーが誰かは分からないってことだよね。」

「ま、そういう帰結になる。」

この長い話で、シューが得られたことは「憤怒するクー」という名前だけではその上級悪魔の特定は難しいということだけだった。

「でも、本当にルルさんは『悪魔』についてお詳しいですね。」

「俺様凄すぎるな。」

「魔族にも悪魔にも詳しいとは。」

ただあれだけの話の中で得られた帰結と、カーティスの大きな訝しみを生んだ結果を見たら、この話の利益はマイナスの方が大きかったようだ。

「なんでこの話をしてくれたの?」

「知らないって言ったところで、シューはぜってぇ引き下がらねえだろう。」

「どうだか、僕は引き下がらなくてもルルだったら振り切りそうだけど。」

「振りきんのも面倒なこともあるっつーの。」

シューの「何で」攻撃に何度も襲われたことがあるティキはシューの頰に猫パンチを食らわせる。

「悪魔に神の加護はなんで貰えないの?」

「精霊は世界を支配したから加護を与えられんだよ。負けたスピリットは加護を与える気にもなんねえと思うぜ。」

「ふーん、精霊たちの世界もそういうものなんだね。人間と変わりない。」

「そんなもんだろうよ。あとはスピリットが精霊や人族によって封印された、っていう話もあるな。」

封印されたスピリットはどう思うのだろう。更に人族と精霊に対して恨みを強くさせるのか。

「封印が破られて、危険な事例とかそういう話はないの?」

「さあなぁ。俺様もそこまでは聞いたことねえや。」

ふぁぁとルルは眠そうに体を伸ばす。それから、ずくにうつらうつらと舟を漕いだ。

「…この人、本当に猫になったんじゃないの…。」

「長いこと猫でいると、猫になるのかもしれませんよ。」

魔法をかけたシューとしてはその発想が恐ろしくて、身震いした。もしルルがそのまま猫から戻れなくなったら、と考えて気づく。

「まあ、猫になったらなったで自業自得だよね。」

元々の責任の所在はこの猫にあるはずだから、ティキが不便でなければこれでいいような気がする。

「それでいいんですか?」

「うん。」

「他の患者の方には優しいのに…。」

シューはティキに感謝しない。初めてこの厄介な悪魔に助けられた時にそう言えば、彼はいつものように不平を言葉にしながらも納得していたようだった。

丁度ジャスミンが夕食の支度が整ったと来たのでカーティスがシューの手を引っ張って身を起こし軽く髪を整えると、食堂へ向かった。ルルは寝ているようだし、フアナもそこには行かないというので2人はシューの部屋でお留守番することになった。


人物紹介のネタ切れ感…。



肉屋ごっこでいじめられっ子がソーセージにされる話は、確かグリム童話の1つです。あまりにも残酷だからという理由でグリム童話集から削除されたとかなんとか。


この童話の酷いところは残酷さよりも大人たちにあります。子供達が何故こんな酷いことをしたのか、といって責任を押し付け合います。

「いじめっ子を育てた親が悪い」「学校が悪い」「いや、「そんなところを見せる肉屋が悪い」「ソーセージを買うのが悪い」で結局この村では肉を食べてはいけないというルールが決められます。

でも、この事件が風化し肉が食べたくなり、「他の村から輸入されたものなら肉はオッケー」という新しいルールができて、結局それで良いのかっていう話です。


ものすごくブラックなお話です。

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