Who killed her?
ジル アルバート家下男 子供っぽくて学はないが気は回る。
ユーリ・クラディウス アルバート家執事見習い(貴族) なんでもきっちりしている人で、貴族の誇りを抱いている。
アレン 光の神殿 神殿長秘書 家族からは勘当されたものの、一応貴族出身。 独身
ディーンの一派には使われたり逃げたりして緩く付き合って、神殿の生活に慣れた頃だ。相変わらず友達だと言える人間はいない。
「暇だなぁ。」
「遊びに行ってくれば?」
奉仕作業の最中、ルルはシューに不平を漏らしていた。いくらティキがシューを気に入っているとはいえ、こんなにも長く彼がシューに付き合っているとは思わなかった。しかも、ここは彼にとって天敵の光の神殿であるのにも関わらずだ。
「それもそうだなぁ。」
と言っているわりには、窓辺で普通の猫のようにうとうとまどろんでいた。
「最近の僕がおかしいって言っても君の方がおかしいと思うよ。」
シューは本格的に寝始めたルルを抱きかかえると、違う病室に向かう。
【抱いてあげるのね。】
【敵陣に置きっ放しは流石に可愛そう】
【あら、あなたにもそんな心があったのね。】
【知ってる癖に。】
【ふふ、からかっただけよ。】
フアナは「時に」、いや「実は」と言った方がいいと思うが、ティキ以上に性格が悪い。基本が優しいからそう感じるのかもしれないが、彼女は人の心を愛している。それは平穏な心よりもコロコロと移り変わる心のほうが好きだ。だから、ここ最近彼女はつまらないから、シューに少し意地悪だ。
「君もどこか遊んでくればいいのに。」
彼女も同意しながら、やっぱり離れる気は無いようだ。
美代子はゲームの知識があるのだが、彼女はいつも大雑把で知識も疎らだ。だから、この2人が何故シューの側にいるのかも分からない。
いや、もしかしたら彼女は知っているのかもしれない。シューが思い出せないだけで。もし思い出せないのなら、シューが知ってはいけない事実がそこにあるるのかもーーーと思い馳せたが、難しく考えすぎなのだろう。それはシューの悪い癖だ。
「ゲームは未来であって未来じゃないもんね。」
【そうね、心が思っていても、『そうじゃなくなる』可能性があるのと同じように。】
フアナに言われると不安になるけれど、彼女が覗けるのは心であって記憶では無い。シューが思考してない、あるいは少しでも思っていないと、彼女は覗けない。
不細工な黒い猫を抱えながら、シューは患者を見回る。あの骨折した冒険者はあの後すぐに退院してしまったから、特別話す患者はいない。何しろ他の患者もシューの手にかかればすぐに退院してしまうから。仲良くなったウィリアムも普段は学生だから、あれ以来会いには来ない。
父親も執事のアーサーを寄越した以来、なんのコンタクトもとらない。
「おーい、シュー!使いの人が来てるよ!」
「はーい。今行きます。」
ただ1人、シューの元を訪れるのは、
「ぼっちゃん、生きてるか?」
ユーリ・グラディウスの使いであるジルだけだった。
「またお前はそのような言葉使いして…。」
「そういうお前も変わらず、クソ真面目な顔しやがって。」
カーティスとジルの仲も相変わらずだ。
「ユーリは心配しすぎじゃないかなぁ。親兄弟よりも心配してるよ。」
「まあ、俺もぼっちゃんが生きてるかどうか確認してるからな!」
「え、自主的なの。」
「なんつーか、俺のサイリョウに任されてるんだよ。」
彼は連絡係として、シューの要望を家に伝えるという仕事がある。電話やインターネットがない世界では、度々こうして人が訪れなければならない。
「じゃあ、もう少し少なくてもいいんじゃない?僕ほとんど頼んでないし。」
「まあまあ、俺の出世の為だ。我慢してくれ。」
「はっきり言っちゃうなぁ。」
「品がないぞ。」
でも、シューはそういう彼が好きだ。
「いくらでも踏み台にしてくれていいけどさ。」
「さすが、シューだな!そんで、なんか不足はないか?」
毎度のことだが、シューは首を捻る。シューは魔法以外のことにあまり興味がない。服だって着れればいいくらいで、カーティスが着せるものを着てるから綺麗なだけ。
「ノートを何冊か。」
思いつかないシューの代わりにさっとカーティスが頼む。
「それってお前の為じゃねえよな?」
「シューが魔法を考えている時に使う。今、クラウス神殿長に頼っているが、頼めるのだったらそちらに頼む。」
最初こそルルが盗んだ物を使っていたが、カーティスにそれがバレて以来、カーティスが神殿に頭を下げて貰ってきてくれている。神殿もシューの実力を認めてくれているから、意外と簡単に貰えたのだが、貰ってきてくれるのがカーティスだったから、シューは失念していた。
「お、いいぞ。最近紙が値下げしたらしいぜ。なんでもギジュツカクシンだってよ。嬉しそうにケーリ(経理)が話してた。」
「意味わかって使ってる?」
「新しい方法で、紙が作られたってヤツだろ。聞いた聞いた。」
ジルが自信満々に答えるので、なにも言わない。
「服や下着は大丈夫なのか?」
「まだ全然使えるよ。」
「ぼっちゃん、見た目気にしねえもんなぁ。」
「さすがに洗っても不潔に見えるのは使わないけど。」
ジルは大笑いする。シューの返事は確かに大貴族の言葉では無い。ただ大笑いされたことはシューには不本意で、むっと頬を膨らませる。
「おおっと、不興を買うつもりはなかった。悪りぃ。」
「そうだよ、出世したいならもっと僕のご機嫌とりなよ。」
「それはそれでシューの機嫌損ないそうだ。」
「違いない。」
シューが満足げに返事すると、再びジルは大笑いだ。
「このぼっちゃん、めんどくせえ!」
カーティスもジルの不遜な態度に注意しながらも、これには声を上げて笑った。シューも言葉では非難をしながらも、口元は笑っていた。
あまり長居すると修練の時間までに奉仕作業が終わらないから、医院に戻ろうとすると、廊下が慌ただしかった。
「にゃんだぁ、うるせえな。」
「起きたの?」
ルルが起きたので下ろそうとすると、歩くのが面倒なのでそのまま抱えていろと言う。重いんだけどと怒るが、シューはそのまま抱いていく。
「でも、なんだろう、この騒がしさ。」
キョロキョロと辺りを見回すと、ディーンも慌ただしそうに急いでいる。そのディーンはシューを見つけると、物凄い形相で走ってくる。
「どうしたんですか、ディーン。」
「どうしたもこうしたもないよ。電撃だよ、電撃訪問だよ。」
「…誰の?」
「王女殿下だ!この国の王位継承者第3位!」
王女殿下、と聞いてシュー自身には心当たりなかったが、美代子の記憶には薄く残っていた。
何故なら彼女はゲーム公式のライバルだったからだ。王女殿下は戦う術を持たないから、そういうライバルではなく、恋愛のライバルなのだ。王女殿下ということもあってプライドも高く、彼女自身は姑息な嫌がらせや嫌味などはほとんどない。しかし、ミヒャエル殿下と許嫁ということで、牽制や妨害もあり、主人公の出自が平民ということもって、兄のシャルルとの恋愛を強く反対する。彼女の武器は「正論パンチ」、こちら側からなかなか言い返せないかなり厄介な相手だった。ただ彼女は作中、彼女の取り巻きたちがヒロインを虐めていると、「正論パンチ」で追い払ってくれたこともあり、あまり嫌われていない。男性プレイヤーからの人気はナンバー2だ。(ナンバーワンは世界最強(物理)ヒロイン)
「…会いたくないなぁ。」
「シューは会ったことあるの?」
「無いです。ディーンは?」
「俺は神殿に来る前に一度茶会に参加した時にお目通りしたよ。殆ど会話もしてない。シューはなんで会いたくない?」
シューのボソリと零した言葉はしっかりディーンに聞かれていたらしい。
「ここにいる貴族の人以外、貴族と話したことないですから。」
「あ、そっか。シューは社交場に出たことないんだったね。」
深く考えもしないで作った理由だったが、ディーンは納得してくれたようだ。
シューが彼女に会いたくない理由は、未来での負い目だった。
シューが作中一度だけ主人公の恋愛バトルに絡むことがある。それが「王女殿下」だった。王女殿下を唆して、ヒロインがシャルル王子から借りたシャルル王子の亡きお母様のネックレスを破壊させた。最初はヒロインが壊したことにされそうになるが、その後王女殿下が犯人であることが判明する。現王妃の娘の王女殿下はそれがシャルル王子のものであるとは知らなかったらしい。王女殿下はその事件の後、塞ぎ込んでゲームの表舞台から姿を表さなくなる。しかも、シューは王女殿下の自分の記憶を曖昧にさせているから、シューはなんの疑いもかけられていなくて、王女殿下は一人で苦しんだ。
そして、その事件から暫く経った後、シューは彼女をーーー。
「シュー、顔色悪くない?」
ディーンの台詞で現実に呼び戻された。
「ごめんなさい。今もいるんですか?」
「いらっしゃる、だよ。不敬だと思われるから。今は貴賓室でお待ちだけど、噂では医院の見学をしたいと仰っているらしいから、来られるかも。」
いつもお調子者ぶっているディーンが珍しく慌てている。ディーンが態度に表してなかったら、もっとシューも動揺していたはずだ。
「…僕の担当の病室に来なければいいのですが。」
「クラウス神殿長のことだから、貴人には貴人を、ってするかもしれないよ。」
「アレン、さんが僕が社交に慣れていないことを把握しているので、気遣って誘導していただけるかもしれません。」
クラウス神殿長は貴族出身ではあるが、その立場があるからこそ、シューより立場は上だが、元の身分はシューの方が上だ。身分という大枠だけなら王女殿下の身分と最も相応しいのはシューではある。だが、アルバート家は立派であっても、シューはそうではないから、アレンの気遣いがあることを望む。
「ディーン、もし殿下がいらしたら僕よりたくさん目立って僕の存在消してください。」
「俺は目立つの得意じゃないよ。」
やんわりと断られてしまった。もしもっとシューがディーンに好かれていたら、助けてくれたのだろうか。
「そろそろ行かなきゃ、だな。」
ディーンと伴って病室に向かう。ディーンの言った通り、まだ王女殿下は居なかった。そのまま来なければいいのに、と思う。患者たちからすれば、王女殿下に会えるのは僥倖であろうから、複雑だ。
「魔導士様、どうかお助けください。」
医院の病室に戻ってすぐに置いていってしまった患者の弟子に縋られてしまった。
「そんな不安がらなくていいよ。腕が取れたわけでもあるまいに。」
冒険者の男の骨折を治して以来、シューの担当には骨折患者が多くなった。最初こそ幼いシューに対して不安を持つものが大半だったけれど、患者たちの口コミで、シューの評判は良くなって不安がる患者は減った。幸い今のところ闇魔法を使っているのは、未だ周囲にはバレていない。虫のような目を誤魔化す為に周囲を余計に強く光らせていることも、シューの神秘性を高めていて、レントゲンの魔法を聞きにくるもの者もいない。
「親方がいないとうちのギルドヤバイんです。」
「あのさ、早く治療させてもらっていい?邪魔なんだけど。」
シューは掴まれた肩を振り払うと、ルルを親方のベッドの上に置く。視線でカーティスに訴えると、カーティスは弟子を抑えてくれた。
ぐっすりといびきをかいて寝てしまっている筋肉隆々の親方を見て、本人は呑気なものだと思った。いくら口コミでシューの評判が良くなったと言っても、12歳の弱そうな本人を見たらもう少し不安がってもいいのに、シューが担当すると知り、安心だと全幅の信頼を得ていたらしくてこんな風に寝てしまった。
シューがレントゲンの魔法と骨折の治癒魔法を使う間は必ず皆黙り込む。それは親方が心配で喚いていた弟子も同じだ。
世界最高の人形師が手がけた人形のような彼の造形が、人が会うことの許されない神のようで、目にしてはいけないもののような気すらしてくるのだ。
「終わったけど?」
シューの面倒そうな声で全員の意識が引き戻される。未だぐっすり寝ている親方の頭を引っ叩いて起こす。弟子が何か言いたげだったが、親方が起きて呑気な声をあげたので、何も言わなかった。
「もう終わったのかー。」
「そうもう元気だから、貴方は患者じゃありませーん。他の方にベッドをお譲りくださーい。」
「元気になった途端にひでぇや。」
実際には引き払ったあと、ベッドを綺麗にし直すから、すぐに他の人にベッドは譲れないのだが、それでもさっさと退却してくれるに限る。
リネンの代金だけ頂いて、親方は退院していった。その後も弟子はシューの態度に文句は言いたそうだったが、親方が呑気に手を振るものだから、終始黙っていた。
騒がしい一行の相手をしていたり、重篤の患者の手当てをしていたりでシューの頭から王女殿下のことはすっかり忘れていた。ディーンから言われてそれなりの時間が経っていたから、医院の視察は無くなったのでは無いかというくらいのころ。
「皆、姿勢を正して殿下が来たら頭を下げてね。頼むよ。」
と、神殿長補佐のアレンが神妙な顔をして入ってきた。
逃げたいと思った直後、病室の引き戸が開き、アレンの合図で一斉に頭を下げた。
「皆、面をあげてください。普通にしてくださいませ。」
王女殿下の言うに従い、シューも頭を上げる。画面越しには見たことのある、明るい茶髪は丁寧に編み上げられて、アーモンド型の金に近い黄土色の瞳の噂通りの可憐なお姫様だ。全体的に色素の薄い彼女に、ふんわりとした優しい春の若草の色のドレスが良く似合っていた。
「はじめまして、神殿の皆様。それから、市民の皆様。マリアンヌ・レーヌ・ド・オルレアンでございます。お忙しい中、急な訪問で失礼します。」
ゆっくりとした動作でする彼女の会釈は、拍手喝采の舞台演劇のヒロインを見ているようだった。これはカーテンコールではなく、始まりなのだが。
彼女が顔を上げた時、何かに導かれるように彼女の優しい黄土色の瞳と目が合った。彼女はシューの姿形を捉えると、怪物でも見たかのように目を見開いた。
「シュー・アルバート?!」
彼女に自分がシュー・アルバートだと認識したことに、背筋が凍った。
「何故貴女が僕を存じている。」
シューの地を這うようなドスの効いた声が静まった病室に広がる。シューは恐ろしかった。いくらシューの評判が広がっていたとしても、所詮それは口コミでしかない。美代子の世界のようにその容貌を写真や映像はないし、シューは肖像画だって描かれていない。いくら容姿が美しいだとかもてはやされたとしても、すぐにシューだとは認識できないはずだし、いくら幼い魔術師だとといっても魔法を使っていなければ、シューは、看護にあたる他の少年たちに紛れる筈だ。
すぐに判断できるのはシューを実際に知っている人物は親兄弟、一部の使用人、神殿の人物、ウィリアムなど患者たち、そして、魔族の一部だ。彼女が前者にあたるはずがない。
「僕はシュー・アルバートだけど、何故すぐに僕だと分かった。」
「あ!いえ、これはそのっ!」
彼女は慌てたように弁解をしようとするが、何一つ話になっていない。敢えて弁解しないことで、危険人物ではないとアピールしているのかもしれない。
「貴様、王女殿下に対し不敬であるぞ。」
王女の護衛とそば付きの侍女がシューに対して睨みを効かせる。普通の人間なら、恐れる場面かもしれないが、シューにとってはこの王女を名乗る彼女が恐ろしいのだ。
「僕は産まれてこの方使用人以外、また神殿の人以外あったことがない。姿絵すらえがかれてないのだから、警戒するのは当たり前です。貴女が本物の王女殿下なら何故僕の顔を知りえたんですか?」
「怖がらせてごめんなさい。」
「王女殿下!」
王女殿下を名乗る彼女はしゅんとした。
シューが警戒を解かないでいると、フアナがシューに対して優しく語りかけた。
【シュー、警戒を解きなさい。記憶は見えないから確かではないけれど、恐らく彼女も貴女と同じよ。】
【同じ…?前世の記憶があるということ?】
【ええ、きっとね。】
一番恐れていた魔族が王女殿下に化けているということではなさそうで、シューは警戒を解いて、謝った。威嚇したり、警戒を解いて精一杯の謝罪をしたり、シューの態度がくるくると変化するので、周囲の人間は不安げにシューを見ていた。
「でも、一つだけ聞かせてください。何故僕を知っていたんでしょうか。噂では顔まで知りえません。」
フアナの力でシューは既に推測できたけれど、彼女がどのように説明をするのか知りたかった。勿論、シューの態度が軟化した理由を周囲に納得させたいというのもある。
「…それは。」
「もし、『光の奇跡』に導かれているのなら、また後でお伺いします。」
「まさか、貴方も…。分かりましたわ。また後で伺いいたします。」
王女殿下は侍女に耳打ちし、侍女は病室から出て行った。
奇妙な空気が流れたが、シューは再び患者たちの治療にあたり、王女殿下も予定通りの視察をして回った。
急いで投稿してしまったので、中途半端になっていました。しかも、私がメモのように何の回なのか書いていたので、冒頭でネタバレがあるという申し訳なかったです。




