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これがゲームの世界ですか?  作者: 詩穂
双子のラッセルとレオン
104/115

セイン川―――コネーニャ大橋

シュー・アルバート(13) 主人公 光属性であり、後天的に闇属性を手に入れた。研究者エリザベスによって精霊シューの紛い物として生まれている。

マリアン・ホワイト(15) ゲームのヒロイン 光属性 主人公であったために強い力と善性を持っている。シューのことが大切。

レオン・カルヴィン(15) ゲームの攻略対象 火属性 防御系 双子の兄弟であるラッセルとの仲を取り戻したくて、兄たちと確執が改善されてきたシューの護衛となった。

ラッセル・カルヴィン(15) ゲームの攻略対象 土属性 攻撃系 レオンのことは卑怯者だと思っているため、辺境伯の座を譲りたくない。

ニクラス・オールセン(15) ゲームの攻略対象 風属性 気のいい兄ちゃんという雰囲気。マリアンとラッセルと仲がいいようである。

 ―――コネーニャ大橋



 セイン川を跨ぐ王都と北東を繋ぐ交易の大切な橋。

 橋の前の宿場町に着いたのはその日の夜である。ちょうど雨が降ってきて、一行は慌てて宿へと入る。

「雨が強いですね。」

 シューは父親の隣でボソリと呟く。

「ああ、だが明日の朝には止むだろう。」

「…流石雨の国の公爵。よくご存知です。」

「アルビオンの天気は私でも読めないがな。」


 アルビオンはそれほど天候が変わりやすいらしい。

「人間、マフィア相手なんてどうするんですか?」

「アキテーヌの海賊のような影響力もない。物理的な対応で問題ないだろう。」

 人間相手の対応なんてどうするのやらと思ったが、1番簡単な解決方法で対処するらしい。人権の概念など薄く学者の中で語られる世界であるし、至る所で頻繁に国境の争いが起きているのだから、それが普通かとシューは納得した。

「別に闇の女王が出てくるわけでもねえし、俺様1人で簡単に解決できるだろ?」

「…イフリート、今回は手出しできない。私はこの件に関して首を突っ込む許可を得られていない。内政干渉だなんだかんだと責められるのは厄介で…自国民にも責められかねん。」

「お父様はあくまで僕の護衛ですからね…。」

 これは例えれば貴族の御坊ちゃまたちの、夏休みの課題である。学院生ではないので夏休みなんてないのだけれど。

「アキテーヌの海賊も本来なら撤退させたいのだが、下っ端はいくら沈ませても問題ないが、本体が出て来て、本格的な海戦は難しい。オルレアンとの共同訓練が上手く行った試しがないからな。」

「…最悪ですね。」

「あそこが1番、オルレアンとの火種になるからな。今のところ実効支配しているのが無法者だから、スルーされているところだ。」

「…はは。」

 高潔な騎士団の団長の領地が、無法者たちが自由にしているのは大問題な気がするけれども、どうにもならないのだろうか。

 もしゲームでウィリアムの元にヒロインが嫁いだとするなら、その将来目に見えて苦労するじゃないか。魔王を倒すという自分の命を懸けて戦った後、攻略対象の中で1番生真面目で誠実な男に嫁いだ結果がそうなのだとしたら哀れだ。マリアンには絶対勧められない。

 まだゲームで最も愚かな男のシューとの恋が成就してアルバートの家から監視生活する方が楽なんじゃないかと、下らない想像を巡らす。

「俺が出て行って街ごと火だるまにしたら終わりじゃねえ?」

「何もかも燃え尽きた土地になんの価値があるっていうの?」

「ちえー、面倒臭えな。」

 ある意味イフリートの言う通りだが、結局それをしたところで利益が無い。

「折角出てきたっつーのに、何もできないんじゃあやってられねえぜ。」

 戦いたがりの最高精霊は、面白くなさそうだった。



 翌日、ラッセルが気合を入れて皆を起こした。王都への街道の宿場町の癖に閑古鳥が鳴いている宿屋の店主もまた橋を占拠したマフィアには手を焼いているとのことだった。

「お上は仕事してくれない。」

 国のトップに近いエリオットSr.は深く頷いた。宰相閣下は確かに権力者であるものの、オルレアンの細やかな内情に関して深く突っ込む事ができないからである。そして、オルレアンの王党派貴族筆頭であるブローシュ侯爵がそれなりに優秀ではあるものの、何かとエリオットSr.とアルビオンに対抗したがる為に視野が狭い。特に国の政治にはよく手を付けているというものの、領内の政治は殆どかかわっていないので、ひどい有りようだ。

「僕たちが解決してくるよ、マスター!」

 国が金や騎士団を割けないことを知ったラッセルがマスターに力強く胸を叩く。

「しかし、この人数で、ですか?」

 マスターは怪しげにラッセルを見る。そりゃそうだ。マフィアは50名近くで橋付近を占拠しているが、相対するのは護衛と称するエリオットSr.を除いて5人なのだから。

「信用はしなくてもいい。結果を楽しみにしてくれ。ただの滑稽話となるか英雄譚となるか分からないが、どちらにせよ、語り種になるだろう。」

 この双子、根幹はやはりよく似ているようで、レオンもラッセルに続けてそう話すと、先ほどまでは不安そうだった表情が和らいで、マスターは面白がった。

「はは、そうですねぇ。愉快な話をお待ちしています。」

「おう、任しときな!」

「私も頑張るよ!」

 双子に続けて、ニクラスとマリアンも気合を入れる。ゲームで最初にマリアンと仲良くなる攻略対象のせいか、1番馬があっているようだ。シューはそこの空気にはついていけなくて、父エリオットSr.の袖口を後ろ手でつかんだ。


 昨日はずっと雨が降ったようで、土はぬかるみ、川の水は増水していているが、大した痛手では無さそうだ。空は雲が多いが太陽は出て、暖かくなってきている。

 こちら側が正当であることを証明するには奇襲することはご法度だ。

「こういうのはイメージが大事だ。背の高いし、重装備であるニクラスがマフィアにまず宣言し、武力行使をするのがいいだろう。」

「レオンに賛成するのはちょっと癪だけど、僕もニクラスが一番適していると思う。」

 正義を名乗るのは大変な手順がいるなと妙な感慨がある。

 馬に乗って向かうニクラスの後をシューは父とイフリートと共に馬車で追う。マリアンが颯爽と馬の手綱を操るのを羨ましい思いもありながら。

「おい、テメェら立ち止まれ!」

 荒っぽいオルレアン語が聞こえる。分かりやすくマフィアの末端だろう。

 小物の意見など聞き取らず、ニクラスは堂々と宣告する。

「止まらない。占拠しているマフィアに告ぐ。ここは先先代ブローシュ侯爵が民衆のために建立した陸橋だ。貴様らの行為はブローシュ侯爵ひいてはオルレアン王国への反逆とみなす。よって退去していただこう。」

「だぁれが、貴族なんかにっ!」

 頭の軽そうな男が反抗するように叫ぶのを、隣の男が制した。

「なるほど、その少ない人数で、我々コネーニャ護衛団を御せるとでも?」

 地元マフィアだが、マフィアとは名乗らない。こちらが勝手にそのレッテルを貼り付けただけで彼らは彼らなりに街を守っている気でいるらしい。

魔力の総量、精霊の加護の具合、全てを見てもこちらが負ける気は全くしないが、第三者が漁夫の利を狙ってくる可能性もないわけでは無い。

「それは退去しないという意思表示と取るぞ。」

 ニクラスが背中に負っていたハルバードに手をかけたのを皮切りに、シューとエリオットSr.以外のこの場にいる全員が武器を手にした。


 人族同士の戦いを見るのは、美代子の記憶が戻ってからは初めてだ。貴族であっても、ここにいるのはダンスパーティーばかりに参戦している者たちではなく、領民を守るために戦ってきた地方の騎士たちと、地方農民のマリアンだ。(全員がそうとは言わないが、ここらの国々の農民は山賊の側面もあり、また山賊から自分たちで自分の村を守る側面もあるため、農民は人と全く戦わないということはない。)この場で1番慣れていないのはシューの中の美代子くらいだ。

 人同士の戦いは、違う種族同士で戦うよりも脳裏に鮮明に焼き付く。

 シューのもとに人間の腕が吹っ飛んできたのを、何食わぬ顔でイフリートがキャッチして燃やしていた。

「何ボケっとしているんだよ、シュー。」

「いいや、出番が無いなって。」

 この少数人数だったが、重い怪我らしい怪我がない。相手側に強大な攻撃魔法を撃ってくる人間もいないのもあるけれど、レオンの防護魔法(身体の表面を硬くさせる魔法)が人族相手にはかなり有効らしい。

 思い出したように治癒魔法や回復魔法をかければそれで事足りる。一度に複数の単体治癒だったが、同じような擦り傷なら対して難しくもない。

 乱戦を通り抜け、光の神殿のローブを着ている弱そうなシューのもとにたどり着いても、イフリートに簡単に燃やされてしまい、シューとエリオットSr.がわざわざ手を出すこともない。

「さすがに地方のしょぼいマフィアに骨のあるやつはいねえよな。あのちっこいののほうが万倍怖え力もってやがったぜ。」

「マティルドは、恐らく光のマリアンの対をなす存在として生まれたんだろうけど…。」

 イフリートはまたマティルドと戦いたいと思っていそうなのが恐ろしい。勝てる気が全くしないから、マティルドへの刺激はやめてほしい。

「おらよっと。」

シューの前までやってこれた勇敢な戦士マフィアは、あっさりとイフリートに燃やされる。


 おおよそ2時間程度で全ての決着がついた。シュー予想通り、こちら側の完全勝利だ。


「腕を上げたな、マリー。」 

 生存者は捕縛し、死亡者は道から退ける作業を終えた二クラスはマリアンの肩を叩き、やったなと褒める。

「ニックやラスも前より動きが良くなってるし、レオンが守りを固めてくれると安心して戦えるよ。」

「マリアンはもう少し自分の身を顧みて戦ってほしい。」

「レオンやシューがいるから、多少の無茶は無茶にはならないよ。」

 苦言を呈しているものの、頼りにされて少しだけ顔を緩ませるレオンだった。

 戦闘終了の安心感で話している彼らを横目に、シューはコネーニャ大橋とその下に流れるセイン川を眺めて何かを忘れてしまっているような気なって、すっと欄干の上に立つ。バカと煙は高いところに行きたがる。バカと言うなと自分で自分につっこんで、悪魔の顔を思い出す。

「あ。」

「どうした、テディー?」

「イフリート、暴れたりないよね、」

 シューの顔から、美代子の慈悲は消え、愉快そうに少年は笑う。

「おう!」

「もうひと暴れしちゃおうか。」

「そうこなくっちゃなぁ!」

 楽しげにイフリートは空に舞い上がった。シューが言うと、イフリートは全て知っていたように了承する。


「いくぜいくぜぇ、集まってこいよ、弱者共―――篝火!」

「映し出せ、僕の庭を汚す暗闇を。」


 イフリートは大きな赤い炎を燃え上がらせ、シューは周辺地域を何かをあぶり出すように照らし出した。

シュー  レオン→レニー


マリアン ニクラス→ニック

     ラッセル→ラス


ニクラス マリアン→マリー

     ラッセル→ラス


ラッセル ニクラス→ニック

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