そうだ、出家しよう。
これはフィクションではとてもよくある話だ。
その日は雨が降っていて、美代子は看護師の夜勤の仕事に疲れ果て帰る途中だった。疲れた、早く帰りたい、雨で濡れた服を早く脱ぎたい。そう思いながら傘を離さないようにと横断歩道の前で止まった。
ぴっちぴっちちゃぷちゃぷらんらん
美代子の後ろで幼稚園か保育園に行く親子が楽しそうに歌っていた。ああ、自分も小さい頃は雨が来たら喜んで傘をさしていたな。
信号機が青に変わって、横断歩道を渡ろうとした美代子を視界不良の中スピードが落ちなかったワゴン車のヘッドライドが照らしていた。
強い衝撃を受け、子供が泣き叫ぶ声を聴きながら美代子は意識を失った。
―――The character and events depicted in this story are fictitious.
―――Any similarity to actual persons,living or dead,is purely coincidental.
目が覚めると、高級ホテルのようなふかふかのベッドで寝ていた。いくらなんでも美代子がこれほどの高級ベッドがある病院に入院するなんてことはありえないはずだ。あたりを見回しても、白いベールに包まれた天蓋ベッドに華やかな花が書かれた天井、大きな窓にはきれいなレースカーテン。まるで欧州の貴族の館のようだ。
混乱する頭を押さえて、ベッドから降りようとすると自分が想定する長さより足が短かったようで、そのままバランスを崩してベッドから転落した。
足が短い?
自分の足なのにと足に目を向けると、見慣れたむくれ気味の足ではなく、白く美しい子供の足だった。
「お坊ちゃま、大丈夫ですか?」
全く状況が掴めず、転んだままの態勢で呆然としていると黒いワンピースと白いエプロンを身に着けた可愛い女の子が話しかけて、助け起こしてくれた。しかし、今反応できなかったが、彼女は自分に対して男の子に対して使う敬称で呼んでいなかっただろうか。呆けたまま彼女を凝視していると、彼女はびくりと身体を震わせおびえた。
「あの、その、なにかしてしまいましたか?」
「…誰?」
「お坊ちゃま?」
またお坊ちゃまと呼んだ。確かに美代子は性格が男っぽいと言われたことは何度かはあるが、外見で性別を間違えられたことはない。
「鏡、持ってきてくれる?」
「は、はい、すぐにお持ちします。」
彼女はおびえた体を叱咤するように、返事をして鏡を取りに行った。彼女が離れて、自分の身体を見直した。手は荒れてないし、小さい。ズボンははいているが、体全体を包み込むネグリジェのような寝巻、どれをとっても美代子ではない。
もしかして、別の人の身体に脳が移植されたのでは、などと小さいころ読んだ小説が頭の片隅によぎる。しかし、移植の法律が厳しい日本でそんなこと起こりえるはずがない。
そうしているうちに、先ほどの女の子が手鏡を持ってきてくれた。彼女が差し出した手鏡は、縁や裏に華美な装飾が施されているが、肝心の鏡の部分が歪んでいる。まるで博物館に飾られる古い鏡のようだ。とはいえ、十分だった。鏡に映ったのは冴えない20代女性の美代子ではなく、金髪碧眼の「美しい少年」だった。
―――自分だ。
後頭部を鈍器で殴られたような衝撃だった。
思い出した。美代子は彼を知っている。
学生時代やっていたRPG型の女性向け恋愛趣味レーションゲームの一つ、「ザ・ストーリー・オブ・ザ・マジック―――光の奇跡」に出てくる悪役の少年、「シュー・アルバート」だ。ストーリーはいたってシンプルだ。主人公はよくある平民の田舎娘の元気な女の子で、プレイヤーは彼女を操作し、貴族の子女たちが通う王立魔法学院で青春して、最終的に人族の世界を脅かす魔王を打ち倒し、イケメンと結婚するファンタジー。ステータスの振り分けだったり、アイテムの収集だったリ、主人公のヒロインを自分好みに育てたり、やりこむ要素はそれなりにあるので、女性向けとは言いつつも、一定数男性にも人気があった、とは思う。
何故平民のヒロインが貴族の子女が通う学校に通うのか、というのも王道中の王道。彼女が希少性の高い「光属性」生まれだからだ。
この世界には大きく6属性に分かれている。
光・水・風・土・火・闇
光属性は、治癒魔法や回復魔法が得意な属性であり、同時に魔族に多い闇属性に対抗する力が強い。だから、多少強引であろうと彼女は魔王討伐の任につくのだ。
対する闇属性が魔族に多いとはいえ、人族にも一定数存在する。闇は決して悪ではない。しかし、変形、病気や毒などの魔法が多いため、人族の中では迫害の対象だ。
そして、シュー・アルバートもまた光属性である。
何故か闇属性と育てられたのだけれど、理由はシューには分からない。
姓であるアルバート家というのは、このゲームの舞台オルレアン王国の中で最も権力と領地を持っている公爵家だ。
そして、シューには二人の兄がいる。次期公爵で合理主義者のエリオットJr.とデビュタント早々浮名が流れた次男のオズワルドだ。兄弟仲は良くない。エリオットJr.はシューに事務連絡以外しないし、オズワルドはシューに嫌味ばかりをいってくるので、ほとんど真面に話したことが無い。
さらにひどいことに、この兄弟以上に親との接触が殆どない。父エリオット(欧州の慣習としては珍しくないが、日本のゲームにしては珍しく親と長兄の名前が同じだ)はこの国の宰相としてずっと働き詰めで、また母とされるディアナも、シューが赤子の時にオルレアン王都に来て以来王都からでていないのだが、彼女は領地アルビオンから出てきたがらないので、シューは会ったことが無い。
もちろん公爵家という大きな貴族だから、親なんていなくたってナニーや側仕えのメイドがいるので、それだけで立派に育つはずだった。しかし、もてはやされる光属性を闇属性と偽って育てたために、使用人たちの恐怖の対象となってしまったため、家族からは見向きもされず、代わりとなる使用人たちからは嫌がらせ、時には命を狙われたりもした。そのような状況でまっとうに育つはずなかった。
とはいえ、だ。何故かは分からないが、そのシューの前世は現代日本で看護師をしていた西田美代子という女性だった。今日、目が覚めたときは自分がシューであることを忘れ、西田美代子だと思い込んでいたが、シューを取り戻せてよかったと安堵した。現代で生きた女性の美代子が18世紀の欧州と似た世界で生きられるはずがない。タダでさえ美代子の記憶を取り戻したシューでも、心が折れそうだ。風呂に真面に入ったのがおとといだとか、ご飯が冷めていて美味しくないとか、下水道が上手く整備されていないだとか。
「ああ、ジャスミン、暫く部屋から出て行ってほしい。」
「はい、失礼いたします。何かあればベルを鳴らしてください。」
侍女のジャスミンを追い出して、僕は西田美代子の記憶を整理しようとベッドの上で胡坐をかいた。
シュー・アルバートは悪役でありながら、物語の前半はヒロインを援助するサポーター、例えば物語の管理だったり、攻略対象の情報だったり、日付で更新されるイベントの情報だったり、を通知したり纏めてくれるキャラクターだ。そして。物語の中盤で彼女を裏切り、魔族側の中ボスとして現れる。闇属性として闇魔法を駆使しながら、光魔法の治癒で仲間を回復してくる厄介な敵だった。
そう、光属性でありながら、命懸けで魔法の特訓をし、闇属性でもある。それは本編の14歳のシューもそうだが、現在12歳のシューも同じだった。
本編開始まであと2年ある。
あと2年まであるが、このまま悪役としてゲームの筋道を歩くのもなんとも馬鹿らしくないだろうか。父親に兄たちに反発してきた今までの自分の道が、すべて誰かの書いたシナリオの上だった。
今まで必死になってやってきたことが全て無駄になった気分だ。
「…出家しよう。」
一番の上の兄が怖かったが、あの兄も所詮ゲームの一人でしかないのだと思うと、前よりは怖くなくなった気がした。出家すると決めたシューは宰相として働いている父ではなく、18歳で騎士団に所属している長兄のもとへ向かった。学生ではない彼がゲームのヒロインと出会うのは彼が王立魔法学院のパーティーに派遣されたときだが、シューには関係ない。強いて言うなら、ゲームではドS程度の設定だが、この兄は周りのものを使える駒とそれ以外にしか思っていない。
その兄にとってシューは出来損ないだった。属性は光・水・風・土・火・闇の順で並んでいて、隣り合っている属性の力は違っていてもそこそこ使えるのだが、シューは光属性でありながら、迫害対象の闇属性として育てられていたので、習わされていたのは火属性の魔法だった。理論上光属性が火属性の魔法を使うのはほぼほぼ有り得ない。兄からすれば、いつまで経っても知識ばかりで魔法が使えない出来損ないだった。
「エリオット兄様。」
今日は騎士団に行かず、家の自室で家内の事務作業をしているエリオットJr.に声をかけた。
「今更起きたのか?邪魔だから、さっさと家庭教師の下へ行け。」
「家庭教師は3日前に追い払いました。」
シューは思いつく限りの悪態をついて、人のよさそうな家庭教師を帰らせた。
「お前はまた…。悪評がつくだろうが。」
この家に悪評が付くなら万々歳だったが、そんな風には一向にならないのだから、父親の情報統制術はどうなっているのかが分からない。
「エリオット兄様、僕出家しますね。」
「はあ?」
出家という言葉を使っているが、勿論このファンタジー世界に仏教は無い。属性ごとの精霊を祀る神殿があって、奉仕活動をする。実態としては日本の神道を100倍緩くした宗教だ。
「闇の神殿なんてないぞ。」
この兄も未だシューが光属性であることを知らなかったらしい。つまり、現状父親しかシューの本来の属性を知らないということだ。母ディアナのほうはどうだか知らない。
「大丈夫ですよ、僕光属性のなので。」
彼は眉を顰めて、シューを怪訝そうに見つめる。
「本当です、お父様に聞いてみたら如何です?ということで、もう一度お伝えしますが、光の神殿に出家いたします。」
もしエリオットJr.から拒否されるのであれば、家出したっていいが、その先は恐らくちゃんとした人生はいきられないだろう。
「いいだろう、許可する。」
長い沈黙の後、エリオットJr.は静かに答えた。そういえば、この兄に何かを頼み、「認められた」のはシューにとって初めての事だった。シューは言葉が詰まってうなずいた。
長兄の部屋から出ると、すぐ次兄のオズワルドと顔を合わせた。オズワルドは、目を丸くしてシューを見た。その目線に困惑してると、オズワルドが口を開いた。
「あれ、シューちゃんじゃん。リオ兄様の部屋から出てくるなんて珍しいこともあるんだね。」
オズワルドは誰とでも仲良くなれる明るい男だったが、シューは一番苦手だった。王立魔法学院では現在1年生ながら生徒会で会計を務めていて、ゲーム開始時には副会長を担う優秀な男であることには変わりないが、シューから見た彼はエリオットJr.の腰巾着でしかない。
「オズ兄様にはかかわりのないことです。」
「なにいってんのさ、兄弟でしょ。」
「心にもないことを。」
「…じゃあ、もっと可愛げのある性格になってよ。」
言い返そうと思ったが、何も出てこなかった。面倒くさくなって、眉を顰めるだけでこれ以上オズワルドの言葉を聞かないようにして立ち去った。
「ちょっとだけ、素直になった?」
出家なのだから、最小限の荷物でよいと準備を始めようとしたが、自分の服も鞄の場所もどこにあるか分からなかった。美代子の感覚が色濃く残っているから、できる気がしたのに呆然とするしかなかった。
「し、神殿にいく準備ですよね!すぐします!」
ジャスミンがおびえながら、トランクケースを手に持ってきて準備を始めた。
「君は昨日僕に何されたのか覚えてないの?」
昨日、シューは彼女に辛く当たった。それは「旦那様とは似ていらっしゃらないですが、美しい瞳ですね」と彼女に言われた言葉にコンプレックスを刺激され癇癪を起こした。それが今日なら彼女にとっては褒め言葉だったのが分かるが、昨日のシューには堪え難いものでその一言の為に彼女は頭から熱い紅茶を被った。
「…そ、れは、私の浅慮のせいですし。」
彼女は怯えながらも、手を動かした。使用人は信用できない。
それでも、シューは彼女の力を借りなければ、荷造りだってできやしない。
「…お願いするよ。余計なものはいらないから。」
「はい、お任せください。」
最後だけ何故か力が籠ったジャスミンにその場を任せて、自分の書斎に入った。棚からまだ何も書かれていない羊皮紙を取り出した。
本編終了後のDLCの追加コンテンツで攻略対象となるシューは死亡することはないが、本編のエンディングで投獄はされている。現在の状況だけで、禁術を覚えたり、魔族とのつながりが多少あったりするので、ばれたら投獄される可能性はかなり高い。というか、普通なら処刑レベルだが、そこは父親がどう出てくるのかによるだろう。
「友達、一人くらいほしいな。」
美代子も友達は多くは無いが、ちゃんといた。彼女たちを思い出すと堪らなく美代子の場所に帰りたくなる。
「シューお坊ちゃま、入りますよ。」
執事見習いユーリの声が扉の外から聞こえる。入室許可を告げると、ユーリはフットマンのカーティスを伴って入ってきた。あまり話したことはないが、母屋で仕事をしているフットマンのことは知っている。ユーリは19歳、カーティスは14歳とアルバートの使用人の中でもかなり若い方だ。
「エリオットJr.様からの命で、神殿ではカーティスが護衛につきます。」
「え、別にいらないのに。」
「貴方はアルバートの子息ですから、一人で行くことは許されません。」
本当にシューはこの家の子息といえるのだろうか。屋敷に閉じ込めて、貴族の義務らしいことはなにも教えなかったくせに。
ごねたい気持ちの方がおおきかったが、それで不許可になるのはさらに煩わしい。分かりましたと渋々頷いた。シューの了承を得たユーリはカーティスを置いて自分の仕事へと戻っていった。
カーティスとはフットマンの中でも一番年が近いが、シューは話したことはない。
「災難だったね、僕についてくる羽目になるなんて。」
話す話題もなく、正直にシューは彼に言った。彼は下級貴族の出身で、この屋敷のフットマンで働いているのに、我儘な坊ちゃんの気候についていかなければならないなんてあまりにも可愛そうだ。
「なんで、急に出家なんて。」
ようやく口を開いたと思えば、カーティスはおどおどとしながらも正直に疑問をシューにぶつけた。」
「君を巻き込んじゃったのは謝るよ。でも、この家にはいたくないの。既に腐っているとは思うけど、悪臭がひどくなる前に取り除かなきゃ。」
家を腐っているというわけではない。それを誤解することなく、カーティスは受け取った。
「自分で腐っている、なんて。」
「うん、この家にとっちゃそうでしょ。だから、災難だろうけど、巻き込まれて、カーティス。」
「ああ、いえ、私は爵位なんてどうだっていいんです。両親はアルバート家勤めを喜んでおりましたけどね。」
この世界の大貴族の邸宅は、一つの会社に近い。家令や執事は取締役だから、有能な人が鳴ることが多いし、元は貴族の出身である人も多い。先ほどの執事見習いのユーリもまた区ラディウス家伯爵の次男で、ただ学びに来ているだけだ。シューがユーリに対して敬語を使っているのも、ユーリがシューより地位が上だからだ。
「あの、貴族として、間違っているのは重々承知です。ですが、私はあまり人付き合いが得意ではありませんので、出家するお坊ちゃまについていけるのはありがたいです。」
「確かに貴族としては間違っているかもしれない。けど、僕も人づきあいが苦手だから、分かるよ。」
シューが共感を示すと、彼は心底驚いたようだった。
「あのね、君からすれば使用人を虐めてきた心のない怪物なのかもしれないけれど、僕も人間なんだ。」
ゲームのシューだって、今のシューよりさらに人間不信が悪化して人族を殲滅しようとしていたが、元を辿れば、誰かに見てほしいという承認欲求が暴走していたからだ。シューにだって愛おしいという気持ちもあるし、共感することもある。さらに、美代子の時両親から愛されて育った記憶がある今、前よりももっと人間らしいはずだ。
「すみません、お坊ちゃま。」
「シュー。お坊ちゃまじゃなくて、シュー。」
「え、あ、はい、シュー。」
「うん。」
シューより二つ年上で、背は頭二つ分ほど違うかれだったが、おどおどしている様子を見ていると年上という感じがしない。それが、シューを安堵させた。
変に言葉が通じない人や気の強い人だったら、一緒にいるのは耐えられないだろうから、兄が選んだ人がカーティスでよかった。
「神殿では全然貴族として扱われないだろうけど、よろしくね、カーティス。」
カーティスも出立の準備があるので下げさせ、ジャスミンがしたくしている部屋に戻った。
「あの、引っ越しじゃあないんだけれど。」
ジャスミンが張り切って準備してくれているのは分かるが必要なさそうな水差しや花瓶まで用意されている。
「ジャスミン、最低限でいいんだよ。」
「はい、かなり抑えました。服は20着しかご用意しておりません。」
多い。
「そんなに抱えきれるかな。」
「馬車はまだ積載可能ですよ。」
「え?」
徒歩で行くつもりだったシューは間抜けた声をあげた。今まで何度も家を抜け出して悪事を働いてきたけれど、家族の許可を得て外に出るのは初めてだから、この世界の貴族の感覚が全く理解できない。
「僕、歩いていきます。」
「しかし、ユーリ様からは馬車でとのお話でしたが。」
「ははは…、ユーリのところ行ってくる。」
上級使用人であるユーリは母屋に自室がある。午後を過ぎたこの時間ならば、彼は書類整理で自室にいるはずだ。扉を叩いて、名を告げると彼は快く中へ招き入れた。ユーリの穏やかで落ち着いた声は嫌いではないが、怖い。家令や執事に対して尊大な態度がとれるほどシューは大物ではなかった。。。
「私を尋ねるなんて珍しいですね。何かありました?」
「明日の件なのですが。」
「ちゃんと馬車の手配をしておりますよ。何分急なことでしたので一つしかご用意できませんでしたが。」
明日はエリオットJr.やオズワルドの通学に使うはずだから、普段使うことが少ない馬車を出すことになってさそ厩は大変だっただろう。
「僕は歩いていきます。」
「うーん、普段歩かれていないお坊ちゃまには遠い距離だと思いますよ。」
「大丈夫です。普段家庭教師や使用人たちと鬼ごっこしておりますし。」
「…褒められたことではありませんね。しかし、アルバートの人間を歩かせるわけには。」
と、話しているとユーリは何かに気づき焦り始めた。
「明日、メインストリートでシャルル王子の視察があります。警備も人も多く集まります。裏通りを通ったとしても、最終的にはメインストリートに出なければなりません。1日遅らせますか…。」
「ですので、馬車は結構です。清貧を貴ぶ神殿に乗り付けるなんて嫌味みたいですし、少しくらい歩いた
ところで、僕の顔は割れておりませんから大丈夫だと思います。」
「…確かに、神殿の仕事で外を歩く可能性がありますし、慣れるという意味でも歩いた方がいいかもしれません。」
ユーリはしばらく悩んでいたが、最終的には歩いていくことを了承した。
「護衛は余りつけられません。歩いている時は従者のふりしてゆきなさい。道に関してはカーティスも詳しくないでしょうから、つける下男によく聞いてください。案内にはしっかり従うことです。」
ユーリの説教のような注意事項を夏休み前の終業式の校長先生の話を聞くように聞いた。
この物語に出てくる人、出来事は全てフィクションです。
もし生きている人や死んだ人によく似ていたとしても、全くの偶然です。