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薪割り

 「試練と行ってもそう身構えることはしなくて良いですよ」

そう車椅子の少年は答えた。


 その前に私の自己紹介を改めてしなくてはいけません。

私の名前はロフィーヤ。

エリートたちが集まる勇者の学校を首席で卒業したエリート中のエリート。

まだ勇者としての実績は無いけれど私ほどの実力があるならばこれからの将来は薔薇色の世界だろう。

自分で言うのも何だけど容姿も見目麗しく端麗だし性格もおしとやかだし。

そのせいで何人もの男たちを振ってきた。

(すいません、調子に乗りすぎました)


 今、この私に試練が訪れようとしています。

でも実力に自信のある私はそんなことでたじろぎません。

何しろ今までの(学校での)実績が私に余裕を持たせるのです。

並の男子には出来ないことを幾つもこなしてきた私が出来ない試練など無いと思うのです。

「さぁ、どんな試練でも来い!!」と心の中で叫んだ。


 車椅子の少年は

「試練と言ってもたいしたことをする訳ではありません。

僕1人だと日頃の家事が大変なので少し手伝ってもらうだけです。

そうだ、ちょうど薪割りをするところだった!!

あなたには薪割りをお願いしましょう」


 この答えにはかなりの拍子抜けだ。

薪割りぐらい私にだって出来る。

ていうか、日常生活で必須のスキルだ。

勇者じゃなくたって出来る。


 そう思っていると少年は

「勘違いしないで下さい。

ただの薪割りじゃ有りません。

今から1本の薪を4等分に割ってもらいます。

その数、1000本。

それを道具は使わず10分以内で割り終わり、そして100メートル先の倉庫の中に入れて下さい。

それが課題です。

もちろん、斧や一輪車(猫車)の使用は厳禁です。

この課題をクリアしない限りおじいちゃんに会わすことは出来ません」


 いきなりの課題に面食らった。

計算すると薪1本当たり1秒もない。

しかも斧を使ってはいけないと言う縛りだ。

私はどうしたら良いものかと考えあぐねてしまった。


 そこで困っている私に少年はヒントを授けた。

「あなたは勇者であると言うことは能力者でもある。

あなたにはあらゆる能力が備わっているはず。

その能力を使ってこの課題を達成するのです」

そこで私は思いついた。

「カット」という能力だ。

いわゆる手刀に近いが手にオーラを貯め堅くしたもの。

手が一瞬で刃物に変化する代物だ。

(見た目は変わらないが)

そしてもう1つの能力「スピード」という能力。

この能力を使うと時間の流れが1/10まで遅くなる。

(それでも1本の薪に必要な時間6秒ぐらいだが)

この2つを使って課題のクリアを試みた。


 私は一生懸命、精根尽きるまでこの課題に取り組んだ。

なんて長い10分なんだと私は思った。

(実際、時間の流れは1/10なのだから体感時間は1時間40分ほど)

そして私は課題の薪1000本を割ることが出来た。

しかし、少年は

「凄いですね。

制限時間内で薪を割り終えた人を初めて見ました。

でも、残念。

課題は100メートル先の倉庫に仕舞うまででしたよね。

ということで課題はクリアならず。

おじいちゃんに会わせることは出来ません。

どうぞお帰り下さい。

いつでも挑戦をお待ちしております」


 私は帰されてしまった。

でもこれでは諦めきれない。

私は毎日通った。

その度に課題はクリアできず。

それでも毎日通った。


 そして私は成長した。

初めは薪割りだけで精一杯だったのだが次第に薪を運ぶ余裕が出来た。

薪を運ぶ時は「キャリー」という能力を使う。

その能力は一気に100キロぐらいを持ち運びできる能力。

それを何往復もしながら運ぶのだ。

それでも課題はクリアできない。

3つの能力を使っても。


 それでも私は毎日通った。

能力の精度も上がった。

そして1ヶ月後にはようやく課題をクリアすることが出来た。


 少年は

「こんなに根気強い人は初めてだよ。

大抵の人は1回で諦める。

無理ゲーだと言ってね。

でもあなたはこの一ヶ月間でかなり成長した。

正直感服です」

と驚いていた。

続けて少年は

「でもあなたはえらく遠回りの方法を用いていた。

僕だったら半分の5分でこの仕事を終えます」

そう言って私の課題をし始めた。

彼なりの解答らしい。


 彼がし始めたことに私は言葉を失った。

彼は

「まず、薪を割ってから運ぶのでは時間がかかりすぎる。

このように薪1000本を持って倉庫の前に持って行くんだ」

と言って彼は1000本全ての薪を空中に浮かべて運んでいった。

そして倉庫の前に着き、薪を地面に置き始めた。

その薪は地面に着いたとたんに自動的に4分割される。

まるで最初から割れていたかのように。

そしてその割れた薪はまた自動的にそのまま倉庫の奥に消えていくのだ。

全ての薪が消化されるのに合計で3分もかからなかった。

少年は

「このように倉庫の前で薪を割れば移動距離は短縮できる。

初めからこのようにすれば良いのにと思いもどかしかったよ。

しかし、なぜ挑戦者は運ぶことを先に考えないのか僕には不思議だよ」


 私は正直開いた口がふさがらなかった。

今、私の目の前で起きていることは夢の中の出来事なのか。

私が1ヶ月かかったことを意図もたやすくやってのけるこの車椅子の少年は何者なのか。

私の目の前で起こったことは達人レベルと言うよりも伝説レベルだ。

え、もしかしてと私ははっとした。


 車椅子の少年はそれに気づいたようで

「お気づきのように僕があなたの探していた伝説の勇者です」

私はかなり驚いた。

伝え聞いた人物像とはかなりかけ離れていたから。

どうやらその容姿にも訳が有りそうだ。

私は伝説の勇者に弟子入りすることを決意した。


 それにしても私が毎日のように割った大量の薪、一体何処へ行ったのか不思議でしょうがありません。


 


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