水海(みずうみ)
師匠の性別が安定しない。
日によって男の子だったり女の子だったり。
師匠によるとその日の気分によって性別を変えるのだそう。
ファッション感覚なんだそうだ。
私は男の子の師匠が見たいのに。
それに私の修行相手は女の子ばっかし。
全く張り合いがない。
修行内容はハードだけど全くときめかないというか。
やっぱし師匠みたいなイケメンショタと修行し寝ければと思うこの頃です。
でも師匠は忙しいのか最近留守にすることが多い。
何しているのか知らないけど。
ある日、私は師匠に声をかけた。
「師匠、最近私に対して修行をしてくれないじゃないですか。
久しぶりに師匠と修行したいなと思いまして」
「そういえば全然修行してなかったな。
・・・うみにでも行ってみるか」
私はすかさず
「海だったら絶対に水着ですね。
水着で修行しましょう。
あ、言い忘れてましたが師匠は絶対男の子の姿で来てくださいね。
私、女の子の水着を愛でる趣味はありませんので」
「え!?
愛でる?」
「師匠はあまり深く考えないでください。
とにかく男の子で来てくださいね。
私も目一杯おめかししますから。
私の水着姿に悩殺しないでくださいね」
「はぁ」
私はその日が楽しみでしょうがなかった。
約束の日に向かって可愛い水着を何着も買ったり、何ならその日の服まで買ったり。
でも約束のその日は私の期待を見事に裏切った。
私たちは日が昇る前に家を出発した。
「師匠、いつになったら着くんですか?
ていうか、さっきから山の中うろちょろしてますよね。
どこに海があるんですか?
この山を越えるんですか?
越えるにしても私たち山の中、迷っていませんか?
ていうかはっきり言って遭難していませんか。
車椅子持つ手もかなり痺れているんですけど」
「だから、車椅子は自分で動かせるって行っているじゃん。
手伝ってもらわなくてもいいって」
「師匠の面倒を見るのは私の仕事。
それはお構いなく」
「好きにすればいいさ。
それよりもさっきから海って言っているけど誰がそれを言ったの」
「それは師匠が海に行くって言ってたじゃないですか」
「誰が海に行くって言った?
僕は湖に行くって言ったつもりだけど」
「湖なんですか?
私はてっきり海だと。
どちらでもいいですけど」
そして私たちは険しい山道を何時間も掛けて歩いた。
何回か死にそうな目に遭ったけど。
そして秘境の湖に着いた。
昼前ぐらいだろうか。
私はヘトヘトだ。
師匠は
「それじゃぁ、修行を始めよう」
「ちょっと待ってください。
1時間休ませてください。
もう体が動かないので」
そして1時間、無言の時間が過ぎた。
ていうか、私はすっかり眠ってしまっていたようだ。
師匠に起こされて修行が始まった。
師匠はすっかり水着に着替えていた。
私も森陰に隠れて可愛い水着に変身した。
でも師匠は私に興味なさげに
「それでは修行を始める。
僕が今持っている青い宝石を今から湖に投げ入れる。
君はそれを探して持ってくる。
ただ、それだけの修行だ。
但し、注意事項がある。
この湖は霊気が満ちていて例え水泳の達人でも溺れてしまう。
まずは湖の霊気に慣れること。
そうしないと溺死するから」
私は緊張感を持った。
湖の霊気に慣れる手順は体全体に湖の水を浴びること。
最初は冷たいがその冷たさが感じなくなるまで体全体に水を浴びる。
冷たさが感じなくなったところでその水を飲む。
この湖の水はめちゃくちゃ苦い。
それを苦くなるまで飲み続ける。
途中、何度も吐いたがようやく苦く感じなくなってきた。
そしてやっと湖の中に入った。
確かに普通に泳ぐよりも非常に泳ぎにくい。
私は沈んだり潜ったりしながら師匠が投げ入れた宝石を必死に探した。
そしてやっと見つけたときには日が暮れて夜になっていた。
師匠は火を焚いていて何か料理をしてくれていた。
「凄いね。
まさか、1日で修行をマスターするなんて思ってもいなかったよ。
今日は疲れただろう。
よく食べてよく寝ろ。
明日に備えてね」
私は眠りに就いた。
目覚めると師匠が眠そうな目を擦りながら
「やっと起きたか。
昨日の修行の疲れもあったんだろう。
もう昼過ぎだ」
「師匠はずっときてたんですか?」
「一応ね。
ここは聖域だからめったに魔獣は出ないけど見張りとしてずっと起きてたんだ」
私は師匠に感心した。
そして師匠はやっぱり優しいし頼りになる人だなと改めて思った。
師匠は
「じゃぁ、昨日の修行の正解を教えるね」
と言うと師匠は青い宝石を湖に投げ入れた。
「まず、最初に言うと湖の霊気に慣れる必要性はない。
昨日あれだけ苦しい思いをするのは実は無意味なんだ。
だから、あれだけの苦しみによく耐えれるなと僕は感心していたよ。
今までの修行の成果がなければ多分死んでたと思う。
僕は信じてたから何も言わなかったけど。
まぁ、湖の霊気に耐えうる体でなければ次の修行にはすすめないけどね」
私はそんなやばいことをしていたのか。
ていうかそんなやり方をすすめないで欲しいんだけど。
師匠は慌てて
「修行の成果が分かってやっていることだからね。
絶対に死なないことは分かっていたから。
万が一の時の蘇生の準備もしていたし、弟子は絶対に死なせないから。」
いや、そんな言い訳をされてもと私は思った。
そんなこと言わなくても私は師匠を信頼してますから。
師匠は
「で、正解なんだけど」
と言った後何かの呪文を唱えた。
その数秒後、湖が綺麗に真っ二つに割れて道が出来た。
私が呆気にとられていると師匠は
「この湖は浅く大体水深20メートルぐらい」
そう言うと師匠はその割れた湖に車椅子ごとダイブした。
私は思わず
「師匠、大丈夫ですか?」と尋ねた。
「このぐらいの高さだったら全然大丈夫」
師匠がそう言うと何の不安もなく水のなくなった湖底に着いた。
そして、宝石を見つけると今度は車椅子ごと空中を飛んで私の前に戻ってきた。
そして湖は正常に戻った。
元の湖に。
師匠は
「こうすれば簡単に宝石を見つけることができるんだ」
「出来るか!!」
私が思わずツッコむ前にいつの間にか後ろにいる師匠の後ろにいる女性がツッコんでいた。
見たことのない美女だ。
「またてめぇか。
懲りねぇな。
この湖は私の住居。
別に泳ぐのは構わない。
湖を真っ二つに割るのはルール違反だろうが」
私は呆気にとられているとその人物は態度を変え
「申し遅れました。
私はこの湖の女神レミネーと申します。
この姿を見たと言うことはあなたにも女神の加護を授けましょう。
加護の中身はしばらくすればわかります」
そう言うと女神は湖の底に消えていった。
師匠はぼそっと「加護じゃなく呪いだろ」と言っていたのが気がかりだったが。
とにかく私たちは修行を終えやっと家に帰って来れた。
クタクタになっているところをとある訪問者がやって来た。
その訪問者はドアを開けるなり
「何だこの地獄のような光景は」と呟いた。
その訪問者は師匠とは全く違うタイプのイケメンショタだった。




