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4.光桜子

顔を上げたらジョーくんが、私が何よりも誰よりも愛しているジョーくんが、私の名前を呼んで連れ出してくれた。


とっさに鞄をつかみそのまま靴も変えずにタクシーの中に連れてこられて後部座席で二人座っている。

ジョーくんは運転手に何か伝えた後どこかに電話を始め、そのまま車も発進した。


これは夢なんだ、きっと私はさっきの害獣にやられててその走馬燈なんだ。もしくは薬の効果が切れたかな?と思ってポケットの中から音楽プレイヤーを出し変形させてコンパクトを開けた。


コンパクトの画面の中には桜色のハムスターが寝ていた。上には赤文字で薬効期限アト30ニチと表示されている。やっぱり夢じゃなかったか。うるさいハムが起きる前に閉じよう。


コンパクトを音楽プレイヤーに形を戻すと電話が切れたのかちょうど横を向いたジョーくんに「あ、それ僕らがCMやってるやつじゃん」と言われて心臓が跳ねた。

頑張ってバイトして近所の家電店になぜか入荷した1台を手に入れたのだ。こういう時田舎は得だ。


落ち着いてジョーくんを見てみる。本当にイケメンだ。

サラサラの髪、男性にしては大きい目。白くて荒れてない肌。でも骨格はしっかりしてるし長身のメンバーに囲まれてるからわかりにくいけど十分身長も高い。


幼いころにディズニーランドで見た王子様が隣にいる。そんな感覚。


とまあぼーっとジョーくんを眺めていたら、私の視線に気づいたのかにっこり微笑んだ。

私は、世界最高峰の美形の笑みに微笑み返せるほど機転の利く人間ではないので俯いた。心配になって横目で確認したら気分を害したわけではなさそうで安心した。


そういえば私は彼に一言も話していないなと思い「あの」と問いかけた。これから行く場所を問いたかったのだが窓の外を見ると見慣れた風景。タクシーは私の家の前で停まった。


降りるように促され帰宅する。家には母と姉がいた。


まず姉が「え?ジョー?」と気づいて驚いた。母はこういうのに疎いが「クリーニング業者の人?」となんとなく気が付いたようだ(ジョーくんはこの前のドラマで清掃員役をやっていた)



「突然の訪問失礼します。」

ジョーくんは頭を下げた。母と姉もつられて下げる。


「本日は娘さんとの結婚をお許しいただきたく参りました」

曇りのない笑顔でジョーくんは言い切る。


慌てたのは私たちだ、姉は「え?なにこれモニタリング?」と本当とは思ってないし、母は「あんたいつの間に男作って本当にまともじゃないあの男の血だ」と露骨に嫌悪感を出した。


ジョーくんは母の発言を聞いていたのか「奥様にとって、桜子さんは気分を害する存在なのですか?」とはっきり言った。


流石に私も姉も直球すぎて驚いたが、母は怒りに任せてつづけた

「はい。その子は私の汚点です。作り出してしまった私にも責任はありますので家族として育てていましたが、主人や望がこの子と一緒にいるだけで気分を害し私を責めている気になって仕方がないのです。」


望は姉の名だ。姉はすかさず言う。

「お母さんは悪くないよ。昔あの男にひどい目にあっただけじゃん。この子が空気読まずお母さんのお腹に宿ったのが悪いんだよ」


姉は両親の愛を全て受け取り素晴らしい孝行娘となった事がわかる一言だ。

いつものことのなので私は無言だったけどジョーくんは微笑みを浮かべながらも空気が重くなった気がした。


「では、ご家族にとって必要のない桜子さんは。僕の元に来ていただくということでいいですよね。」

そう言ってスマホでどこかに電話を掛けると、玄関チャイムが鳴る。私がドアを開けに行ったらスーツの男の人が大荷物を抱えて二人入ってきた。母と姉に渡した名刺には弁護士の文字。


「お母様には、桜子さんとの結婚、今の高校の退学、離縁をお願いしたいです。」

そういって沢山の書類を弁護士から受け取り、ジョーくんはお母さんに渡した。


「そういえば!僕としたことが、ご挨拶にお土産を忘れていました。」

スーツの人からトランクを受け取るジョーくん。母と姉に見えるように中身を見せた。二人とも一瞬固まったがその後は姉に「望、印鑑探してきて!実印!あとお父さんに電話!あの人私の言うことには反対しないから!!」と叫ぶと母はすごい速さで書類を書き出した。


ジョーくんは隣の私の耳元に口を近づけると「もう家には戻らせる気ないから。どうしても必要な物だけまとめて持ってきて。」と囁いた。


書類と連絡で注意がこちらに向いていないので私は席を立つ、自分の部屋はないので納戸で寝ているが、キャンプテントなどの中にこっそり暗証番号付きの金庫を置いている。あとは着替えと教科書くらいで私の荷物は終わりだ。


ジョーくんグッズは、持ってると母や姉に生意気と言って壊されたし、それで学校に置くようにしたのに阿部が破壊したので今は手持ちにないのだ。サインくらいもらいたかったなとか思ったけど冷静に考えたら彼は私の旦那様になるのだ。サインなんていくらでももらえる。


とそこまで考えてみて初めて私は事の重大さに気が付いた。

私はいまの日常全て無くしてジョーくんの元に行く・・・のだよね?


突然大慌てで鏡なんか見て髪形を整えようとしたりする。髪はボロボロ・・・いや全てがボロボロだ。今日は登校時に害獣と戦ったり阿部に絡まれたりで散々だった。恥ずかしい・・・。ジョーくんの前でこれ恥ずかしい・・・・。


一人納戸で落ち込んでいると「終わったー?」とジョーくんがやってきた、まとめた鞄を持って立ち上がるとひょいと私の手から鞄を取り上げるジョーくん。


「必要なものは全部書いて貰ったからじゃあ行こうか」と私の手を空いている手で掴み歩き出した。

ジョーくんが帰る旨を伝えても、母も姉も玄関には来なかった。先ほどの二人となにか話している声が聞こえてくる。心なしか二人の声が明るい。


私がいなくなることで二人・・いや父もか。。が幸せになれるんだなという事実に何も感じないわけではないけれど。素直に家族の幸福が祈れるのはいま私の手を引いてくれているジョーくんのおかげなのか。



16年間過ごした家にさようならするのはなんだか不思議な感覚だ。少し切ない気もしたけれど、「もう行こうよ」と腕を引かれたので家に背を向けた。


お父さん、お母さん、お姉ちゃん。家族として置いてくれてありがとうございました。


そう心の中でしっかり呟いて、もう振り返ることはしなかった。




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