1.光桜子
Q あなたが自分を負け組だと自覚したときはいつですか?
朝、起きる。自分の部屋などない。音楽が聞こえる。違う音楽じゃないか。男のいびきだ。初めて聞くかも。姉さんまた彼氏代わったな。
廊下に出たらスーツを着て無駄に身長のある男とぶつかった。舌打ちされる。無言で通り過ぎる。追いかけてきたおばさんが私の腕をすれ違いざまに思いきりつねる。出血する。バンソーコーあったっけ。ブラウスが汚れてもセーターで隠れるからいいか。
これが私の家族との心温まる風景。生まれて16年ずっと続いている。
学校に行くためにバスに乗る。先に乗っていた女子生徒たちが明るく話している。
「ねえねえ昨日のツイ見た?ハリーったら深夜に急に自撮り投稿とか本当自由すぎイケメンすぎ!!!」
「今見た!!!!この服ジョーが前着てたよね!!もしかして二人一緒にいたとか!?!!?深夜なの に!!」
「ハリーほんとジョーすきだよね!!MVでジョーがGと手を繋いで歩いてたのにらんでたのあれ現実でもそうだったり!!???」
「いや私は三角関係に悩んだジョーをチャーリーが横からかっさらうに一票!?!?」
全く知らない人が聞いたら全員男だと思わないだろうなと思いながら私は遠くから話を聞いていた。彼女たちの話の内容はわかるが私は友達にはなれない。本当は話せる仲間が欲しいけど。
人がおりて席に座れたので鞄から音楽プレイヤーを引っ張り出しイヤホンを耳にかける、再生ボタンを押せば大好きな彼らの歌声。メインボーカルのGの外見からは思えない低く落ち着いた声。ハリーの主旋律で彼のダンスも浮かぶ躍動感。チャーリーとピッピの軽快なラップ。そしてジョーのきれいな高音の歌声。私の何よりも大好きな人たち大好きな音楽。
久しぶりに現実を忘れられると思ってたのに音楽が突然止まった。プレイヤーの画面には「害獣出現。スミヤカニショリ」の赤い文字が延々と耳障りな警告音とともにぐるぐると回りだす。
小さくため息をついてプレイヤーの画面を押すと光とともに変形してコンパクトになる。きれいな桜色。好きじゃない色。私には似合わない。小声で「武装」と呟いてコンパクトを開くと光に包まれる。
大きい帽子、ヒールの高いブーツ。胸に大きい赤いリボンと胸の部分だけ白いブラウスでスカートは幾重にも重なり重いのにドロワーズも履いている。全て桜色、私が決めたわけじゃない。
最後に胸のリボンに手を当てて引っ張る
「・・・っ。くぅ・・」
酸素欠乏感とともに体から出てくるのは長い鎌。柄にかわいい細工があるけど命を刈り取る非合理的な武器。
呼吸を整えてバスの席から上に飛んで車体の屋根にのぼる。
ここまでの行動は誰も見ていない。いや認識できない。
武装した瞬間。魔法少女の存在はこの世界から、人々の記憶から認識から一旦消滅する。
これが私の魔法少女としての姿。
叶わない願いと引き換えに得た外れくじだ。