助言
近藤の部屋を後にした山南。自室に戻ろうとすると、縁側に腰をかけ、暗い顔をしたなつの姿を発見した。
「なっちゃん。」
なつが声のする方を振り向くと、そこには優しい笑みを浮かべた山南の姿があった。いつもなつが悩んでいると、必ずこの顔で聞いて助言をくれていた。厳しい目で助言してくれる土方に対し、甘く助言してくれるのが山南であった。
なつはこの二人が大好きだった。
「どうしたの?何でも聞くよ。」
「山南さんには何も隠し事できないなぁ。」
「沖田くんの事だろう?」
やはり全部分かってくれている。
「あたし…総司に酷い事言ったんです。芹沢さんに町の人々からお金を巻上げさせて、自分ら の手は汚さずに生活しているのはもっと陰湿だって…。」
「…反論はできないよ……確かにその通りだ。」
山南はひどく辛そうな顔をした。
「でも、考えているんでしょ?このままじゃいけないって…」
「もちろん、このままの生活をしていたら、何の為に我らが京へ来たのか…。でもなかなか良 い案が浮かばないんだよ…」
「山南さんでも分らない事、あるんですね。」
なつにとって山南は、何でも知っている尊敬すべき人物であった。その山南にも分からない事があるという事がなんだかおかしかった。
このままでは話が続かないと思ったなつは、声の調子を明るく変えて山南に向き直った。
「ねぇ、山南さん!壬生浪士組が京の治安を護るって誰が決めたの?」
「…??…私たちだけど…?」
なつの疑問は尤もだが、山南はなつの変わりように驚いていた。
「じゃあ、壬生浪士組が出来る前は誰がその仕事をしてたの?」
「…会津の人だよ。京都守護職の………」
山南の言葉が止まった。
「何で会津の人が京を護って…「それだ!!」
「?!?!?!」
山南の突然の大きな声に驚いたなつ。山南は滅多に人を驚かすようなことはしない。
「それだよ!なっちゃん!!京都守護職の松平容保侯に近藤先生のお気持ちを伝えるんだ!あ の方なら近藤先生の想いをきっと分かってくれるはず…」
山南はひとりで納得している。普段の山南からは考えもつかないほどの興奮ぶりに圧倒されるなつ。言葉が出ない。
「そうとなったら早く伝えなければ…ありがとう!なっちゃん!」
山南は踵を返し、元来た道を戻り、近藤の部屋へと急いで行ってしまった。
「いえ…どういたしまして…」
なつの返事は山南には届かなかった。