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策謀対決

 平助には、食事の用意が気になるからとその場を離れ、近藤の部屋へと急いだ。永倉と斎藤を引き込む理由が分からない。伊東の魂胆が見え隠れしているようで嫌な胸騒ぎを覚えた。


「それは本当の話か?」

 近藤の部屋にいた土方が真っ先に飛びついた。

「平助さんが言ってたから間違いないと…おかしくないですか?御陵衛士って言ってたけど、本当にそれだけが目的かな?」

「とりあえず、伊東さんから話があるまで待ってみよう。確かに何か裏が有りそうだ。よく知らせてくれたな、なつ。」

「…大丈夫ですか…?新選組を潰されたりしないですか?」

 不安げななつを安心させるように近藤は呟いた。

「大丈夫だ。俺がそんな事させない。しかし永倉くんと斎藤くんを引き入れるとはどういう事だろう?」

「恐らく、腕だろう。もし俺らと対峙する事があればあの二人は敵にしたくない。」

 なつの予感は当たっていた。総司は腕はあるが、近藤、土方から離れるはずがない。そうなると永倉、斎藤を入れておけば間違いはない。

『対峙する』という言葉になつは考えた。


   平助さんと殺り合う事になる……


「駄目ですっ!!」

 突然、なつは立ち上がった。

「駄目です!分離させちゃいけない!平助さんがっ…!!」

 近藤も土方も考えている事は同じだった。平助だけは助けたい、ということ。辛苦を共にしてきた平助はなんとしてでも残ってもらいたかった。伊東とは(いず)れ必ず何らかの(いさか)いが起きるはずだ。その時に平助が伊東側についているのは何ともやりにくい。

「あたし、何も分からなかったから伊東さんについて行く事を薦めちゃったんです…」

「…出来るだけ伊東さんには思い止まってもらうよう説得する。心配するな、なつ。」

 近藤はなつの肩に手を置き、子供に言い聞かせるように目線を合わせ言った。不安は消えない。しかしここは近藤に任せるしかなかった。



 一方、平助はすっかりなつとの恋仲気取りだった。左乃助とおまさが仲良く昼食を食べているところへ浮足立った平助がやってくる。おまさは先ほど、なつを探しに厨まで来た平助との違いに目を見開いていた。

「原田さんとおまささんは夫婦(めおと)にならないんですか?」

「いや〜実はね〜、この間祝言あげたんだよね〜。これから局長達には報告するつもりなんだけどよ。」

 おまさの肩を寄せ、にんまりと笑った。

「えーーー!!!!そうなんですか?!早く言って下さいよー!!」

「平助さんはどないなんどす?好いてはるお方いはるの?」

 おまさの問いに平助はポリポリと頭を掻きながら照れくさそうに、しかし聞いてくれと言わんばかりに言う。

「はい〜私もそろそろ身を固めようかと思いまして…」

「え?!誰だよ!お前、なつに惚れてたんじゃなかったのかよ!」

 左之助が驚くのも無理はない。

「はい。ようやく実りました。なつちゃんと…」

 平助の返答に、左乃助とおまさは背を向け、ヒソヒソと耳打ちし合う。

「なつさんて沖田さんと恋仲なんと違うの?!」

「そうだよ!もしかして平助、奪ったのか?!」

 浮かれる平助の横で夫婦になったばかりの二人がなつと平助の関係に疑いが向けられていた。



 永倉、斎藤は伊東に呼ばれていた。帝が崩御した翌年の正月ということで派手な宴会は遠慮するようにと隊内でも言われていたのだが、揚屋の一部屋を借り、正月料理に舌鼓を打つ伊東の姿に永倉と斎藤は不信感を募らせた。

「お二人共、そんな疑いの目を向けずに飲んで下さい。」

 伊東は怪しい笑みを浮かべながら、二人に酌をする。

「私は策は嫌いです。お話があるなら単刀直入に言っていただきたい。」

 永倉の一言に伊東はフッと笑うと話し始めた。

「分かりました。真意をお話します。我々は新選組を離れる事を考えております。ついては永倉さん、斎藤さんにも我々と一緒に来ていただきたい。」

「何故新選組を離れるのだ?」

「正直に申し上げます。今の新選組は綻びだらけだ。私達は新しい新選組を作り、御陵をお護りする御陵衛士となるのです。それにはお二人の力が必要なんです。」

 『御陵衛士』という聞きなれない単語に眉間の皺を刻ませた。永倉は伊東の心を見抜くような視線を向け、そして伊東も物怖じせずに見つめ返した。

「少し時間を下さい。我々にも考える時間が必要だ。」

「心得ました。では五日お待ちします。それでよろしいでしょうか?」

 永倉と斎藤はそれを了承した。しかし二人の伊東への疑いは消える事はなかった。

 斎藤は帰宅後すぐに、その知らせを近藤の元へ持ってきていた。なつもそれを知る一人として土方に呼ばれ同席していた。

「伊東に御陵衛士に加わらないかと誘われた。」

「それでどうしたんだ?」

「五日の猶予をくれと永倉さんが頼んだ。」

 淡々と、重要なことだけを紡ぐ斎藤の口を皆が注目していた。

「永倉くんは加わりそうか?」

「いや…俺も永倉さんも伊東には不信感がある。」

「そうか…」

 永倉の態度に安心していた。万が一にも平助と永倉の二人が抜けることになれば、大幅な戦力減となる。そして対峙するとなった場合、強敵になってしまうのだ。

 やはり伊東は隊を離れ、御陵衛士という名の何かをやるつもりだ。もしかすると、幕府に手足となり働く新選組に見切りをつけ、敵対する薩長と手を組むつもりなのだろうかと、なつは心の内で思っていた。もしそうとするならば、新選組は伊東一派を壊滅させなければならない。そこに加わる平助もそう…。

「斎藤、お前は御陵衛士に加わってくれ。」

 何か考えていた土方は、口を開くとそんな言葉を並べた。

「は?!何言ってんの?!土方さん!」

「うるせぇな!最後まで話を聞け!斎藤は間者として御陵衛士に加わるんだ。奴らの動きを逐一俺に報告してくれ。それから、万が一にも新選組と敵対することになれば平助を護ってくれ。」

 土方のとんでもない発言の裏にそんな事が隠れていたとは…鬼だ鬼だとばかり思っていたこの人の中にも、人としての心を持ち合わせていてくれたことになつは感情を抑えられなくなった。

「土方さん大好き〜〜〜!!!!」

 なつは土方に飛びついた。

「っ!!おまっ!!やめろ!こんな時に総司が来たらどうすんだよ!」

 そしてこんな時に限って総司は入ってくる。

「呼びました?………………ひ〜じ〜か〜た〜さ〜ん?!」

 中の光景に総司は目を見開く。

「俺じゃねぇよ!こいつがっ!」

「総司〜…土方さんが無理矢理…」

 明らかになつが土方に抱きついていたのだが、総司にはそんな事関係ないようで、土方を睨みつける。この三人のやり取りを遠くから見つめる近藤、斎藤なのであった。


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