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二人の苦悩

 なつが目を覚ましたと聞き、土方が源三郎を伴い部屋へやって来た。

「なつ、入るぞ」

「……………………」

 目を覚ましたと聞いたのに中からは返事は返ってこない。襖を開けると、布団を頭から被り、丸まったなつの姿があった。

「どうした?気分でも悪いか?」

「どこか痛いとこでもあるのか?」

「………心が……」

 ボソッと呟いた。

「は?」

「心が…痛いです…」

 土方と源三郎は顔を見合わせ、溜め息をついた。長年共に暮らすから分かる意味だった。理由は一つしかない。総司だ。

 土方は源三郎になつを任せ、総司の部屋へ向かった。


   はぁ…俺は何でこんなどうでも良い事で手をやいてんだ……


 土方はこう思っていても、実際は誰よりもなつと総司に幸せになってもらいたいのかもしれない。源三郎はそんな土方がほほえましかった。隊士達からは恐れられている土方。しかし総司となつの事になると人が変わったようになる。それは昔も今も変わらない。大きくなった新選組で変わらない所を見つけると嬉しくなるのだった。

「総司、入るぞ。」

 土方が総司の部屋の襖を開けると、なつの部屋で見た光景と同じものがあった。布団を頭まで被り、喋ろうともしない。


   …ったく…どこまで似てんだよ、こいつら…


 土方は総司の布団の横に腰を降ろした。

「なつに何を言った…?」

「…何も言ってないです。」

 溜め息しか出ない。

「お前、どうしたいんだよ…?」

「何がですか…?」

「なつと本気で終わりにするつもりか?」

「そんな訳ないじゃないですか!」

 総司は布団からガバッと起き上がり、土方を見た。

「私は…なつと夫婦(めおと)になりたいぐらいですよ…」

「じゃあなったら良いじゃねぇか。」

「駄目なんです。それじゃあなつは悲しむ。残された者の悲しみを味わわなきゃいけないんです…」

 そう言うと総司はまた頭から布団を被り、何も話さなくなった。土方は聞いているのか聞いていないのか分からない総司に話し始めた。

「お前、病の事を言ってないだろ?なつに話せ。少しはなつに選択肢を与えろよ。なつの立場になってみろ。一方的にさよならじゃ納得できねぇよ。」

 土方はそう言うと、布団の上から総司の頭をポンポンとし、出て行った。

 総司は布団の中で土方の言葉を繰り返していた。

『なつの立場になってみろ。一方的にさよならじゃ納得できねぇよ。』

 言われてみればそうだ。もしなつの立場で何の理由もなく別れを切り出されたら、悲しいだけではおさまらない。しかし恋仲の相手に労咳だと告知されたらどうだ?出てくる感情は何だ?悲しみ?絶望?同情?

 なつの事だ。何ともないふりをする。でも苦しませてしまわないか?


   何で労咳なんてなってしまったんだ…


 総司には悔しさが溢れていた。



 土方はなつの部屋へ戻っていた。なつは相変わらず布団を被ったまま。源三郎は近藤に呼ばれたようでいなかった。

「なつ、起きてるんだろ?ちょっと話を聞け。」

 なつはピクリと動いた。

「お前が総司への不信感があるのは分かってる。だけどあいつも悩んでるんじゃねぇか?」

「土方さんは何を知ってるんですか?あたしが知らない事を土方さん、知ってるでしょ…」

 なつの声は震えている。泣きたいのを必死に我慢しているのだろう。

「…知ってる。だけどそれは本人から聞け。俺が言う事じゃない。」

 そう言うと土方はなつの部屋を後にした。

なつは考えていた。土方は知っているのに自分は知らない。総司の事で知らない事は無いと思ってた。

 他に女ができた?土方ならまだしも総司に限ってそれはない。

 何か罪を犯した?それなら本人に聞く前に噂で流れるだろう。


   あたしに知られたらまずい事。そういえば総司、ずっと風邪を引いたままだ。

   もしかして…何か病なの…?


 女の勘はよく当たる。当たって欲しくないものまで当たってしまう。なつは突然不安になり、総司の部屋へ駆け出した。


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