新たな新選組
西本願寺へ移転した新選組の屯所では、威勢の良い掛け声が聞こえている。稽古場所も大きくなり、また隊士も増えたため賑やかさがかなり増した。そのため、女中がなつ一人ではまかないきれず、永倉の女であるおそのは近くの家を借り、左之助の恋仲のおまさは自分の店以外の時間を手伝ってくれる事となった。この二人には、なつが密偵をしている事も話されている。
大量の洗濯物に囲まれながらおそのは言った。
「こないに沢山、終わるめどがつきませんなぁ。見てるだけで嫌になりそうや…」
「あたしも思います。でも喋りながらだったら以外に早く終わりますよ。一人でやってたら投げ出したくなるけど。」
なつは笑いながら言った。今まで、一人でやる事もあったが、総司や平助、平隊士達が手伝ってくれる事も多かった。
「必ず暇そうにしてる隊士いますから、その人達に手伝って貰うのも手ですよ。女の仕事の大変さも分からせないと!」
おそのにとってなつの存在は大きかった。ずっと男所帯の中に一人で掃除や洗濯、食事の支度などをやってきたなつは、芸妓上がりのおそのにとって一種の憧れのようであった。
「おその、仕事には慣れたか?」
なつと喋りながら洗濯をしているおそのに永倉が声をかけた。
「大変やけど、なつさんが丁寧に教えてくれはるさかい、大丈夫です。」
「そうか…でもなつはいつもいる訳ではないからな。頑張りなさい。なつ、おそのを頼む。」
なつが頷くのを見ると爽やかな笑顔で去っていった。
「永倉さん…本当におそのさんが大切なんですね。」
なつの言葉におそのは照れながらも嬉しそうだった。
今日はまさも手伝いに来てくれている。炊事場はいつにも増して明るい。そんな中に、山崎が顔を出した。
「お忙しい中、すみません。なつさん、土方さんがお呼びです。」
どうやら仕事の依頼らしい。部屋へ行くと、近藤、土方、伊東が顔を揃えて待っていた。
「今回はどのような内容ですか?」
頼まずして仕事だと感じとってくれるなつが土方にとっては嬉しかった。なつも成長したものだと…
「土佐に坂本龍馬という男がいる。この男の動きが怪しいと会津からお達しが来た。探ってくれ。」
「かしこまりました。ひとつだけよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「おそのさんの手伝いをする隊士を付けて欲しいのです。あたしが出ている間だけで構いません。」
おそのはよくやっている。しかしそれでもなつと二人分の仕事をしきる事は出来ない。自分が屯所を空けるとなるとやはりその事がひっかかるのだ。
「分かった。毎日日替わりで隊士を付けよう。女の仕事を知るというのも精神鍛錬になる。」
近藤は納得したようである。なつも安心し、島原へ行く準備を始めた。
なつは総司を探していた。島原へ行くとなるとしばらく屯所を空ける事になる。やはり、顔を見て行きたい。
総司は寺の裏で一人、稽古をしていた。
「総司っ!最近、やけに稽古熱心じゃない?」
「当たり前じゃないか。私には時間が……」
『時間が無い』と言おうとして、言葉が止まった。
「時間…?」
「何でもないよ。それよりどうした?この時間はいつも食事の支度だろう。」
なつには言ってない。労咳だという事を。なつより先に死んでしまうという事を。
「…うん……またしばらく島原に行ってくる。だから、会いに来たの。」
心に引っ掛かる物が有りながら、なつは答えた。
「そうか…今度は誰?」
「土佐の坂本龍馬」
「…そう……気をつけて…」
総司はなつのおでこに軽く口付け、すぐに稽古に戻ってしまった。
…何で?何で抱きしめてくれないの…?
なつは総司への不安を抱えながら、島原へと向かった。
総司は心の中で謝っていた。
なつ…ごめん……私は貴女を幸せに出来ない。
戻って来たら、もう終わりにしよう……―――