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不調和音

「ねぇ、最近、山南さんの様子、変じゃない?」

 一通りの仕事を終え、総司に稽古をつけてもらっていたなつ。休憩しながらなつは言った。傍らにはなつの剣裁きに興味の持った斎藤もいる。

「なんかずっと考え事をしてるって感じだよね。」

「悩み事かなぁ?聞いてみようかな…」

「…止めておけ…あの人にも特別な人はいるだろう。その人に任せておけ…」

 山南には明里がいる。それはなつが一番よく分かっていることだ。それでもあの思い詰めたような表情の山南を見ているだけしか出来ない自分が、情けなくなってしまった。


   あたしは山南さんの力にはなれないのだろうか…――




 翌朝、なつが掃除をしていると、玄関から女性の声がした。

「あのぉ…すんまへん…」

「はぁーい。何か御用ですか?」

「………………………」

 その女性はなつをじっと見つめた。

「……あの…何かついてます…――あれ?明ちゃん?」

「やっぱり牡丹や!あんた何してんの?!ここ新選組やで?」

 明里はなつが新選組の密偵だった事を知らない。別の店から手伝いに来てくれている。そういうふうに聞いていたのだ。おそらく、明里は山南に会いに来たのだろう。とりあえず上がってもらう事にした。

 客間に明里を通し、山南を呼びに行ったのだが、生憎出掛けているらしい。明里に伝えると、今日は休みだから帰りを待つと言う。

「なぁ牡丹、あんたなんでここにおんの?新選組と関わりがあんの?」

 お茶を持って行くと、明里は興味深々に聞いてきた。

「あんな明ちゃん…今まで黙ってて悪かったとは思ってるんやけど、うち、新選組の密偵として店に出てたんや…。」

 明里と話していると自然と京言葉になっているなつがいた。

「…そうか…。ようやく謎が解けたわ…。あんたがいんようになると必ず新選組が絡んだ事件が起きてたもんなぁ。」

 納得がいき、すっきりした表情の明里。

「それより山南はんや!あんたの事なんも教えてくれへんかった。帰ってきたら怒らなあかんな。」

 冗談ぽく笑いながら明里は言った。なつははっと気付く。明里なら山南の最近の異変を何か知っているかもしれない。

「なぁ明ちゃん…最近山南さんの様子がおかしいんやけど、なんか聞いてる?」

「……………うちも気になって今日、来てみたんや…。お店には来てくれはるんやけど、なんか上の空というか…」

 急に寂しそうな表情をした。

 その時、襖が開いた。

「お待たせ致しました。申し訳ありま………明里っ……」

 予想外の人間が部屋にいたためびっくりした顔の山南に、明里は笑っていた。

「先生に会いとなって来てしもた。」

 冗談ぽく言うが、明里の目はとても愛おしそうに山南を見ている。なつは二人を邪魔しないよう、こっそりと出て行った。

 明里の横に座り、戸惑いの表情を見せる山南。

「なぁ、先生、酷いやないの。牡丹が新選組と関わる人間やったなんて聞いてへんで?うちに隠し事をするなんて……」

 明里は泣き真似をし、顔を下に向ける。本当に泣いていると思い、戸惑った。

「…明里…黙ってて悪かった…泣かないでくれないか…」

 明里の肩を抱き、顔を覗き込む。そこには舌をぺろっと出した明里の顔があった。

「先生うちに騙されたな?牡丹が新選組やって事黙ってたお返しや。」

 明里はいつもと変わらない明るさを見せていた。しかし、すぐに真面目な表情に戻り、口を開いた。

「先生最近、様子がおかしいで?何か悩み事でもあるん?うちに話して貰えへん?」

「……………………」

 山南は黙ったままだった。

「…うちはそんなに頼りないんか…?」

 明里は悲しそうな表情を浮かべた。

「うちは先生の力になりたいんや!先生の喜びも痛みも全て受け入れたいんや!」

 明里の目からは大粒の涙が零れていた。山南はそっと明里を抱きしめた。

「私は駄目な男だな…女性を泣かせてしまうなんて…」

 山南は明里が泣き止むまで抱きしめていた。


 夜、幹部達は集められ、屯所移転の議論が交わされていた。

「ここの屯所は手狭になってきた。もっと広い所に引越しようと思っているんだが…」

「良いんじゃねぇの?今より広い部屋になるんだろ?ゆっくり寝られるじゃねぇかぁ。」

「左之助さんは今でも十分ゆっくり寝てるじゃないですか。」

 左乃助と平助は楽しそうに話していた。

「今の所、西本願寺を考えている。あそこは長州の奴らと繋がってると専らの噂だ。ここらで釘を射しておくべきだろう。」

「西本願寺は良くないんじゃないか?あそこは歴史のある由緒正しいお寺だ。そこを血生臭い物で染めてしまうのはいかがなものか…」

 山南が反論した。

「山南さん、あんたは俺らがやってる事は血生臭いって思ってるんだな。これも御厚誼のためなんだよ。」

「西本願寺、良いじゃないですか。あそこには一年に一度しか使われない講堂がある。普段は持て余しているはずです。」

 伊東が賛同の口を挟んだ。

 山南は思った。

 

   新選組に、私の居場所は………ない……―――


 山南は決意を固めていた。新選組にはもう、伊東という頭脳がいる。頭脳が二人もいては、意見がぶつかり合うだけだ。新選組は土方に任せておけば良い。必ず大きくしてくれる。


   もう誰も…私を必要とはしていない……―――


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