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久坂との再会、陰謀

 なつは島原へ来ていた。それは突然の事で、冨音屋の女将、菊からお呼びがかかったのだ。何やら、八月十八日の政変前に馴染みにしていた久坂が、一年ぶりに天神牡丹に会いに来たらしい。しかし、菊の機転で天神牡丹は休みで、また改めて来てもらうようにした。

 正直言うと、なつは乗り気ではなかった。あそこに行くと、罪悪感がまた蘇ってくる気がするのだ。でもお世話になった菊の頼みは断れない。

「牡丹…勘忍え…?」

「女将さん、そんなん言わんといてください。無理言ってお世話になったんや。それに久坂はんはいずれ戻ってきはると思てたし。」

「牡丹…無理はしたらあかんえ?あんたのおかげで京の町は焼かれへんかったんや。もうあんたは十分過ぎるくらい働いてくれた。せやから自分の身体を、生き方を、あんたの大切な人を大事にしぃや。」

 菊の心遣いが嬉しい。この気持ちだけで心のもやが晴れるようであった。

 久坂はどういうつもりで天神牡丹に会いに来たのだろうか。ただ単に、京へ帰って来たから?身請けでもしようとしている?それとも………天神牡丹は新選組の密偵だったとばれたから?

 なつは久坂の座敷へ出る時、護衛のためにと懐に小刀を忍ばせていた。万が一、新選組の密偵だとばれていた場合、久坂が冨音屋に訪れた目的は、天神牡丹の暗殺だろう。真剣と小刀、勝てるとは思ってないが深手を負わす事ぐらいは出来るだろう。心を決め、久坂の座敷の襖を開けた。

「…ようこそ…天神牡丹どす…」

 頭を上げると、そこには殺気の感じられない、愛しい者を見るような表情の久坂がいた。

「牡丹、久しぶりだな。」

「お久しゅうございます。久坂はん、お待ち申し上げておりました。」

「あぁ、待たせたな。」

 久坂は天神牡丹を抱き寄せた。なつはいかにも待ち焦がれていた人に会ったというように演じる。

「久坂はん…?うちを一年も放っておいて、何したはったんどすか?」

 もしかしたら、また長州の策略を聞けるかもしれない。しかし、久坂の単純な恋愛感情を裏切っている事に負い目を感じてしまった。

「俺達は一年前に会津と薩摩の策略で、京を追われた。長州へ戻り、同士を募っていたのだ。」

 久坂は天神牡丹に何の疑いもなく話し始めた。

「京へ戻ってきはったんは、うちを迎えに来てくれはったんどすか?」

「もちろんそのつもりだ。しかし我等はあと一つやらなければならないことがある。」

 やはり身請けしようと思っていたのか。と思いながら、久坂の話の続きに耳を傾けた。

「我等は御所に嘆願書を提出するのだ。一年前の事は我等が騙された事であった我等の真意ではないと。そしてまた長州が御所をお護り出来るよう願い出るのだ。」

「そうどすか。うち、久坂はんが心……―――」

『心配だ』と言おうとした瞬間、久坂の口から出てきた言葉。なつは目を見開いた。

「…そして我等は池田屋の敵を討つ。」

 池田屋の敵。すなわち新選組を襲撃するということ。


   そんなこと絶対にさせない。

   新選組の皆はあたしが護る…。


「久坂はん、それはほんまの話どすか?」

「あぁ明日、兵を進める。」

「それは…朝廷に兵を挙げるということ違いますか…?」

 やはりこの人達は間違っている。朝廷に兵を進めるという事は、朝敵になるという事。何故女でも分かる事が、この人達には分からないのだろう?吉田松蔭は、こんな事を望んではいなかったはずではないだろうか。このような考えになってしまったこの人が、哀れで仕方ない。

 簡単に喋ってしまった情報を、なつはその夜には新選組へ持ち帰る事になった。


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