二人の夜
その夜、なつと総司は縁側に座り、夜空を見上げていた。
「江戸も京も空は同じなんだね…」
なつはそう呟いた。
『そうだね』と言おうとした時、ふと見たなつの横顔。月明かりに照らされて、白く透き通るような肌が輝いて見えた。
ドキン……
総司の心がひとつ飛び跳ねた。
(……なんだ…?)
まだ総司は知らなかった。これが恋の始まりだったことを。
「ねぇ総司、いつまでこんな生活続けるの…?」
それは、いつまで強請、たかりの生活をするの、という意味だった。
「私だってこんな生活したくない。近藤さんだって土方さんだって考えてるんだ。でも良い案 が浮かばないって言ってた。」
総司は顔を歪めた。悔しいのだろう。夢を持って京まで上ってきたのに、待っていた生活は、江戸にいた頃よりひどい。見えない未来。どんなに不安な毎日を過ごしているのだろう。
そう分かっていながらも、なつは嫌味を言ってしまう。
「お金を稼ぐことぐらい、なんとでもなるじゃない!今の近藤さん達は、芹沢さんに悪いこと を押しつけて、自分はのうのうと暮らしているだけでしょ?!あたしは、そっちの方が陰湿 だと思うな…」
こんな事言ったらいけない。でも我慢できなかった。なつは罪悪感に苛まれていた。
つい暴言を吐いてしまったなつ。総司の傍にはいられなくなった。自室に戻り、溜め息をつく。
「………ハァーーーー……」
あんな事を言ったらいけない。総司だって、近藤さんだって土方さんだって、ちゃんと考えている。この情況の打開策を。
でも悔しかったんだ。将軍様のため、京の人々のために働いているはずだった近藤さんや総司達が、あたしの誇りだった。それなのに…
『壬生浪に食わせるもんはない。』
京の人にはそんなふうに思われていた。なんか…悲しいよ…。
なつが去った後に残された総司。浮かない顔をしていた。
なつはきっと夢を持ってひとり、京へ追いかけてきた。ここまで追いかけて来てくれたことはすごく嬉しかった。でも逆に怖かったんだ。今の自分たちの状況を知られるのが。
早く、何とかしなくては…。