仇討への道
局長室には幹部達が集められていた。
「古高が吐いた。あいつは宮部と繋がってる。今夜、必ずどこかに集まるはずだ。」
「会合場所は山崎くんの調べにより、四国屋か池田屋。絞ってこの二つだ。」
土方と山南の報告に皆の表情は真剣そのものだった。長州の奴らは間違っている。火を放つという事は京の町が炎に包まれるという事。皆が恐怖に怯えている時に帝を誘拐し、容保侯と公卿を暗殺。これを断行させてはならない。
「今、動ける隊士は何人だ?」
「三十四人だ。」
「たったそれだけか…」
この時、新選組の中には風邪をひいているものや食あたりで寝込んでいる者が多かった。相手は浪士が三十人ほど。新選組の総勢と同じくらいだ。旅籠が一つに絞れれば良いが、そうはいかない。そこで、選りすぐりの十人と、その他の隊士とに分けられた。
近藤組は沖田、永倉、藤堂以下六名池田屋を捜索する。
土方隊は原田、斎藤、井上以下二十名四国屋を捜索する。
山南は屯所を守る事になった。
「どっちが当たりかなぁ?」
「俺らのとこに決まってんだろう?俺、くじ運強いから。」
大戦の前とは思えないほどのほほんとした雰囲気が総司と左乃助の周りを包んでいた。
三条会議所には、祇園祭のお囃子を聞きながらここに集まった三十四人が苛立ちを隠せずにいた。
「会津藩の応援はまだ来ないのか?!」
既に約束の時間は過ぎている。
「近藤さ〜ん、もう俺達だけで行こうぜ〜?逃げられちまうぜ?」
血気盛んな左之助はもう待ちきれない様子だ。
「そうだなぁ。」
近藤には決断の時が迫っていた。
「総司…ちょっと良いか…?」
土方は総司を部屋の隅に呼んだ。
「なつがお前を避けてる理由だがな………」
土方は話す事にした。もしかすると池田屋が当たりを引くかもしれない。自分達が当たりであれば、土方は真っ先に宮部を殺すつもりでいる。しかしもし池田屋なら、総司に宮部を殺ってもらいたい。なつの仇を返すのは、総司だ。
「なつは…宮部に抱かれた……」
「………え……?」
「あいつは…それでこの策を聞き出してきた…」
土方の苦悶の表情をしていた。総司は思った。誰よりも悔しいのは土方だ。仕事だから仕方がない。表ではそう言っている。しかし、なつを島原へ行かせた事を最も悔いているのは土方だと。なつの行動にも発言にも、これで全てが納得いった。
宮部は私が殺る。
なつのために、自分のために、土方さんのために……―――
「よし…我々だけで行こう。」
会津藩の援軍はいつまで経っても来ない。このままではせっかくなつが身体を賭けて得た情報が水の泡になってしまう。
「いいか?死ぬな。必ず生きてまた会おう。」
固い約束を交わし、近藤組と土方組に別れ、捜索を開始した。
屯所では、心配そうな表情で縁側に腰をかけるなつの姿があった。なつは自分も一緒に行くと言ったのだが、全員からの猛反対で、山南と共に屯所を守る事となった。
「なっちゃん、大丈夫だ。皆、死なない。もちろん沖田くんも…」
「山南さん…」
山南はなつのすぐ横に腰を降ろした。何故か山南には、触れられないという感覚は無かった。
「少しは落ち着いたかい?」
「…私には…何も出来ないんですか…?」
「なっちゃんは十分過ぎる働きをしてるよ。君がいなければ、京の町は炎に包まれていたかもしれない…」
山南は、なつの頭を撫でながら言った。なつは山南の肩に頭を預けた。
「私も皆と一緒に戦いたいです…」
「それは私も同じだ。しかし、屯所を守るのも皆と一緒に戦っているのと同じだと思うよ?もし不逞浪士が屯所を襲って来たら、なっちゃんの力を借りなくてはいけないからね。」
山南は人の心を温かくしてくれる。不安や心配、心にあったモヤモヤした物が晴れ渡るようであった。
「悔やむ事は無い。君のした事は誇りある事だ。君が京の人々を護ったんだよ。後は皆に任せよう。必ず仇を取ってくれる。」
山南の言葉により、なつの罪悪感は消えていくような気がした。