汚れた体
なつは自分の部屋で目を覚ました。ふと横を見ると、そこには会いたくて堪らなかった愛しい人が寝ていた。昨日のなつの悲鳴を聞き、慌てて飛んできた。しかし総司が見たのは怯えるなつの姿。総司には何が起きているのか理解出来なかった。
愛しい総司に触れようとした手。しかし、触れる事が出来なかった。
私は総司に触れる権利はない。他の男に抱かれてしまったこの身体。
こんな汚い手で、綺麗な総司に触れたら駄目だ。
なつは総司を起こさぬよう、音を立てずに部屋を出た。
「おぉ!!なつ!!」
「あぁ〜!なつ、お帰り〜!」
久しぶりになつの姿を見つけて喜びを表す永倉と左之助。左之助はなつに抱きつこうとした。これは左之助なりの愛情表現で、今までもこういう事はよくあった。
しかし、今日のなつは無意識に身体を避けてしまったのだ。
「…え…なつ?」
「…あ……ごめんなさいっ!!」
なつは走って逃げた。
「俺…なつに…嫌われたぁぁぁ?!」
屯所中に左乃助の嘆きが響いた。
私……どうしたの…?
なつは左之助から逃げ、縁側に腰を掛けた。自分が何故あのような行動をとってしまったのか分からず、溜息をついた時だった。斎藤が通り掛かり、負の雰囲気を纏ったなつの様子に気付いた。
「…どうした…?」
「あ…斎藤さん…」
斎藤はなつから距離をとって腰をかけた。
「私…触れられない……総司にも左之助さんにも…みんなが綺麗すぎて…」
斎藤はその意味を即座に理解できた。島原で身体を売ってしまった。その罪悪感に苛まれているのだろう。
「俺からしたらお前の方がよっぽど綺麗だ。この新選組にいる者で血に汚れてないのはお前だけだからな…。何も後悔する事はない。もっと前を向け。」
以前、芹沢はこう言っていた。
『客に抱かれて帰って来たら、そんなに前を向いてない。』
私、今、下を向いてばかりだ………。
「なつ!」
「総…司……」
やっと会えたの愛しい人。会いたくて会いたくて堪らなかった人。満面の笑みで駆け寄ってくる総司とは対象的に、なつは目を反らし、後ろを向いてしまった。
「なつ…?どうした…?」
総司がなつの肩に触れようとしたその時…――
「触らないで!」
「…なつ…?」
「私は総司に触られる資格も、触る資格もないの…」
「…なつ…何を言って…ゴホッゴホッ…」
以前の総司より激しい咳き込みをしていた。
「…総司…風邪、酷くなってるんじゃない…?」
「いや…大丈夫だよ…夏風邪はこじらせると長いから。」
そういえば総司、少し痩せたかも。本当なら、背中を摩ってあげたい。熱を測って
あげたい。
でも私には………出来ない………
なつは忙しいからと言い、その場を後にした。
「土方さん、私なつに嫌われるような事をしたんでしょうか?」
「お前こんな忙しい時になんなんだよ!惚気るなら別に当たってくれ。」
なつが持ち帰った情報の整理に追われる土方の背に、総司は語りかけた。
「惚気じゃないですよ!なつが私に触れるな…と…」
「そうか…」
土方には理由は分かる。宮部に抱かれた事に罪悪感を感じてるのだ。しかし、今、なつと総司の仲を取り持ってる暇はない。先程、古高が連行されて来た。なつの調べで大方、内容は分かっているのだが、長州の奴らの集会場が分からないのだ。また宮部と古高が繋がっているのかも、今の所、証拠が出て来てない。
何度聞いても喋らない古高。とうとう拷問にかける事となった。それでも一向に口を割らない。土方は他の隊士を全て蔵の中に入れないよう指示をし、自らが拷問をかける事となった。